<内容>
「Pの妄想」
家政婦から毒を盛られると怯え、缶入り紅茶しか飲まなくなった富豪の老女を巡る殺人事件の真相は?
「Fの告発」
指紋照合システムによって閉ざされた部屋で起きた殺人事件。いったい誰がどのように?
「Yの誘拐」
突如幕を開けた誘拐事件。犯人の真の目的とはいったい?
<感想>
それぞれの短編が意外なところから真相が明らかにされ、その大胆な推理と緻密な論理に驚かされた作品集。こういった作品を読むとまだまだ推理小説も捨てたものではないなと改めて思わせられる。今年ベスト級の論理的推理小説。
「Pの妄想」
この作品でいきなり度肝を抜かれ、そのあとはやられっぱなしになってしまったという感じであった。この作品の中で私は毒に注目し、“どうやって?”ということばかりに気を取られていたのだが、真相はそんなところにあるのではないということを解決にて思い知らされることに。
「Fの告発」
限定された者しか入れない部屋があり、誰がいつ入ったかも明らかにされている。そんな中で犯行はいかにして行われたのか。しかし、これも目先の事ばかり考えていると裏に隠された伏線を見抜けないまま、最後の解決にて思い知らされることになる。私が最後の最後にてようやくチャスタトンの作品に似た作品があったなと気づいたときにはもはや手遅れであった。
「Yの誘拐」
二転三転する誘拐事件の裏側にある真相をさぐるミステリー。警察にとっても誘拐犯にとっても失敗と思われる誘拐事件。この事件で得をしたのは誰なのかを探るものとなっている。その真相には満足させられたのだが、物語としては強引な結末であると感じられた。別にこういった幕引きにしなくても普通に終わらせたほうがよかったのではないかなと感じられた。そしてさらなる続編をと考えていたのだが・・・・・・
<内容>
占部武彦は双子の兄を殺害しようとしていた。そのために、整形外科医で顔を変えてもらい、さらにはその医師を殺害する。そして武彦はさらなる準備のために・・・・・・
占部文彦は自分が命を狙われていると感じ、探偵の間宮圭介、奈緒子・兄妹に身辺警護を依頼する。何でも武彦は彼と恋仲であった女性に対して兄の文彦が中傷の手紙をばらまいたと思っているらしく、文彦に恨みを抱いているのだという。間宮兄妹はさっそくその日から交代で文彦の身辺を警護し、文彦は寝室へと入ってゆくのであるが・・・・・・次の日、寝室で発見されたのは文彦の遺体であった!!
いったい犯人はどうやって犯行に及んだのか? さらに武彦はいったいどこにいるというのか?? 慌てふためく関係者を嘲笑うかのごとく、さらなる殺人事件が起き・・・・・・
<感想>(再読:2023/07)
何故か17年の時を経て文庫化。そんなこともあり、久々に手に取ってみようと文庫版で再読。当時単行本で読んでいたものの、さすがに内容を忘れていたので、新鮮な気持ちで読むことができた。
凝りに凝った事件が描かれたものとなっている。整形をして、他人に成り代わったと思われる双子の弟から命を狙われているという資産家の社長。それを守るために雇われた私立探偵であったが、あえなく失敗し、社長は殺害されてしまう。
というような内容であるのだが、それならば犯人はいったい誰に成り代わり、そしてこの事件により何を成し遂げようとしたのか。さらには、周囲に犯人に該当しそうな人物がいなく、捜査は五里霧中という状況。
これが最終的には、納得のいく結末が待ち受けており、事件は見事に解決されることとなる。非常にうまくできたミステリであるのだが、全体的に地味なイメージはぬぐえない。そもそも17年ぶりに再読することになったとはいえ、全くと言っていいほど内容を覚えていなかったというのもどうかと考えてしまう。
本書についてなのだが、とにかく探偵役に個性がない。兄と妹の二人で事件捜査をするものの、妹の存在感は全くと言っていいほどない。また、事件捜査に関しても基本的には警察が調べたものを聞くだけのような感じ。そして事件自体も良くできてはいるが、端正過ぎて印象に残らないというような感覚。基本的には、もっとキャラクター造形をしっかりしたほうが良かったようにも思われる。もしくは、警察小説のような感じでもよさそうな内容だった。
<感想>
読んでみて、さらに頭の中で思い返して、噛みしめれば噛みしめるほど、なるほどと感心してしまう。いや、これはよくできている本格推理小説である。
上っ面だけを簡単にながめてみれば、基本的には通俗のミステリー小説となんら変わりはない。ある種のサスペンス・ドラマ風であるといっても過言ではないであろう。ただ、その通俗のミステリー風作品がよくよく考慮してみれば、実にに考え抜かれた本格推理小説になっているということに気づかされる。読み終わった後に、最初から読んでみると探偵たちが街に到着した時点から既に緻密な計画が始まっているということに驚かされる。
この作品を読んで思うのは、本格ミステリといわれる作品が世に数多く出てきて、そして色々なアクロバット的な手法がなされつつ現在に到っているのだが、そのような派手なものばかりにとらわれなくても、十分に面白いミステリ小説というものを作ることがまだまだ可能であるということ。まさに推理小説のお手本ともいえるような作品であった。
<内容>
「柳の園」
「少年と少女の密室」
「死者はなぜ落ちる」
「理由ありの密室」
「佳也子の屋根に雪ふりつむ」
<感想>
謎の人物“密室蒐集家”が謎を解く、密室ミステリ集。「少年と少女の密室」と「佳也子の屋根に雪ふりつむ」は既出であるが、他の3作品は書き下ろし。
今時珍しく、“密室”にこだわりぬいたミステリ作品。新本格ミステリファンにしてみれば、待ってましたと言いたくなるような内容。密室というものにこだわったためか、犯人に関してはどの作品も唐突という感じがした。しかし、最後まで読んでみると唐突のように見えた犯人に対し、きちんと伏線を張っており、決してミステリとして破たんしていないところは見事なところである。
「少年と少女の密室」は、心理的密室トリック作品として秀逸と言えよう。私自身は既読の作品ゆえに、内容を知りながら再読したのだが、なるほどとうなずきつつも、感嘆しながら読むことができた。
「理由ありの密室」については、“何故密室を作ったのか?”ということにこだわり抜いた作品。こういった作品にしては珍しく、ダイイングメッセージも見事に決まっていると感じられた。
「佳也子の屋根に雪ふりつむ」は犯人が指摘された時には、唐突と感じられたのだが、伏線と見事な論理によりきちんと導き出されているところに感嘆してしまう。
<内容>
事件捜査でミスを犯した寺田聡は、警視庁付属犯罪資料館という部署に左遷させられることとなった。そこには美貌のキャリア警官・緋色冴子が館長として勤めており、寺田は唯一の職員となる。その館で紐解かれる過去の未解決事件。それらの事件を緋色冴子が快刀乱麻のごとく解き明かしてゆき、徐々に寺田は資料館での仕事にやりがいを感じ始め・・・・・・
「パンの身代金」
「復讐日記」
「死が共犯者を別つまで」
「炎」
「死に至る問い」
<感想>
久々の大山氏の新刊。相変わらず、絶妙な本格ミステリを堪能できる作品となっているのだが、個人的にはそこに登場する人物設定に違和感を抱いてしまった。むしろ、こういう作風よりも「密室蒐集家」くらい、主人公らは透明感があるほうが楽しめるのではなかろうか。
最初の「パンの身代金」は、まるで実在に事件をモチーフとしたような企業に対して身代金を要求する事件。その過去の事件の真相に挑むというものであるのだが、これに関しては、ちょっと強引な真相だったのではと感じられた。どうにもそこまでうまくいくものかなと、いう気がしてならなかった。さらには、主人公にまつわる、元同僚との人間関係とか、余計な骨肉の争いのように見えて、初っ端の作品にしては粗ばかり感じられてしまった。
「復讐日記」は、とある男が自らの犯行を詳細に描き出した手記から、一連の殺人事件の真相が解決されたというもの。しかし、資料館の館長はその内容に違和感を抱き、事件に対する別に見方を示唆する。これはうまくできていると思われた。事件自体の大勢は変わらないという気がしなくもないが、なるほどと納得させられるもの。
「死が共犯者を別つまで」は、交通事故により大怪我を負ったものが死の間際に過去の交換殺人事件の存在を明らかにするというもの。これを受けて、資料館の面々は、過去の事件を掘り起こすこととなる。これまた、うまい解釈により、突飛な真相を掘り起こしたといえよう。これらどの作品もそうであるが、限られた登場人物をいかんなく、うまく生かしきっていると感じられた。
「炎」は、とある夫婦と妻の妹の三人が毒を飲まされたうえ、放火させられたという事件。被害者は妹と付き合っていた男ということであるが、その男の存在が明らかになっていなく、事件は迷宮入り。幼稚園にいた夫婦の娘が唯一の生き残りであり、その子供が大きくなった時に、新たに事件が掘り起こされることとなる。これも「復讐日記」と同様に事件が解決しても大勢は変わりないという気がするものの、うまく新たな解釈を、ぴったりという具合に当てはめている作品である。真犯人からしてみれば、渾身の一大トリックと言えるものなのかもしれない。
「死に至る問い」は、過去に起きた事件と全く同じ具合に二十年以上の時を経て繰り返されることとなった撲殺事件。こちらは、何故二十年後に同様の事件が起きなければならなかったのか、もしくは犯人が起こさなければならなかったのか、というものがポイント。意外な動機が存在する事件となっている。
全体的に、どの短編もページ数が薄めであるので、ややインパクトに欠けたかなと。どの作品もそれぞれうまくできているのからこそ、惜しいと思われる。また、キャラクター設定がうすっぺらく感じられてしまったところが一番微妙に思えるところ。まさか、ドラマ化を狙った作品なのであろうか? と疑ってしまう。
<内容>
「時計屋探偵とストーカーのアリバイ」
「時計屋探偵と凶器のアリバイ」
「時計屋探偵と死者のアリバイ」
「時計屋探偵と失われたアリバイ」
「時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ」
「時計屋探偵と山荘のアリバイ」
「時計屋探偵とダウンロードのアリバイ」
<感想>
短めの作品が掲載された短編集となっているが、その内容はなかなかのもの。タイトルの通り、全てアリバイ崩しを扱ったミステリが描かれている。“アリバイ崩し承ります”と書かれた時計屋を営む若き女店主が捜査一課の刑事が持ち寄る事件の謎を解き明かしている。
最初の「ストーカーのアリバイ」では、元夫からストーカーされていた研究所で働く女性が殺害された謎を解くというもの。明らかに元夫が怪しいものの、しっかりとしたアリバイがあるゆえに、警察は逮捕に踏み切ることができない。その謎を持ち寄られた時計店の店主があっという間に謎を解き明かす。
この作品のみならず、全ての作品で言えることなのだが、検死の結果があいまい過ぎるように思えるのは疑問に残るところ。そこを気にしなければ、それぞれがうまくできていると感嘆させられる。特に「ストーカーのアリバイ」については、単なるアリバイ崩しのみならず、事件の構造についても工夫がなされており、なかなか濃い内容のミステリが展開されている。
その他も短めの短編で終わらせてしまうのはどれも惜しいと思われる作品ばかり。もう少し、長めの作品にしてさらに内容を濃くすれば、もっとすごい作品集ができたのではないかと思わされる。軽めのミステリとして仕上げているのが、惜しいように思われならないアリバイトリック集。
<内容>
プロローグ
第一話 赤い十字架
第二話 暗黒室の殺人
第三話 求婚者と毒殺者
インタールードT
第四話 雪の日の魔術
インタールードU
第五話 雲の上の死
第六話 探偵台本
第七話 不運な犯人
エピローグ
<感想>
刑事・和戸は不思議な力を持っている。それは、周囲にいる人間の推理力が冴えわたり、周りの人間が勝手に推理を披露して事件を解決へと導いてしまうというもので和戸自身は“ワトソン力”と名付けている。そんな力を持っている和戸が何者かに監禁され、今まで解決してきた事件関係者のなかに犯人がいると推測し、過去に体験した7つの事件を思い起こすという流れ。要は7つのミステリ短編が繰り広げられる作品集ということ。
そのどれもが凝ったミステリとなっていて面白い。しかも、登場人物総出で推理が披露されることにより、さらにミステリ濃度の高い短編集となっている。ひとつひとつの作品の分量は少ないくらいなのだが、その割には濃度の濃いミステリを体現できるものとなっている。
真相がわかれば地味といえるかもしれない「赤い十字架」ではあるが、うまくまとめられたミステリといえよう。
「暗黒者の殺人」は、何故停電中にこのような事件が? というところがポイントとなっている。
「求婚者と毒殺者」は、従来の毒殺トリックを逆手にとるかのような内容。
「雪の日の魔術」は、雪上トリックとしては、あまり類を見ないものと感じられた。
「雲の上の死」は、何故こんな場所で殺人が? というところがポイント。
「探偵台本」は、実はヒントは登場人物一覧にあるという・・・・・・
「不運な犯人」は、凝りに凝ったディテールが面白い。
それぞれの作品で、誰が真相を推理するのかというところも見ものとなっている。軽く読める割には濃いミステリを体現できるので、お得な一冊という感じでもある。また、エピローグで明かされる和戸監禁の真犯人が告げられたのち、シリーズ化されそうな展開が待ち受けているのだが・・・・・・果してどうなることやら。
「赤い十字架」 ペンションの主人が殺害された事件。絨毯に遺された5つの十字架の意味は?
「暗黒室の殺人」 彫刻家の作品展で起きた殺人事件。停電の間に彫刻家が展示品で撲殺され・・・・・・
「求婚者と毒殺者」 パーティーの席で起きた婚約者を巡る毒殺事件。行われたのはグラス取り換えトリック??
「雪の日の魔術」 建築中の家で起きた殺人事件。呼び出された男はライフル銃で殺され、雪に残された足跡は・・・・・・
「雲の上の死」 上空を航行していた飛行機の中で毒殺事件が起きた。事件を起こした犯人の真意は?
「探偵台本」 書きかけのミステリ台本。書かれていない真犯人を推理するものの・・・・・・ヒントは婚姻!?
「不運な犯人」 バスジャックされたバスのなかで見つけられた死体。いったいどのような経緯を経て???
<内容>
「夕暮れの屋上で」
「連 火」
「死を十で割る」
「孤独な容疑者」
「記憶の中の誘拐」
<感想>
大山誠一郎氏描く、「赤い博物館」の第2弾が登場。今回はいきなり文庫で発売。
未解決事件の捜査書類を収蔵する通称“赤い博物館”と呼ばれる部署。そこの館長・緋色冴子が書類を見て、不審な点を抱いたら、再調査を行ってゆくこととなる。その館長の手足となって動くのが元捜査一課で現在は左遷された形の寺田聡。このコンビが未解決事件を再捜査し、解決に導いてゆく。
扱われている事件のどれもが一捻りされており、短いページ数の短編作品の割には読みごたえがある。
「夕暮れの屋上で」は、“先輩”探しの真相を紐解く。
「連 火」は、連続放火の動機、そして犯人を告発しようとして殺されたらしき被害者との関係を暴き出す。
「死を十で割る」は、死体をあえてバラバラにした理由についてを再考察する。
「孤独な容疑者」は、一見単なる同僚同士の恐喝事件であったはずが、事件前後の様子から論理的に犯人を告発する。
「記憶の中の誘拐」は、かつて起きた誘拐事件を紐解き、裏で起きていた真相をあぶりだす。
どれも感心するほどよくできている。未解決事件を扱うと言うことで、元の事件自体が単純なものではならないという枷がありながらも、捜査すべき事件自体をうまく構築していると感じられた。そして、そこから真相を導き出す筋書きもうまくできている。それぞれのネタが短編作品ではもったいないくらいの出来である。でも、そう思えるくらいの内容が短編作品にギュッと凝縮しているからこそ、この作品に価値があるのかもしれない。
「夕暮れの屋上で」 卒業式の日に高校の校舎の屋上で起きた事件。頭をうって死亡した生徒は事件直前、先輩らしき人物といたらしいのだが・・・・・・
「連 火」 東京で起きた連続放火事件。犯人の正体を知らせよう警察に電話してきた人物が死体で発見され・・・・・・
「死を十で割る」 河川敷で発見されたバラバラ死体。被害者の妻が前日、列車への飛び込み自殺を遂げていたのだが、今回の事件になんらかの関係があるのか?
「孤独な容疑者」 商社に勤めている男は借金をしていた同僚に脅され、その男を殺害する。容疑から逃れるために男がとった方法とは!?
「記憶の中の誘拐」 かつて誘拐事件の被害者となった男は、その後の事件の解決に府が落ちず、真相を確かめようと・・・・・・
<内容>
「時計屋探偵と沈める車のアリバイ」
「時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ」
「時計屋探偵と一族のアリバイ」
「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」
「時計屋探偵と夏休みのアリバイ」
<感想>
アリバイトリックに限定して作品を書くというのは難しそう。うまく描かれているものもあれば、平凡な感じで終わってしまっているものもある。全体的に濃い目のミステリを目指すというよりは、ライト系を意識したようなミステリということなのかもしれない。
「沈める車」は、ありがちな普通のアリバイトリックという感じであった。また、最後の「夏休み」に関しては、そもそも妙に複雑化したトリックを使う必要がなさそうなものと思われた。
「多すぎる証人」は、よくできていたと思われた。事件の流れの裏を書くというような感じのトリックになっており、意表を突かれるものとなっている。
「一族のアリバイ」は、話の流れとしては多重構造になっていて、よくできていると感じられた。しかし、3人の容疑者から犯人を絞るというところは、別に誰でもよさそうな感じというところ。うまく理屈を付ければ、他の人が犯人でも全然おかしくなさそう。
「二律背反」は、これまた複雑な構成でよくできていると思われた。明らかに警察に疑われている時点で、どっちにしろ・・・・・・と思われるものの、手の込んだアリバイトリックには目を見張るものがある。
「時計屋探偵と沈める車のアリバイ」 ダムに沈められた車の中から発見された死体。そのアリバイトリックとは?
「時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ」 議員の秘書が焼かれた死体となって発見される。胃の内容物から得られるアリバイを崩せるか!
「時計屋探偵と一族のアリバイ」 三人の容疑者のアリバイはそれぞれ、別荘にいた、宅配便を受け取った、ビデオチャットをしていたと・・・・・・
「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」 同日に起きた二つの殺人事件。どちらも同じ容疑者を指示しているのだが、実際にはどちらの事件を・・・・・・
「時計屋探偵と夏休みのアリバイ」 時計屋探偵が学生時代に経験した最初の事件。石膏像が壊されるという事件が起き・・・・・・
<内容>
「屍人たちへの挽歌」
「ニッポンカチコミの謎」
「リタイア鈍行西へ」
「二の奇劇」
「電影パズル」
「服のない男」
「五人の推理する研究員」
<感想>
“ワトソン力”2冊目。今後もシリーズとして継続していく作品となるのか。
このシリーズでは、和戸という刑事が“ワトソン力”という力を秘めていて、事件が起きると周囲にいる人々の推理力が高まり、その周囲に人々が自らの手で事件解決に持ち込んでしまうというもの。ちなみにその間、和戸自身は、ほぼ傍観者のまま。
こんな内容の作品集であるが、この“ワトソン力”というものは、実はミステリにおいて思わぬ効果を上げるものとなっている。それは、通常であれば閉ざされた空間で事件が起きてしまうと、パニックに陥る者もいて、推理どころではなくなる可能性もあるだろう。それがこの“ワトソン力”によって、皆が皆、推理力が増すことで、推理合戦を行う機運が高まり、全員が推理合戦に対し協力的になるという効果が生れるのだ。それゆえに、各々の推理が実にスムーズに行われることとなる。
そんな作品集であるが、短いページ数の割には、それぞれ読み応えのある短編作品となっている。特に「リタイア鈍行西へ」は、スケールの大きな事件へと広がりを見せ、「二の奇劇」は止まった二つのゴンドラで社長兄弟がそれぞれのゴンドラ内で殺害されるという魅力的な事件を扱っている。
こんな感じでそれぞれが面白い。「服のない男」は、推理小説誌上、もっとも情けない出来事の延長で人が殺害されるという哀愁ただよう事件であった。最初の「屍人たちへの挽歌」はどんでん返しが面白かったのだが、結局つっかえ棒はどのようにして持ち込まれたのか、よくわからなかった。最後の「五人の推理する研究員」は、今回の作品集をまとめるための書下ろし作品であるのだが、やや蛇足気味の内容。推理の解決が明らかになるまでは結構面白かったのだが。
そんなこんなで、色々と楽しむことのできた作品集であった。今後も続きを期待したいと思いつつも、ここで扱われるネタとしてよりも、長編とかで扱ったほうが良さそうなトリックとかがあると、ちょっと複雑な気持ちにもなってしまう。
「屍人たちへの挽歌」 何者かによって内側から閉ざされた映画館内で起きた殺人事件。
「ニッポンカチコミの謎」 ヤクザの敷地内で殺人事件が起きていたことが発覚し・・・・・・
「リタイア鈍行西へ」 地方列車の中で突如発見された死体の謎。
「二の奇劇」 止まったロープウェイ、空中で横に並ぶゴンドラ。その二つのゴンドラ内でそれぞれ死体が発見され・・・・・・
「電影パズル」 バーチャルゲーム空間のなかで起きた殺人事件の謎。
「服のない男」 コテージの中で発見された死体は、何故か裸で発見され・・・・・・
「五人の推理する研究員」 和戸の能力を調査するための研究棟の中で、何故か殺人事件が起きてしまい・・・・・・