美輪和音  作品別 内容・感想

強欲な羊      6.5点

2012年11月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 「強欲な羊」
 「背徳の羊」
 「眠れぬ夜の羊」
 「ストックホルムの羊」
 「生贄の羊」

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<感想>
“嫌ミス”作品集ということは噂で聞いていたので、好みの内容ではないかなと思っていたのだが、思いのほか楽しんで読めた。なかなか凝った作品集と言えるのではなかろうか。特に「ストックホルムの羊」から「生贄の羊」へとなだれ込む展開が良かった。

「強欲の羊」は、“第7回ミステリーズ!新人賞受賞作”とのこと。家政婦が語る姉妹の確執を描いた内容であるが、結構予想通りの展開という感じ。とはいえ、恐ろしさは存分に伝わってくる。

「背徳の羊」は、妻を疑う夫の様相を描いた内容。これは、夫があまりにも疑心暗鬼になりすぎているように思えた。しかし、ラストシーンは、女性作家ならではの描き方であり、恐ろしさ倍増。

「眠れぬ夜の羊」はコンビニを経営する女のまわりで起こる事件を描いた作品。意外性というほどでもないが、これも凝りに凝っている。じわじわと恐ろしい真実が忍び寄る。

「ストックホルムの羊」は、他とは話が一変してファンタジー的な内容。城の王子と彼を取り巻く女中との生活が描かれている。後半に入ると話が急展開し、驚愕の真相が明らかとなる。

 そして、「生贄の羊」により、物語の全てがまとめられている。特にこの「生贄の羊」によって、前述の問題全てがきれいに収束するというものでは決してない。むしろ、それぞれを強引に結びつけたという内容。しかし、この作品と「ストックホルムの羊」により、サスペンスから脱却し、ホラー系の話へと一気に突き抜けたところが個人的にはすごく良かった。


ハナカマキリの祈り      7点

2013年10月 東京創元社 単行本

<内容>
 契約社員として働く不破真尋は、つらい過去にとらわれていた。真尋は15歳のとき、囚われて監禁されたという経験を持っていた。今でもそのときのことがトラウマとなり、しかもその監禁犯が出所して出てくるという噂を聞き、日々おびえていた。そんなある日、上司からセクハラを受けそうになり、なんとか逃れた真尋は矢向いづみという女性に助けられ介抱される。やがて真尋の友人となるいづみ。そうして真尋の人生に光が差し始めたと思いきや・・・・・・

<感想>
「強欲な羊」に続いて2作目となる美輪和音氏の作品。これまた、なかなかの出来で、昨年のうちに読んでおいて、自分で作成しているランキングの中に加えておきたかったと後悔。

 とにかく、突き抜けた感があってよい。ただし、悪いほうへ突き抜けすぎている作品なのだが。主人公を真綿で締め付けるようなじりじりとした展開により、恐怖感もじりじりと押し寄せてくる。主人公のみが味わう恐怖のように思えたものが、いつしか、読者のほうにも拭いきれない恐怖感がまとわりつくこととなる。物語の全貌というよりも、ハナカマキリに見立てられた一人の人物の人生がなんともいえない嫌悪と恐怖をまき散らしてゆく。

 スピード感にあふれているというわけではないのだが、どこかノンストップ・ホラー・サスペンスというものを思い起こさせるような作風。最後の1ページにいたるまでの隅から隅まで圧倒的な恐怖に彩られた作品。


8番目のマリア      6点

2014年05月 角川書店 角川ホラー文庫

<内容>
 結婚式に出席した中学時代の同級生。新郎新婦も含め、7人で三次会の席へ移動しようとしたとき意識が薄れ、気が付いたら7人は見知らぬところに閉じ込められ拘束されていた。彼らはクンダリーニと名乗る者から、7人に共通する罪を告白し、その罪の主犯を多数決で決めよと告げられる。それにより指名された者は死の道へと・・・・・・。最後まで残った者には報酬が与えられるというが、誰が? 何の目的で行っているのか? そして、7人がそれぞれ選択するのは!?

<感想>
 10年前の中学生時代に同級生であった7人が何者かによって監禁され、デスゲームを強いられるという作品。ゲームのルールは時間内に中学時代に7人で起こした罪を告白し、懺悔せよというもの。

 あまり同情できない7人が集められ、若気の至りでは済まない罪を告白されるというもの。一応、生き残りをかけて・・・・・・ということになっているものの、“デスゲーム”というには、強いられた参加者達にとってはあまりにも不利な状況。本当に生き残った者が助けてもらえるのか・・・・・・というよりは、どうにも最初から破滅的な予感しかしなかった。

 この著者にしては、あまり捻りがないというか、陰惨さについても薄いというか。まぁ、あまり陰惨過ぎないように描写を調整したかのようにも感じられる。また、基本的に同情できない登場人物ばかりなので、どういう結末になっても、まぁいいかなというような感じで済まされてしまうのも著者の計算!?

 全体的に無理やり感が強く、あまり特筆すべきところがなかったかなと。一応は、この作品ならではのデスゲームのルールとか、ちょっとした仕掛けとかは作り込まれているものの、印象は薄いまま。ゲームを支配するものの力が強すぎると、パワーバランスが傾き、こんな風な内容になってしまうのかなと感じさせられた。


ゴーストフォビア      6点

2016年11月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「ゴーストフォビア」
 「空飛ぶブラッディマリー」
 「ドールの鬼婚」
 「雨が降り出す前に」

<感想>
 今までの美輪氏の作品と打って変わってコメディ調。扱う事件はまっとうなホラーであるのだが、そこに関わる主人公たち(というか、明るいのは1名のみか)の性格により、暗さを感じさせないものとなっている。

 サイキック探偵を自称する姉・等々力芙二子に振り回され、三紅はさまざまな事件に連れまわされることとなる。その現場で出くわした不動産屋に勤める神凪伶。三紅は伶と接触すると霊の声が聞こえるようになり、伶の方は幽霊の姿が見えるようになる。その能力を生かして数々の事件を解決してゆくこととなる・・・・・・というか、解決させられる羽目に陥ることに。

 ミステリ的な部分もあるものの、幽霊そのものが存在する分、ホラー作品としての感触が強い。監禁事件、女子高生の飛び降り、不気味な人形の館、少女連続殺人犯と陰惨な事件に関わることとなるのだが、コメディ調の登場人物の明るい性格に救われて読みやすい作品となっている。

 内容としても面白く、事件解決の真相が一捻りしたものなっており、ホラー小説としての凝り具合もなかなかのもの。また単なるシリーズ作品としてだけではなく、連作として最後の話で三紅の人生に関わる話をきっちりと締めているところもうまくできている。ドラマ化という話が出て来ても、違和感なさそうな感じの内容と人物設定の作品である。


「ゴーストフォビア」 かつて女性が監禁され亡くなったその部屋は幽霊が出ると噂された。その部屋で劇団員の女性が失踪する事件が起き・・・・・・
「空飛ぶブラッディマリー」 ひとりの女子高生が飛び降り自殺したのち、同じ場所から友人の二人の女子高生も後追い自殺したという事件の真相。
「ドールの鬼婚」 娘が亡くなった後、不気味な人形を作り続け、娘が乗り移ったとされる人形と暮らす女の顛末。
「雨が降り出す前に」 失踪した女性は、少女連続殺人を犯した犯人をリスペクトしており、彼のかつての住居を訪ねたのではないかと・・・・・・


ウェンディのあやまち      6.5点

2018年04月 光文社 単行本
2021年02月 光文社 光文社文庫

<内容>
 とあるアパートで三歳の男児が死亡、六歳の姉も意識不明の重体という状態で発見されることに。彼らを自宅に置き去りにした両親の行方を警察は追跡している。
 そうした事件が起きたなか、キャバクラで働く千里は健斗と名乗る男と出会い、杏奈は同棲中の男からDVを受けるなか女優の道へと進むことになり、ラブホテルで働く鈴木はアルバイトの乾という男と邂逅し、記者の鰐淵は自動置き去りの事件を追う。4つの物語はいつしか過去の事件へと引き寄せられ・・・・・・

<感想>
 3年前に出ていた作品が文庫化されたので、購入してさっそく読んでみた。どうやら美輪氏は別名義で脚本家として活躍されているようで(脚本家のほうが主か?)、本書を読むとそれも納得のストーリーテーラーであると思わされる内容であった。

 導入は家に置き去りにされた幼い子が死亡するという事件が明らかになったところから始まる。そこから4つの話が並行して進行していくこととなる。それらの話は、当然ながら幼児置き去り事件に関連するのであろうと思われるのであるが、最初はそれぞれが全然別の話のように思われてしまう。しかし、やがてはそれらが徐々にひとつの方向に向かって、結びついてゆくこととなる。

 話自体が良くできていると感嘆されつつも、これを読んでいると、人って怖いなぁと思わずにはいられない。ちょっとした上っ面を見ただけで、人って簡単に騙されてしまうのだなと。しかも相手が元々だますつもりであったのであれば別なのだが、そういうわけではないのに、付き合ってみたら実は・・・・・・というのが一番怖いかもしれない。ストーリーとは別に、人間関係って難しいなぁと、考えずにはいられなくなってしまう作品。

 しかも、ここに書かれていることが単なるフィクションとして片づけられないところが一番のホラー要因であるのかもしれない。一応、良い感じの物語で締められているのだが、何気に背景には怖いホラー的な現実世界が広がっていると言うことに気づかされるような内容。


暗黒の羊      7点

2020年05月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「炎上する羊」
 「暗黒の羊」
 「病んだ羊、あるいは狡猾な羊」
 「不寛容な羊」
 「因果な羊」

<感想>
 今年上半期の目玉作品。これは非常に面白い。といいつつも、いわゆる“イヤミス”なので注意。

 何が良いかと言えば、ホラー風でありながら、突如ミステリ的な展開がなされ、といいつつもその背景にはホラー的な超自然要素がそびえておりと、その力加減のバランスが良いと感じられた。一応、それぞれ独立した作品となっているものの、とそれぞれの短編で別に作品に出てきた人の名前が出てきたりと、ちょっとした相互関係のようなものが挿入されている。そして、最後の「因果な羊」に関しては、ほぼ全体をまとめるような内容になっており、最後まで読み終えると連作短編集であったかのような印象を受けることになる。

 最初の「炎上する羊」はありがちな近代風のサスペンスと感じられた。ただ、次の「暗黒の羊」の読んでいくと徐々にあらわにされる隠された真相に驚かされ、そして「病んだ羊、あるいは狡猾な羊」については、そのサイコっぷりにやられてしまう。

 そんな感じで、読んでいくと徐々にその内容から目が離せなくなり、あっという間に読み終えることになってしまう作品である。まるで謎の“羊”に魅入られたかのように本から目が離せなくなり・・・・・・


「炎上する羊」 思いもかけず優しい同僚と結婚して幸せを迎えた男であったが、その妻が残酷な映像をSNSにあげることに夢中になり・・・・・・
「暗黒の羊」 学校で噂の廃洋館での黒い羊の儀式。殺したい相手の名前を唱えれば・・・・・・そこに演劇部の二人が向かい・・・・・・
「病んだ羊、あるいは狡猾な羊」 隣に越してきた夫婦の様子がおかしい。夫の様子がおかしく、わたしがその夫の様子を探ると・・・・・・
「不寛容な羊」 雪山でたどり着いた家には老人と4人の女が住んでいた。女たちは、まるでさらわれてきかのように見え・・・・・・
「因果な羊」 不動産屋の女はかつての高校時代のクラスメイトから“羊”に関する事件が噂される洋館を案内するように頼まれ・・・・・・


私たちはどこで間違えてしまったんだろう      6点

2023年02月 双葉社 単行本

<内容>
 人口の少ない村で行われた村祭りの際に、皆にふるまわれる予定であったお汁粉に毒物が入れられるという事件が起きた。先にそのお汁粉を口にした数人が死亡してしまうという大惨事となる。家族を亡くした17歳の仁美、16歳の修一郎、15歳の涼音らは、誰が毒を入れたのか突き止めようとするものの、村の中で起きる疑心暗鬼の争乱に巻き込まれることとなり・・・・・・

<感想>
 今年の初めに出ていたようだが、今月になってそれを知り、あわてて購入した作品。美輪氏の作品は、とりあえず読んでおきたいなと。

 テーマが重めの作品。ミステリというよりは、そのシチュエーションに対して、考えさせらえるといった内容。小さな村社会では、皆が知り合いで仲が良い反面、悪い噂がたつと今度は皆からつま弾きにされるという状況を描いている。これが本当にありえることなのか、もしくは本当であればもっと酷いことになりえるのかはわからないがとにかく生々しい。

 ミステリとして読み込める部分もあるのだが、基本的には人間ドラマという感じに捉えられた。これはこれで“嫌ミス”という見方もあるかもしれないが、個人的にはちょっと生々しすぎた。




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