西村健  作品別 内容・感想

劫 火   7点

2005年12月 講談社 講談社ノベルス(上)
2006年01月 講談社 講談社ノベルス(下)

<内容>
 オダケンは恋人の梨花と喧嘩し、その鬱憤をはらそうと北海道に来ていた。ゆっくりと骨休めをするはずだったのだが、いつのまにやらロシアのテロリストとの銃撃戦に巻き込まれるはめに・・・・・・
 銀次はセツ子と共に久しぶりに日本に戻ってきていた。日本でゆっくりするつもりであったのだが、かつての事件で銀次に恨みを持つものに付け狙われる事に・・・・・・しかも銀次が倒した“片目”の弟の魔の手が伸びてきて・・・・・・
 一徹は知人の九州を束ねるヤクザの総帥の元をたずねた際、一人の子どもを預けられる事に。その子どもは全くしゃべらず、定期的に携帯するノートパソコンを操作するのみ。そんなことにも気にせずに一徹はうまいものを食いながらゆっくりと東京を目指して車を進めてゆく。
 今までの作品のキャラクター総登場で、日本を震撼させる大陰謀に立ち向かう事に! いったい日本で何が起きているのか? そして、彼らはその陰謀を阻止できるのか!?

<感想>
 いや、長かった。分厚かった。読むのに時間がかかった。とはいえ、面白い事には間違いないので、上巻にしろ下巻にしろ、それぞれのクライマックスにたどり着くと、後は一気に読めてしまう。ただ、それにしても長すぎるので、上巻下巻の出だしのほうは読み進めるのが結構きつかった。

 日本全体を揺るがす陰謀とか、その細かい背景とかが、かなり細かく書かれていて、その詳細を把握していくのはなかなか大変である。ただ、理解するというよりは、わかりやすい新聞記事を読んでいるような気もするので、「そういうこともあるんだ」、というくらいのノリで十分読み飛ばす事はできる。また、これだけ細かく様々な背景について書かれている割には、当の主人公達がそういったことを全く気にしない人間が多いので、なんとなくその辺がアンバランスに感じられない事もない。

 さらには、後半も結局何が行われているかというのを明かすのに、少し引っ張りすぎたのではないかと思われる。もう少しこの辺はあっさり目に書いても十分であったのではないだろうか。

 ただ、アクションシーンについてはもう圧巻という他はないであろう。日本のいたるところで行われる銃撃戦と、最後の東京の中心で行われる総力戦についてはページをめくる手を止めることができなくなる。これこそがこの本の真骨頂であると言ってよいであろう。

 と、本のページの厚さはともかくとして、なかなか満足できる内容であった。ただ、この本は西村氏が出した前3作のキャラクターが総登場する内容であるがために、その間のブランクはかえってマイナスになってしまったのではないかと思われる。できれば、3作出た後にすぐに出版してくれれば色々な意味で注目作となったのではないかと思われる。

 今後も、これらのキャラクターを使い続けるのであれば、あまり年をおかずにどんどん作品を出してもらいたいものである。


仁侠スタッフサービス   5点

2010年04月 集英社 集英社文庫

<内容>
 派遣会社「倶梨迦羅紋々スタッフサービス」、どう聞いてもあぶなげな団体がやっていそうな会社。そんな派遣会社が次々と七人の男女をスカウトし、半ば強制的に彼らを会社の社員としてしまう。七人の職業は旅行代理店社長、温泉旅館主、コンパニオン、県労働局役人、システムエンジニア、トラック運転手、料理人。倶梨迦羅紋々スタッフサービスはこうした人たちを巻き込んで、いったい何をしようというのか!?

<感想>
 久しぶりに西村氏の作品を読んでみることにした。一時期、講談社ノベルスから怒涛のように出していた時期もあったが、最近は色々な会社からポツリポツリと作品を出しているのが現状。この作品は、書き下ろしながら文庫作品ということもあり、手軽に読めそうに思えたので購入してみたしだいである。

 実際に読んでみると面白い。福岡弁が飛び交う中で、ヤクザと一般人との駆け引きがあり、いつしか一般人たちはヤクザの人間味あふれる部分に触れていくうちに不審を抱きながらも仲間になって行く。しかし、それでも自分が今後何をさせられるのかということが不安でしょうがないという日々を送ることになる。

 最初は集められた7人のそれぞれのエピソードが短編のように別々に語られ、そうして7人が集まったところから大きな話が始まって行くという展開。ただ、残念に思えたのはせっかく7人が集まってこれから話が進むという時に、本編に入ってからもさらに7人の話が別々に語られてしまい、同じ事の繰り返しになってしまっているところがもったいない。後半からは別の人物の視点なりを用いて、一気に大きな話を進めていってもらいたいと思ったのだが、そういう展開はなされず、ややスピード感に欠けていたように感じられた。また、話自体も思いのほか広がらず、なんとなくわかりやすいところに収まってしまったように思える。

 読みやすく、雰囲気としては面白いので、それなりに楽しませてくれる作品ではあると思える。ただ、もうちょっと何か突き抜けるような要素が欲しかったところである。


目 撃   6点

2019年05月 講談社 単行本
2021年05月 講談社 講談社文庫

<内容>
 幼稚園に通う幼い子を抱えながら、女手一つで電気メーターの検針員をして生計を立てている戸田奈津実。そんな彼女が月ごとに検針している家で殺人事件が起きた。事件後、彼女は何者かに付けられているような感覚を抱き、警察に相談することに。刑事の穂積は、彼女の話を丁寧に聞き取り、その情報を元に殺人事件の犯人をあぶりだそうと罠を仕掛け・・・・・・

<感想>
 久々に西村氏の作品を手に取ってみた。読みやすい作品ではあったが、ちょっと冗長であったかなと。

 内容は、犯罪を目撃したと犯人から誤解されていると思われる電気メーター検針員の子持ちの女性が何者かにつけ狙われるというもの。女性はその件について警察に相談し、そして一人の捜査員が彼女の話を重視し、殺人事件の犯人をあぶりだそうと画策するというもの。

 そんな内容であるのだが、物語の途上で、とにかく何も起きない。“何者かの視線を感じる!”というだけで、何も事件が起きない。そんな場面が続く続く。ゆえに、電気メーター検針員の仕事について詳しく紹介している作品という趣が強かった。

 最後の最後で事態が一気に動き、あっという間に大団円という感じになっていたので、全体的に凝縮してくれれば、もっと面白かったのではなかろうか。やや分厚い分、手に取りにくそうな本に見えてしまうところも欠点か。それでも電気メーター検針員の現在について知ることができたのは収穫であった。




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