<内容>
水乃サトルは大学サークルの講演会で心霊写真家と討論を行うことになった。その討論会の後、サトルは心霊写真家から3枚の写真を受け取ることとなる。写真を見たサトルの恋人の二之宮彩子はその写真に写っている人物を知っていると言いだした。そうして彼女は、その年の初めに起きた、自分が誘拐監禁され身代金を要求された事件について話し出す。誘拐事件と心霊写真に隠された秘密とは!?
<感想>
久しぶりにホッとするような、いかにも探偵小説らしい作品を読むことができた気がする。最近、このように普通に本格推理小説らしいことをしてくれる作品というものがほとんどないので、実にうれしいかぎりである。
とはいうものの、今年出た新しい推理小説を読んだというよりも古典作品を読んだというように思えてしまうのもまた事実。トリックに関しても新しくはないし(というか、あまりにも普通すぎるような)、ページ数のわりには盛り込まれたネタが少なく感じられた。全体的な構成は悪くないように思えるものの、重要な要素のひとつといってよい誘拐事件における身代金の引き渡し部分をあまりにもあっさりと流しているところが納得しづらいところではある。
それでも本格ミステリというものを感じ取れる雰囲気は存分に出ているので、決して悪い作品ということはない。最近、本格ミステリらしきものになかなか出合えないという方は読んでみるのも一興。普通に推理小説というものを楽しめる作品。
<内容>
水乃サトルと美並由加理は彼らが務める旅行会社の下調べのため、福井県北部にある東尋坊へとやってきた。二人はそこで起きた銃撃事件の目撃者となる! 二人の男が現れ、片方の男が連れの男を銃で撃ち、そのまま逃走した。撃たれた男は崖から海へと転落してしまったのである。サトルと由加理は事件の目撃者として警察で証言をすることとなる。その後、別の事件を捜査している馬場刑事が現れ、3人は合流することに。馬場刑事が捜査しているのは20年前から続く猟奇事件であり、最近同様の手口と思われる事件が起きたというのだ。水乃サトルは二つの別々の事件を解決すべく奔走するのであるが・・・・・・
<感想>
ネタとしては、ひとつの銃殺事件を発端とするアリバイトリックがあり、それ一本だけでは分量として少ないので、猟奇事件を付け足したという感じ。二つの事件を付け足して内容が濃くなったかというと、それにも関わらず旅情ミステリ的な描写が多かったとも思えたので、全体的にかなり希薄な作品だったという感じがした。
結局のところ短編作品でもよかったくらいのネタであったかなと。猟奇殺人については、ページ数をとっている割にはあくまでも付け足しと感じられるほど扱いがぞんざいなもの。
本作品でのメインとなる東尋坊でのアリバイトリックも普通な感じで、東尋坊の部分だけをとれば2時間サスペンスドラマとなってもおかしくないような内容のもの(良い意味悪い意味を含めて)。本格ミステリとして読むのであれば短編作品にしてくれたほうが良かったようにも思えるが、旅情ミステリとしてじっくりと読みたいという人にはこのくらいの分量でもよいのかもしれない。
<内容>
貧困のため、町をさまよっていた青木俊治青年は「貴方の不要な命を高価買い取りします」と書かれた広告を見て、その住所に書かれた毒島弁護士事務所を訪ねてゆく。そこで青木は毒島から、莫大な資産家である邑知家へ、身元不明の相続人に化けて乗り込むよう指示される。青木は智仁という人物になりすまし、能登半島の眞塊村へと向かい、財産を手に入れるべく邑知家の内部へ取り込もうと試みる。しかし、彼を待ち受けていたのは邑知家と近隣の村をも巻き込むとてつもない惨劇であった!
<感想>
二階堂蘭子シリーズの前作品「双面獣事件」という問題作があるので、それに比べれば本書は普通にできているかなという印象。ただ、このラビリンスのシリーズを読んでつくづく思うのは、ベテランの作家が書いた作品というよりも、新人の作家が書いた作品なのではと感じるほどの内容が荒々しいということ。
とにもかくにも、ちょっとしたネタの天こもりという内容。これでもかこれでもかといわんばかりに、さまざまなミステリネタが盛り込まれている。ただ、それらを盛り込み過ぎた故に、物語や犯人の目的に一貫性というものを感じられず、むしろ荒が目立つという印象ばかりが残る。全体的に見て、決して悪い印象のみの作品というわけではないので、もう少しネタを絞り込んで一貫性のあるシンプルな内容にしてくれたほうが良かったのではないだろうか。
とりあえず、この魔王ラビリンスのシリーズはこれで終わったようなので、次からはもっと抑えの利いた本格ミステリ作品を期待したい。今後、二階堂蘭子はどのような事件を取り扱うことになるのだろうか。次回作を待ち望むのみ。
<内容>
地響きを鳴らしながら、自らの巨体を事件現場へと運び、難事件に挑む増加博士。彼を待ち受けるのは、数々のダイイング・メッセージ。博士は27の凶悪事件を全て解き明かすことができるのか!?
<感想>
普通のミステリ作品では扱えないボツネタをなんとか作品にしたという印象。むしろ、よくこのネタで作品を書き上げたなと、妙な所に関心。まだ購入していない方は、買う前に最初の一篇を試し読みしてもらいたい。どれも8ページくらいの作品となっているので、すぐに読むことができる。最初の一篇を読んで、それが許容範囲だという人は購入してみてはいかがか。そうでない人は・・・・・・言うまでもないだろう。
まぁ、ダイイング・メッセージというレベルなのかどうなのか、よくわからないものから、蘊蓄ネタとか、奇術のトリックとか、著者の知識を総動員して描いたという作品のよう。これが新人作家が書いた作品だとしたら、絶対出版させてもらえないような気がするのだが・・・・・・
<内容>
「泥具根博士の悪夢」
「蘭の家の殺人」
「青い魔物」
<感想>
どこか懐かしいような本格ミステリ・・・・・・っていうと、良い感じなのであるが、どれもどこかで読んだようなものばかり、という感触が強い。
「泥具根博士の悪夢」は、奇怪な建物の何重にも閉ざされた部屋の中で死んでいた男の謎を暴く。今回の短編集のなかで分量的には一番良かった。あえて殺人のために作り上げられた密室というところが良い味を出していると感じられた。
「蘭の家の殺人」は、過去に起きた毒殺事件を紐解く内容。ストーリーとしてはよくできているものの、やや冗長。同じ話を二度繰り返しているところが無駄と感じられた。とはいえ、それなりにミステリとしてはうまく出来ていたといってよいであろう。意外な犯人があぶりだされることになる。ただ、終幕においては、よくある話というか、とある作品に似通っているような。
「青い魔物」は、文字通り青い魔物による怪異を描いた作品。こちらは良く出来ていると思えたのだが、「蘭の家」が長いのに比べて短すぎる。もう少し長く書いてもらえたほうが、気の利いた捻りを入れられたのでは? また、設定が「泥具根博士」と似通りすぎているのも気になったところ。
<内容>
中学生の上条友介は突然、時間を飛び越える現象に見舞われるようになる。友介がいきなり経験したのは、大学生となった自分が恋人の女性と共に暴漢に襲われ、恋人はナイフで刺殺され、自分は重傷を負うというもの。そして、まるで悪夢を見たかのように中学生に戻った友介は、その後も何年かおきに、タイムスリップを経験することとなる。友介は、そのタイムスリップを利用して、自分の恋人の命を救おうと奔走し、犯人の正体を暴こうとするのであったが・・・・・・
<感想>
SFミステリ・・・・・・と言うよりも、エンターテイメント作品と表現したほうがしっくりきそうな内容。タイムスリップを繰り返しながら、未来を変えようと奔走する少年の物語。
まぁ、タイムスリップのメカニズムについて、さしたる理由がないというのは別にかまわないのだが、何かルールがあやふやでどうにでもなりそうな話というところが受け入れにくい。と言いつつも、読んでいる時は楽しく、サクサクと読み進めることができる小説であることは確か。
気軽に読めばいいのだけれど、深読みとまでも言わなくても、細かいところをつつけばつつくほど粗が出てくるような内容である。後半になり、色々な要素が入り混じるのだが、かえって混ぜ合わせることにより整合性が薄くなってしまうように感じられた。SF的な要素はむしろ最小限のほうが好ましかったように思われる。
本書で感じ入ったことを一点。この作品に探偵役というか、ゲストのような感じで二階堂氏のシリーズ探偵・水乃サトルが登場する。この探偵、性格に関しては微妙なところがあるのだが、この物語においては非常に貴重な探偵役と位置づけることができる。なぜなら、時間を超えてしまう主人公のことをすんなり受け入れ、彼にきちんとアドバイスまでしてしまうのである。普通の探偵であれば、こんな状況であればとてもまともな対応はできないであろう。しかし、水乃サトルであれば、この設定をすんなりと受け入れることに全く違和感がわかないのである。この主人公にとって、ここまで心強いアドバイザーは他にいないであろう。水乃サトルという探偵に頼もしさを感じてしまった一冊。
<内容>
ロシア革命から数年経ったシベリアの奥地。逃亡貴族が身を隠す“死の谷”と呼ばれる場所へと向かう一つの小隊があった。彼らはとある使命のために、死の谷を目指していた。しかし彼らは、未知の“追跡者”に追われ、ひとりまたひとりと数を減らしていった。そして死の谷を目指す中で、数々の不思議な事件に遭遇することとなる。小隊の一団は、巨大幽霊マンモスの噂がのぼる死の谷へとたどり着くのであったが・・・・・・。現代において、名探偵・二階堂蘭子が過去に起きた事件の全貌を解き明かす!
<感想>
今回の作品、タイトルからして「双面獣事件」の悪夢を思い起こさせ、微妙なのではないかと感じさせられたが、予想外に良い出来になっていたと思われる。推理の主点を“幽霊マンモス”ではなく、“謎の追跡者”のほうへ導いていったことが成功の要因かもしれない。
幽霊マンモスの謎も去ることながら、死の谷を目指す小隊一団が巻き込まれてゆく謎についても魅力が感じられるものとなっている。さまざまな不可能状況での犯罪が続き、ひとりまたひとりと人数を減らしていく小隊。そして最後に明らかになる真相は・・・・・・というような展開。
謎の真相についてはよしとしても、見事なまでに鼻につく探偵のスタンスはなんとかならないものかと。これこれこうだから、もはやこれが真相でしかありえないでしょ、というような響きを感じずにはいられない。まぁ、このシリーズ、もともとこういうようなスタンスの推理であるので、いまさらどうこういうのもおかしいか。ただ、普通に推理をすれば、もっと取っ付きやすいのではないかと、つい思ってしまう。あと、付け加えておくと二階堂氏の作品「ユリ迷宮」に掲載されている「ロシア館の謎」をあらかじめ読んでおくと、よりいっそう内容を楽しむことができるようになっている。