<内容>
飛行機のハイジャック事件、新興宗教による信者大量消失事件、市役所の福祉部門での身元不明死体が消えていく謎、建築物を見学に来た学生達が発見した白骨死体。これらの事件を結びつける秘められた謎とはいったい・・・・・・
<感想>
門前氏は鮎川賞受賞作家であり、今作が2作品目となる。
本書を読んで感じたのは、惜しいという一言。この作品は300ページ強という長さの作品なのだが、もう少しページ数が多いほうがよかったのではないだろうか。前半に多くのエピソードが紹介されるも、そのそれぞれの細かいところまではほとんど消化しきれずに終わってしまったという感じがした。せめて、飛行機事故のエピソードくらいはもっとページ数を割いて物語を展開させてもよかったのではなかろうか・・・・・というか、飛行機事故のパートがメインでもよかったくらいと思われるくらいである。
そんなわけで、メイントリックやラストで明らかにされる陰惨な事実など、さまざまな事が書き込まれているも、やや未消化気味で終わってしまったという感じ。着想としては面白いと思われるので、今後も本格ミステリを書き続けてもらいたい作家である。
<内容>
美島教授の死後、改築され、その妻の手によって完成された館。そこには生前、美島教授が集めたさまざまなコレクションが収められていた。そのコレクションのなかには数多くの拷問道具が含まれていた。
その館に、教授と親交のあった6人の男女が招待された。6人が館に集まったものの、当の美島教授夫人は姿を現さず、客たちだけでくつろいでくれとの書置きが残されていた。そうして6人が館ですごすことになったのだが、次々と殺人事件が起こることに!
<感想>
面白かった。面白く読むことができたし、ミステリ作品として十分楽しめた。“雪の山荘”ものの作品で、これだけ楽しめた作品というのも久々かもしれない。
6人が集められた館の中で、次々と殺人事件が起きていくという内容。そうしたなかで“そして誰もいなくなった”ばりに、事件が進行してゆく。最後の方では、どう考えても犯行を行えたものがいないという不可解な状況のまま、事件は集結してしまう。事件後にようやく探偵が登場し、全ての謎を解き明かすこととなる。
ひとつひとつの謎については、かなり強引なものもあるのだが、全体的に見ればよくできている作品といえよう。島田荘司ばりの奇想があり、倉阪鬼一郎ばりの遊びも付け加えられている。メインのネタとしては、過去に似たようなものを見たことはあるのだが、閉ざされた山荘の中でうまく使いこなされていたと思われる。
大味で、これぞ本格ミステリと称賛したくなる作品。
<内容>
空調機メーカーに勤める鈴木慶四郎は島根県と山口県の県境にある鳴女村へと向かった。差出人不明の手紙に、自分の出生に秘密を知りたければ鳴女村の灰王家へ行けと書かれていたのであった。幼少の頃の記憶がない慶四郎は手紙の内容が気になり、実際に灰王家を訪ねることとなった。そこは元は温泉宿であったものの、現在は閉鎖され、灰王家には女将とその娘、一人の使用人のみの3人が住んでいた。この灰王家では昔、座敷牢にて奇怪な密室殺人事件が起きていたのだという。そして、同様の事件がまた現代にも甦ることに・・・・・・。慶四郎のピンチを救うべく、親友の雪入が助けに来てくれたのだが、その雪入が犯人の魔の手にかかり・・・・・・
<感想>
今作もまたやってくれている。練りに練った内容、凝りに凝ったミステリ作品となっており、本格ミステリファンを楽しませてくれること必至である。まさに新本格ミステリの系譜を継ぐ作品と言うことができる内容。
ただ、今作で気になったのは、メインとなるトリックというかネタがあるのだが、それがやや分かり易いということ。大雑把なところが中盤までにはだいたいわかってしまうので、サプライズという面ではやや印象が薄くなってしまっている。
それでもメイントリックのみだけでなく、全体的に細部にわたってミステリのネタを事細かに張り巡らせているところには感心させられた。最後の最後まで予断を許さない作品である。
というわけで、メイントリックがわからなければ、結構驚愕できる作品ではなかろうか。ちょうど最近とあるテレビ番組でこれに関連する内容のものを見てしまったので・・・・・・
<内容>
結婚式場を経営する男が書く“殺人計画書”。そこには、独立を計画する四人の社員を殺害する計画が事細かく記されていた。
蜘蛛手建築&探偵事務所にて、共同経営者として働く宮村達也は、建築現場で作業所長の平松と会っていた。そこは新たな結婚式場を建設する予定であったが、施工内容の変更により工事がストップしていたのだった。大雨の中建設現場を確認しようとする宮村と平松は、密室と化した倉庫のなかで大斧をふるう首無し男を目撃する。その地は昔、刑場であったため首無し男の伝説が残っていたのだった。鉄砲水により現場が荒らされ、警察は二人の目撃証言を信用してくれなかった。しかし、新たな死体が発見されたことにより、事態は急展開を見せることに! 遅れて現れた蜘蛛手により事件の調査が進められ、蜘蛛手は驚愕の真相を口にする。
<感想>
本格ミステリらしい作品であるのだが、いろいろと気になるところが多かった。事件が全て起きてから、それを推理するというものではなく、事件の状況というか、死体発見に至るまでの展開が小出しに流れていくので、メリハリが付けづらい。なんか話全体が流動的というか、不可能犯罪を強調するべきところがわかりにくかったように思われた。
ミステリとしてのポイントは、懇切丁寧に書かれた“殺人計画”の存在、首無しの加害者と首無し男の伝説、殺人事件が実際にはどのようにして成され、どのようにして死体が隠されたのか、さらには発見された死体の不可解な姿勢、など。そして事件全体の真相が探偵役である蜘蛛手によって徐々に明らかにされてゆく。
この作品の一番のポイントというか、見るべき点は不可解な姿勢で拘束された死体の状況にあるといってよいであろう。実際にはメイントリックというわけではないのであろうが、ここが一番印象に残った。むしろメインと言ってもよい“殺人計画書”のほうは、わかりやすかったような気がする。
本格ミステリとしてのコード満載で、見どころも色々とあるものの、何となく見せ方に難があったかなと。もう少し面白い作品にできたようにも思えるが、むしろ“殺人計画書”の存在が枷となってしまったのかもしれない。
<内容>
日本家屋と同じ敷地内に建てられたキューブ状の異様な建物。それらの建築物がある敷地内で、足跡なき殺人事件が起きた。さらには、殺人なのか自殺なのか判別がつかない絞殺死体の発見も。それらの事件が未解決のまま時が過ぎ、5年後キューブハウスのなかで新たな連続殺人事件が勃発する。事件現場に居合わせた蜘手啓司がたどり着いた真相とは!?
<感想>
前作が出てから早5年。ひょっとしたらもう門前氏の作品は読めないかと思っていたら、突如新刊が刊行された。内容はいつもながらも門前氏らしい作品で、“建築”の知識をいかんなく発揮したものとなっている。
過去(といっても5年前)に起きた足跡無き殺人事件と謎の絞殺事件。さらには、新たな連続殺人事件。どのように犯行をなしえたのが謎であり、それゆえに誰が犯行を実行できたのかがわからない。そうした謎にシリーズ探偵(といいつつも印象は薄いのだが)蜘手啓司が謎に挑む。ただしその蜘手、事件とは全く関係のない怪我により、一時的に目が見えないという状況。
そんな難事件に挑むこととなるのだが、今回は久々に大味のトリックを見せつけられたという感じ。個人的に、このような大掛かりなトリックは好みなので、非常に面白く読むことができた。後半の事件に関しては、動機とか真犯人とかに関して、盛りに盛った内容となっているがゆえに、やや、ひっちゃかめっちゃかという感じではある。ただ、それはそれで大味のミステリとして楽しむことができるもの。まさに“奇想”というものを書きあらわしたかのような作品。
<内容>
龍神池から発見された死体は、コンクリートで出来た卵のようなオブジェの中に閉じ込められていた。被害者はオブジェに閉じ込められたときには生きていた形跡があるのだが、凶器となった刃物は、オブジェの外からは出し入れすることができず、どのように殺害されたのか謎となった。
その龍神池のそばにある別荘に、建築設計事務所で働く宮村は招待されていた。そのオーナーの神谷とは取引があり、宮村はどうやら別荘の改装を手掛けることとなりそうで、その下見もかねての招待と言うことのようであった。夜に別荘に繋がるつり橋が崩落し、一部区間からは出入りができなくなってしまう状況下、別荘内で密室殺人事件が起きることに! さらにその一年後、同じ別荘でほぼ同じメンバーが再び招待された中で、またもや同じような密室殺人事件が起きてしまう!! そして巷では、コンクリートとドリルを利用して、奇妙なオブジェクトを創りながら猟奇殺人を繰り返すドリルキラー跳梁していた。事件から5年の時を経て、設計事務所に帰ってきた共同経営者の蜘蛛手が事件の謎に挑む。
<感想>
昨年末に出版された作品。何気に出版されているのを知らない人もいるかもしれないので、注目してもらえればと思っている。これが、なかなか面白い作品であった。
中身はミステリ要素てんこ盛り。池から発見された、コンクリートで出来た卵のようなオブジェの中の白骨死体。しかもこれが最小の密室であると!? さらには別荘で起きた密室殺人事件。しかも一年後に同じ場所、同じメンツのなかで、もう一回密室殺人が起きてしまう。さらには、別荘を襲う襲撃事件。そして、ドリルとコンクリートを用いた謎のシリアルキラーの存在。こういった、一見関係なさそうな事件なども踏まえつつ、別荘での殺人事件をメインに話が進んでいくこととなる。
別荘での事件は、まぁまぁという感じではあるのだが、卵のオブジェに関するトリックというか、その工程作業のようなものが非常に興味深いものとなっている。その工程というのが、他の事件にうまく結びついており、うまくできているなと感じられた。その他に関しては、微妙というか、かなり荒々しいとしか捉えられないものの、その最小の密室に関する部分だけで、満足させられてしまった。全体的に見てみると、なかなか工夫して作り上げているミステリ作品であるなと感心させられる。
<内容>
宮村は久々に戻ってきた蜘蛛手に弁護士から相談された事件について説明する。それは、かつて起きた“鶴扇閣事件”と呼ばれるもので、そこで合宿を行っていた大学劇団員の者達が半焼した建物から白骨死体で発見されたというもの。事件は、いったん解決されたものの、最近新たな物証が出てきたので再調査をしていると。蜘蛛手はその事件記録に目を通し・・・・・・
一方、ゼネコンで現場監督として働く御厨友子は、最近得体の知れないストーカーに悩まされていた。そしてある朝、タクシーに乗ったところ、そのタクシー運転手に拉致されて・・・・・・
<感想>
門前氏の作品と言えば、原書房か南雲堂からの出版というイメージであったが、今作は光文社文庫からの文庫書下ろし作品。文庫で出たと言うことで、それならばたいした内容ではないのかと思いきや、かなり濃い目の本格ミステリが展開されている作品となっていた。
シリーズキャラクターである建築探偵・蜘蛛手が過去の事件を解き明かすというもの。大学劇団員の面々が、山奥の変わった形状の建物で合宿をしている最中に、連続殺人事件に巻き込まれるというもの。その合宿場近くの少年院から“オクトパスマン”と呼ばれる窃盗の常習犯が逃げたという事象も付け加えられる。さらに、その事件とは別に、ひとりの女性がタクシー運転手に連れ去られるという恐怖の様子を描いたパートも追加されて、物語と並行して語られてゆく。
そうした謎が、語られてゆく中、密室殺人事件あり、不可能殺人事件あり、その他ネタバレになるので言えない事象あり、さらには物語の構成上驚かされる部分もありと、事の真相がわかるにつれて、徐々に驚愕度が増してゆくこととなる。単なる一つの建物のなかで起きる連続殺人だけを描いただけでなく、もっと大きなくくりの事件として描いているところが見事だと思われる内容。読み終えた後には、ホラー的な恐ろしさまでもを味わうことができる作品となっている。
本書の欠点を唯一あげるとすれば、タイトルが合っていないこと。しかもこのタイトルでは、門前氏を知らない人はミステリファンであっても、手に取る気にはならないのではなかろうか。ついでにいえば、副題までも合っていない。