宮部みゆき  作品別 内容・感想4

昨日がなければ明日もない   7点

2018年11月 文藝春秋 単行本
2021年05月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 「絶対零度」
 「華 燭」
 「昨日がなければ明日もない」

<感想>
 この杉村三郎シリーズであるが、杉村が私立探偵になってから格段に面白くなったと感じられる。本書においても言えることなのだが、杉村が扱うこととなるのは、なんとも厭な事件ばかり。それを昔は杉村自身の体験として描かれていたのだが、今は探偵という立場になって依頼人らを第三者的な視点で見ることにより、直に嫌な部分を感じなくなったためか、より読みやすくなったという感じがする。今作も陰惨な事件が多いのだが、杉村が探偵というスタンスゆえか、あまり直に陰惨さを感じずに読むことができた。

「絶対零度」は、OB会がもたらす先輩後輩のなんとも厭な関係性が描かれている。まさに逃げ場のない状況というのがまたなんとも。

「華燭」は、本書のなかではさほど陰惨な話ではなかったので読みやすかった。ある種の因果応報が描かれているのだが、第三者視点からすると笑い話ととれなくもない。

「昨日がなければ明日もない」が本書のなかで一番のインパクトをもたらす作品。結末において、このように話を終わらせるしか他に方法がなさそうという絶望感がなんともいえないものとなっている。


「絶対零度」
 依頼人の夫人は、結婚した娘夫婦の様子がおかしいので調べてもらいたいと。婿によると娘が自殺未遂の末入院したというのだが、一切会わせてくれないのだと。探偵の杉村がその夫の様子について調べてゆくと、嫌な雰囲気のOB会の存在に突き当たり、さらには別の事件までもが浮き彫りとなり・・・・・・
「華燭」
 杉村が事務所を構える大家から頼まれて、彼女と親戚の娘と共に3人で結婚式へと参加することに。すると、結婚式はなかなか始まらず、どうやら破談になったようであり・・・・・・しかも同じ会場で二組のカップルになんらかの事件があったようで・・・・・・
「昨日がなければ明日もない」
 杉村は自己中心的な奔放な中年女から、ありもしなさそうな事件の依頼をされることに。なんでも彼女と別れて暮らす幼い息子の命が狙われているというだ。事件を調べていくうちに、依頼人の女の過去と、その女に振り回されて迷惑をこうむった人々の様相を知ることとなり・・・・・・


さよならの儀式   

2019年07月 河出書房新社 単行本
2022年10月 河出書房新社 河出文庫

<内容>
 「母の法律」
 「戦闘員」
 「わたしとワタシ」
 「さよならの儀式」
 「星に願いを」
 「聖 痕」
 「海神の裔」
 「保安官の明日」

<感想>
 宮部氏のSF短編作品集。それっぽい作品は結構書いていると思われたのだが、SF作品集と銘打って出版されるものはこれが初めてとのこと。

 ここに掲載されているものは、河出文庫の「NOVA」をいうSF作品集に掲載されたものが多く、既読のものが多かった。ただ、それぞれを読んだのは結構前のことなので、改めて作品集という形でまとめて読めたのは良かったし、読みごたえも十分に感じられた。

 どの作品もド直球のSFというよりは、日常生活の中にちょっとした不思議な一場面が加えられた感のあるものが多い。例えば「わたしとワタシ」など、突然過去からのワタシが未来の自分に会いに来るという内容のものであり、SF的でありながら、ちょっとしたよもやま話のようにさえ感じられたりする。

 その他には、ちょっとした社会的な問題を踏まえているものがちらほらと見られた。孤児を保護するための条例について描かれる「母の法律」、ロボットに感情移入する人々の様子を描く「さよならの儀式」。あと、社会的な事件を扱った内容のなかでの異色作としては「聖痕」が挙げられる。最初は、未成年犯罪を扱った内容の作品かと思いきや、思いもよらぬ方向に内容が昇華していく様子が描かれている。

「海神の裔」は、書かれた経緯が異なるためというか、主題が決められたうえで書かれた作品なのでちょっと毛色が違うものと感じられた。一応“屍者”というのをテーマにしているのだが、それであれば最後の「保安官の明日」のほうがテーマとしては、それらしいと感じられる内容であった。


「母の法律」 “マザー法”によって築かれた家族の絆と葛藤。
「戦闘員」 突如現れたり消えたりする監視カメラの存在に気付いた者たちは・・・・・・
「わたしとワタシ」 会社でお局様と呼ばれる未婚のOLの前に、過去からの“ワタシ”がタイムスリップして現れ・・・・・・
「さよならの儀式」 ロボットに感情移入しすぎて、廃棄されようとするロボットをうかがいに来るものが後を絶たず・・・・・・
「星に願いを」 いじめを受ける妹とそれを過剰に心配する姉。そんな二人の前に現れた異星人により・・・・・・
「聖 痕」 かつて犯罪を犯した少年をネットで神格化し、あがめようとする者たちが現れ・・・・・・
「海神の裔」 過去のとある出来事から“屍者”をあがめるようになった村の伝承を老婆から聞き・・・・・・
「保安官の明日」 町の保安官は人々の治安を守りつつも、とある犯罪者の存在に悩んでいた。そこには隠された秘密があり・・・・・・




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