<内容>
大学生らが集い吹雪の山荘で行った“探偵ゲーム”。余興のつもりが、翌朝現実の刺殺死体が発見されて事態は一変した。現場の不可解な錠の開閉は何を意味するのか? 五十年前に起きた探偵小説家の惨殺事件が指し示すものとは? ヴィッキーという仇名をもつ女子高生が謎を解く!
<感想>
いや、久しぶりにミステリーの良作を読んだような気がする。小説において、読み易いとか分かり易いということは結構重要なことではないかと思う。それでも最近はライトノベルにもかかわらず、読みにくかったり、状況が分かりにくかったりというものが多いと思う。とりあえず、そういったことくらいはクリアしてから本にしてもらいたいとつくづく感じる。
そして本書はそういった初期的な条件はクリアし、内容もミステリーとして十分楽しめるものとなっている。キャラクタ設定も悪くないし、シリーズ化していきそうな勢いが感じられる。ただ、ミステリーとして設定が丁寧なためか、犯人がわかりやすくなってしまっているとう点も付け加えておきたい。
それでも犯人を指摘するための十分な要素や事件と間接的に繋がるかのような過去に起きた事件の顛末など、なかなかいろいろなことを盛り込んで書かれている。また、ミスリードとして実際の事件と“犯人探しゲーム”をからめる点などもうまいと思う。メフィスト賞といえば、広義のエンタテイメントに送られる賞ではあるが、それでも期待したいのはこういうミステリーなのである。
<内容>
一年前の学園祭、そのときちょっとした事件が起こった。閉ざされた更衣室に来年の学園祭で何かが起こることをほのめかすような挑戦状が残されていた・・・・・・
そして今年の学園祭。今回の学園祭はヴィッキーが登場するミスコンの話題で盛り上がっていた。さらにヴィッキーは演劇部が行う舞台にも登場することになり大忙しとなるはずだったのだが・・・・・・。その舞台の上で催し物が始められる前に惨劇は起きた!
さらに息をつく暇もなく連続して起こる殺人事件。閉ざされた部室の中、閉ざされた屋上でと次々となされる不可能犯罪。ヴィッキーはその謎を解くことができるのか。
<感想>
どうも本書には全体的にちぐはぐな印象を感じてしまう。事件の舞台となるのは主人公のヴィッキーらが通う高校と中学が混在した学園。そして登場人物らの設定からしても爽やかなイメージを受けることができる。しかし、そこでの事件というのがやたらとどろどろとしたものに覆われている。前作もラストにはそういった陰惨な部分が吹き出てきたのだが、本書では最初からそのような鬱々とした雰囲気に覆われて事件が進められていく。
ただ、そういった鬱屈したような雰囲気を気にしなければ物語としては、それなりに完成されていると思う。本作では特に重いテーマを取り上げ、それを白雪姫の話とからめながら物語をうまく構成していると思う。
しかしミステリーとしては、いまひとつといったところか。特に読者への挑戦状を突きつける形式(それもいまいち歯切れが悪く感じたのだが)としては今回の謎に関してはフェアであるとはいいがたい。また登場するいくつもの密室もそれらが何故構成されたのかというところが弱ければ、ミステリーとしてあまり意味を持たないように感じられてしまう。
かえって、ヴィッキーの挑戦状や密室にこだわらないほうがミステリーとしてのできは良くなったのではないかと感じられる。ページ数は前作並の長さくらいが丁度いい。
<内容>
菊原誠の姉は皆にヴィッキーというあだ名で親しまれている。そのあだ名の元となっている“魔女ヴィッキー”の新作が十年ぶりに出版されることになった。その出版を記念して“魔女ヴィッキー”の著者・関田涙のサイン会が行われると聞いてヴィッキーは誠を引き連れてサインをもらいにいくことに。しかしそのサイン会の最中、作家の関田が殺害されることに・・・・・・
雪の降り積もる別荘での殺人事件、学園祭でのお化け屋敷での殺人事件、そして虚構の世界での不思議な時計塔での殺人事件。これらの謎をヴィッキーはいかにして解くのか?
<感想>
いや、読み終わるのに時間がかかってしまった。ミステリーとしてでき上がっている本ではあるのだが、その個々の事件にまったく興味を持つことができなかった。なにしろ内容が前2作の焼き増しのような事件+メタミステリー。“焼き増し”と表現したのは、これは前2作品の別バージョンという設定の元に事件を構成しているからである。しかし、舞台もトリックも異なるものであるのならば、別の短編もしくは長編として描けばいいのではないかと感じられた。そしてメタミステリーの部分に関しても、まだシリーズ3作品目ということもあり、それほどこのシリーズに入れ込めるわけでもないので、かえってその趣向が虚しく感じられてしまう。
また、本書はこれらの話をわざわざ並行して書いている。それゆえに、個々の物語に集中できなくなってしまい、かえって物語全体がバラバラに感じられた。それならばむしろ、3つの短編(もしくは中編)として描いたほうが読む側にはとっつきやすかったのではないかと思う。
この一連のシリーズ3作品を通して読んだ感想としては、だんだん面白くなくなってきているというのが正直なところである。やけに重いものを背負い込んだり、妙な技巧を凝らしてみたりといったことがかえってあだになっているとしかいいようがない。今現在、普通のミステリーというものは書きにくいのかもしれないが、せめてもう少しストレートに勝負してもいいのではないだろうか。とはいうものの、今回の終わり方ではこのシリーズそのものが終了しているようにも感じられる。これが著者が予定していたペースであるのか、どうかはわからないのだが何か今回の作品はやけに急ぎ足であったようにも感じられる。関田氏の今後の作家活動はどうなっていくのだろうか、などと余計な心配までしてしまった。
<内容>
17歳の早河荏瑠(エル)は母親を癌で亡くし独りぼっちになってしまう。そんなエルの前に伯父を名乗る資産家の早河桂が現われ、エルは伯父の家に住む事となる。エルは伯父との二人暮しで時間をもてあます中、昔起きた事件の謎を探ろうとする。その事件とは17年前、この屋敷で伯父の桂が何者かに襲われ、見ず知らずの女性の死体が暖炉の中で上半身を焼かれた状態で放置されていたと言うものであった。そして、その事件が起きた直後、エルの父親は行方をくらましていたのであった・・・・・・
<感想>
関田氏の作品は読むたびに敷居が高くなっているという感じがする。敷居が高いといってもそれはレベル的な高さではなく、あくまでも読み手の好き嫌いというようなものである。これは勝手な予想であるが、関田氏の著書を読み続けていて満足と感じる人はだんだんと減っているのではないだろうか?
本書はいわば、始まりのない物語と言う風にとらえられた。昔、とある事件が起き、解決されずに多くの謎が残されたままになっている。本書ではその事件の謎を解くという事で話が進んでいく。そして最終的には、それらに解が与えられるのだが、それが私的にはしっくりと来るものではなかった。
事件において、なんらかの必然があり、現場がそういう状況になり、そのときそれぞれの人が取った選択によって現在に至るというのが一連の事件の流れとなるべきだと思う。しかし、そこに用いられた解では、事件が起きて、こうならなくてはならないのだという選択を勝手に選ぶ事によって現在に到ってしまているように思われる。そういうところに、始まりの必然というものを感じる事ができなくて、どうにも不満ばかりを感じてしまう事となってしまった。
本書を読んでいない人には何を言いたいのかさっぱりわからないであろうが、その辺はネタバレにならないように表現しているためである。この作品では今に到っては斬新とは言えないが、とある仕掛けがしてあるので内容について語るのはなかなか難しい。どのような仕掛けなのかは読んで確かめてもらいたいところである。
<内容>
深澤英都は偶然ある女性と遭遇し、一目見て、その人のことを忘れられなくなってしまった。なんとか彼女と再び出会うことができ、希莉絵という名前も聞きだせ、話すことができるようになったのだが、彼女の口から世にも奇妙な秘密を打ち明けられることに!
その後、深澤と希莉絵は、とある全寮制のフリースクールで起こるという事件を未然に防ぐために、二人で乗り込むことに・・・・・・
<感想>
本書は最初にネットで配信されて、それを一冊の本にまとめた作品とのこと。私はネットでは確認していなかったので詳しい事は知らないのだが、いくつかパートをわけて犯人当てのような感じて配信されていたらしい。そういう企画のためか、前半は登場人物の紹介とか設定という感じであり、事件がなかなか起こらない。主人公が出揃い、設定が整ってから、ようやく事件へと入っていくというような構成になっている。
事件を予告するメールから、その事件を防ごうと全寮制のフリースクールへ乗り込む主人公達。そして、そこでいくつかの事件に関連する出来事が起きて、それを主人公達がどう対処するかという流れになっている。
正直言ってミステリとしては中途半端かなと感じる部分が多い。せっかくSF的な設定を用いても、それをミステリとして生かすことができていたようには思えないし、また肝心の事件自体もそれぞれの人物像が見えてこなかったゆえに納得しずらいものであった。
ひとつだけ評価したい点は、この作品では“事件が起きてしまってから解決”ではなく、“事件を未然に防ぐ”というところに力を入れている点。そのためにミステリとして中途半端に見えてしまっている部分もあるのだが、その試みは伝わってくるものがある。
まぁ、結局のところミステリが書きたかったか、青春小説が書きたかったのか、その比重がはっきりしなかった点に問題があったような気がするのだが・・・・・・
<内容>
この世界では死刑制度がなくなり、その代わりとして“仇討ち制度”というものが制定された。その仇討ちが行われる際には、一箇所に7人の人間がそれぞれ「殺人者」「被害者」「共謀者」「傍観者」「邪魔者」「監視者」「探偵」という役割を持って集められる。「被害者」は「殺人者」を72時間以内に殺害しなければならない。しかも、「探偵」の目をかいくぐって・・・・・・今ここに、衆人環視のなかで“仇討ち”が進められることに。
<感想>
これはなかなか面白い作品であった。今年刊行された作品でいうと、ゲーム性の高い小説で歌野氏の「密室殺人ゲーム王手飛車取り」というものがあったが、それよりも本書のほうがゲーム性のレベルは高いと思われる。
7人の人物が集まり、とある建物の中で、ルールにのっとって殺人(仇討ち)が行われる。読む側としては、その7人がそれぞれどの役割を担うものであり、そして殺人がどのような手段で行われたかを推理するものとなっている。これはそれなりにフェアな内容となっており、読者も充分に推理できるようになっているので是非とも挑戦してもらいたい(例によって私は当てることができなかったが)。
と、この“仇討ち”が行われるパートについてはよいのだが、気になったのはもうひとつのパートの部分。本書は“仇討ち”が行われるパートと売れない作家が苦悶するパートと二つの物語が並行に進行していくように書かれている。ただこの作家のパートの必然性がどうも微妙なのである。
当然の事ながら、二つのパートはなんらかの関連性を持っているはずなので、それがどのようなものなのかと興味を示しながら読んでいく事になる。そして、ラストで暴かれた真相によると・・・・・・真相を読むと、さらに作家のパートが必要なのかどうか悩んでしまうことに。別に無くてもよいようで、しかし、あればそれなりの効果は示されているわけで・・・・・・うーん、結局自分自身では結論がつかないままとなってしまった。
まぁ、ページの都合もあるのだろうが、もっと長く書くことができるのであれば仇討ちのパートだけでも良かったのではと思えなくもない。このへんは読む人の判断にゆだねられるところであろう。
とはいえ、最近出版されたミステリのなかでは、ゲーム性と理論的な推理とを両方を持ち合わせている本格ミステリということで読んで決して損はないレベルの本となっている。