森博嗣 Gシリーズ/Xシリーズ  作品別 内容・感想

φは壊れたね  PATH CONNECTED φ BROKE   6点

2004年09月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 C大学2年の矢吹が知人の家で留守番をしていたところ、上の階に住む友人の家の鍵を開けてもらいたいと女学生2人に頼まれる。山吹の知人が住む部屋は管理人室も兼ねていたようで、しぶしぶ矢吹が上の階の鍵を開けてみると、そこで宙づりの状態でナイフで刺された死体を発見することに。
 矢吹はいつのまにか、C大学の助教授・国枝の元をよく訪れてくる西之園萌絵に事件のことを詳しく話すはめに・・・・・・

<感想>
 ここに新シリーズが始まったものの、結局西之園嬢へと戻ってしまうのかと残念な気もするし、反面ちょっぴり期待したくなる気持ちも入り混じっている。できれば、全然違うシリーズにしてもらえればなと思っていたのだが。そうすれば、シリーズ同士の整合性とかをいちいち考えさせられなくてすむし・・・・・・。とはいえ、このシリーズでは謎を解くのは別の人物ということになりそうである。

 本書での謎は“ひとつの密室殺人”のみ。これだけというのは少々ボリュームに欠けるのではないかという気がする。はっきりいえば、短編でもよいくらいのネタではないだろうか。もう少し内容を濃くしてもらえればと思わずにはいられない。

 とはいうものの、ここまでミステリーにこだわって数多くの作品を書き上げようとする作家というのも最近はいないのではないだろうか。その試みというか、チャレンジ精神には応援したくなるものがある。このように書き続けて行ってくれればいつかまた名作に巡りあえる予感がしないでもない。ただし、短編としてのほうが良い作品ができるのではないかという邪推もあるのだが。

 ただ、森氏の講談社ノベルスからの作品であればこの本単体のみで評価しなくてもよいのではないかと思う。前シリーズの“Vシリーズ”も初めはそれほど面白いとは思えなかったが、後半にいくにつれてやや面白くなってきたし、さらには全体のシリーズ作品としてみれば評価できたのではないだろうか。それを思えば本書はあくまでもプロローグにすぎない、というふうにとらえればいいのではないだろうか。


θは遊んでくれたよ  ANOTHER PLAYMATE θ   6点

2005年05月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 飛び降り自殺をした男の額には“θ”というマークが残されていた。さらに続出する飛び降り自殺者。そのそれぞれの死体にも体や身の回りのものにθの文字が残されていた。これらの事件を結び付けているものはいったい!? 西之園萌絵たちはこの謎を解くことができるのか??

<感想>
 どこかでこの新シリーズは“Qシリーズ”という噂を聞いていたのだが、どうやら正式に“Gシリーズ”ということで収まったらしい。ギリシア文字の“G”という意味だろうか。それとも他に何か深い意味が・・・・・・

 本書ではそれなりに推理小説的な展開がなされるものの、読了後にはどこか食い足りなさが残ってしまう。どうも最近の森氏の小説は書きこみ量が少なくなったという気がしてならない(気がしてというよりも、ページ数を見れば明らかなのだが)。今回の内容は“θ”のマークを付けた連続自殺死体というものを取り扱っているのだが、題材としては悪くないと思う。それに最終的には、このシリーズの探偵役が推理によってきちんと解決をつけている。それなのに食い足りなさが残ってしまうのは、事件の途中経過の描写や状況といったものが事細かに書き込まれていないからである。それなりに情報が与えられていれば、本作品の解決はもっと引き締まったものになったのではないかと思う。本書を読んだ限りでは、まだまだ森氏のアイディアが尽きたとは思えないので、もっと1冊1冊を丁寧に書き込んでもらえれば新シリーズになっても名作と言える物にお目にかかることができるのではないだろうか。


τになるまで待って  PLEASE STAY UNTIL τ   6点

2005年09月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 山吹、可部谷、海月のC大学の3人は探偵の赤柳からのバイトの依頼により、赤柳と共に森の中の“伽羅離館”という建物へとやってきた。そこには“超能力者”として世間を騒がせている神居静哉の別荘であった。その神居が見せる超常現象に驚く可部谷達。さらにはそれだけでは終わらず、外から閉ざされた建物の中で密室殺人事件が起こる! 果たしてその方法とは!?

<感想>
 今回の作品は雰囲気としてはなかなか良いのではないだろうか。超能力による異界の体験と密室殺人事件。なんとなく、こういった謎を見せられると今ではあまり見られなくなった新本格推理小説を見せられている気分となる。

 ただ、不満に感じるのはこのシリーズになってから全ての作品に言えるのだが、あまりにもあっさりと解決されてしまう事。その“あっさりさ”によってせっかくの謎に対する解答も説得力が薄められてしまう。そんなわけで、トリック自体も拍子抜けとまではいわないまでも、なーんだというような印象で終わってしまった。もう少し見せ方に工夫をしてくれたらなと、思うところである。また、そのトリック自体も果たして痕跡を残さずに行う事ができるのかというところが疑問。結局のところ微妙な感じですかされてしまったという感じ。

 とはいえ、それなりに推理小説として楽しむ事はできたので満足感が得られたのも確か。


εに誓って  SWEARING ON SOLEMN ε   6点

2006年05月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 山吹早月と加部谷恵美は別々の用事で東京に来ており、帰りは同じ高速バスに乗り合わせることにしていた。雪のためバスの発車が遅れる事30分。バスが発車した後、突如乗客のひとりが立ち上がり、このバスを乗っ取ったと・・・・・・。バスジャックが行われた事は犯人グループにより警察に通報され、テレビで見守る関係者達。そして、そのバスに乗っている者の大半は“εに誓って”というインターネット上で集められた集団自殺を行おうとする者たちであった。山吹、加部谷の運命は!?

<感想>
 このシリーズになってから、今までは地味目の展開のものばかりであったが、本作では打って変わってサスペンスフルな作品となっている。なにしろ今回はバスジャックが起こるというものなのである。

 このシリーズの主人公ともいえる山吹と加部谷の二人が乗った長距離バスが突然バスジャックされてしまうというもの。しかしバスジャックを行う犯人は非常に淡々としており、乗客にもパニックなどは起こらずに静かな雰囲気のまま事件は進んでゆく。

 また、もうひとつの注目どころがバスの乗客のほとんどが“イプシロン”というネット上の宗教団体のようなものでつながっており、皆死を求めてバスに乗り合わせたというようになっている。

 今作でのポイントはこの作品の中での事件だけではなく、ようやくシリーズを通しての事件というものが具体性を帯びてきたところにある。しかも、その事件の裏側に見え隠れするのは真賀田四季という存在なのである。

 それはさておき、本書の中で行われるバスジャックもなかなか波乱に満ちたものとなっている・・・・・・とは言いつつも、実際にはラストで驚かされるような展開と仕掛けが控えているというだけなのであるが・・・・・・。

 その終わり方については特に問題ないと思われるのだが、バスジャックが行われている間の過程をもう少し濃密に描いてもらいたかったところである。結局、犯人らが何を目的にして、どのように周囲を誘導させたかったかというところがあいまいな感じでぼかされてしまったような気がする。まぁ、このシリーズになってからは“動機”という面については全てぼかされているような気がしないでもないのだが・・・・・・。

 ということで、そこそこ楽しむことができた本書であるが、これからの展開を期待させるものにはなっている。と、本当は満足に浸りたいところなのだが、この薄い本でさらに文字密度が低い、スカスカの書き方はもう少しどうにかならないものかと感じてしまうところである。


λに歯がない  λ HAS NO TEETH   6点

2006年09月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 偶然にも山吹と海月が実験のため来ていた研究所で殺人事件が起きた。しかもその事件というのが、外部からの出入りが監視カメラに記録されているにもかかわらず、そのカメラに写ることなく、4人の身元不明死体が放置されていた。死因は銃によるもので、凶器は現場に落ちておらず、“λに歯がない”と書かれたカードが発見されたのみ。カードの言葉どおり、死体の歯は全て抜かれた状態で・・・・・・
 山吹から連絡を受けて現場に急行した西之園萌絵。彼女はこの事件をどう解くのか!?

<感想>
 本書は結末に達するよりも、謎が提示される箇所が一番の盛り上がりどころであると思われる。密室に歯を抜かれた身元不明の4人の死体。これは確かに豪華ともいえる“密室殺人事件”である。

 では、結末で明かされるトリックがしょぼいのかといえばそんなこともなく、それなりのトリックが用いられていると感じられた。

 ただ、このシリーズの中で、ミステリ性というもの自体を著者が放棄しているように感じとることができる。通俗のミステリ作品であれば、もっと趣向を凝らして、容疑者がどうだとか、それらしい伏線を張ったりとか(一応本書の中にもトリックをあばく伏線は張られているのだが)という事が行われるであろう。それが本書では、特に重要な事項でもないかのように、あっさり解決をこなすというような形で終わりとしている。

 また、さらに気になるのが続編として本書の立ち位置。たぶん本書を読んでいる人は“S&Mシリーズ”“Vシリーズ”から読み続けている人ばかりだと思うので、この作品が単体ではなく、一連の流れのうちの一コマでしかないということは理解しているであろう。

 とはいえ、その書き方があまりにも不親切だと思われる部分が多々ある。そのひとつは、登場している人物のうちの何人かの名前が明かされずに話が終わってしまうというところ。たぶん、シリーズ中に出てきていた人物のひとりなのであろうけれども、それを軽く流してしまうというのはどうなのだろうかと思わずにはいられない。まぁ、この辺は、わかる人だけわかればいいという著者のスタンスであるのだろうけれども、シリーズ全部をもう一度最初から読み直す気力も、魅力もさほどあるわけでもないしなぁ・・・・・・などとつい余計な事で悩んだりしてしまう。


ηなのに夢のよう  Dreamily in spite of η   5点

2007年01月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 数学者の深川恒之は毎日の散歩の途中で奇妙な物を見かける。それは高い木の上にぶらがっている人間の姿であった。どうやら死体は自殺と見られるのだが、いったい何のために、どのようにして自殺を図ったのか? そしてその自殺現場には“ηなのに夢のよう”と書かれたものが残されており・・・・・・。
 その後、次々と発見される自殺死体。その側には他のものと同様に“η”と書かれた文面が見つけられる。これらの数々の死体はいったい何を意味するのか? 西之園萌絵が解き明かす推理とはいったい・・・・・・

<感想>
 本書は西之園萌絵にとっての一つの分岐点となっている作品である。また、次の作品が「イナイ×イナイ」となっておりネットで調べてみると新シリーズらしきことが書かれていた。しかし、このままだと「結局“Gシリーズ”ってなんだったの?」という疑問符ばかりが残されるまま終わってしまう。

 物語はもはやこの本単体では全くと言っていいほど成立していないように感じられる。本書ではいくつかの奇怪な自殺事件が起こるものの、それに関してはどうでもいいような書き方がなされている。そして主題というか、中心として書かれているのは、今までのシリーズ作品に登場していた色々な人がただ単に登場してきたというだけ。たぶん、シリーズ作品を通してなんらかの道筋が示されているのではないかと思えるのだが、個人的にはそれらを全く読み取る事ができなかった。シリーズ作品を通して何か書きたいと言うのであれば、このくらいの分量なら最初から6冊まとめて一冊の本で出してもらいたいくらいである。

 と、そんな感じで不満と未消化っぷりだけが残ってしまった一冊。


イナイ×イナイ  Peekaboo   6点

2007年05月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 主に美術品の鑑定を手がける椙田探偵社。その椙田不在のおり、アルバイトをしている大学生・真鍋の元に、現在美術品の鑑定を行っている佐竹家の長女・千鶴が仕事の依頼をしにきた。その内容というが、生まれたときに死んだことにされていた兄が実は生きていて、敷地内に軟禁されているようなので、探してもらいたいという奇妙な内容。真鍋と元秘書で現在、椙田探偵社の助手を務める小川令子は椙田にうかがいを立て、できる範囲で調査を引き受けてみることにした。そして佐竹家での美術品の鑑定のおり、それとなく事情を探ってみようとしたところ、突然事件が起こる! 母屋に隠されていた鍵のかかった座敷牢の中で千鶴の双子の妹の千春が死体となって発見されたのだ。事の真相はいったい??

<感想>
 鍵のかかった地下牢の中で、ひとりが殺害され、ひとりが意識不明、そして牢の外には鍵を持った人物が1名、という状況が目撃されることになる。普通ならば、牢屋の中にいる生存者が容疑者となるはずなのだが、元々牢屋にいた(?)はずの人物が消えていなくなっているとのこと。よって、事件の容疑はそのいるのかいないのかもわからない人物にかかることとなる。

 という具合に事件が提示され、その後さらにいくつかの条件が追加され、事態はさらに限定された中での殺人事件ということに。

 と、事件自体はなかなか面白いと感じられた。しかし、今回の作品でも起こる事件はこれひとつだけであり、食い足りなさが残るというのも事実。一応、この作品から“Xシリーズ”という新シリーズになったようだが、おおまかな構造は前作までの“Gシリーズ”となんら変わりがない。“Gシリーズ”が未消化のままで、ここで急展開させる必要が本当にあったのかと疑問に思えてしまう。

 ただし、新シリーズになっての利点というものも感じられた。前シリーズまでは、さらにその前のシリーズの登場人物を引きずっている故に、余計な人間関係の描写が多くなり、事件そのものにスポットが当たりづらくなるという弊害があったと思われる。しかし、今回は登場している数少ない人物のみにて事件が展開されているために、推理小説として、いくぶんスリムになったという気がした。

 ただし、今までのシリーズに関る人物もチラッと顔を出していたので、今後話が進むにつれて、結局同じことになってしまうという恐れは残っている。

 なにはともあれ、本書だけを見れば、そこそこ良い具合のミステリ作品として仕上げられていると思われた。ただし、密度があまりにも薄いとも感じられるので、次から次へと新作を出すよりは、2冊か3冊分合わせた内容の作品を1冊として出してくれれば、もっと面白い作品が出来上がるのではないかと思っている。とはいえ、今後もこのままだらだらと続いてしまうのだろうなとしか考えられないのであるが・・・・・・


キラレ×キラレ  Cutthroat   6点

2007年09月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 満員電車の車内で30代の女性が背中を刃物で切りつけられるという事件が立て続けに起きた。その事件のひとつで無実の罪をきせられそうになった男から依頼され、鷹知祐一朗と小川令子は事件を調べてみる事に。すると、被害者達に意外な関係があることをつきとめるのだが・・・・・・

<感想>
「キラレ×キラレ」と書くと、なんとなく良さげなタイトルだなと思ったのだが、内容を考えてみると実は「切られ×切られ」ということなのだろう。漢字で書くとちょっと怖い。

 今作はミッシングリンクもの。この作品がシリーズ第2弾となるのだが、このシリーズになってからは普通にミステリが展開されるようになってきたなと感じられる。手ごろに読むことができるミステリ作品としては悪くないものと思われる。

 ただ、普通にミステリを展開させるのであれば、結末を変にぼかしたりせずにきちんとした解決まで出しておしまいという形にしてくれてもよいと思われる。また前作に続き、最後の最後だけに西之園を登場させるのはどうかと・・・・・・。別に他のシリーズといちいち関連付けしなくてもいいと思うのだが。


タカイ×タカイ  Crucifixion   5点

2008年01月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 有名なマジシャン・牧村亜佐美の自宅の敷地内で彼女のマネージャーの死体が発見された。その死体が発見された場所はなんと、地上15メートルの高さのあるポールの上。死体はポールの上にくくりつけられていた。誰が? どのようにして? そして何故?
 間接的に事件に関わることになった真鍋と小川令子、事件の捜査を依頼された探偵の鷹知、さらにいつしか事件の捜査に巻き込まれることになった西之園。彼らが導き出した答えとは?

<感想>
 問題の提示についてはよいと思うのだが、解決がこれではなぁ・・・・・・。このような解決となってしまうと事件全体の意義がどこにも見出せなくなってしまう。結局この事件の主題はどこにあったのだろうか? マジシャンが登場している事件を扱っているにしては、不満足な内容であった。

 シリーズものとしては、前作まではちょこっとしか出ていなかった西之園が今回は普通に事件を解く側のひとりとして登場している。今後ますます登場機会が増えてくるのだろうか? そうすると、他の登場人物たちの存在が薄くなってしまうような気がするが・・・・・・。なんとなく、新シリーズになってから西之園の存在が、瀬在丸紅子や犀川教授のような貫禄を帯びてきたような気がしてならない。


目薬αで殺菌します  Disinfectant α for the eyes   5点

2008年09月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 世間では劇物の混入された目薬が見つかるという事件が起きるなか、大学から帰る途中の加部谷恵美は死体を発見する。その死体が握っていたものは、今まさに世間で騒がれている目薬“α”であった。死体が発見された場所の近くには、被害者の部下である女性職員が住んでいるのだが、彼女は事件になんらかの関係があるのか・・・・・・

<感想>
(本文より)
「最近気づいたことなんですけど、この一連の陰謀の首謀者は、とんでもなく気が長い奴なんですな。そういう非常にゆったりとした時間軸で考える必要がありそうだ、ということです」

 と、本文中のセリフを抜き出してみたのだが、ここ最近の“Gシリーズ”“Xシリーズ”というものは、この言葉が表している通りのような気がする。

 つまり、一作一作ではさほど大きな動きはないのだが、シリーズ全体を通して、なんらかの実験的なものを果たさんとしているというように思えるのである。また、実際に数多くの登場人物たちの動向についても一冊一冊というものの中ではなく、全体を通して少しずつ動きが出てきている。

 というわけで、ここ一連の作品全てについて言えることであるが、一冊でどうのこうのというような感想はほとんどない。全体を見渡してみて、といっても、“S&M”シリーズを別とすれば、さほど最初から読みたくなるような作品郡ではないので、このままだらだらと読み続けるのみで終わってしまうのかなと。


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