折原一  作品別 内容・感想1

鬼面村の殺人   6点

1989年02月 光文社 カッパ・ノベルス(「鬼が来たりてホラを吹く」)
1993年07月 光文社 光文社文庫(改題「鬼面村の殺人」)
2018年05月 光文社 光文社文庫(新装版)

<内容>
 黒星警部は旅の途中、フリーライターの葉山虹子と知り合い、思いもよらず山奥にある鬼面村へとおもむくこととなる。その村で黒星と葉山は不思議な数々の事件を目にすることとなる。仲たがいする村長と、資産家となって戻ってきたその弟。そしてその弟が連れてきた怪しげな魔術師は奇妙な術を使うといい、実際に合掌造りの家一軒を消失させてしまう。さらには、村に戻ってきた村長の弟を襲う過去からの復讐者までが入り乱れ、密室殺人事件やら、なんやかやと・・・・・・。そして一通り事件が落ち着いたと思われたとき、黒星が導き出した真相とはいったい!?

<感想>
 昔の作品が新版となって復活したので、さっそく購入して再読。黒星警部が登場する最初の長編作品。

 この黒星警部、主人公を張ってはいるものの、決して名探偵というような人物ではなく、それどころか警察からはお荷物扱いされている人物。推理小説マニアで、たいした事件ではないものを大ごとにし、“密室、密室”と声高に叫んでは、周りから敬遠されるという人物。そんな黒星警部が休暇中にフリーライターの葉山虹子と知り合い、鬼面村で起こる事件に遭遇することとなる。

 全体的な雰囲気はコメディ調。そうしたなかで起こる事件はそれなりのもの。建物の消失、密室から消える魔術師の謎、生者か死者か? 過去からの復讐者、とてんこ盛り。一見、陰惨な事件のように見えるが、黒星警部が放つコメディ調の雰囲気が、現場の状況をシリアスにさせないまま話が進められてゆく。

 読んでいる時は、やたらと気絶させられる黒星警部といい、全体的の雰囲気と言い、ミステリとしてどうかなと感じてしまった。しかし、事の真相が明らかになると、なるほどとうなずける内容。これは正統派ミステリというわけではないものの、うまく創り込まれているなと感心させられる。さらには最後の最後まで油断ならない展開もお見事。意外と読み応えのある、黒星警部の活躍を描いた作品。


倒錯のロンド   6.5点

1989年07月 講談社 単行本
1992年08月 講談社 講談社文庫
2021年01月 講談社 講談社文庫(完成版)

<内容>
 作家を志す山本安雄は推理小説新人賞に応募するための作品「幻の女」をなんとか書き上げた。この内容であれば受賞間違いなしと思えるほどの出来であった。その原稿を清書すると手助けしてくれたはずの友人であったが、なんとその友人が電車に原稿を置きっぱなしにして失くしてしまったのだ。その後、白鳥翔という作家が「幻の女」により新人賞を受賞したのを山本安雄は目の当たりにすることとなり・・・・・・

<感想>
 かつて読んだ作品が“完成版”と銘打たれて出版されたので、これを機に購入して再読。本書は非常に折原氏らしい作品で、氏の代表作のひとつと言えるであろう。未読の人には是非ともお薦めしたい作品。

 最初はミステリ作家を目指す男の独白のような内容になっていて、この辺はあまり面白くはない。ただ、徐々にミステリ要素が表れることになり、小説と盗作を巡っての殺人事件が起きてからは普通にサスペンス・ミステリとして引き込まれ、リーダビリティも強くなってゆく。

 一見、殺人犯の正体についても裏で起きている事柄も全てあらわにされているように思えるが、実はそのさらなる裏側に潜む謎がしっかりと隠しこまれているのである。この謎に関しては、当てようなどとは思わずに、普通にそのまま読んで、だまされたほうが心地よく感じられるのではなかろうか。

 一応、今回出たものが完成版ということではあるが、真相が明かされるところについては、ややくどさを感じてしまうので、むしろ完成版ではないほうがあっさりしていて良いかもしれない。そんなわけで、入手できるのであれば、完成版ではないほうを読んでも全然問題はないと思われる。


「白鳥」の殺人   6点

1989年07月 光文社 カッパ・ノベルス(「白鳥は虚空に叫ぶ」)
1994年02月 光文社 光文社文庫(改題:「『白鳥』の殺人」)

<内容>
 証券会社で働く河田光雄は、新潟県で特急“白鳥”に飛び込み、自殺を遂げた。その後、河田の上司の他殺死体が発見されたことにより、河田は上司と共に会社の金を横領したのち、上司を殺害し、自殺したと考えられるようになった。河田の生前、彼からプロポーズを受けていた同僚の石野亜矢子は、河田が殺人を犯したということを信じられず、事件を調べ始める。同様に、河田の兄である次郎も事件を不審に思い、二人は協力して調査を始めるようになり・・・・・・

<感想>
 出だしは微妙と思われたが、読んでいくと徐々に内容に引き込まれ、楽しんで読み通すことができた。サスペンス小説として、なかなかの出来栄え。

 最初は自殺者のアリバイを調べるというような、いまいちピンとこない導入から始まる。いきなり自殺者のアリバイを事細かく調べすぎではないかと思えて、そこが微妙に思われた。

 その後、新たに死体が発見されたり、私立探偵が登場し、とある事実が浮かび上がるなど、どんどんと事件が動いていくようになり、真の殺人犯の存在が見え隠れするようになる。そして最後には、思いもよらぬ真相が待ち受けている。

 本書には電車の路線図や時刻表が掲載されているのだが、別にそれが作品のキモであるとは思えなく、むしろ無くてもいいのではと感じたほど。しかし、よくよく考えると、この作品が出た時代は、そういった時刻表付きのアリバイトリックものじゃなければ売れなかったのかもしれない。それを考えると、アリバイトリック重視というような感じでの売り方もいたしかたなかったのかも。

 あとがきで、この作品は著者がまだ旅行雑誌の編集者をやっていたころに、作家の山田正紀氏とともに出かけ、そのときにこの特急”白鳥”のアリバイトリックを山田氏に薦めていたそうである。しかし、山田氏が書かなかったので、後に作家となった折原氏の作品として無事に(後から考えると先に出版されなくてよかったとのこと)相成ったとのこと。


螺旋館の殺人   6点

1990年01月 講談社 講談社ノベルス
1993年08月 講談社 講談社文庫

<内容>
 ベテラン作家、田宮竜之介は、ミステリ創作講座の講師をしたことにより創作意欲がわき、久々に新作を書くことを決意する。人里離れた山荘で一人執筆に打ち込む田宮。田宮の様子を心配して訪れる編集者、田宮に作品を読んでもらいたいと作品を持ち込んでくる若い女、紛失した原稿、盗作騒動、そして作品「螺旋館の殺人」の顛末は・・・・・・

<感想>
 久々に再読する折原氏の初期作品。ちなみにこれは館ものではないのであしからず。

 折原氏の作品でよくあるネタのように思えるのだが、ミステリ作家が書く作品を巡っての盗作騒動を描いたものとなっている。舞台の大半は人里離れた山荘で起こり、その出来事が手記や日記で表されている。

 裏に潜む秘密を見つけるというよりも、物語の展開とハプニングを楽しむ内容という感じがした。最終的に読者が目の当たりにする真相というものもしっかりと用意されてはいるものの、それに関してはやや脱力系という感じである。

 もし、本書を読んでいる最中に、こんなこと起こりっこないとか、展開が中途半端と感じた人は、既に作者の術中にはまっていると言えよう。ある意味、脱力系ミステリというようなものをふんだんに生かし切った作品といえるのかもしれない。


猿島館の殺人   6点

1990年06月 光文社 カッパ・ノベルス
1995年02月 光文社 光文社文庫
2018年07月 光文社 光文社文庫(新装版)

<内容>
 フリーライターの葉山虹子は取材のため“猿島”へ上陸するが、帰りの船に乗り損ね、島に取り残される。途方に暮れる虹子であったが、唯一島に住んでいるという猿谷家の人に出会い、猿島館に迎え入れられる。そこには猿谷家の当主・藤吉郎とその後妻と連れ子、藤吉郎の前妻との間に生まれた息子夫婦とその息子(藤吉郎の孫)、さらには使用人夫婦と看護婦が住んでいた。虹子が猿島館で彼らと共に暮らし始めると、不可解な殺人事件に遭遇することに! しかも密室!? そこに現れたのは、本土から脱走した猿を追ってきたという黒星警部。“猿”が起こしたと思しき事件を追っていくと・・・・・・

<感想>
 新装版で再読。猿島で黒星警部が珍推理を連発!? かと思いきや、今回はやたらと猿にこだわっているがため、誤った推理は一方向のみへ押し込まれていったような。

 全体的に、あまり見栄えのしないミステリという感じではあったものの、そこはうまく海外の古典名作ミステリのネタを絡めることにより味を出している。モルグ街やまだらの紐、さらには“Yの悲劇”のネタまでもが登場する。

 真相については、面白い動機も交えているものの、ちょっと脱力系過ぎるかのような。ただ、黒星警部シリーズであればこんな感じが普通か。最後の大団円はシリーズ前作の鬼面村と同じ展開のような・・・・・・というか、もはやそれがお約束?


黒衣の女   6.5点

1991年01月 徳間書店 単行本(「死の変奏曲」)
1995年08月 徳間書店 徳間文庫(改題「黒衣の女」)
1998年07月 講談社 講談社文庫

<内容>
 女は自分が記憶を無くしていることに気が付く。手元には3人の男の名前が書いてあるメモと現金100万円。女は偶然知り合うことになった探偵事務所で働くこととなり、仕事のかたわらメモに書かれていた男たちの身元を調べると、銀行員、恐喝を働くヒモ、不倫をする会社員、という一見何も関係なさそうな3人の男たちが皆殺されていたことを知る。その事件の影には常に喪服の女の存在が・・・・・・

<感想>
 再読のため一部ネタを覚えていて、気が付いたところがあった。ただ、真相については、何気に複雑怪奇で奥深く、全貌を解き明かすというところまではいかなかった。

 時系列や場面があちこちに飛ぶので全貌を把握しにくい。だからと言って、決して読みにくいということはなく、すらすらと読める作品。むしろあれこれ考えこむよりも一気読みして、どんでん返しを含む真相を素早く味わい尽くすのが良い作品だと思われる。そして、二度読みすればさらに楽しめることであろう。

 一見わかりやすそうなトリックでありながら、実は真相については、さらなる先があるという読み応えのあるサスペンス作品。折原氏の脂が乗っているころに書かれた作品という感触がぞんぶんに伝わってくる。


丹波家の殺人   7点

1991年03月 日本経済新聞社 単行本
1994年05月 講談社 講談社文庫
2004年05月 光文社 光文社文庫
2018年11月 光文社 光文社文庫(新装版)

<内容>
 丹波家当主・丹波竜造が海難事故により死亡したことにより、莫大な遺産が遺された。その遺産を巡ってか、遺された丹波家のもの達が次々と死亡する事件が起こる。最初は閉ざされた部屋で起きた故に事故かと思われたが、第二の事件が起きたことにより連続殺人事件の存在が浮き彫りとなる。密室と聞けば我慢できない黒星警部がやってきたものの、全く犯人の見当がつかず、さらなる殺人事件が起こることとなり・・・・・・

<感想>
 今回、黒星警部が挑戦するのは家長が海難事故によって死んだことを発端とした丹波家にまつわる殺人事件。そのなかで、強固に閉ざされた部屋のなかで停電中に死亡するという不審死、雪が積もった離れにおいて犯人の足跡のない殺人事件、などといった不可能犯罪の謎に迫ることとなる。

 黒星警部が登場する長編のなかでは一番良い作品ではないかと思われる。この警部が登場する話は、ちょっと変化球気味の話であったりとか、密室にこだわる割には密室というほどでなかったりとか肩透かしをくらわされることが多い(それが特徴なのであろうが)。そうしたなかで、この作品に限っては意外にもきっちとした密室ときっちりとした解が描かれており、読み応えのある本格ミステリとなっている。さらには、丹波家を巡る殺人事件の動機や真犯人についてもなかなか秀逸と思われた。

 ふと思い起こすと、今作では黒星警部が登場するシーンが他のシリーズ作品と比べると少なかったかなと。警部の登場が少ないほうが、何気に良い作品になるというのは皮肉にような。


毒殺者   6点

1992年02月 講談社 単行本(「仮面劇 MASQUE」)
1995年03月 講談社 講談社文庫
2014年11月 文藝春秋 文春文庫(「毒殺者」改題・改訂)

<内容>
 妻に5千万円の保険金をかけていたM。妻をうっとおしく思い始めたMは愛人を利用して妻を殺害し、5千万円を手に入れる。警察と保険会社の目をうまくごまかしたMであったが、謎の脅迫者によって悩まされることに。しかし、Mはさらなる殺人計画を実行しようとし・・・・・・

<感想>
「仮面劇」のほうは講談社文庫で持っていて既読だったのだが、改題したものとは知らずにこの「毒殺者」を買ってしまった。ただ、読んだのがずいぶん前のことで、感想も書いていなかったので再読してみた。

 折原氏らしい作品。近年書いている“○○者”というタイトルを付けて改題したように、実際に起きた事件をモチーフとして描いている。ただ、後年に書かれた“○○者”のシリーズほどルポ形式はとっておらず、普通の小説らしい書き方がなされている。物語は、謎のM氏と、自分が罠にかけられていると疑い始める人妻のパートとが交互に展開される構成。

 また、話は大きく分けて三幕に別れているのだが、第一幕は発端、第二幕がメインパートとなっている。第三幕は話の流れからして、余分のようにも思えたが、最後まで読んでみると全体で一つの流れだと納得させられるものとなっている。

 M氏の正体とか、殺害されることに恐れを抱く人妻の行く末、さらには隠された秘密といい、なかなか読みどころは多い。いつもながら折原氏の作品を読む際には、騙されまいと思って読み進めていくのだが、それでもなかなか全てを予想することはできない。なかなかうまく描かれている作品であると感じられる。トリカブトを使った保険金殺人事件をモチーフとして描いているのだが、現在においても保険金殺人事件というものがしばし起きているので、物語に古臭さは感じられない。意外と、“今”を描いたミステリのようにも捉えられてしまう。


七つの棺   密室殺人が多すぎる   7.5点

1988年05月 東京創元社 単行本(「五つの棺」)
1992年11月 東京創元社 創元推理文庫(改題:「七つの棺」短編2編追加)
2013年03月 東京創元社 創元推理文庫(新装版)

<内容>
 「密室の王者」
 「ディクスン・カーを読んだ男たち」
 「やくざな密室」
 「懐かしい密室」
 「脇本陣殺人事件」
 「不透明な密室」
 「天外消失事件」

<感想>
 久々の再読。昔に買った創元推理文庫版を読んだきりなので、本当に久々である。ひょっとしたら折原氏の作品で最初に読んだ作品なのかもしれない。

 こちらは折原作品でお馴染みの黒星警部が活躍する本格ミステリ短編集。ただし、活躍と言ってもこの作品集のなかで実際に謎を解くのは黒星の部下の竹内刑事となっている。内容としては“密室”大好きの黒星警部が登場するだけあって、どれもが“密室”に満ち溢れた事件となっていて、すこぶる豪華な内容である。これは本格ミステリとして読み応え十分であった。

「密室の王者」は、何気に現実味在りそうな話。わかりやすいトリックであるが、それだけに取っつきやすいミステリとなっている。
「ディクスン・カー〜」は、トリックよりも物語の方が面白い。事件に関わっている3人の登場人物の心証が見所となっている。
「やくざな密室」は、シェルターを使用した大掛かりな密室。何気にどんでん返しが繰り広げられていて楽しめる。
「懐かしい密室」は、作家の消失トリックが面白い。さらにもう一つ密室殺人までもが加えられていて、内容が豪華。
「脇本陣殺人事件」は、横溝正史ばりの密室。ただ、トリックとしては微妙な感じも。
「不透明な密室」は、密室を構成するアイディアとしては優れていると思われる。これぞ死角を突いた密室という感じ。
「天外消失」は、リフトを使った不可能殺人というありがちなもののような気もするが、それでもよくできていると感じられた。

 そんな具合で、どの作品も密室のアイディアに溢れた作品になっていて、読んでいて面白かった。実現度がやや低いと感じられるところが多々あるものの、それでもそれぞれのアイディアには脱帽ものである。これまた、古き良き本格ミステリという感じの作品集であった。


「密室の王者」 内側から閉ざされた体育館で町の素人相撲の横綱が殺害された事件。
「ディクスン・カーを読んだ男たち」 内側からしか鍵のかけられない書斎で発見された二つの死体。いったい何が!?
「やくざな密室」 暗殺を怖れたやくざがシェルターの中に避難していたのだが、そのシェルターの中で死体で発見され・・・・・・
「懐かしい密室」 衆人環視の部屋の中から推理作家が消失した事件と、さらには同じ部屋で突然死体が発見されるという事件。
「脇本陣殺人事件」 雪で囲まれた離れのなかで、ガムテープにより目張りされた密室のなかで発見された死体。
「不透明な密室」 閉ざされた部屋のなかで建設会社の社長が殺された事件。容疑者は、部屋には入れないはずで・・・・・・
「天外消失事件」 リフトに乗っていた女が死体となって発見される。一緒にのっていたらしい男は途中で消え失せ・・・・・・


蜃気楼の殺人   6.5点

1992年11月 光文社 カッパ・ノベルス(「奥能登殺人旅行」)
1996年02月 光文社 光文社文庫(改題:「蜃気楼の殺人」)
2005年08月 講談社 講談社文庫

<内容>
 野々村万里子の両親が銀婚式に、25年前の新婚旅行と同じ能登へと旅に出た。そして万里子の元に突如、警察から電話が! 父親が死体となって発見されたというのだ。そして母親は行方不明だと。警察は、母親が父親を殺害したと決めつけるのだが、そんなことを信じられない万里子は自分で真相を確かめようと調査を行うことに。これらの事件は、25年前の新婚旅行の時に起きた出来事が発端となっているようなのだが・・・・・・

<感想>
 古めの本を再読。折原氏といえば、叙述トリックであるが、本書もそれらしいものの、どちらかといえば叙述トリックというよりは、普通にサスペンス・ミステリと言ってよさそうな内容。読み始めたときは、さほどでもなさそうだと思っていたものの、最後まで読むと意外とうまくできたミステリであると感嘆させられた。

 25年前に起きた夫婦取り換え事件と、現代において起きた殺人事件と失踪事件。事の真相はどうなるのか、そして現在と過去を結ぶものとは? と、そんな感じで語られてゆくミステリ。一応、旅情ミステリっぽいのであるが、不穏な雰囲気が漂うゆえに、旅情には集中できず、話の展開ばかりが気になっていった。

 最後は、単に過去は過去、現在は現在で別々の話に収まるのかと思っていたのだが、意外としっかりと過去と現在を結び付けていたので、驚かされる。限定された登場人物のなかで、うまくミステリ模様を描いた作品となっている。


異人たちの館   7点

1993年01月 新潮社 単行本
1996年02月 新潮社 新潮社文庫
2002年07月 講談社 講談社文庫
2016年11月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 小松原妙子は、息子・淳が突如失踪したことを嘆き、彼の伝記を書きあげることを思い至る。資産家である妙子は出版社に依頼し、ゴーストライターの島崎を紹介してもらう。新人賞を受賞後、作品を書こうとするもなかなか書き上げることのできない島崎は、報酬につられてこの依頼を受けることに。そうして、小松原淳の幼少期からの足跡をたどっていくと、その奇妙な生い立ちに島崎は段々と惹かれてゆくこととなり・・・・・・

<感想>
 折原氏の古い作品を久々に再読。当時の印象が全くと言っていいほど残っていなかったので、たいして面白くないのかと思っていたのだが、これが意外と良い作品だと驚かされる。「沈黙の教室」を読んだ時も、折原氏らしい要素が集まった集大成的作品と思ったものだが、それより先に出たこの作品もまた違った感じでの集大成的な作品と感じられた。

 作家による独り語り、失踪した男の人生が集約された書簡一式、親子そろっての失踪、“赤い靴”の歌に秘められた謎、ところどころで現れる謎の異人、樹海を彷徨う男の必至のメッセージ、等々。とにかくさまざまなミステリ要素がてんこ盛り。折原氏の作品でよく見られるようなミステリ要素がこれでもかと言わんばかりに放り込まれている。

 分厚いページ数であるにもかかわらず、その内容に読者をひきつけ、飽きさせないように創りこまれているところはさすがと言えよう。しかも、内容がミステリ的に破綻していないところも見事だと思われた。結末からのエピローグまでの思いもよらぬ展開もうまく創られている。これは折原氏の初期の代表作か? と思いつつも、この作品を含めて、特に初期においては結構良い作品を書いていたなと改めて折原氏を見直してしまう。


沈黙の教室   7.5点

1994年04月 早川書房 単行本
1997年05月 早川書房 ハヤカワ文庫
2008年06月 双葉社 双葉文庫(日本推理作家協会賞受賞作全集80)

<内容>
 青葉ケ丘中学校の3年2組のなかで密かに広まる恐怖新聞。その新聞の存在によるものなのか、2組の生徒はそれぞれの所業を告発され、密かに“粛清”を受けることに。その粛清は生徒のみならず、そのクラスの担任にまで及んでいった。
 それから20年の月日が経ち、3年2組で同窓会を行うこととなった。かつて学級委員長であった秋葉が音頭を取り、久しぶりに同級生たちと連絡を取り、具体的なスケジュールが決められてゆくことに。そうしたなか、3年2組の殺人計画書を持ちながら記憶を失った男、影に潜む復讐者、そして連絡が取れないもの・・・・・・同窓会を前に数々の思惑が錯綜し・・・・・・

<感想>
 当時単行本で読んだ作品を双葉文庫版で再読。結構長い作品ではあるが、その長さに耐えうる十分な力作である。しかもミステリとして破綻がなく、最終的に収まるところに収まりきっているところがお見事。日本推理作家協会賞を受賞したのも納得のいく作品。個人的には折原氏の中期の代表作であると思っている。

 第一部では、過去に起きた青葉ケ丘3年2組で起きた数々の騒動と、それを補完し煽り立てるような恐怖新聞について紹介される。第二部では20年後に青葉ケ丘3年2組の同窓会が行われることとなり、そこで様々な謎の人物が登場し、裏では殺人事件までが発生することに。それで終わりかと思いきや、第三部が挿入され、そこで真相究明にいたるという展開の作品になっている。

 同窓会のスケジュール計画の裏で跳梁する者たちがいるのだが、それらが3年2組の関係者と言うことで、限られた登場人物内にいるはずなのだが、意外と簡単には予想させてくれないものとなっている。最後の最後まで意外性を保ったまま話を進め続けているところは、さすがだなと感心させられた。そうして、最終的には3年2組の関係者という閉ざされた枠内で話を収束させるのだからそこもお見事。ある種のホラー系の作品でありながら、ミステリとしての完成度も高いものとなっており、とにかくよくできた作品と言えよう。


望湖荘の殺人   5.5点

1994年08月 光文社 カッパ・ノベルス
1997年03月 光文社 光文社文庫

<内容>
 大手家電量販店の経営者・二宮大蔵は、毒の付いた剃刀入りの手紙が届けられたことにより、自分が何者かに命を狙われていると考え始める。そこで大蔵は心当たりのある者5人に対し、パーティーを行うと称して山荘に集める。パーティー当日、台風により山荘が下界から閉ざされたなかで、思いもよらぬ殺人事件が次々と起こることとなり・・・・・・

<感想>
 昔購入して読んだ作品を再読。ミステリというより、スプラッター・ホラーっぽい作品。いちおう本格ミステリのような体裁ではあるのだが、どこか本格ミステリに欠けていたような。

 設定がガバガバとまでは言わないまでも、閉ざされた山荘という位置づけのはずが、限定された登場人物以外にも人が出入りしていて、どこか締まりのないような感じ。その締まりのなさが、全編を覆っていたような。

 意外な結末というか、最後の最後で結末にちょっと捻りを加えただけという感じであった。そんなわけで、ある種、いつもながらの折原氏特有のミステリ作品というところに落ち着く。


誘拐者   6.5点

1995年08月 東京創元社 単行本
2002年11月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 小田桐葉子は月村道夫という男と籍を入れないまま一緒に暮らしてきた。しかしある週刊誌に掲載された偶然写ってしまった一枚の写真がきっかけで月村道夫の姿がある者の目に触れることとなってしまう。そして道夫はというと体調不良が悪化し病院に入院する事に。葉子は道夫が何かを隠しているという事を感じ、それを調べ始める。すると道夫が通っているといったはずの大学の講師の仕事というのを実はやっていなことがわかり、二重生活を送っていたらしいということが判明する。それはどうやら20年前に起きた赤ん坊の誘拐事件に関係があるようなのだが・・・・・・

<感想>
 文庫で買って、一時期積読になってしまっていたのだが読んでみるとこれがなかなか面白かった。ここ何年かの折原氏の作品のなかではかなり良い作品であったと思える・・・・・・といってもすでに10年前の作品なのか。

 本書も折原氏が書く作品だけあって、一癖も二癖もある内容となっている。しかしそれでも従来の折原氏の作品からすれば技巧といった面では抑え気味になっているのではないだろうか。ただ、その技巧を抑え気味にしていることによってストーリーが引き立つようになっている。なんといっても本書はその内容が面白く、リーダビリティがある作品となっているのだ。

 とにかく息をつかせぬ早い展開が読む側を魅了してくれる。子供を誘拐するものが現れるのだが、犯人が一人だけなのかそれとも複数いるのかと惑わされる。さらに謎の過去を持つ男や、必要に人々を追いまわす殺人鬼の女などが登場し、いったいそれぞれの間にどういう人間関係が秘められているのかと徐々に複雑な様相をていし、最後には一気に大団円を向かえ全てが明らかとなる。

 最近の折原氏の作品というと、何か余計な要素が多いと感じられる。それは“トリックメーカー”と呼ばれるゆえの著者の苦悩が感じられる部分であろう。しかし、この作品を読めば十分物語だけでも読者を惹きつける作品が書けるのではないかと感じさせられる。まだまだこれからも良い作品を書いてくれるだろう。


ファンレター   6.5点

1996年01月 講談社 単行本
1999年02月 講談社 講談社文庫
2007年11月 文藝春秋 文春文庫(改題:「愛読者」)

<内容>
 覆面作家・西村香の周辺で巻き起こる事件の数々。謎の覆面作家の正体は!?

 「覆面作家」 (1991年4月号問題小説)
 「講演会の秘密」 (1991年 鮎川哲也と十三の謎'91:東京創元社刊 覆面推理作家改題)
 「ファンレター」 (1992年11月号 小説City)
 「傾いた密室」 (1994年1月号 野生時代)
 「二重誘拐」 (1994年8月号 野生時代)
 「その男、凶暴につき」 (1995年 9月15日 別冊小説宝石:覆面強盗改題)
 「消失」 (書き下ろし)
 「授賞式の夜」 (書き下ろし)
 「時の記憶」 (書き下ろし)
 「エピローグ」 (書き下ろし)

<感想>
 かつて読んだ作品の再読であるのだが、思っていたよりも面白かった。そんなに面白いという印象が残っていなかったので、これは再読して良かったと思える作品であった。

 本書は短編集となっているのだが、一つのテーマにそったものとなっており、覆面作家・西村香の周辺で起きる事件を描いたものとなっている。この覆面作家のモデルがどう見ても、北村薫氏であり、それを想像させるだけでも楽しめる作品となっている。ただ、北村薫氏本人や、その熱烈なファンの人たちであれば、怒り出しそうなきわどい作品であることも確か。

 覆面作家であるという設定を元に、色々な事件が巻き起こる。その作家に熱烈なファンレターを寄せる読者がいれば、その存在を利用しようという編集者やその他周辺の人々。そうした様々な思惑をうまくミステリ仕立てに仕上げている。果てはスティーヴン・キングの「ミザリー」を思わせる作品や、密室殺人を描いたものまで実にバラエティ豊かに描かれている。

 個人的には、途中まではわかりやすいサスペンスのようなものを描きつつ、最後に全てをひっくり返すように描かれた「ファンレター」が一番面白かった。

 この作品、読んでいてふと思ったのは、ここに書かれているファンレターの内容や、編集者の感情など、どこまでがフィクションなのであろうかというところ。もちろん全てがフィクションということはないであろうが、ここにまつわるきっかけになったような出来事がいくつかありそうに思えてならない。作家に対して図々しすぎる要求をしてくる、読者や講演を依頼するもの、そして編集者などが実際にいそうな気がして、それを想像するだけでもホラー的な雰囲気を感じ取ってしまう。


漂流者

1996年08月 角川書店 単行本
1999年10月 角川書店 角川文庫 ( セーラ号の謎-漂流者-」に改題)

<内容>
 ダイビングの最中、妻美智代とその不倫相手の編集者佐伯に見殺しにされた推理作家・風間春樹は、無人の八丈小島で意識を取り戻す。脱出しようと泳いで八丈島に向かうが、漂流してしまう。すると死体二体を乗せたゴムボートに遭遇する。死体は持ち物から湯原透とその妻らしいとわかる。なおも風間が漂流しているとセーラ号というヨットに辿り着く。セーラ号のヨットの中には航海日誌がありその内容を読むと娘をひき逃げされた三田村夫妻が復讐のために湯原透とその妻を拉致し、ヨットに乗せ、彼らに死刑宣告をして大海原にゴムボートで放り出したことが書かれていた。そしてヨットの中にはその三田村夫妻が・・・・・・
 復讐鬼と化す風間春樹。呼び寄せられる風間美智代と佐伯、三田村夫婦。再び航海をするセーラ号。そして湯原透を探す探偵。最後に生き残るのははたして・・・・・・

<感想>
 折原氏の本の中で最低売り上げを記録した本!!

 それはともかくとして、内容のほうは「最近叙述トリックもいまいちかな折原氏」といいたくなる。前半部分は結構どきどきさせてくれるのだが後半それを収束しきってない。意外性を期待させる内容なのに、あれーって感じで。生死不明でどうなったのかよく分からない人たちもいるし。なんとなく結末が納得いかなかった一冊。(最低売上もしょうがないのか?)


二重生活

折原一、新津きよみ 共著
1996年10月 双葉社 単行本
2000年03月 講談社 講談社文庫

<内容>
 わたしを裏切った男と侮辱したあの女は絶対に許せない!二人同時に復讐するには、あの方法しかない−男に妻も子供もいると知った愛人の心に燃えたぎった嫉妬と殺意。重婚をテーマに男女の息づまる駆け引きをスリリングに描く多重心理ミステリー。折原一・新津きよみ、おしどり作家、初の合作が実現!

<感想>
 話はある女性が夫の浮気を調査してほしいと依頼するところから始まる。その調査対象者の男性は他の場所で女性と生活していることがすぐに調査によってあばかれる。それを知った妻と愛人である女性。その二人の嫉妬や怒りの供述が繰り返される。

 と、ありきたりの不倫関係の仲を描いた内容が小説の半分以上費やされ、この話の中になにか折原氏らしい裏があるのだろうかと、いぶかしがりながら読んでゆくとそこに突然の落とし穴が!! なにかあると、疑いながら読み出したものの半ばが過ぎてただの不倫小説か? などどと思って油断していまった。確かに読んでいく途中に違和感のようなものを感じたのではあるが・・・・・・。そうきたか。ここの所、マンネリになってきたかのような折原氏の叙述トリックではあったが、今回は見事にだまされてしまった。ただただ脱帽。


101号室の女   6点

1997年02月 講談社 単行本
2000年07月 講談社 講談社文庫

<内容>
 「101号室の女」
 「眠れ、わが子よ」
 「網走まで・・・・・・」
 「石廊崎心中」
 「恐妻家」
 「わが子が泣いている」
 「殺人計画」
 「追 跡」
 「わが生涯最大の事件」

詳 細

<感想>
 久しぶりに再読した折原氏の短編集。ノン・シリーズといいつつも、折原氏の作品を読み続けていると、全ての作品の元もしくは延長線上にあるように思われる。ゆえに、“折原シリーズ”とでもいうような感覚で読むことができてしまう。

 それぞれの作品については、もはや読みなれている著者の本であるということもあり、ひょっとすると再読ゆえに記憶の片隅に残っていたようなものもありそうなので、さほど驚かされるということはなかった。というか、だいたい結末に予想を付けながら読むことができたような。

 もっとも折原氏らしい作品といえば、表題作の「101号室の女」であろう。著者の作品では、ありがちな設定のようにも思われる。ただ、それゆえにあえて変化球気味の結末を用意している。

「網走まで・・・・・・」は緊迫したカウントダウン式のサスペンスミステリ。「殺人計画」は、予想外の結末を迎える作品であるのだが、やや悪ふざけが過ぎるような。「恐妻家」は、交換殺人というテーマを“恐妻”という文字通りの力技で取り組んだ作品。「追跡」は、なにやら怪しい一癖ありそうな逃避行の様子が描かれている。

「わが生涯最大の事件」がミステリとして、一番読み応えがある内容。元警官が過去の事件を調べていくというものであるが、著者の作品らしい怒濤のどんでん返しが結末で待ち構えている。


遭難者   5点

1997年05月 実業之日本社 単行本
2000年05月 角川書店 角川文庫
2014年05月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 北アルプス、不帰ノ嶮にて、笹村雪彦は稜線から滑落し、死亡した。一緒に登山をしていた、笹村が務めていた会社の登山部“あすなろ岳友会”のメンバーにより、追悼集を作成することとなった。雪彦の母、時子もその追悼集に手記を載せることとなったのだが、息子の事を調べていくうちに、あることに気が付き・・・・・・

<感想>
 単行本で出版されたときは、箱入りの2冊組追悼集として、凝りに凝った体裁が施されていた。文庫本だと外観は普通であるが、中身を見れば、地図、報告書、活動記録とその凝りようがうかがい知れる。

 今回文庫で再読したのだが、その内容はというと・・・・・・装丁や構成の凝り具合に比べて、あまりにも普通。たいした捻りもなく、想像を超えることもなく終わってしまうところが非常に残念。

 できることなら、1冊目の追悼集で問題編、それを受けた2冊目で解答編という風にもっていってもらいたかったのだが、そこまでの構成はなされていない。装丁と追悼集の体裁だけに力を入れ過ぎたのであろうか。


冤罪者   6点

1997年11月 文藝春秋 単行本
2000年11月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 ノンフィクション作家・五十嵐友也のもとに届けられた一通の手紙。それは連続婦女暴行魔として拘置中の河原輝男が冤罪を主張し、助力を求めるものだった。しかし自らの婚約者を犯人に殺された五十嵐にとって、それはとても素直に受け取れるものではない。河原の他に本当の真犯人がいるのだろうか?

<感想>
 どす黒い、それにしてもどす黒い。内容自体は面白く、ページをめくる手を休ませない本書であるが、それにしても状景描写も心理描写もどす黒い。あまり読了後、スカッとするたぐいのものではない。それでもおもしろいのは事実だが。

 一人の冤罪者を追うドキュメントでもあり、新聞記事、雑誌記事、裁判傍聴とノンフィクションのような状景が繰りひろげられるなか、折原氏らしいトリックの伏線が張り巡らされてゆく。さらには後半、それらが一気に紐解かれるのかと思いきや、ますます混迷の様相をていしてゆき、最後の最後ですべてが明かされる。ラストのスピード感と一気に謎が紐解かれる部分は見事である。(後半のそこまでにいたる部分がちょっと冗長だったような気もするが・・・・・・)

 身勝手な心配であるが、「冤罪」の問題というのはさまざまなところで提起されているがこの作品はあくまでもミステリーとしてその「冤罪」というのを部分的に取り扱ったものであって、「冤罪」という社会問題に真正面から取り組んだ社会派的な物ではないのだろう。前半部分はいいのだろうけど、後半の河原輝男の様子はねぇ・・・・・・。とりあえず題名はさておき、この作品は折原氏特有のサスペンス小説ということでいいでしょう。


黄色館の秘密   5点

1998年03月 光文社 光文社文庫
2018年09月 光文社 光文社文庫(新装版)

<内容>
 知人であるフリーライターの葉山虹子に呼ばれ、黄色館へとやってきた黒星警部。その館には珍品を集めた秘宝館があり、そこに収められた“黄金仮面”を盗むという窃盗集団からの予告状が届いていたのである。館の主人に頼まれ(というか強制的に)仮面の警備をすることとなった黒星警部。しかし、肝心の黄金仮面は盗まれ、さらには殺人事件までが起きてしまう。しかもその殺人事件は密室で起きていたのである。狂喜乱舞する黒星警部をよそに、さらなる密室殺人事件が! 黒星警部は事件の謎を解くことができるのか?

<感想>
 黒星警部シリーズ、新装版第3弾。この「黄色館の秘密」は、20年前に文庫(書下ろし?)で出版された作品。

 このシリーズ、まっとうなミステリというよりは脱力系の内容のものとなっているのだが、今作は全体的に内容がひどい。シリーズのなかでも一番、ひどい内容なのではなかろうか。

 何が悪いのかというと、とにかく話を無駄に引き延ばそうとしているところ。何かページ数の制約があったのか、無理やりページ数を稼いでいるように思えてならなかった。トリックに関しては、それほどひどいものではなく、黒星警部シリーズならではの、そこそこのもの。ゆえに、もっとページ数を短くして、しっかりと書けば、他のシリーズ作品と変わり映えしなかったと思えるのだが。文庫で出たという事もあり、何かいわくつきの作品なのだろうか?

 黄金仮面の窃盗、閉ざされた雪の山荘、連続密室殺人事件、現れては消えさらには空まで飛ぶ黄金仮面、ちょっとした叙述トリック等々。色々な要素てんこ盛りの割には、なんでこんな感じになってしまったのやら。


失踪者   6点

1998年11月 文藝春秋 単行本
2001年11月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 ノンフィクション作家・高峰隆一郎は真犯人に直接インタビューする手法をとっていた。埼玉県の久喜市で起きている連続失踪事件を調査するなかで、15年前の童謡の事件との関連性が浮かび上がる。月曜日に女が消えること、現場に「ユダ」「ユダの息子」の眼もが遺されること。犯人はまた「少年A」なのか?

<感想>
「冤罪者」に続いて折原氏が送る、社会派サスペンス小説。本書では少年犯罪の顛末を題材に用いている。ただ、社会派という言葉を使ったものの本当にその題材を正面に捕らえているかというとそういうわけではない。また著者自身も社会派小説を描くと考えてかかれた作品ではないだろう。あくまでもそれを題材にした折原流サスペンス小説ということで間違いない。

 過去と現在の犯罪が交錯するなか事件が進められていく。そして多視点によって事件が進行するなか“少年A”の父親の手記が平行して紹介されて物語は進行する。この構成は明らかに折原氏独特の表現法であり、必ずどこかで叙述トリックが使われているだろうと考えながら読み手側は読み進めていくことになる。そして後半読み進めていくにつれて事件のすべてが明らかになり作中に隠されたトリックにも・・・・・・

 という具合に叙述トリックが使用されているだろうと読み手側にはわかっているにも関わらず、それをまっこうから書き上げる折原氏の度量はすごいものだ。内容だけで捕らえれば通常のミステリー小説でしかないものを構成の妙によって既存のものとは違う折原作品に仕上げてしまう。独自の手法・作法は衰えを知らずというところか。

 今回の作品や「冤罪者」でもノンフィクション作家というのが登場する。また、他の作品でも著者の小説には“作家”が登場することが多い。このへんはどうしてもまたかと感じるところがある。これらの叙述作品は暗い雰囲気とか多視点による構成などと共通するところが多くある。よってせっかく題材をあれこれと変えても、全体の雰囲気が他の作品群と似たりよったりと感じられてしまう。それは作風であるというならば仕方がないが、せっかくの色々なアイディアがあるのだからそれをもう少しうまく生かすような強烈な一撃を望みたいものである。


暗闇の教室   5点

1999年09月 早川書房 単行本

<内容>
 日照りに見舞われた夏。干上がったダム底の廃校で肝試しの怪談「百物語」を行った悪童たちは、とんでもない怪物を呼び寄せてしまう!それから二十年、再び廃校に集まった関係者たちを<復讐者>が一人また一人と屠っていく。犯人は誰か、その動機は?
「沈黙の教室」から五年、叙述トリックの粋を凝らして恐怖と謎を紡ぎあげる入魂のダーク・サスペンス。

詳 細

<感想>
 全編は恐怖を感じ取ることができないようなドタバタ劇であったが、後半には前半部分の謎や何者かわからない襲撃者などの存在によってスリルを感じ取ることができた。読みやすさは相変わらずであり、だましのテクニックも健在の折原氏である。

 全体的に見れば佳作ともいえる作品ではあるが、無駄な部分が多すぎるのが難だったのではないだろうか。あまりに多くの登場人物と謎の要素を出しすぎてまとめきれない部分も多々あったように見えた。たとえは、秀才にまつわる部分(折原ファンならばまず読めたであろう)とか、那珂川映子の存在、二十年後の梓ゆきえ、後半の片岡校長と、絞り込めればかなりの秀作になったのではと思えるところが非常に残念であった。また、この教室シリーズは恐怖を主題にしているのではと思うのだが、せっかくの恐怖も頻繁に時間や部隊が入れ替わるとその恐怖も薄れてしまって、混乱の様相を呈してしまう。例えそれが著者の計算でありプロットであっても。もう少し、区切りを長めにしてもらいたかった。ところでセスナ機ってなんか関係あったの?




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