大倉崇裕  作品別 内容・感想2

問題物件   6点

2013年08月 光文社 単行本

<内容>
 大島不動産に勤めることになった若宮美恵子。彼女は、前社長の息子で難病に苦しむ大島雅弘の世話係を命じられた。さらに、派閥争いのあおりを受け、クレーム対応を行う新設部署で働くことまでも命じられる羽目に。そんな仕事などしたこともなく途方にくれる美恵子であったが、彼女の前に“犬頭”と名乗る謎の男が現れ、事件を快刀乱麻のごとく次から次へと解決していく。

 「居座られた部屋」
 「借りると必ず死ぬ部屋」
 「ゴミだらけの部屋」
 「騒がしい部屋」
 「誰もいない部屋」

<感想>
「居座られた部屋」 部屋から出ていかない男へのクレーム対応。
「借りると必ず死ぬ部屋」 そこに住むと死ぬと言われる部屋に住んだ者からのクレーム対応。
「ゴミだらけの部屋」 近隣のごみ屋敷へのクレーム対応。
「騒がしい部屋」 ポルターガイスト騒動が起こる部屋へのクレーム対応。
「誰もいない部屋」 住むと失踪してしまうという部屋へのクレーム対応。

 不動産会社でクレーム対応を命じられた美恵子が挑むクレームについては、“問題”というよりも、もはや“事件”。失踪したり、人が死んだり警察沙汰となってもおかしくないくらい。そういった難事件を謎の探偵“犬頭”の力を借りて解決する。

 この“犬頭”は、もはやできないことは何もないというか、ほとんど超自然的な人物(犬物?)。キャラクター設定や、細かいことを決めるのがまるでめんどくさくなったのでは!? と問いかけたくなる人物(犬物)設定。まぁ、ここまで行けば、行き過ぎていていいのかなと思えなくもない。

 事件も単なるクレーム処理にとどまらず、背後にさまざまな利権の絡みや秘められた思いなどがあり、思わず引き込まれてしまう。特に「ゴミだらけの部屋」などは内容が凝っていて読み応えがある。とはいえ、シリーズ化すると考えると、不動産のクレーム対応ということで、パターンがある程度決まってしまうのでは? 今回の作品群のなかでさえ、似たようなものがあったし。ただ、最後まで読むとシリーズ化してもおかしくないような展開になっているのだが!?


白戸修の逃亡   6点

2013年09月 双葉社 単行本

<内容>
 出版会社に就職したものの、各部署にて都合よく雑用を押しつけられる日々を送る白戸修。今回は、大学の防災工学の博士による実録ルポを掲載するために、当の聖田博士と共に、彼の職場から帰宅路を一緒に歩くという羽目に陥っていた。道中休憩をとった際、白戸は何者かに襲われ、服を交換させられてしまう。すると、白戸のことを松崎という人物と勘違いした者達が次々と現れ、襲われ続ける羽目に。そんなとき、かつて白戸と共に事件にかかわった者たちが彼を助けようと、次から次へと現れる。そんなこんなで、いつの間にか白戸修は爆弾予告事件に巻き込まれていることとなり・・・・・・

<感想>
 何故、白戸修シリーズ3作品目にしてオールキャスト登場? 内容は、ネットで賞金がかけられた爆弾予告魔と間違われた白戸修が、ひたすら逃げ回る話。しかし、内容よりも気になったのは、前作と前々作に登場していた人々のほとんどがこの作品に登場してきたのは何故? ということ。

 一応、真の爆弾予告魔の目的は? とか、物語の中心になっている人々のそれぞれの思惑は? とか、謎となっている部分はあるものの、過去の登場人物のオンパレードがひたすら続くので、物語としては焦点がぼやけるばかり。とはいっても、さほど複雑な内容ではないため、話がややこしくなるということはないのだが。

 しかし3作目にして、このような集大成的な中身になってしまうということは、シリーズ最終作ということなのだろうか。まぁ、終わっても続いてもおかしくないくらいのシリーズなので、今後の動向を見守りたい。ただ、主人公の白戸修は自身のシリーズが終わっても、他のシリーズ作品に登場してきそうな気がするが。


蜂に魅かれた容疑者   6点

2014年07月 講談社 単行本

<内容>
 新興宗教団体にかかわる事件の捜査が大詰めを迎えようとする中、事件を指揮していた鬼頭管理官が襲撃を受け、重症を負った。警察全体が緊迫する中、都内近郊で人々がスズメバチが人を襲う事故が次々と起こる。たいした問題ではないと思われたのか、手の空いている警視庁総務部総務課の須藤に回ってくる。須藤は主に容疑者や被害者の飼っているペットの世話をするという仕事をしていた。須藤は相棒で動物に詳しい薄圭子巡査とともに捜査に乗り出すが、徐々に新興宗教団体による襲撃事件の渦中へと入り込むこととなり・・・・・・

<感想>
「小鳥を愛した容疑者」に続く、シリーズ作品。4年ぶりの新作で、今回は長編。刑事の一線を離れて総務課で容疑者や被害者の飼っているペットの世話をする係に配属された須藤と、変人で外見は子供にしか見えないが動物に対する知識は高い薄圭子の凸凹コンビが活躍する。

 蜂にかんする事件を捜査するというもの。しかし、どれも事件というほど大きなものはなく、“実験”というイメージが近い。蜂を使った何かを起こそうと考えている者がいるらしく、その真相をつきとめるのが今回の物語のポイント。

 終幕へ至るまでの個々の捜査は、この凸凹コンビならではコミカルなものが展開されてゆく。そうして緊迫の終盤であるのだが、これが思いのほか意外な展開を見せてくれることに。宗教団体が何らかのテロを行うのだろうなという予想されるのだが、実際はその斜め上を行く予想外の行動が! それを凸凹コンビが看破できるのかが本書の見どころ。

 軽く楽しむ作品と思いきや、結構重い内容で、きちんとしたミステリが描かれていた。今年の意外な収穫の一冊といえよう。


福家警部補の追及   5.5点

2015年04月 東京創元社 創元クライム・クラブ

<内容>
 「未完の頂上」
 「幸福の代償」

<感想>
 福家警部補シリーズ第4弾! であるのだが・・・・・・短編2つと、やけに薄め。ドラマ化されているゆえの、早めに作品を出さなければならないとかいう制約があるのかなと。

 一話目の「未完の頂上」は、山を知り尽くした男による殺人計画。二話目の「幸福の代償」は、動物を護ろうとする女性による殺人計画が描かれている。

「未完の頂上」のほうは、念には念を、というほど考え尽された殺人計画。しかし、計画を練り過ぎて、かえってボロが出てしまうのではと心配したくなってしまうほどの念の入れよう。この作品で不満だったのが、福家警部補による犯人の指摘方法。倒叙作品ゆえに、どのような決定的な証拠を提示して犯行をあらわにするのかということがポイントとなるはず。ただ、ここではひたすら容疑者を揺さぶり、追い詰めていくだけという手法。結局、最後の最後まで決定的な証拠はなかったのか? と疑ってしまう。

「幸福の代償」については、「未完の頂上」に比べれば、しっかりと容疑者を追い込んでいたかなと。一応、ポイントを絞って容疑者に対し罠を仕掛けている。とはいえ、犯罪者側のほうが、あまりにも計画にお粗末な点が多かったかなと。それゆえに、緊迫感が薄れてしまっていたように思われる。

 まぁ、いつもながらのシリーズの出来ではあるものの、短編2作のみというのはあまりにも物足りない。せめて3作は掲載してもらいたかったところ。また、ミステリ的というよりは、徐々にドラマチックな方向へとシフトしていってるように感じられるかなと。その辺は、ミステリ作品ゆえに、作品数が多くなって来ればネタやトリックが薄まってしまうのは仕方のないところか。


BLOOD ARM   6点

2015年05月 角川書店 単行本
2018年05月 角川書店 角川文庫(短編「怪獣チェイサー」収録)

<内容>
 コンビニとガソリンスタンドを掛け持ちでバイトをしている沓沢は、ある日異様な事件に巻き込まれることに。町では最近、山の頂上に異様な施設が建設され、さらには原因不明の地震が頻発していた。沓沢はガソリンスタンドの店長から山に住む人にタイヤを届けるように頼まれ、車で出かけてゆく。すると、山で何か異様な生物に襲われる。慌てて山から下りて帰ろうとするも橋が壊され、身動きが取れない羽目に。そして、姿を現す化け物、さらに沓沢に助けの手が・・・・・・

<感想>
 短いページ数のなかに怪獣やらロボットやらといった特撮要素をふんだんに詰め込んだ一冊。この一冊だけでは語り足りなすぎる、この一冊だけではもったいないと感じてしまう作品。

 山間にできた謎の施設、不穏な街の雰囲気、そうしたなかで一人の少年が怪異に遭遇する。迫りくる触手、彼を助ける謎の美女、秘密結社、正体があらわになる怪物、その怪物に対向するための秘密の武器、そして主人公にまつわる・・・・・・とにもかくにもてんこ盛り。

 これは、映画にしたほうがよいのか、それともアニメにしたほうがよいのか。そんな感じで楽しむことができる一冊。こういったもののマニアであれば楽しめること請け合い、そうでもなければ引くだけかも。それは冗談としてもエンターテイメント小説として楽しめる作品。

 文庫版では、短編「怪獣チェイサー」が収録。「BLOOD ARM」とは全然関係のない怪獣に関する話が語られている。これも短いページに怪獣要素が凝縮された作品となっている。


GEEKSTER   秋葉原署捜査一係 九重祐子   6点

2016年01月 角川書店 単行本
2018年02月 角川書店 角川文庫

<内容>
 秋葉原警察署に赴任してきた九重祐子は念願の刑事課に着任するも、ひとり現場から外され、署を訪れるオタクたちの苦情応対をさせられるはめに。そうしたなか、彼女に相談に来たオタクのひとりが殺害されるという事件が起きる。祐子は独自に捜査を進めていくと、秋葉原にて悪事を働く者に鉄槌を下す“ギークスター”と名乗る男と出会い・・・・・・

<感想>
 以前、大倉氏が描いた作品「無法地帯」に近いテイストで読める作品。要はオタクらが蒐集する食玩などにスポットを当てた作品となっている。ただ、「無法地帯」ほどコレクションに重きをおいた作品ではなく、こちらはアクションとかバトルの色合いが濃いものとなっている。本来警察小説といってもよい設定のはずであるが、何故か格闘小説のようなテイストで読める。

 面白い作品ではあったが、ページ数が薄いせいか、全体的にあっさり目でちょっと物足りなさを感じてしまった。ただ、短めの作品ゆえに手軽に手に取ることができ、スピーディーに一気読みできる作品である。


秋 霧   6点

2017年07月 祥伝社 単行本
2020年07月 祥伝社 祥伝社文庫

<内容>
 町で便利屋を営む倉持は、死期が迫って病院に寝たきりとなっている有名会社の元社長からの依頼を受けることに。それは、八ヶ岳の登山動画を撮ってきてもらいたいというもの。どこか不審なものを感じつつも、簡単で実入りの良い依頼を引き受ける倉持。しかし、その仕事によって生死をかける陰謀に巻き込まれることとなる。
 かつて自衛隊特殊部隊に所属し、現在は山で逃亡生活を送っている深江。彼の前に警視庁からきたという儀藤という男が表れる。今、神出鬼没の殺し屋“霧”と呼ばれるものが動き出し、特定の人々が殺害されているという。儀藤は深江に“霧”の動向を探り、そして奴が目的を果たす前に倒してほしいと・・・・・・

<感想>
 大倉氏の作品の「凍雨」に登場した元自衛隊特殊部隊員の深江、「夏雷」に登場した便利屋の倉持の二人が主人公となって展開される物語。

 深江は“霧”と呼ばれる殺し屋を探す途中、別の勢力に襲われることとなり、三つ巴の戦いが繰り広げられることとなる。その戦いに便利屋の倉持が巻き込まれていくという形で話が進んでゆく。“霧”と呼ばれる殺し屋を探す中で、事件の背景や中心となる出来事はどこにあったのかを探してゆくこととなるサスペンス小説。

 なかなか面白い作品であり、一気読みは必至。ただ読んでいる最中気になったのは便利屋・倉持の存在。ここで起こる事件や展開はかなり血なまぐさいものが多く、これらはどう見ても深江が担当するべき事案であり、倉持が相対するような事件ではなさそうということ。この二人にコンビを組ませて物語を展開させたいという意図はわかるものの、どうにもほぼ一般人のような倉持の存在が浮いてしまっていたように思われる。もうちょっとソフトな事件じゃなければ倉持の特性が活かせないような気がする・・・・・・と、そのくらい事件自体が血なまぐさすぎる。


樹海警察   6点

2017年10月 角川春樹事務所 ハルキ文庫

<内容>
 キャリアとして将来を嘱望されるはずの柿崎努が初認地として向かった先は、山梨県警吉田署のはずが・・・・・・彼の所属先はその署の樹海で見つかった遺体専門の部署・地域課特別室であったのだ! とんでもない僻地にて、癖のある部下と仕事することとなった柿崎努の運命は!?

 「栗柄慶太の暴走」
 「桃園春奈の焦躁」
 「明日野裕一郎の執念」

<感想>
 キャリア警察官の若手・柿崎は、とんでもない僻地、それも樹海の遺体専門部署に配置されてしまう。しかも部下は、やり手ではあるが癖のある栗柄、定時帰宅を心がける美人警官・桃園、事務方で情報通ながら何を考えているかわからない明日野。最初は、ただ翻弄されるだけのキャリア警官としか見なされなかった柿崎が、徐々に現場に適応していくところは見物。部下3人のみならず、実は主人公である柿崎も一癖ある人物であったよう。

 コミカルな刑事もののサスペンスということで面白い。それぞれの事件を通しながら、地域課特別室の面々がそれぞれ抱える問題が紹介されてゆき、各々の人物像に迫るように展開されてゆく。ゆえに、キャラクターもそれぞれしっかりと栄えていて、非常にわかりやすい小説となっている。

 読み通して思ったのは、やけにヤクザがらみの事件が多いというか、ほとんどがヤクザがらみの事件に終始してしまっていること。樹海と暴力団と何気に密接な関係があるのだろうか? また、少々不満に思えたのは、“樹海”の薀蓄等が少なかったこと。せっかく舞台としたのだから、もう少し詳しく樹海情報が欲しかったところ。


福家警部補の考察   6点

2018年05月 東京創元社 創元クライム・クラブ

<内容>
 「是枝哲の敗北」
 「上品な魔女」
 「安息の場所」
 「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」

<感想>
 シリーズもののライトなミステリとしては楽しめる作品。ただ、ライトな感触ゆえに、ちょっと不満に思える部分もちらほら。

 このシリーズは、言わずと知れた倒叙ミステリ作品集である。その倒叙ミステリの見どころと言えば、何故に犯人だと目星をつけたのか? そして逮捕のきっかけとなる証拠は? といったところ。

 完全犯罪を目論むことを考えると、まずなるべく容疑者として警察からマークされないようにするということが重要であると思われる。ただし、殺害相手が家族とか、親しい相手であれば、おのずと関係者ということになってしまう。そうでなければ、犯罪者側はなるべく事件とは関わりのないというスタンスを貫くはず。そこから真犯人が如何にして容疑者として挙げられるのかは重要であると思われる。本書の作品のなかでいえば、「東京発〜」がそこのところの描き方が微妙であったかなと。

 そして、犯人逮捕のきっかけになるポイントというものは一番重要な点であることは間違いなかろう。ここはなるべく、つまらない罠に引っかかったとか、そういう展開はなしに進めてもらいたいところ。これについては「是枝哲の敗北」での犯人の捕まり方が非常にお粗末だったような・・・・・・自信満々の犯人の挙動がもはやパロディに思われるほど。

 と、いくつか作品に不満な点があったことは事実。ただ、この辺はもう少し作品を書き込めば十分にクリアできたと思える部分もあったゆえに、作品のそれぞれが短めであったのがネックになっているような気がしてならない。と言いつつも、短いスパンでシリーズものとしてある程度の水準の作品を書き上げてくれているのだから、不満な点ばかり上げるのも野暮といたところか。


「是枝哲の敗北」 不倫相手を殺害しようと完全犯罪を試みる医師。
「上品な魔女」 保険金目当てに妻を殺害しようとした夫であったが・・・・・・
「安息の場所」 バーテンダーが試みる完全犯罪の顛末。
「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」 証券マンが計画殺人を実行した後に乗った新幹線の隣の席に福家警部補が・・・・・・


死神さん   6点

2018年09月 幻冬舎 単行本(「死神刑事」)
2021年03月 幻冬舎 幻冬舎文庫(改題:「死神さん」)

<内容>
 「死神の目」
 「死神の手」
 「死神の顔」
 「死神の背中」

<感想>
 タイトルだけを見ると、よくわからない作品のように思えるが、中身はいたって普通の警察小説。無罪判決が出た事件を専門に調査する儀藤堅忍(ぎどう けんにん)警部補の捜査の様子を描いたもの。この警部補、無罪判決が出たとはいえ、すでに終わった事件のあら捜しをするゆえに警察関係者からは“死神”と呼ばれている。そして、その警部補は捜査するときに、その事件の捜査関係者のひとりをピックアップして、自分の相棒にするという手法をとっている。本書では4つの事件が掲載されているのだが、事件ごとに警部補は相棒を変えての捜査を行うこととなるのである。

 前段のポイントはそんなとこくらいで、あとはいたって普通の警察ミステリという感じである。話がそれぞれうまくできているのは、著者の大倉氏の作品らしく、さすがと言えよう。ただ、無罪判決が出ている事件それぞれの逮捕の決め手に至った経緯が、やや薄く感じられるのが気になるところ。一応、それぞれ自白をとっているとはいえ、ちょっと微妙なような。

 あと、もうひとつ本書の特徴としては、儀藤警部補と組む警察官たちの再生の物語にもなっているというところ。一作目の「死神の目」で組んだ相手のみは普通の捜査員であったが、2作目以降からはそれぞれが問題を抱える警察官とコンビが組まれている。“死神”とコンビを組まされる者は、最初は嫌々ながらであるものの、徐々にその捜査の手法と流れに惹きつけられてゆくこととなり、そして最後にそれぞれが再生を果たすように描かれている。そういった物語についても見るべきところがある作品集となっている。

 全体的に軽口な警察ミステリという感じではあるが、取っつきやすく非常に読みやすい作品である。今後シリーズ化される可能性もありそうな作品!?


「死神の目」 引退した資産家が甥に殺されたとみなされた事件、甥に無罪判決が下る。生前に被害者がおろした500万の行方は・・・・・・
「死神の手」 妻が夫をひき逃げしたとみられた事件、その真相は・・・・・・
「死神の顔」 電車の中での痴漢の容疑者にかけられた罪が冤罪とされた事件、その痴漢事件の真相は・・・・・・
「死神の背中」 誘拐身代金強奪事件の容疑者が無罪に・・・・・・真犯人は、どのようにして内部情報を入手したのか!?


冬 華   5.5点

2021年04月 祥伝社 単行本
2024年02月 祥伝社 祥伝社文庫

<内容>
 月島の便利屋・倉持。彼は、以前に起きた事件で出会った深江を誘い、コンビで便利屋家業を行っていた。そんなある日、突如、深江が行方をくらませた。深江は元特殊部隊員であり、色々と曰くがある男。彼は何のために姿を消さなければならなかったのか? 深江の行方を突き止めようと、倉持は捜索を始める。
 山に一人で住む老齢の猟師・植草。彼の元に熊本と名乗る男がやってくる。彼が言うのは、とある男を撃ってもらいたいと・・・・・・

<感想>
 大倉氏による山岳ミステリシリーズ。以前の別の山岳ミステリ系の作品に登場している人物も多々登場してきている。

 今作に関してなのだが、とにかく“無理やり”という感じが強かった。最初に山中で狙撃手同士の対決を描きたいという考えがありつつ、後からそこに肉付けしていったというような感じ。その狙撃手についてなのだが、普通に猟師として暮らす者に対して、人を殺してくれという依頼をすることがどうなのかと思ってしまう。しかも、その依頼人は色々とプロの殺し屋を抱えていながら、わざわざ山に棲む猟師を連れてくる必要があったのかと思わずにはいられなかった。

 物語としても、山に入って戦闘が行われるまでは、ただ単に間延びした展開が続けられるだけという感じ。一応は、大倉氏描く作品ゆえに、読みやすく、それなりに楽しめる部分もあったのだが、全体的にさほど読みごたえはなかったかなと。今まで大倉氏の山岳ミステリシリーズを続けて読み続けてきたものの、本書を読むと、もうこのシリーズも追わなくていいかなと感じられてしまった。


樹海警察2   5.5点

2022年03月 角川春樹事務所 ハルキ文庫

<内容>
 山梨県の樹海で活動をする地域課特別室で働く柿崎努。明らかに左遷された柿崎であるが、そのことを認めようとせず、今日も部下の栗柄と桃園にいじられながら、融通の利かない真面目さで仕事にいそしむ。そうしたなか、樹海で発見された遺体が、柿崎らに災難を巻き起こすことに。大物議員の息子が殺人事件の容疑者となり、上層部はそれをもみ消そうと殺人ではなく事故として事態を収束しようとする。しかし、柿崎らは上層部からの圧力をよそに、事件の捜査を進めてゆき・・・・・・

<感想>
 時系列として前作から続いているところがあるので、前作の「樹海警察」から読んだほうが面白いかもしれない。私は前作から読んでいるものの、それでも4年以上の月日が経っているので、前作の内容についてはギリギリ部分的に覚えていたという程度。今作は、一応3編の短編形式ではあるが、話が流れとして続いているので、連作短編のような感じのものとなっている。

 面白いかどうかは微妙のような。一応主人公である、左遷されたキャリア警察官・柿崎の人物造形がちょっと微妙。作品を読み続けていても、どこに優秀さがあるのかが、伝わってこないところがなんとも微妙なところである。

 また、彼を取り巻く同じ地域課特別室の面々との掛け合いについても、微妙と感じてしまう。話をさえぎって、チャチャを入れる栗柄との会話には、どうしてもストレスを感じてしまう。むしろこの作品集のなかでは、栗柄と桃園が登場しない第2話のほうが読みやすかったくらい。柿崎と対立するような位置関係である土佐刑事とのコンビの方がむしろしっくりいっていたような。

 面白く読める作品ではあるけれども、特に突出した部分もなく、やや物足りないシリーズという感が強い印象。


死神さん 嫌われる刑事   6点

2022年07月 幻冬舎 幻冬舎文庫

<内容>
 無罪判決が出た事件の再捜査、それは警察の誤認逮捕を示すものであり、警察にとっては不名誉な事。故にそれを行う者は、全警察官から信頼を失い、つま弾きにされることになる。その役割を担う儀藤堅忍警部補、通称死神。彼が再捜査を行うときには、その事件に関わった者を必ずパートナーに選び・・・・・・

 「死神 対 天使」
 「死神 対 亡霊」
 「死神 対 英雄」
 「死神 対 死神」

<感想>
 無罪判決を再捜査する刑事、“死神”と呼ばれる儀藤堅忍警部補が活躍するシリーズの第2弾。シリーズ化されそうな感じの内容と思えたが、やはりシリーズ化されたか。シリーズ化されることはいいのだが、タイトルが、前作はただの「死神さん」で今作が「死神さん 嫌われる刑事」というのはややわかりにくい。ちなみに今作は文庫書下ろし。

 大倉氏の刑事ものの作品と言えば、“福家警部補”シリーズが有名なところであり、本書もそれに通じるところがある。ただ、このシリーズに関してはミステリ的な部分を強調するというよりは、人情物語的なところを強調した作品という感じである。

 今作で死神のパートナーとなるのは、猛烈すぎる仕事ぶりで嫌われる鑑識員、一線から外された窃盗犯係の刑事、交通課を退職しスーパーの店員として働く元警官、警視庁副総監。事件を解決することのみならず、これらのパートナーの再生も行われることとなるのはこれも前作同様。そして最後に儀藤堅忍警部補は独り立ち去って行くのみ。

 普通にライト系の警察小説として楽しむことができる作品集。手軽に楽しめて、あっという間に読み干すことができる。今後もシリーズものとして続いて行きそう。


「死神 対 天使」 看護師が患者を殺したとされる事件。後に看護師は優秀な弁護士を雇い、無罪と認定され・・・・・・
「死神 対 亡霊」 厳重な警備システムに守られた家で資産家が殺害された事件。逮捕されたのは腕のいい窃盗犯であったのだが・・・・・・
「死神 対 英雄」 スーパーで優秀な店長が殺害された事件。前科者の二人組が逮捕されたのだが・・・・・・
「死神 対 死神」 あと24時間で死刑が執行される死刑囚の無罪を証明するため、真犯人を捕まえなければならなくなり・・・・・・




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