<内容>
絶海の孤島に隠れ棲む財閥令嬢が“科学・絵画・料理・占術・工学”、五人の「天才」女性を招待した瞬間、“孤島×密室×首なし死体”の連鎖がスタートする! 工学の天才美少女、「青色サヴァン」こと玖渚友とその冴えない友人、「戯言遣い」いーちゃんは、「天才」の凶行を“証明終了”できるのか?
<感想>
ある種の近未来SFとして読んでいたので、軽く楽しむことができた。それなりの絶海の孤島殺人となっていて、これも楽しめた。しかし、ラストはどうかというと、かわされたという感じが強い。これが作風となるのかもしれないが、ある意味ごまかしともとれるのではなかろうか。
いちおうシリーズ化するようではあるのだが、“戯言遣い”という特徴を、解決をあいまいにしてごまかすためには使って欲しくはないものだ。著書が増えることによってそういう傾向が強くなりそうな気がするというのは杞憂だろうか。
<内容>
鴉の濡れ羽島で起こった密室殺人事件から二週間。京都、私立鹿鳴館大学。「ぼく」こと“戯言遣い・いーちゃん”が級友・葵井巫女子とその仲間たちと送る日常は、古都を震撼させる連続殺人鬼“人間失格・零崎人識”との出会いによって揺らめき脆く崩れ去っていく。そして待ち受ける急転直下の衝撃とは・・・・・・
<感想>
読んでる最中は中途半端な青春ものみたいに思えて、少々げんなりしながら読んでいた。また、主人公の造形も好みにあわないので、内容自体もあなどりながら読んでいた気がする。しかし、ラストに近づくにつれ徐々に明らかにされる顛末に実は序盤から計算されて書かれたことに気づく。そして最後まで読んで全体が見えたときは、それなりに完成された出来に驚いてしまった。ミステリでありながら既存の推理小説とは趣が異なるエンターテイメント小説。これは今後期待が持てるかもしれない。
<内容>
「紫木一姫って生徒を学園から救い出すのが、今回のあたしのお仕事」
「救い出すって・・・・・・まるで学園がその娘を拘禁してるみたいな言い方ですね」
人類最強の請負人、哀川潤から舞い込んだ奇妙な依頼に従って私立澄百合学園、またの名を“首吊高校”に潜入した「ぼく」こと“戯言遣い・いーちゃん”は恐るべき殺戮の嵐に巻き込まれる。
<感想>
シリーズ三作目であるが、本書の内容自体よりも、まずこの講談社の20周年企画の密室本について考えたい。2002年8月の段階で本書を含めてすでに11冊出版されたが、それらについての出来はどうだっただろう。“密室本”という銘にふさわしい本があっただろうか。ただ単に袋綴じになっているというだけではあるまいか。どうも各著者たちにとっての“密室本”というものが、手抜きをしているわけではないのだろうが、何かいっぱいいっぱいで書いているという雰囲気が感じられるのだ。特に異色作家が多いメフィスト賞の受賞者たちにとって、“密室”というもので限定して囲ってしまうと力を発揮できないのではないのだろうか。
というわけで本書の出来はあまりよくない。説明が不十分なまま速い展開で話が進み、わけがわからないうちに終わってしまう。「なんなんだろう」という展開と「なんだったんだろう」という終わり方。表紙からの連想かもしれないが、まるでアニメ作品を見ているかのような唐突な作品。
このシリーズはこちらが見ていてはずかしくなるような青春喜劇を行って役者が突然その恥ずかしさに気がつき照れてしまうのを見せられるような気まずさを感じる。しかし、全作の「クビシメロマンチスト」はそれなりに面白かっただけに今作には期待をしていたのだが残念な結果に終わったようだ。次回作は枷にはめられないところで、羽を伸ばし、さらに羽目をはずした作品を期待したい。
<内容>
「きみは玖渚友のことが本当は嫌いなんじゃないのかな?」
天才工学師・玖渚友のかつての「仲間」、兎吊木垓輔が囚われる謎めいた研究所。堕落三昧斜道卿壱郎研究施設。友に引き連れられ、兎吊木を救出に向かう「ぼく」こと“戯言遣い・いーちゃん”の目の前に広げられる戦慄の“情景”。しかしその「終わり」は、さらなる「始まり」の前触れに過ぎなかった・・・・・・
<感想>
とりあえず一言いわせてもらえば、前置きが長い。作品としてはそれが前置きならず、重要部分を占めているという考え方もあるかもしれないが、少なくともミステリとして捕らえれば事件が起きるまでの部分が長い。もしくは、もはやこのシリーズはミステリという枠組みのみでは囲うことができなくなるのかもしれない。
事態はとうとう戦隊物か、忍法帖かという雰囲気へ。玖渚友がかつて率いていた、《一群》。そのメンバー八人のなかの一人、兎吊木垓輔が今回の主要人物。前半は“戯言”問答が延々と、中盤になってようやく事件が起こり、それ以降から主人公による捜査が開始される。そして犯人特定にいたる推理は、論理的推理ならぬ“戯言”推理が繰り広げられる。しかしその推理も面白くはあるが微妙といえば微妙である。
とはいうものの、もはや通常のミステリというものからは抜け出ている本書。どちらかといえば、ミステリの要素を含むエンターテイメント小説に昇華しているといっても過言ではない。ミステリとして読み比べるのではなく、西尾維新の世界として堪能すべき小説である。ただし、戯言や問答などをもう少し手加減してもらえればとも感じるのも事実。
<内容>
京都河原町御池交差点。蘿蔔(すずしろ)むつみはそびえ立つJDC(日本探偵倶楽部)ビルディングを双眼鏡で一心不乱にみつめる奇妙な探偵志望者・虚野勘繰郎とめぐりあう。それが過去に66人の名探偵の命を奪った『連続名探偵殺戮事件』の再起動と同調する瞬間だとは思いもよらずに!?
新鋭・西尾維新が御大・清涼院流水の生み出したJDCワールドに挑む!
<感想>
なかなか見事な手腕で描かれた一冊。なにが見事かというと、細かい推理や論証などを用いることなくミステリーを成立させてしまう手腕がものすごい。
本書はJDCシリーズを元に書かれたものであるのだが、そのJDCという機構をうまく生かして書いていると思う。JDCといえば多くの探偵たちとそれぞれの探偵たちが持つ推理法で有名である。しかし、本書においてはそういった“何々推理法”などといったものを使わずに話が進められて行く。それであるのにもかかわらずJDCから離れずに物語が展開していく。最初は別にJDCを題材にせずとも“戯言シリーズ”にて書いてもおかしくない話であると感じたのだが、後半においてはJDCというものも意味を持ち設定が生かされることとなる。
その元となる背景にどっぷりとつかることなく、それでも見事背景としてJDCを生かし、かつ西尾氏らしさも全面に出ている一冊として、うまい具合に仕上がっているといえよう。
<内容>
「ぼく」は木賀峰助教授からバイトとして実験のモニタになってもらえないかと持ちかけられる。なんでも木賀峰助教授は“死なない研究”をしているというのだ。その内容に興味をおぼえ、かつ金銭面にもひかれた「ぼく」は紫木一姫と前の事件の後になぜか「ぼく」の部屋に押しかけてきた春日井春日をつれてバイトへ乗り込むことにする。そしてそこで死なない少女・円朽葉と出会うことに・・・・・・
さらにこのバイトに乗り込む前に出会った匂宮兄妹までが乗り出してきたことによって・・・・・・
<感想>
前作では強く冗長さというものを感じたのだが、本作を読んでいるときはあまり感じなかった。では本作が無駄がないのかというとそういうわけではなく、その辺は前作となんら変わっていない。要するに読み手であるこちら側のほうがこの作風に慣れてきたのであろう。さらにいえば、この冗長さの要因である戯言を楽しめるようでなければ、このシリーズの面白さは伝わってこないだろう。
だんだんと本編もシリーズとしての面白みは増してきているような気はする。だからといって話がさほど進んでいるというわけでもなく、妙なコードネームが付いている人たちの数がだんだんと増えていくばかりである。しかし、そのような結社や組織のようなものは結構自分好みである。いつか表にでもまとめてみたいものだ(もしかしたら本編でもやってくれるかもしれない)。ただこういった組織が登場しただけに留まるという未消化な終わり方はしないでもらえればと願いたい。
内容のほうはというと、最近段々とこのシリーズはミステリーの部分が添え物になっているようにも感じられる。これは前作にもそう感じたのだが、一つの事件が起きて最終的には主人公によって謎は解かれるのだが、結局のところ単なる“一発芸”にすぎないように思える。とはいうものの、本シリーズはエンターテイメント小説と銘打っているものであるのだからミステリーとしては薄まっていくのも仕方のないことであろう。といいながらも、何かやってくれるのではと、ついつい期待しながら読んでしまうのもこのシリーズの魅力ともいえるのかもしれない。
<内容>
「もんだい編」(小説現代臨時増刊号メフィスト:2003年5月号)
「たんてい編」 「かいとう編」 「えんでぃんぐ」(書き下ろし)
櫃内様刻は大切な妹・夜月にちょっかいをかける剣道部の数沢を皆の前で脅しつけた。そしてその後、学園内である事件が起きる。数沢が殺されたというのだ・・・・・・しかも密室で! 様刻は友人の保健室に引きこもる病院坂黒猫とともに事件の解決に乗り出すのだが・・・・・・
<感想>
西尾氏らしいようでもあり、普通でもあり、可も無く不可も無くというような・・・・・・
本書は<もんだい編><かいとう編>と分かれているものの犯人当てとしてはどうだろうか。はっきりいって、こういう形式のものとするならば、フェアであるとはいい難い。<たんてい編>にて事件の検討がなされているものの、登場人物のタイムスケジュールがきっちりと示されていない。というより、むしろぼかしてあるといってよいだろう。これは著者もわかっていてのことだと思うのだが、タイムスケジュールをはっきりと提示してしまうと犯人があからさまになってしまうからであろう。実際、タイムスケジュールがあいまいな状況でも犯行の方法のめぼしが付く人は多いのではないかと思う。そういう点から見るとこの企画は成功しているとはいい難いような気がする。
しかし、本書において著者が重きを置いているのは“誰”が“どのように”という点ではなく、“何故”という点なのである。確かに“誰が”という点だけであるならば、わかりやすいといえるのだが、その先のことまでは私自身は考えが及ばなかった。そういう点で見てみると思っていたよりも“深い”と感じ取ることもできる。
ただし結局のところキャラクターと妹属性とイラストの力によって、がんがん突き進んでいくだけの小説という印象。
<内容>
殺し屋一族“零崎”の零崎双識は弟の零崎人識の行方を探していた。そんな折、双識は謝って人を殺してしまった少女、無桐伊織と出会う。そんな伊織を見て、双識は彼女が天性の殺し屋であることを見抜く。そして彼女に「私の妹にならないかい」と・・・・・・
<感想>
“戯言シリーズ”の外伝たる作品である。主人公の“いーちゃん”こそ出てこないものの、シリーズではおなじみの登場人物をちらほらと見かけることができる。
ただし、この作品が一連の“戯言シリーズ”と大いに異なる点が一つある。それは終始エンターテイメント作品として構成されていることである。“戯言シリーズ”というと、一応はミステリーというスタンスをとっている。そしてその中でいろいろな得意技を持っているかのような登場人物が多数出てくるものの、結局は主人公の“戯言”の範疇のなかで話がつけられてしまう。
それが本書では伝奇作品といってもいいような、武器を用いた格闘小説となっているのだ。このようなスタンスをとってこそ、この一連の作品の背景というものがしっくりくるのではないだろうか。よって本書は伝奇小説として、なかなか面白いものであると思う。こういうものこそが“青春エンタ”と呼ぶにふさわしい作品といえるのではないだろうか。
最近の西尾氏の作品は“妹萌え”度がやけに高いような気がするのだが、ニーズによるものなのか??
<内容>
「やさしい魔法は使えない」(ファウスト Vol.1:2003年10月)
「影あるところに光あれ」(ファウスト Vo.2:2004年3月)
「不幸中の災い」(書下ろし)
<感想>
内容は魔法使いの“りすか”と小学生とは思えぬほど腹黒い子供・供犠創貴(くぎ きずたか)の二人が各話ごとに相手の魔法使いと闘うという話。最終目的となるのは、りすかの父親に会うということになるようだ。
結局のところはミステリーとかエンターテイメントとかいうジャンルと表現するよりも、格闘ものとでも表現すればいいのであろうか(最近はこういう作品を有名漫画のタイトルを用いてダイレクトに『ジョジョ』と一言で表現したりするようだが)。まぁ、西尾氏が書くからこそ、それなりに面白い本になっているといったところである。
また、本書を特徴付けるものとして、魔法使い同士の闘いだけでなく、主人公らの造形と彼らのやり取りがなかなか楽しいものとなっている。なぜか、生まれたときから(?)腹黒く、全ての人たちを自分にとって利用価値があるかないかだけで見下している主人公。そして、魔法の王国・長崎からやってきた文法の使い方がめちゃくちゃな魔法少女りすか。彼らのやり取りは微笑ましいとは言いがたいものの、ブラックジョーク的に楽しめたりする。この辺はキャラクターの造り方はツボを抑えているなと感心せざるを得ない。
その腹黒い主人公キズタカであるが、本書の書下ろし作品「不幸中の災い」において、ちょっとした心境の変化(きっかけといったほうがよいだろか)というものもあるので、これから先のりすかとキズタカの関係もこ見逃せないものとなるだろう。何はともあれ、追っていくことになるシリーズ作品になることは間違いない。
<内容>
「敵の敵は天敵!」(ファウスト Vol.3:2004年07月)
「魔法少女は目で殺す!」(ファウスト Vo.4:2004年11月)
「出 征!」(書下ろし)
<感想>
前作と同様、3つの短編のうちの2編は「ファウスト」誌上に掲載されたもので、1編が書下ろしとなっている。よって2作品は拾い読みし、書下ろし作品のみをじっくりと読んだので、あっさりと読了。
今回も前作と同様の展開で話が進むのだが、だいぶ話が具体化してきて、ゴール地点も漠然と見えてきたという感じがする。今までバラで出てきた敵たちも、今回の2作目から「六人の魔法使い」という敵が明らかになり、これからはこの敵をひとりひとり倒していくことになるのだろう。そしてその先に“りすかの父親”が出てくるという展開なのではないかと思える。
また、今作での大きなポイントは新キャラが登場したということ。そのキャラクターは「ファウスト」でも表紙に載っていたのでいまさら言うまでもないだろうが、“ツナギ”というキャラクター。これが見かけは“りすか”と同年代の女の子キャラなのだが、その実は・・・・・・萌えない、絶対萌えられない。その設定等については是非とも本書を読んで確認してもらいたいところである。
「ファウスト」誌上に掲載された2作品については、前作と同様の展開なので特に語ることもないのだが、今回の書下ろし作品は少々様相の異なるものとなっていた。読み始めたときは、キズタカの過去を描いた外伝的な作品かと思っていたのだが、ぼかして書かれているところもあり、その詳細についてはこれからの冒険であきらかになって行くのであろう。
そして書下ろし作品の最後ではキズタカ、りすか、ツナギの3名そろっての旅立ちが書かれている。よって、今回の書き下ろしは本当に次回作へのツナギ(しゃれではないだろうが)という意味での物語が描かれている。ゆえに、今作は前作に比べれば少々薄味であったという印象である。
とはいえ、この凶悪ともいえる3人の冒険がどのような展開を見せてゆくのか、これからが楽しみである。
<内容>
「ニンギョウのタマシイ」(『メフィスト』2004年9月号)
「タマシイの住むコドモ」(『メフィスト』2005年1月号)
「コドモは悪くないククロサ」(『メフィスト』2005年5月号)
「ククロサに足りないニンギョウ」(書き下ろし)
<感想>
西尾氏と比較的近い時期にデビューして、よく比べられる対象となるのは舞城王太郎氏と佐藤友哉氏。この二人は最初はミステリーを書いていたが、やがてはミステリーのジャンルからだんだんと遠ざかり、文学的なジャンルへと方向転換して行っている。本書は西尾氏にとってその分岐点となるかもしれない作品といえよう。
と、そんなわけで本書はミステリーとは言いがたい作品。どちらかといえば、SFっぽいような気もするが、大塚英志氏描く「木島日記」を思い起こすような描写であった。なんとなくではあるが、全編に敷き詰められている間接的な陰惨さというか、昔風の描写とか(ひょっとしたら現代世界として描かれているのかもしれない)により、そのように感じられた。
ただ、この作品集に連作として4編が掲載されているのだが、既に3作目からはネタ切れしているように思えなくもない。とはいえ、別にミステリーというわけでもないのでネタとかいう事は気にしなくてもよいのだろうが。
ただ、この作品が新たなる読者を獲得しうる作品かというと微妙だと思う。値段の高さも含めると、逆に離れていく人のほうが多いのではないかと・・・・・・
それと余談ではあるが、目次の表記と実際のページが大幅にずれているのは何故であろうか?
<内容>
“戯言使い”の“いーちゃん”と彼を敵とみなす狐面の男“西東天”。“西東天”は刺客<十三階段>を率いて“いーちゃん”に宣戦布告する。
その<十三階段>と闘う事になった“戯言使い”。彼の周りに現われては消える、さまざまな仲間(?)たち。<殺し屋>匂宮出夢、<請負人>哀川潤、<殺人鬼>零崎人識、そして玖渚友、さらには<橙なる種>までが登場し・・・・・・・。
戯言使い、最後の闘いが始まる。
<感想>
2002年から3年以上に渡って続けられてきた“戯言シリーズ”もこれでおしまい。読み続けているときはそれほど思い入れもなかったのだが、終わってしまえばなんとも寂しく感じるのだから不思議なものである。
途中まではミステリーのほうへと傾いていたシリーズであったが、徐々にミステリーから遠ざかり、最終巻では完全にエンターテイメント小説として出来上がっている。とはいうものの、このシリーズを読み続けてきた者にとっては面白さが損なわれるような事はなく、なんともそれらしいストーリー展開を見ることができる。
本書はこちらが予想するような展開になりつつあると、その都度肩をすかされるという、相変わらず著者に翻弄されながら物語が進んでゆく。その中で主人公が葛藤しつつも、結局結論が出たのか出ないのかよくわからないにせよ(その辺も今までどおりと言えよう)、最終決戦へとおもむく決意をする。そして戯言ながらも、最終巻では主人公とその敵との最終対決が待ち受けている。
そしてエンディングは? といっても最終巻の表紙を見ればおのずと明らかになるのだろうが、そこでもやはりストレートにハッピーエンドを迎えているとは言いがたいが、この主人公にとってみれば最上級の終わり方ではないだろうか。
数多くのキャラクター設定、そしてその呼び名、言葉による戯言バトルなどなど数多くの変わった形でのエンターテイメントを見せてくれたこのシリーズ。ミステリー界やライトノベルス界などにも多くの影響を与えた作品の幕がここで閉じる事になる。
とはいえ、西尾維新という作家にとってはこれはまだ始まりでしかないのだろうから、これからも数々の読者を驚かせ、楽しませてくれる小説を発表し続けて欲しいものである。
<内容>
「零崎軋識の人間ノック1 狙撃手襲来」
「零崎軋識の人間ノック2 竹取山決戦 前半戦」
「零崎軋識の人間ノック2 竹取山決戦 後半戦」
「零崎軋識の人間ノック3 請負人伝説」
<感想>
当初、メフィスト賞の受賞作としてデビューしたゆえに、“戯言シリーズ”というのはある程度のミステリ性を持たせた内容となっていた。ただし、後半へ行くにしたがってそういった部分も徐々に薄れていってしまったが。
そういった中で、ミステリ性を排除して、エンターテイメントのみとして書き表された作品こそが“戯言シリーズ”の外伝となる“零崎シリーズ”という位置付けになるのだろう。
雑誌「ファウスト」による既読の作品もあり、二度目となったものもあったのだが、エンターテイメント小説としてはそれなりに楽しく読むことができた。ただし、当然の事ながら“戯言シリーズ”や「零崎双識の人間試験」などを読んでから読むべき作品でもある。時間的な位置付けとしては“戯言シリーズ”の前の話となるのだが、まぁ普通に出版されている順番に読んでいくのが一番正しい読み方であるという気にはさせられる。
あと、シリーズの一貫として今回の主役である“零崎軋識”の正体についても触れられているのだが、いかんせん今までの作品の細かいところまでは覚えておらず、既読作品で調べてみようかななどと考えてみたりする。危うく、これは「戯言ディクショナリー」を買ったほうが・・・・・・などと思ったりしたのだが、これは思いとどまることにする。
まぁ、とりあえず深いところをつつきまわしたり、細かいところを調べぬいたりせずに、今そのときだけを楽しめば充分かなと考えている。2007年、西尾氏は一ヶ月に一冊というペースで仕事をしていくようであるが、ミステリを離れた今、もう追わなくてもいいかなと。戯言シリーズ関連だけは、宴の始末として読んでいけばいいのかなと思っているしだいである。
<内容>
「鍵となる存在!!」(ファウスト Vol.5:2005年05月)
「部外者以外立入禁止!!」(ファウスト Vol.6 SIDE-A:2005年11月)
「夢では会わない!!」(ファウスト Vol.6 SIDE-B:2005年12月)
<感想>
2巻目からの出版間隔がやけにあいたなという思いが強い。最近、やたらと忙しそうな西尾氏であるので、書下ろしとかを入れるのに時間がかかったのかと思いきや、今回の収録作品は全て「ファウスト」に掲載されていたもの。だったら、もう少し早く出てもよかったのではないかと思える。
少し本書の内容とは関係ない話になるのだが、この作品はもろに「ファウスト」の連載間隔によるあおりをくった作品といえるのではないだろうか。たぶん、普通に書き下ろしにしていれば、とっくに完結していたことは間違いないであろう。それが「ファウスト」掲載という形をとっていたゆえに、なかなか話を進めることができないという事態に陥っている。どうやら、本シリーズは次の巻で終わりということらしいが、それも書下ろしという形をとらなければ、4巻が出るのはだいぶ先のこととなるのだろう。
今作ではラスボスの直前の中ボスともいうべき“六人の魔法使い”を創貴、りすか、ツナギの三人が迎え撃つという形がとられている。その魔法使いらと戦いながら、徐々に話の核心へと近づきつつある。そして、今回の目玉は創貴の秘められた“想い”についてといえるであろう。最初はただの腹黒い小学生という感じしかなかった創貴であるが、その内に秘める思いが徐々に明らかにされ、さらにはりすかとの絆が徐々に強まっていく様子などが描かれている。本書を読んでから、先の作品を読み返せば、また違った見方ができるようになるのではないだろうか。
なにはともあれ、次回が最終巻になると言うことで、どうのような大団円ぶりを見せてくれるのか楽しみでしょうがない。
<内容>
壊れていた時計塔が突如、動き始めたとき、その時計塔の下でぼくの姉が死体となって発見された。誰が姉を殺害したのか!? 犯行を行ったと思われる容疑者3人のうちから犯人を特定しようと、ぼくは病院坂先輩の協力を得て捜査に乗り出したのだが・・・・・・
<感想>
久しぶりに読む西尾氏の作品。以前に「きみとぼくの壊れた世界」という佳作が書かれており、その作品と同様の世界設定ということなのでかなり期待していたのだが、読んでみたところ、残念な結果に終わってしまった。
最近の西尾氏はとにかく本を書き続けている。たぶん休む暇もなく書き続けているのだろう。若いうちに多くの文章を書き続ける事によって作家としてのスキルを上げようとしているのだろうけれども、本書からはそういったものは感じ取れなかった。むしろ、どうでもいいことを長々と書き連ねる技量のみが上がったというようにしか思えなかった。
本書はミステリというよりは、登場人物の対話により行われる人物紹介に多くのページがとられている。まぁ、事件が起きた後もどうでもよさそうな会話が続けられているというのは変わらないのだが。
一応は、その人物設定により犯行の動機とか物語全体の世界観が含まれるようにはなっているのだが、それだけではこれがミステリであるとは語れないのではないだろうか。
あとがきにて、著者の西尾氏が「TAGRO先生のイラスト見たさに書かれたような小説でしたが」と言っているのだが、まさに本当にそのためだけに書かれたような作品といってよいだろう。一応、ミステリという冠をつけるのであれば、おざなりな犯行方法や人物設定で濁すことなく、もう少しミステリらしく書いてもらいたかったものである。
<内容>
「初めまして、今日子さん」
「紹介します、今日子さん」
「お暇ですか、今日子さん」
「失礼します、今日子さん」
「さようなら、今日子さん」
<感想>
久々に読む西尾氏の作品。デビュー以降、ミステリ路線からは離れて行ってしまった気がするので、作品を手にすることがなくなってしまった。ただ、この作品はドラマ化されて話題となったこともあり、また探偵が登場する作品という事で、文庫化を機に手に取ってみた次第。
眠ると記憶を失ってしまい、1日しか記憶が保てないという掟上今日子が探偵を務める作品。語り手は、行く先々でトラブルに会う体質を持つ、隠館厄介。厄介の依頼に応じて、探偵・掟上今日子が登場する。ただし毎回、掟上は厄介に対して初めましてという挨拶から始まることとなる。
短編集ということで最初の2編は、研究事務所で紛失したSDカードの行方を捜すというもの、そして漫画家の家に置いてあった100万円が盗まれ、その100万円を返す代わりに1億円を要求してきたという事件。それぞれ話がきっちりと作られており楽しめる。最初のSDカードについては、部屋のなかのどこにどのようにして隠されているのかと、想像力の幅が広がりそうな話。また、100万の代わりに1億円要求してきたという話もネタとしてなかなか面白い。
そして残りの3編は、ひとつの流れの話という感じになっている。これは一人のミステリ作家の死にまつわる話となっているのだが、掟上今日子がその作家の大ファンでもあるというところも物語に色が添えられている。その作家の遺稿を探し、さらには作家の死の真相を見極めるという流れで展開されてゆく。
最後の三編については、事件そのものよりも掟上今日子自体にスポットを当てたような話という気もする。それにより、語り手の隠館厄介も存在感を出しつつある。後半ドタバタ劇が繰り広げられるなかで、亡くなった作家についての真相が語られることとなるが、それもなかなか考え抜かれたもの。
全体的にライト系の話とはいえ、結構面白かったかなと。意外とミステリとしてもよく出来ていると思われる。主人公についても一風変わった設定が光るものとなっており、独自性がしっかりと表され、さすがは人気シリーズであると感心させられた。