物集高音  作品別 内容・感想

血食 系図屋奔走セリ

1995年05月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
《血食》祖神が血の滴る犠牲者を食するの意。転じて祖先が子孫の供養を受けることをいう。
 時は、昭和三年十月。三田魚籃坂にて探偵社を営む系譜学者、忌部言人は依頼された調査のため、友人物集高音とともに和歌山県は紀伊大島に渡る。当地の漁村で戸長の屋敷を訪れた忌部らを迎えたのは、一家皆殺しの惨殺死体だった。そこに残された、アルファベットらしき文字が記された意味不明の木片は、明治日本を揺るがした大事件の謎に忌部らを導くのか?


大東京三十五区 冥都七事件   5点

2001年02月 祥伝社 単行本

<内容>
 未だ闇深き「冥都東京」に現る七ツの謎、謎、謎
 血を吐く松、石雨れる家、夜泣きする石、迷路の人間消失、予言なす小さ子、消える幽霊電車、天に浮かぶ文字・・・・・・
 これら奇々怪々、不思議千万の事件を取材するは、早稲田の芋ツ書生にして、雑誌の種とり記者の阿閉万(あとじよろず)。かたや、その綾を解いて見せるは、下宿館の家主で、「玄翁先生」こと間直瀬玄蕃(まなせげんば)。この大家と店子の珍妙なる問答の末に、明かされる意外な真相とは? 安楽椅子ならぬ“縁側探偵”の名推理とは?

 「老松ヲ揉ムル按摩」 (1999年9月号:小説non)
 「天狗礫、雨リ来ル」 (1999年12月号:小説non)
 「暗夜ニ咽ブ祟リ石」 (2000年5月号:小説NON)
 「花ノ堤ノ迷途ニテ」 (2000年7月号:小説NON)
 「橋ヲ墜セル小サ子」 (2000年9月号:小説NON)
 「偽電車、イザ参ル」 (2000年11月号:小説NON)
 「天ニ凶、寿グベシ」 (書下ろし)

<感想>
 古い書体で書いているので、ものめずらしい感じもするが、作品群としての評価はどうであろうか。パターンとしては、阿閉青年が奇怪な話を大家のご隠居に持ちかけて解決するという話。ただ、この短編集ではその奇怪な謎というものに統一性がなく、事件のたびに“?”と思ってしまう。最初の「老松ヲ揉ムル按摩」では昔起きた話を持ち出してきて、次の話しでは作中の時代そのときの話でと一貫性がない。もう少し、この題名でだすのであれば、江戸の闇を浮き彫りにするとか、不可能犯罪を解くとかといったテーマが欲しかった。それでなければ、このような形で本をまとめたとしても何の意味があるのだろうと首をひねりたくなる。


赤きマント  〔第四赤口の会〕   6点

2001年10月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
「赤いマントと青いマント、どっちがいい?」戦中の東京中の少年少女を恐慌せしめた怪人・赤マントは実在したのか? 「肉付きの面」「歌い骸骨」「魔女の箒」。「奇し物」の募集家たちが完全会員制〔第四赤口の会〕に集う。昔話に秘められた真実とは?

 「赤きマント」 (小説現代平成13年1月増刊号:メフィスト)
 「肉付きの面」 (小説現代平成13年5月増刊号:メフィスト)
 「歌い骸骨」 (小説現代平成13年9月増刊号:メフィスト)
 「魔女の箒」 (書下ろし)

<感想>
 こういった世の中の不思議なものを題材とした小説はけっこうあると思う。それらのなかでミステリーという形態をとっているものは、例えば何か事件が起き、その事件とからめて共に謎を解いていくというものが多い。

 本作品では、そういった事件などは起こらず、「奇し物(あやしもの)」というのを会員のなかの一人が持参し、その者について推測、議論を交わすといったものになっている。であるからして、読んでいてミステリーという感じがしない。しかしながら民俗学的な推測の一例として読み進めてみるとなかなか楽しく読むことができる。まぁできれば、登場人物のくせをもう少し控えて、もっとまとめて書き上げてくれればなぁとは思う。


吸血鬼の壜詰  〔第四赤口の会〕   6点

2003年04月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 巷の小学生を恐怖に陥れた“口裂け女”が待っていた意外な人物!? マスクに秘められたあまりにも切ない過去!
 掌中の小壜から“吸血鬼”の正体、そして意外な来歴までが明らかに。
 “花咲爺”が撒いたのは本当に灰だったのか?
 “手無し娘”の両手の再生に関わる秘密とは!?
 宵闇の密室で明かされる、都市伝説・昔話に隠された真実。

 「花咲爺の灰 Magical Ashes」 (小説現代平成14年1月増刊号:メフィスト)
 「手無し娘の手 The Maiden without Hands」 (小説現代平成14年5月増刊号:メフィスト)
 「吸血鬼の壜詰 Bottling a Vampire」 (小説現代平成14年9月増刊号:メフィスト)
 「口裂け女のマスク The Cursed Respirator」 (書下ろし)

<感想>
 このような民俗学的な要素を取り入れた学術的なものをミステリとして書く場合には、できるだけ読む側にとってわかり易く書くというのが一般的ではないかと思う。しかし本書ではそのような学術的事項はわかり易く書いてはいるものの、途中で登場人物による横槍をいれたりという事柄によって横道にそらして、話をわざわざわかり難くしてしまうのだから変わっている。

 内容は前作に引き続き、さまざまな伝承に対して、とある解釈を提示するというものであり興味深いものとなっている。とはいえ、“吸血鬼”を説明するにはページ数が足りないようにも思えるし、あまり一般的ではない“手無し娘”は紹介するべき事項がこれも足りなかったのでと思えた。逆に、“花咲爺”や“口裂け女”などのような日本人に一般的なものであればとっつきやすく、なかなか面白く読むことができた。

 驚愕というレベルではないにしても、なかなか面白いそれぞれの仮説を見取ることができるようになっている。特に“口裂け女”の都市伝説の話は楽しめた。




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