森博嗣 S&M シリーズ  作品別 内容・感想

すべてがFになる  THE PERFECT INSIDER   7点

第1回メフィスト賞受賞作
1996年04月 講談社 講談社ノベルス
1998年12月 講談社 講談社文庫

<内容>
 天才工学博士・真賀田四季。彼女は15年前の14歳の時に両親殺害の罪に問われ、以後外界と隔絶された孤島の研究施設に閉じこもることとなった。その島をキャンプで訪れたN大工学部助教授・犀川創平と教え子の西之園萌絵、その他犀川研究室の面々たち。犀川と西之園は真賀田四季に会うことができないかと、西之園のコネを利用して研究施設を訪ねてゆく。そこで二人が遭遇したのは、誰も入ることのできない閉ざされた部屋から出てきたウェディングドレスを着た女の死体。“すべてはFになる”という言葉の意味は? そして密室殺人事件の真相は!?

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<感想>
 メフィスト賞作品の全感想を書こうという意図と、森博嗣氏の“S&M”シリーズを再読したいという思いもあり、ようやくその1冊目で森氏のデビュー作である本書を再読することができた。

 当時ノベルスを購入して読んで以来となるので、20年以上の時を置いての再読となる。それでもかなりインパクトの強い事件であったためか、トリックの核となるところは覚えていた。それを知りつつ読んでみると、そこここに複線のようなものが張られていることに気づき、再読にも十分耐えられる作品になっていることがわかる。

 孤島の研究所でいくつかの事件が起こるのだが、核となる事件はひとつ。誰も入ることのできない部屋で殺人が起こるのだが、誰が殺人を犯し、そしてその殺人犯はどのようにして部屋から出て行ったのか、ということがポイントとなる。

 そして本書はそのような謎のみならず、“理系ミステリ”という分野を切り開いた一大シリーズの最初の作品というところも大きな要素。研究施設に集う、どこか普通の人々と異なる研究者たち、さらにはコンピュータに制御された建物、そして工学教授の犀川と天才お嬢様・西之園のコンビがその謎を解くというもの。こうした設定が、今まであったミステリとはちょっと異なる雰囲気を出している。特に犀川と西之園の微妙にかみ合わないような掛け合いがさらなる独特の雰囲気を出していたと感じられる。

 こうした理系ミステリというものは単発であれば、様々な人が書いていると思われるが、このような一連のシリーズとして書かれたものは当時ほとんどなかったように思われる。今はコンピュータやネットワークが当たり前になった時代であるが、それに先駆けて書かれた作品としてはかなり貴重といえるであろう。今考えてみると、当時SFチックで、時代の先を行っていたミステリであったと思わずにはいられない。


冷たい密室と博士たち  DOCTORS IN ISOLATED ROOM   7点

1996年07月 講談社 講談社ノベルス
1999年03月 講談社 講談社文庫

<内容>
 犀川助教授と西之園萌絵は、犀川の同僚の喜多助教授の誘いにより、N大学工学部の低温度実験室の見学へとゆくことに。一通り実験を見終えたのちに、実験の打ち上げがあり、その飲み会に犀川らは出席することに。すると、その打ち上げの最中、見当たらなくなった院生を探すとともに、鍵の閉められていた実験室をのぞいてみると、そこには探していた院生二人の死体が! 二人は刃物で刺されたことにより死亡しており、しかも現場は密室という状況。衆人環視に近い状況の中でいったいどのようにして犯行はなされたのか!? 

<感想>
「すべてがFになる」に続き、S&Mシリーズの2作目を再読。「すべてがFになる」のほうは、覚えている部分もちらほらとあったのだが、この「冷たい密室と博士たち」については、全く内容を覚えていなかった。

 内容を覚えていなかった理由は、読んでみて納得、ものすごく地道なミステリとして作り上げられているからである。ただし、地道な内容だからと言って面白くないというわけではなく、むしろ非常にうまく作りこまれているミステリであると感嘆させられる出来となっている。

 最初に起こる密室殺人事件が本書の一番のキモ。それは、密室となった部屋で発見された二人の院生の刺殺死体。その部屋に入るための出入り口は3つある。シャッタについては壊れていて動かすことができない。鍵のかかっていた非常口はその鍵をかけるには中からしか施錠できない。もう一つの出入り口も鍵がかけられており、こちらは外からも鍵により開け閉め可能であるが、鍵の数は限られている。こうした状況により密室とされる事件の謎を特に西之園萌絵が積極的に解明しようとし、それに犀川と喜多助教授が追従していくという形でかたられてゆく。

 中盤は事件が起こらず、さらには推理も膠着してしまうのでやや退屈に思えたものの、後半にもうひとつの密室殺人事件が起こり、そこから物語は加速していき、一気に解決編へ突入していく。事件の解決については、実にまっとうなミステリという感じであった。派手さはないものの、良くできている真相である。また動機についても、複雑な人間関係が浮き彫りとなるように描かれている。その複雑な人間関係をあえて物語の進行中においては過剰に書きあらわさず、さらっと描いているところは社会派ミステリとは異なるものであると感じさせられる。そういった全てを包括して、これこそ“理系ミステリ”であると感じさせるものとなっている作品。


笑わない数学者  MATHEMATICAL GOODBYE   6点

1996年09月 講談社 講談社ノベルス
1999年07月 講談社 講談社文庫

<内容>
 天才数学者と言われながら、すでに隠遁してしまった天王寺翔蔵博士の住む館“三ツ星館”で行われるクリスマスパーティー。その孫の片山和樹の同級生である西之園萌絵は犀川と共にパーティーに招待され、館へと向かう。その館ではかつて奇妙な催しが行われたという。それは、庭に建てられているオリオン像が忽然と消え去るというものであった。しかも、その後に、一人が事故死し、一人が行方不明となる事件が起きたという。そして、今回のパーティー、館の真ん中のプラネタリウムで天王寺博士の言葉を聞いたのち、庭からオリオン像が再び消え失せたのである。次の日、二人の男女が死亡しているのが発見され・・・・・・

<感想>
 久々の再読であるのだが、2作目の「冷たい密室と博士たち」に比べれば、こちらのほうは内容について、ある程度記憶がある。というのも、わかりやすい大掛かりなトリックが用いられているからである。

 そんなわけで、メイントリックさえわかれば、全体が見通せるかなと思いながら読んでいたのだが、そういうわけにはいかなかった。思っていたよりも、人間関係が複雑に描かれている。その人間関係についてだが、なんとも必要以上に複雑化しているところこそが本書の特徴と言えるかもしれない。ただ、何気にメインとなる殺人事件に関するパートについては、その人間関係の部分についてもあっ去り気味。

 12年前に起きた事件や、その他の人間関係については、最終的に全てが明らかにされないまま終わってしまっている。ただ、そのような煙に巻くような終幕に著者が意図して持っていったという気がした。あと、本書を読んでいてふと思ったのは、今作では犀川創平がやけに積極的に事件に関わっていたように思える。どちらかと言えば、普段はあまり事件解決に積極的ではないように思えたのだが、何か今作では心境の変化があったのかな?


詩的私的ジャック  JACK THE POETICAL PRIVATE   6.5点

1997年01月 講談社 講談社ノベルス
1999年11月 講談社 講談社文庫

<内容>
 S女子大内のログハウスのなかで女学生の死体が発見された。現場はドアが閉ざされており、密室という状況。後日、今度はT大の実験倉庫のなかで女学生の死体が発見された。こちらの現場もまた密室であり、死体に残された痕跡により同一犯によるものとみなされた。被害者二人の知人であるミュージシャンの男が容疑者にあげられるが、決定的な証拠はつかめないという状況。そうしたなか、さらなる殺人事件が起きることに! 西之園萌絵は密室殺人事件の謎を解き明かそうと、気乗りしなさそうな犀川創平助教授を駆り立て・・・・・・

<感想>
 S&Mシリーズ第4弾。最初の5作品目のなかではこの作品が一番印象が薄かったのであるが、再読してみたら意外としっかりとした本格ミステリ作品として仕上げられていることに気づき、改めて驚かされてしまった。意外といっては失礼かもしれないが、初期の森氏の作品は、それぞれが結構きっちりと本格ミステリしているなと感嘆させられる。

 最初に二つの密室殺人事件が起きる。ただ、これら密室に関しては、すぐに解き明かされるものとなっている。それでも建築に関わる素材を生かして密室を構成するところはいかにも理系ミステリらしいと思わされてしまう。

 そして本当のメインとなるものは、その後に起こるさらなる密室殺人事件。そこで二人の死亡が確認されるというもの。その事件が起きたことにより、警察捜査は難航することとなるのだが、犀川創平はある事実に着目し、そこから犯人を特定することとなる。解答が提示されたときは、よくわからなかったのだが、読了後に改めて考えてみるとなるほどと思わされるもの。この辺は犯人と探偵の駆け引きというか、犯人自体がその連続殺人のストーリー性にこだわり過ぎたと言えるのかもしれない。これはなかなかうまいところに着目したミステリ作品であるなと感じ入ってしまった。


封印再度  WHO INSIDE   6.5点

1997年04月 講談社 講談社ノベルス
2000年03月 講談社 講談社文庫

<内容>
 岐阜県の旧家・香山家に伝わる家宝の陶器の壺。その中に箱を開けるための鍵が入っているのだが、どのようにしても取り出すことができない。そんな壺を前にして、50年前に香山家の当主が閉ざされた部屋で死亡するという事件が起きていた。それはどう見ても自殺と思えるものの、肝心の凶器が見当たらないというものであった。そして現代に至り、50年前に自殺した香山家の当主の息子が、再び同じような事件を起こすことに。画家の香山風采は、閉ざされていたはずの部屋から消え失せ、家から離れたところで死体なって発見された。刺殺であるようなのだが、凶器はわからず、誰に、どのようにして運ばれたのかも一向にわからないという不思議な事件。事件の鍵を握るのは、50年前の事件でも現場に置かれていた“壺”の存在であるのだろうか? 西之園萌絵は事件の謎を解き明かそうと、犀川創平を巻き込み、捜査を始める。

<感想>
 シリーズ1作目からの連続しての再読。本書はシリーズ5冊目。私が最初にこのシリーズを読み通したとき、シリーズのなかで一番の作品はといえばこの「封印再度」であった。しかし、再読してみると・・・・・・今はベストがこの作品ではないなという感触。というのも、この作品のトリックのインパクトが強く、今でも内容を覚えていたので、初読と再読では感じる印象がかなり異なるからであろう。

 かつて謎の自殺を遂げた画家のそばに置かれていた家宝の壺と鍵のかかった箱。それが再び殺人事件にかかわることとなる。後に被害者となる香山氏が最後に生存を確認されてから、その後犬を連れた孫が離れへいったものの、そこに香山氏はいなかったよう。その後、離れの鍵が閉まった状態となり、香山氏は中にいると考えられた。その後、離れの鍵が開いていたが中には誰もいないものの、大量の血痕が残されていた。後に香山氏は家から離れたところで刺殺体として発見される。部屋には昔の事件と同様に壺と箱が置かれていた。

 という事件を西之園萌絵が追うこととなる。事件に対する解釈が色々と語られており、ミステリ色が濃い内容となっている。ただ、事件そのものよりも、西之園萌絵と犀川創平の関係に関する話がやや多すぎていたようにも思われた。シリーズとしては致し方のない事なのかもしれないが。犀川が萌絵に振り回され、その挙句に結局事件を解き明かすこととなる。基本的なポイントは、被害者不在の謎、密室の謎、そして壺の謎。それらが明かされたとき、すべての真相が明らかになる。

 ミステリとしての内容も十分面白く、本格推理小説を堪能できる作品であることは間違いない。ただ、壺のトリックに関しては再読するとインパクトが薄れてしまうのは、致し方ないところか。また、結局のところ事件そのものが一つだけというところが、全体的にやや冗長のように思えてしまう要因であるかもしれない。基本的には満足のいく内容。


幻惑の死と使途  ILLUSION ACTS LIKE MAGIC   7.5点

1997年10月 講談社 講談社ノベルス
2000年11月 講談社 講談社文庫

<内容>
 衆人環視の中、テレビ中継も加わり、有名な奇術師・有里匠幻が壮大な奇術を繰り広げていた。縛られた匠幻は箱のなかに入れられ、箱ごと水中に沈められ、さらには爆発し、そして箱が開けられたとき、見事に有里匠幻の姿が表れたと思いきや・・・・・・彼はナイフで胸を刺され死亡していた。その様子を見ていた西之園萌絵は、事件に興味を抱き、その謎を解こうとする。さらに、有里匠幻の葬儀の時、霊柩車の中から匠幻の死体が消え失せるという事件が起き・・・・・・

<感想>
 今、この“S&M”シリーズを再読しているところなのだが、初読の時と再読時を比べてみると、面白いと思えた作品に差が出ている。かつては、このシリーズのなかで5作目の「封印再度」が一番面白いと思っていたのだが、再読してみるとそうでもなかったような(トリックがわかっていたせいもあるだろう)。そして、本書については、初読時はそれほど特別な印象はなかったのだが、今読んでみると、今のところのこのシリーズのなかで一番面白いと感じてしまうこととなった。

 本書では3つの犯罪が描かれている。大掛かりな奇術が行われている中で演者が死亡した状態で皆の前に現れるという事件。二つ目は、葬儀の時に死体が消失するという事件。そして三つめもまた、別の演者による奇術の最中に、その演者が死亡して発見されるというもの。そして西之園萌絵を中心に、犯行時の様子について捜査・調査がされてゆく。

 こうしたひとつひとつの謎についても魅力的でありながら、最後にそれらの犯罪を結ぶひとつの真実が浮かび上がるという展開が素晴らしいと思われた。その真実により、そこまで起きた事件に対しての細かな矛盾や疑問が一気に解消されるものとなるのである。

 こうした事件解決の様相がまさに奇術的とも感じられ、実によくできた作品であると感嘆させられた。久しぶりに、作品に夢中になり一気読みした(読むのに三日かかったが)という感じであった。昔懐かしというわけではないが、やはり本格ミステリ全盛時に書かれた作品は良かったなと改めて感じさせられてしまった。


夏のレプリカ  REPLACEABLE SUMMER   6点

1998年01月 講談社 講談社ノベルス
2000年11月 講談社 講談社文庫

<内容>
 簑沢杜萌は、友人である西之園萌絵と別れたのちに、那古野市の実家へと帰省する。実家に帰ったものの、家には誰もおらず、杜萌は次の日まで独り家で過ごすことになる。次の日の朝、杜萌は仮面をかぶった何者かに、捕らえられることに。仮面の男が言うには、彼女の家族(父、母、姉)も別の場所で捕らえられていると。しかし、その奇妙な誘拐事件は、誘拐犯が死体で見つかり、ひとりだけが逃亡するという形で終わりを告げる。ただ、簑沢家に留まっていたはずの杜萌の兄で盲目の詩人の簑沢素生が行方不明となっていて・・・・・・

<感想>
「幻惑の死と使途」と同じ時間軸で起きた事件と言うことで、「幻惑」のほうは奇数章、この「夏のレプリカ」は偶数章で表記されている。それゆえに「幻惑」から続けて読んでみたのだが、実際のところは関連しているようなものがあるわけではないので、別個に読んでもなんの問題もなかった。

 本書に対しての感想は、ややミステリとして弱かったなと。特に「幻惑」と比べてしまうゆえに、なおさらそう思えてしまう。今作では、西之園萌絵の出番が少ないゆえに、積極的に事件に関与していこうという人物がいないのである。特に主人公の簑沢杜萌は事件当時者ではあるが、積極的に真相を究明しようというスタンスではないことから、物語が停滞してしまっているのである。

 中盤あたりからは、刑事たちが積極的に捜査を行い、物語を進行してくことにより、多少ミステリらしい展開にはなっていくこととなる。ただ、それでも最初の誘拐に関する謎が提示されるところがピークであり、あとは真相究明までは、だらだらと物語が流れていくという感じであった。

 真相が明かされてみると、なるほどと感嘆させられることは間違いない。ただ、全てがきっちりと解明されていなく、あやふやなままになっているところが多いとも思えてしまう終わり方。そんな、なんやかやで、ちょっと不満が残る作品ではあった。


今はもうない  SWITCH BACK   6点

1998年04月 講談社 講談社ノベルス
2001年03月 講談社 講談社文庫

<内容>
 40歳になる笹木は知人の別荘に婚約者と共に招待されていた。その別荘付近を散策していたとき、西之園という女性と出会う。彼女は叔母と喧嘩して家を飛び出してきたのでかくまってほしいという。雨の中、笹木は西之園を連れて別荘へと戻る。別荘の持ち主でファッションデザイナーの橋爪は、近所に住む西之園のことを知っていて、さらに雨が激しくなり外へ出られる状態ではなくなり、西之園は橋爪の別荘に泊まることとなった。そんな夜に惨劇が起きる。別荘に招待されていた自称女優だという姉妹が、3回の娯楽室と映写室でそれぞれ死亡していたのである。その隣り合っている部屋は、それぞれ内側から施錠されており、部屋に入るときにはドアを壊さなければならなかった。つまり、密室殺人という状況。しかも、後から、二人がかつらと服を入れ替えて、それぞれ姉妹が成り代わっていたことがわかり・・・・・・

<感想>
 久々の再読ではあるのだが、事件とは別に大きなポイントとなっている部分については覚えていたので(それだけ印象が強かったと言うこと)、それを踏まえての再読となった。

 ただ、事件そのものについては、ほぼ覚えていなかったので、普通にミステリとして楽しめた。基本は二つの隣り合った部屋で起きた密室殺人事件の謎を解くというもの。犯行後、どのようにして施錠したのかということがポイントとなる。

 ただ、回答については、ちょっと微妙であったような。特に“姉妹の入れ替え”という部分が大きなポイントのように見えつつも、実はさほどたいしたものではないというところがちょっとな・・・・・・という感じであった。そんなわけで、読み終えてスッキリというよりは、どこかモヤモヤしたものが残るままといった印象。それゆえに、別の大きなポイントになっている部分のみが印象に残ってしまうのだろうなと。


数奇にして模型  NUMERICAL MODELS   6点

1998年07月 講談社 講談社ノベルス
2001年07月 講談社 講談社文庫

<内容>
 M工業大学の大学院生、寺林はのっぴきならない状況に追い込まれる。那古野市内で開催されていた模型交換会において、ひとり残って展示物を調整していた彼が帰ろうとするとき、何者かに襲われ昏倒してしまう。翌朝目を覚ますと、閉ざされた部屋のなかに、首無し死体と共に放置されていることに気づく。しかも、昨晩寺林が大学構内で待ち合わせをしていた女学生が首を締められて殺害されていたのだ。どちらの部屋の鍵も寺林しか鍵を使えないというような状況下であり、彼は重要容疑者として扱われることに。偶然にも模型交換会に参加していた西之園萌絵は、事件に興味を持ち、警察の手を借りて捜査に乗り出していくうちに、自らも事件に巻き込まれることとなり・・・・・・

<感想>
 S&Mシリーズ、9作目を再読。ここにきて、何故か9作目と10作目が長大化する。9作目はノベルスにして2段組で500ページ、そして10作目は600ページという分厚さ。これらが、さほどスパンをあけずに出ているのだから、著者の作家活動として、乗りに乗っていた時期なのであろう。ただ、その分厚さか面白さにつながっているかと言えば、ちょっと疑問。これが9作目と10作目に来て、シリーズとしてもミステリとしてもクライマックスへ! というような出来であれば、もの凄いことであったのだろうが・・・・・・最終的にややトーンダウンで終わってしまったような。

 といいつつも、本書は結構面白い作品であった。二つの場所にて、それぞれで閉ざされた部屋のなかで死体が発見される。しかも片方は首無し死体。二つの事件に関連はあるのか? 何故死体の首が持ち去られていたのか? そして首無し死体と共に発見された男が二つの鍵を有していたのだが、彼は事件と関わり合いがあるのか? といったことが謎となる。

 これらの謎を解き明かすべく、西之園萌絵による捜査を中心に展開されていくこととなる。今回は新キャラクターとして、西之園の親類である大御坊安朋というおネエ系(?)のキャラが登場している。その他、当然のことながら犀川創平がメインキャラとして活躍し、犀川の同僚の喜多助教授も多めの出演となっている。また、今までさほど目立たなかった金子という西之園の同級生が意外なほど活躍を見せている。あと、冒頭で犀川の妹である儀同世津子が登場し、双子が生まれたことを明かしているのだが、何故かそれのみの登場で終わっている。

 ほぼメインとなる事件が最初に起きた二つの殺人事件という内容である割には、ページ数が分厚すぎたのではないかなと。ただ、その分厚さの割には飽きずに読み通すことができたので、それはそれでうまく書き上げられている作品であるのかもしれない。そのへんは、シリーズゆえの強みであり、キャラクター設定が仕上がっているがゆえなのか。

 ミステリのトリックとしては、それしかないというべき結末ではあるのだが、それゆえに拍子抜けという感も出てしまっている。この結末であれば、もっと警察ががんばって捜査すれば・・・・・・と思えなくもない。それにしても、西之園はなんだかんだいって、人に振り回され過ぎのように思えてしまう。結局、犯人とかにもいいように扱われてしまっていただけのような。いわば、それこそがヒロインの宿命と言えなくもないのだが。


有限と微小のパン  THE PERFECT OUTSIDER   5.5点

1998年10月 講談社 講談社ノベルス
2001年11月 講談社 講談社文庫

<内容>
 西之園萌絵は、かつて婚約者の間柄であったナノクラフト社長の塙理生哉から、長崎にあるレジャーパークの見学に誘われる。萌絵は、友人の牧野洋子と反町愛と3人で現地に向かうことに。そのレジャーパークにて、“消えた死体”の噂があることを聞きつつ現地へと入ると、そこでは彼女たちを事件が待ち受けていた。死体が消える殺人事件、侵入不可能なはずの部屋で起きる殺人事件、そしてVR空間上での殺人。一方、出張に出ていた犀川創平は、帰りの新幹線のなかで真賀田四季から電話による連絡を受ける。不穏なものを感じた犀川は、萌絵を追って、長崎へと向かい・・・・・・

<感想>
 続けて再読し続けてきた“S&M”シリーズもこれで終わり。この最後の作品が一番長大な作品となっている。

 ただ、その長大さにもかかわらず、シリーズ作品のなかで一番印象が薄いのがこの作品。何故かというと、数々の事件が起きるものの、何故かその事件に対し希薄さしか感じられないのである。それもそのはず、起きる事件に対し動機と言ったものが全く感じられず、何のために殺人事件が起きているのかがよくわからないまま話が進み続けるのである。

 それらの解は、最後になって全て明らかになるものの、その説明に関しても、うすっぺらい希薄さしか感じられないものとなっている。というのも、この作品に関しては、あくまでも真賀田四季との再会と、別れ(もしくは解放)が主題となっているからなのではなかろうか。結局、事件などはそれに伴う副次的な出来事に過ぎないというように思われた。

 一応、長編作品としてはこの作品がシリーズの最終巻であるが、これで完結であるという感じがあまり感じられなかった。ゆえに、特に最終巻であるという事実がなければ、まだ続いていくのかなという感じの流れ。西之園と犀川の関係については、今までの作品を通して徐々に変わって行ったかなという感じがするくらいであり、この作品で何か劇的に変わったというものはなかったような。後の作品などで補完することができるような余白をあえて残しつつ終わりにしたという感じなのであろうか。




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