篠田真由美  作品別 内容・感想

琥珀の城の殺人

1992年08月 東京創元社 単行本
1998年10月 講談社 講談社文庫文庫(一部改筆)

<内容>
 18世紀ヨーロッパ山中、雪に閉ざされた城館の密閉された書庫で当主の伯爵が死んでいた。遺体は礼拝堂に安置されるが、一瞬にして消失する。呪われた館に渦巻く近親憎悪が、次々と不可思議な惨劇を呼ぶ。


未明の家  建築探偵桜井京介の事件簿   6点

1994年09月 講談社 講談社ノベルス
2000年01月 講談社 講談社文庫

<内容>
 建築探偵、桜井京介と助手の蒼、そして運転主兼力仕事担当のカメラマン栗山深春らの活躍を描く建築探偵シリーズ第一弾。
 遊馬理緒は京介に、取り壊される予定になっている”閉ざされたパティオ”を持つ別荘、黎明荘の鑑定を依頼する。その別荘では理緒の祖父が変死を遂げ、また理緒の父もそこで自殺未遂を起こす。理緒は祖父との思い出の別荘を取り壊されないためにもそれらの謎を解明してほしいという。そしてこの別荘には祖父がスペインから持ち帰ったスターサフファイアが隠されているのかもと・・・・・・。理緒を含む四人姉妹とその父母と叔母の遊馬一族を巻き込む事件に巻き込まれる京介たち。事件はさらに不動産業者の変死を巻き込み、そして京介たちにも魔の手が・・・・・・。京介は黎明荘の事件と建築造形に秘められた真実を解き明かすことができるか?

<感想>
 京介はラストに黎明荘と遊馬歴に関する物語を見事に推測する。

 この話の中では犯人を論理によって追い詰めるという手法はとられていない。むしろ事件よりも、一つの建築物の造形を謎とし、それを究明していくのが主とされている。建築探偵というだけあって、殺人などよりも建築様式にある不可解な部分を建築者や居住者が何を考えてこのように成したかということを解いていくミステリーのシリーズになるのではないだろうか。(もちろん京介には事件の犯人や手段などもちゃんと理解していたようである)それでも一つのミステリーとして遊馬一族を巡る殺人や宝探しとさまざまな要素が詰め込まれ、最後には納得のいく結末へと収束されている。

 後のシリーズ作品についても京介が建築物へのアプローチはもとより、事件に対してどのような形でかかわり、解き明かしていくのかという作風についても期待していきたい。


玄い女神  建築探偵桜井京介の事件簿   6点

1995年01月 講談社 講談社ノベルス
2000年07月 講談社 講談社文庫

<内容>
 旅先のインドで、橋場亜希人が不可解な「密室」死を遂げた。10年後、橋場の恋人だった狩野都は群馬山中に「恒河館」を建て、当時の旅行仲間たち、そして桜井京介を招く。ミステリアスな「館」で展開される真相解明劇。そこへ、さらなる悲劇が! 過去と現在が複雑に絡み合う謎を、京介はどう解き明かすか?

<感想>
 建築探偵シリーズの第2弾であるが、早くも外伝的な内容に感じられる。1作目から、一つの館を主な背景とし、そこに絡み合う事件と共に謎を追う。という作風が続くのかと思いきや、この作品では「館」の存在はいまいち軽んじられている。この作品で主となる背景に据えているのは、インドの神(もしくは神話)。

 ここで起きる事件も、あまりその背景に関わっているようにも感じられず、トリックそのものもあまりたいしたことがない。最終的には驚愕の結末が待っていて、インドに関わる背景と事件とがこれで帰結するのだなというのがわかるのだが、その途上にそういった要素が感じられなかったせいか感動も中途半端になってしまう。最後に大きなトリックを打ち上げるのであれば、そこに至るまでのもっと誘導してくれるような過程がないのが残念。


翡翠の城  建築探偵桜井京介の事件簿   5点

1995年11月 講談社 講談社ノベルス
2001年07月 講談社 講談社文庫

<内容>
 長く一族支配が続いた名門ホテルで内紛が持ち上がった。創業者の娘で95歳になる老女が今も住む別邸・壁水閣の取り壊しをめぐり意見が対立、骨肉の争いに発展したのだ。湖に沈んだ焼死体、血染めの遺書。沼のほとりにたたずむ異形の館に封印された、百年にわたる秘密とは!? 桜井京介が鮮やかな推理で解き明かす!

<感想>
 うーん、全体的に何を書かんとしているのかがよくわからない。建築に関する薀蓄自体は多いのだが、それが肝心の今回の主題となる建築についての解釈の過程からははずれているような気がする。また、ミステリーに関しても、過去の事件の謎についてはあまりに推測的な推理であるし、現在の事件については謎といえるようなものではない。とくに現在起きた焼死体事件というのが、とって付けたようなものであり不必要にしか思えない。

 建造物の構造に対する謎、過去の事件の真相、巨椋一族の利権のまつわる争いと今後の行方、などといった主題があるものの、ひとつひとつについての言及も十分ではなく、関連性が薄い。あれもこれもと欲張りすぎた感がある。


灰色の砦  建築探偵桜井京介の事件簿簿   6点

1996年07月 講談社 講談社ノベルス
2002年09月 講談社 講談社文庫

<内容>
 19歳の冬、我らが桜井京介と栗山深春は「輝額荘」という古い木造下宿で運命的な出会いをとげた。家族的で青春の楽園のように思われた「輝額荘」。しかし、住人の一人・カツが裏庭で変死したことから、若者たちの「砦」に暗い翳が忍び寄る。続いて起こる殺人事件。その背後には天才建築家・ライトの謎が?

<感想>
 これが建築探偵第4作品になるのだが、これまでの作品のなかで本書が一番探偵小説らしいと感じられる。通常であれば事件が起きても人ごとのような桜井京介も自分自身が共同生活を営むアパートにおいて事件が起きれば関わらずというわけにもいかない。とはいってもいつもどおり、いやいやながらは変わらないのだが、それでも周りに請われて京介は事件の謎へと挑むことになる。

 今回は古典的なミステリをほうふつさせる“荘”における殺人。この舞台仕立てがなんともいえず、ミステリとしての興を誘い込む。そしてそこでの共同生活と人物像を背景に事件はなぜ起きたのか、誰によって行われたのかが追求される。さらにもう一つの背景として建築家ライトの人物像の研究が事件の背景と動機とに交錯して行く。今回のこういう舞台仕立ては“建築探偵”が扱うべき事件として実にふさわしい題材として仕上がっている。

 ただミステリとしての出来栄えに触れるのであれば、少々犯人があからさますぎるかなと思える。とはいいつつも主題はそこではなく、何故にこの事件が起きたのか、ということや事件の背後に隠された思いが本書での強調されるべき顛末なのであろう。

 青春ミステリともいえなくもない本書。学生たちが謳歌した楽園ともいうべき砦が哀しくも徐々に崩壊していくさまが実に切々と描き出されている。まさにこれこそが“建築探偵”にふさわしい舞台なのではないだろうか。


原罪の庭  建築探偵桜井京介の事件簿   6点

1997年04月 講談社 講談社ノベルス
2003年10月 講談社 講談社文庫

<内容>
 三年前に起こった、病院長一家惨殺事件。生存者は七歳の少年ただ一人だけであった。大学教授の神代は知人に頼まれ、その少年と彼を引き取って育てている女性と関わりを持つことに。そしていつしか桜井京介をも巻き込んで、過去の事件の真相に迫ることに・・・・・・

<感想>
 厳密に言えばフェアなミステリーというようには感じられないような気がするものの、それでもミステリーとしてよくできていると思う。外部のものが手をくだすのは、ほぼ不可能な状態で、その閉ざされた中での唯一の生存者である少年。どうころんでもその少年が事件に関わっているとしか思えない状況。そうしたなかでのラストで明かされた真相は、驚愕というよりも、むしろ納得してしまう結末であった。思わず、そういうことかとうなってしまう。とはいうものの、それでもやはりミステリーというより物語性のほうが強いようにも感じられるのだが面白い本であることは事実である。

 シリーズとしても本書は大事な分岐点であるといえる。続けて読んでいる人には当然ながら見逃せない一冊であろう。


美貌の帳  建築探偵桜井京介の事件簿   6点

1998年05月 講談社 講談社ノベルス
2004年09月 講談社 講談社文庫

<内容>
 大学院を卒業してから単独で建築にかかわる仕事を請け負いながら暮らしていた桜井京介は資産家である天沼龍麿という老人に呼ばれ、彼のコレクションを見せられる。なぜか天沼は桜井を気に入った様子で、天沼の所有するホテルの開業十周年記念行事に誘われる。その行事ではなんと、伝説の女優といわれる神名備芙蓉が28年ぶりに復活し、三島由紀夫の「卒塔婆小町」を演じるというのである。桜井は渋々ながらも蒼を連れて、そのホテルへと向かうのだが・・・・・・

<感想>
 もうすでにミステリーというよりはドラマと言ったほうがよいのであろう。建築探偵シリーズというよりは、“桜井京介と蒼の二人の過去とこれからの物語”という感じである。まぁ、読む側としてもすでに6冊めとなれば、このシリーズがミステリーよりは物語のほうへ傾いているということはよく理解しているので、もはや気にするようなことではないだろう。これからも二人の物語を(文庫で)追い続けようと思っている。

 今回は桜井京介の身辺にかかわる事情が浮き彫りにされつつある。しかし、具体的な話はまだ出てこなく、次回以降から徐々に桜井の過去が明らかになってゆくのであろう。

 本書でのメインはなんといっても天沼龍麿と神名備芙蓉という二人の関係につきる。他にも、龍麿の娘の過去の悲恋とかの話も出てくるのだが、結局は龍麿と芙蓉の二人の関係の前に影が薄くなってしまう。中途では、あまり感じられなかった二人の関係が最後になって明かされる真実によって、そこまで語られた物語が一気に深いものへと変っていくように描かれている。

 とにもかくにも、あくまで物語としてはなかなか凄みのある内容であった。やはり本書は一つのドラマとして見るべき書なんだろうと強く思わせられた作品。


桜 闇  建築探偵桜井京介の事件簿   5点

1999年04月 講談社 講談社ノベルス
2005年09月 講談社 講談社文庫

<内容>
 「ウシュクダラのエンジェル」
 「井戸の中の悪魔」
 「塔の中の姫君」
 「捻れた塔の冒険」
 「迷宮に死者は棲む」
 「永遠を巡る螺旋」
 「オフィーリア、翔んだ」
 「神代宗の決断と憂鬱」
 「君の名は空の色」
 「桜 闇」

<感想>
 読んで感じたのは「図面が欲しかった」という事。どうも3次元は苦手である。しかも今回は同じような二重螺旋の建物が多く出てくるのだが、それぞれの違いがよくわからなかった。

 本書はミステリー作品としては普通といったところ。ただストーカーが出てくるような嫌な話もいくつかあったので、その分私的にはマイナスな印象。

 最初のほうの短編はそれぞれ個々のミステリー作品として成立しているが、後半の作品はどちらかといえば“建築探偵シリーズ”の時系列上の補完という要素が強いと思える。まぁ、“建築探偵シリーズ”を語るには決して外す事のできない一作とは言えるであろう。

 そして今回シリーズ上としても気になったのは前述したストーカー作品の中で、今後、桜井京介の敵となるようなキャラクターが出てきているのだが、これは本当に話として引っ張っていくのであろうか? 気にはなるのだが、あんまり登場してもらいたくないキャラクターだなと。


仮面の島  建築探偵桜井京介の事件簿   6点

2000年04月 講談社 講談社ノベルス
2006年12月 講談社 講談社文庫

<内容>
 イタリアの小島の売買に関わる話が持ちかけられ、専門家による調査を頼みたいということで、神代教授と桜井京介はヴェネツィアへと向かう。しかし、現地へ辿り着くと、島の持ち主の未亡人は島を売る気などなく、何かの間違いではと言うのであった。
 一方、神代から養子縁組の話を持ちかけられ日本で悩んでいた蒼であったが、神代と京介に合流しようと深春と共にヴェネツィアへと行くことに。そして合流した四人であるが、小島とそこに隠されているという噂のある絵画を巡るトラブルに巻き込まれることに!

<感想>
 島を巡って繰り広げられる色々な事件については、最初はどれも茶番のようだなと興味薄く読んでいた。しかし、後半になって、それらの茶番の数々も実は仕組まれたものであるということに気がつき、俄然興味深く読まされることとなった。それなりに、普通のミステリー小説として楽しむことができた作品である。

 シリーズとしては蒼の今後における分岐点ともいえなくもないのだが、このくらいの展開であれば、どの作品でも繰り返されていることなので、さほど特筆すべきものではないだろう。とはいえ、シリーズを続けて読む上では当然のことながら踏襲しておかなければならない作品ではある。

 今回、舞台はヴェネツィアということで、“建築探偵シリーズ”らしく、町の様子がさまざまな描写で描かれている。とはいえ、その建築的な設定をもう少し内容に効果的なものとして使ってもらえればと思われる。そうしなければ、ただの旅情ミステリーでしかなくなってしまう。


センティメンタル・ブルー  蒼の四つの冒険   

2001年06月 講談社 講談社ノベルス
2007年08月 講談社 講談社文庫

<内容>
 「蒼によるまえがき」
 「BLUE HEART, BLUE SKY」
 「BEELZEBUB(ベルゼブブ)」
 「DYING MESSAGE
 「SENTIMENTAL BLUE」
 「カゲリへ・・・・・・」(特別書下ろし)

<感想>
 推理小説というよりは、建築探偵シリーズに登場している主要キャラクタ“蒼”の青春を描いたエピソード集というような内容。

 この作品の中で「DYING MESSAGE 」だけは他の作品集のなかで読んでいた。そのときには、さほど印象に残るような作品ではなかったのだが、この作品集のなかでの一エピソードとしてはうまく作られているということを納得できるものとなっている。

 最初の「BLUE HEART, BLUE SKY」だけは別として、残りの作品は一連の物語として読むことができるので、長編を一冊読み終えたような気分にさせられる内容であった。

 ただ、蒼というキャラクタの作品を読まされるはずが、この作品の中で登場する別のキャラクタにも多々スポットが当てられているので、蒼だけに関するという意味では消化不良のようにも感じられた。せっかくの外伝なのだから、もう少し蒼自身の気持ちで物語を進行させてくれてもよかったのではないかと思われる。

 本書では途中から蒼という人物の気持ちのみならず、もうひとり(?)別の人物のさらに複雑な心情についてが大きな比重を占めることとなってしまい、そちらに対しての著者の入れ込みのほうが強くなっていってしまったのではないかとも感じられた。

 また最後のエピソードの「SENTIMENTAL BLUE」は、ただのドタバタめいた作品となってしまい、もう少しミステリらしさを強調してもらいたかったところである。

 まぁ、蒼の不安定な青春時代を描くエピソード集としてはよくできているのではないかなと思われた。その反面、蒼の成長の様子をもう少しじっくりと描いてもよかったのではないかとも思われた。できればもう少し、高校時代のエピソードについて描いてもらいたかったところである。


月蝕の窓  建築探偵桜井京介の事件簿   6点

2001年08月 講談社 講談社ノベルス
2007年09月 講談社 講談社文庫

<内容>
 明治に建てられた洋館、月映荘。この屋敷では昔から数々の忌まわしい事件が起きたと噂され、現在では廃墟となっている。その放置された屋敷を保存しようという動きがあり、桜井京介は知人によって狩り出されることに。しかし、京介は不思議な力を持った少女からその屋敷へと行く事を止められる。その制止を振り切り、屋敷へと訪れる京介。そして屋敷の隣に住む老女から晩餐に招待された席で惨劇が起こることに!

<感想>
 今回は始まるまでの前置きが長かったかなと。ただし、そこをクリアすれば濃厚なミステリを味わうことができるようになっている。この「月蝕の窓」の前の作品にあたる「仮面の島」や蒼の物語を描いた「センティメンタル・ブルー」を合わせて考えてみると、ここ最近は心理的なミステリ作品を描くようになったのかと思われる。この作品も表面的な事件の構成のみにとどまらず、その事件を起こすに至った心理的な面がまざまざと描かれた作品となっている。

 今作で特徴的と思えたのは主人公である桜井京介の内面が多く描かれているところ。よくよく考えると京介はこのシリーズの主人公であるのだが、その内面がきちんと描かれた作品というものはあまりなかった気がする。今までの物語の語り手がほとんど蒼や深春などであったため、京介は探偵役ではあったにせよ、その内面は語られていなかったような気がする。

 それが今作から蒼が京介のもとから離れて行き、京介が自分自身のことのみを考える時間ができたからこそ、このような展開となったのだろう。今後はますます京介の内面と、その将来についてが描かれてゆくことであろう。

 今回の作品は1人の女性を発端として、ひとつの家を元に続く惨劇が描かれた内容になっている。読んでいる途中では、結末は単純なものと思っていたのだが読み進めていくと、思ったよりも複雑で手の込んだほうへと展開してゆくこととなる。序盤では一見無駄と感じられた場面もあったのだが、見事にそれらも回収して、一連の事件へと収束していったところは見事と思われる。今作は質、量共に重厚なミステリ作品であったと言えるであろう。


綺羅の柩  建築探偵桜井京介の事件簿   5.5点

2002年08月 講談社 講談社ノベルス
2008年07月 講談社 講談社文庫

<内容>
 30年以上前に、マレーシアの密林で当時のシルク王と呼ばれたジェフリー・トーマスが行方不明になるという事件が起きた。当時の事件の関係者がそのジェフリー・トーマスの行方を調べてもらいたいということで、桜井京介や一時期預言者として名をはせた輪王寺綾乃らが呼ばれることに。大会社の会長に招待され、知人である遊馬朱鷺に強く促され、しぶしぶと軽井沢へと出向く桜井京介とその一向。しかし、彼らはそこで思わぬ事件に遭遇する事に!

<感想>
 ミステリ作品らしいというよりは、いつもの建築探偵シリーズらしい作風というべきか。ただ、建築探偵らしいというよりも「仮面の島」以来、旅情ミステリ風になってきたなと感じられてしまう。

 メインは30年前に行方不明となったシルク王と呼ばれたアメリカ人の行方について言及するという漠然としたもの。しかも、それを依頼する側もなかなか事件の核心に迫ろうとせず、遅々とした進行にやや歯がゆく感じられた。するとそこである人物が不審な死を遂げるという事件が起こるものの、ミステリ的な事件と言うべきかどうかはやや微妙。

 そして舞台をタイへと移し、徐々に事件の核心へと迫ってゆくこととなる。

 と、こういった話の流れであり、いつもながらのシリーズ展開といったところか。今作は特に主人公達に関しての大きな分岐点というものがなかったり、事件自体も物語として収まる範囲であったりと、シリーズ作品として特に重要な点というものは見受けられなかった。ただ、過去に登場した人物が結構出ていたりするので、そういった観点からは楽しむ事ができるかもしれない。

 まぁ、単体で楽しむという作品ではなく、あくまでも建築探偵シリーズの一冊という目で見れば、それなりに面白く読めるのではないだろうか。


angels  天使たちの長い夜   6点

2003年05月 講談社 講談社ノベルス
2009年08月 講談社 講談社文庫

<内容>
 夏休みの高校の校舎内。教師たちが突然食中毒に見舞われ、校舎に残されたのは数人の生徒のみ。そろそろ自動的に校門も閉まろうかという頃、校庭で男の死体が発見される。その男は学校関係者ではなく、誰も身元を知るものはいない。死体を発見した生徒達は、構内で起きた事件を彼ら自身の手で解決しようと、そのまま校舎に居残る事を決め・・・・・・

<感想>
 建築探偵シリーズの番外編。蒼こと、薬師寺香澄が主人公・・・・・・というよりは、登場人物のひとりとして語られる事件。

 本書はどちらかというと青春小説というにふさわしいような展開と内容。設定はかなり特殊ながらも、高校生達の不安定な心持ちを表した作品となっている。しかも、ミステリ小説としても、それなりにきちんとしている。むしろ、本編の建築探偵シリーズよりも本格ミステリらしい設定と言えよう。

 体裁は本格ミステリ小説らしくても、基本的な事件は最初に発生する殺人事件しかないので、やや薄めの内容ではある。事件の解決についても、確たる証拠のない推測がメインの推理となっているので、やや決定打に乏しいという印象も受ける。

 ただ、高校生達の大人びているようで、どこか危うさも感じさせられる青春小説としての内容はうまくできているかなと。ひとつの事件を通す事によって、吐き出される胸の内と、そこから新たに始まる人間関係といい、良く描けていると思われる。

 また、推理小説としては薄味だといったが、それでも内容が凝られている事は事実で、校舎の図解を用いる事によってアリバイの信憑性を強調したりという工夫がきちんとなされている。また、作品自体に仕掛けをしたり、冒頭にミスリーディングを取り入れたりと、これでもかと言わんばかりにミステリ作品らしい趣向がきっちりと作中に埋め込まれている。

 本書は意外とミステリ初心者向けには格好の作品と言えるかもしれない。建築探偵番外編とはいえ、この作品から読むのもありなのかもしれない。本書は番外編としては第2作目となるので、先に一作目である「センチメンタル・ブルー」を読んでからこの作品にとりかかり、それから建築探偵本編に入っていくという読み方をここではお薦めしておきたい。


魔女の死んだ家   5点

2003年10月 講談社 ミステリーランド

<内容>
 昔、あたしは大きな家に、おかあさまとばあやとねえやの4人で暮らしていた。あたしのおかあさまはとても綺麗な人で大勢の男の人たちがおかあさまのもとへ訪れてきた。そうした日々が続くなか、ある日おかあさまが殺された。そしてあたしの手には確かに銃を撃った感触が残っているのだが・・・・・・

ミステリーランド 一覧へ

<感想>
 意図した構成であると思うのだが、その狙いのせいか若干話の流れがわかりづらく感じられた。しかしミステリーとしてはよくできていると感じられた。事件の回想から、事件の真相にいたるまでの段階もなかなか凝った創りをしている。一見、単純そうな話に思えて、実は裏には・・・・・・となかなか油断のならない内容である。

 ただし、これがミステリーランドという企画にあっているのかどうかというのが一番の疑問点。この本は非常に雰囲気が出ているのだが、それは決して子ども向けの雰囲気ではないような気がする。とはいうものの、読んでいて“少女漫画風のホラーサスペンス”というようにも感じられた。案外、今の子どもであったらこれくらいの内容は許容範囲なのかもしれない。でも子どもといっても、それは女の子であって、男の子向けの本ではないだろう。


アベラシオン   5点

2004年03月 講談社 単行本

<内容>
 美術の勉強のためイタリアに留学してる日本人・藍川芹はパーティーに出席した際に、奇妙な場面を目撃してしまう。二人の男が話をしていて、ひとりが席を立った後、残ったほうの男が死亡してしまったのだ。奇怪な事件に巻き込まれた芹は、後にその事件の関係者であるアンジェローニ・デッラ・トッレ家の当主アルベーレ・セラフィーノから数々の美術品を所有すると噂される“聖天使宮”へ招待される。その招待を怪しみながらも“聖天使宮”へと向かう芹。そこで出会ったのは天使かと見まがうようなな美少年ジェンティーレであった。
 そして芹が“聖天使宮”に滞在することとなった日から連続殺人事件の幕が上がる。

<感想>
 篠田氏が暖めていたものを書ききった渾身の超大作・・・・・・ということなのだが感想はきわめて微妙である。なにが微妙なのかというと、どうも私には本書における主題というものがいまいちピンとこなかったのである。そもそも美術の世界が語られるわけなのだが、舞台となる建物が現実のものではないためか(なんらかのモチーフはあるのかもしれないが)その世界観に入り込みづらく感じられた。

 そして物語が進むにつれ、今度はナチスドイツの話まで語られ物語はしだいに厚みを帯びてゆく。その内容は決して難しいというわけではない(美術の造詣に関してははっきりとわからないこともあるにしろ)。とはいうものの、結局主題はどこにあるのだろう? という思いは最後まで拭い去られることがなかった。

 本書においてミステリーとしてのでき栄えもどうかと思えることが多々あった。徐々に事件が起きて行き、それぞれの事件が不可能めいたものとなっている。しかし、不可能性が語られながらも、それぞれの事件において多々抜け穴が見受けられる(多くの使用人が闊歩しているということもその一つ)ということも事実である。

 ラストにおいては驚くべきことが語られたり、十分な見せ場などもあるのだが、やはりその前段での事件の見せ方にもう少し工夫が欲しかったというところである。

 主題がいまいちピンとこないと最初に書いたのだが、“見えないものを見ようとするために美術というものに触れていきたい”という美術に対する強い姿勢が感じられたことは確かである。それだけは十分に理解できた。

 とはいえ、著者が全霊をこめて書ききった一個の小説としては評価できるのだが、ミステリーとしては少々物足りない作品であると感じられたことが残念である。


Ave Maria  アヴェ マリア   

2004年05月 講談社 講談社ノベルス
2010年08月 講談社 講談社文庫

<内容>
 大学生となりつつも今だに昔の忌わしい記憶から逃れることができないでいる蒼こと薬師寺香澄。その蒼が抱える問題の元凶である薬師寺事件も、もうすぐ時効を迎えることとなる。そんなおり、蒼のもとに“響”と名乗る者から封筒が届く。その中にはひとこと「REMEMBER」と。蒼は幼いころの記憶をたどりつつ、過去に起きた事件と向かい合うことを決意するのであったが・・・・・・

<感想>
 シリーズ作品というか、シリーズ外伝として重要な位置を占める作品であることは理解できる。しかし、それならばミステリ的な趣向は抜きにして蒼が過去の事件を自身で再確認してゆくというようなもので良かったと思われる。むしろミステリ的というかサスペンス的な要素を入れたことにより話が台無しになってしまった気がするのだ。

 というのも、今回起こる事件の犯人というか、蒼と敵対する者の立場が非常になさけない。ストーカーまがいの引きこもりと、イタイ行動をとる鼻つまみ者という二人。そんなどうでもよさそうな人物が物語をかき回し、それに翻弄される蒼の立場というのも読んでいて非常に微妙と感じた。結局のところ、今回新たに登場した人物については、どれもシリーズとして不必要な人物しかいなかったように思われた。

 今回登場した人物がどれも情けなく感じたためか、それであれば今まで登場したキャラクターのみで話を回してくれた方が十分良かったのではないかと思われる。例えば蒼の父親について、もっと掘り下げるとか。

 という感じで、シリーズ通してという意味合いでは重要なのかもしれないが、作品単体としては実に微妙な出来栄えであったと思われる。この作品は特に「原罪の庭」に続く作品という位置づけであるので、建築探偵シリーズを読み続けてきた人しか手に取らないであろうから、ミステリ的な趣向を抜いて単に蒼の内面を描くというだけでも十分良かった気がするのだが。


失楽の街   建築探偵桜井京介の事件簿   6点

2004年06月 講談社 講談社ノベルス
2011年08月 講談社 講談社文庫

<内容>
 W大学教授の神代宗は、大学を退官した安宅俊久と交流を深めていた。安宅は取り壊しが迫る“旧朋潤会牛込アパートメント”に住んでいた。そこは関東大震災後の東京に質の良いアパートをという目的で建てられた建築物であった。その建物の取り壊しと、安宅の今後を憂いていた神代であったが、彼のもとに騒々しい客が事件を携えてやってくる。6年前の巨椋家の事件で知り合った群馬の工藤巡査部長が失踪した少年の行方を追って東京へと出てきたのだ。その少年は爆弾作りを趣味としており、群馬で騒動を起こした後に行方不明となったのだという。そして4月1日のW大講堂前を皮切りに連続爆破事件が幕を開ける。マレーシアから戻ってきた桜井京介らと共に神代は事件の渦中に深くかかわっていくこととなり・・・・・・

<感想>
 今作では桜井京介の恩師である神代宗が中心に物語が語られる・・・・・・のだが、文庫中心に読んでいるせいか、蒼の外伝を読んでいたり、リアルタイムで神代宗の過去の話である「黄昏に佇む君は」を読んだりしているので、物語には普通に入り込めた。まぁ、元々が桜井京介周辺で起こる事件という取り扱いのものが多いように思われるので、むしろこういう流れの方が普通かもしれない。

 篠田氏による都市論を描いた作品とのことであるが、爆弾魔のアクが強くて、そちらに重点を持っていかれたという気がしてならない。建物云々よりも破壊的な衝動のほうがやたらと強かったように思われる。その“衝動”こそが現代の都市論における重要な点であるという見方もあるのかもしれない。

 とはいうものの、爆弾魔というものを物語の中で扱うのはどうかと思われる。元々爆弾事件という史実があり、そうしたものを描きたかったという思いもあるのだろう。ただ、最初から最後までこの爆弾魔や都市を破壊したいと実行しようとする者たちには、ほとんど共感を得られず、ただただ迷惑なだけという感情しか残らなかった。何を言い訳にしても、結局無差別で事件を起こす者に対しては、何ら同情の余地も抱けない。

 そんなわけで、本書に対しては後味どころか、最初から最後まで苦々しく読んでいたという印象。シリーズとしては、蒼が桜井や神代の元から本当に旅立ち始めようとしているのだなと感じられた。すでにノベルスでは、建築探偵シリーズが完結しているのだが、私は文庫で読んでいるので、残りはあと5冊ということになる。今後は蒼の登場が少なくなり、桜井京介を中心に事件が起きてゆくのだろうか。色々と期待をしつつ、次巻を待ち望みたい。


胡蝶の鏡   建築探偵桜井京介の事件簿   5点

2005年04月 講談社 講談社ノベルス
2012年08月 講談社 講談社文庫

<内容>
 いつもと変わらぬアルバイト生活を続ける栗山深春であったが、一緒に住む桜井京介のほうは、何やら様子がおかしい。今まで全く運動などしなかったのに、急にジムに通いだしたり、さらには家事に専念したりとおかしな様子。そんなあるとき、深春は京介に誘われて京都へと出かけることに。そこで出会ったのは、かつてヴェトナムで出会ったことのある四条彰子。彼女はヴェトナムの資産家の家に嫁いでいたのだが、現在何やら悩みがあるよう。どうやら、ヴェトナムの夫と離婚することを考えているようなのだが・・・・・・

<感想>
 以前の作品に出たという四条彰子という人物が出てくるのだが、全く思いだすことができない。過去の作品をひも解いてみると「桜闇」という短編集のなかの「塔の中の姫君」に登場した人物であった。さすがに、そこまで事細かく覚えていない。

 本書は一応、ミステリじみてはいるのだが、何故かそういったものを感じさせず、単にヴェトナムの資産家一族の確執を描いた作品のように思えた。過去に起きた拳銃による死亡事故と現代に起きた毒殺事件。こういった事件は起こるものの、物語全体としては、なんとなく添え物のように感じられてならない。一応、毒殺事件に関しては、それなりに考え抜かれてはいるのだが。

 また、本書で奇妙に感じられたのは、今まで探偵活動に対して消極的であった桜井京介が、やたらと積極的に活動すること。むしろ、困惑する栗山深春を引っ張りまわし、京都へ、ヴェトナムへと飛びまわる。

 今回の作品では、内容よりもその京介の不自然さに気が散ってしまったのであるが、あとがきによると、今後完結編へと向かう作品への伏線となっている模様。どうやら奇妙な行動も一連の作品群の伏線に関わる謎と捉えればよいようである。と、そんなわけで、この作品単体では納得しづらいのであるが、残りの作品が文庫化されるのを待ちぼうけることとしたい。


聖女の塔   建築探偵桜井京介の事件簿   6点

2006年06月 講談社 講談社ノベルス
2013年08月 講談社 講談社文庫

<内容>
 大学に復学した蒼であったが、学業にも身が入らず、鬱屈とした日々を過ごしていた。そんなある日、以前劇団の手伝いで知り合った川島実樹から、相談を持ち掛けられる。彼女の友人がとある宗教団体により監禁されているというのである。暇を持て余していた蒼は、なんとなく川島の相談を受け、その宗教団体について調査をはじめることに。一方、桜井京介は栗山の紹介でW大の後輩だという自称探偵の武智兵太からの相談を受ける。武智が現在調査しているのは、長崎の小島にある教会が全焼し、そこで宗教活動を行っていた者たちが焼死したという事件。この事件の謎について、桜井は武智とともに調査をするはめとなり・・・・・・

<感想>
 建築探偵シリーズも後半戦というか、いよいよ佳境という感じである。シリーズの後半にて「桜闇」という短編集があったのだが、この作品の内容が徐々に物語に浸透し始めてきたという感覚。本書もそうなのであるが、「桜闇」の短編に出てきたキャラクターが登場し、事件にかかわってきている。以前、読んだときにはそうは感じなかったのだが、実はその「桜闇」こそがシリーズ後半の序章となっていたということに気づかされる。

 今作品では宗教団体を取り扱ったような内容となっている。蒼のほうは、無謀にも謎の宗教団体に生身で突入しようとし、桜井京介のほうは過去の宗教団体の秘密にせまろうとする。実際のところ、それぞれの宗教団体の背景がメインというわけではないのだが、その宗教の印象付けられる“閉鎖性”というものを利用して、本題からうまく目をそらそうとしているように感じられた。また、最後に登場する胡散臭い人物像に対して、これまた宗教における胡散臭さを利用しつつ、相乗効果を出しているというような感じにもさせられた。

 今作の内容は、すでに建築探偵どこへやらというようなもので、ミステリというより冒険譚。しかも最終的には、まるで“名探偵対怪人”というような構図まで浮き彫りとなってくる。この対決の構図が大きなテーマとなって次作以降に立ちふさがることとなるのか?


一角獣の繭   建築探偵桜井京介の事件簿   6点

2007年06月 講談社 講談社ノベルス
2014年08月 講談社 講談社文庫

<内容>
 前に起きた事件により傷ついた蒼。犯人は捕らえられたものの、たいした罪に問われることもなく、野に放たれることとなった。本格的に対決の姿勢を見せる桜井京介。そのため、蒼を門野老人のつてによって安全な保養所に預けることとする。渋々そこで過ごすこととなった蒼であったが、彼はそこでユニコーンと見まがう少女と出会うことに。その少女も蒼と似たような人生を経験しており、過去に親が謎の死を遂げるという事件に巻き込まれていたのである。少女と触れ合うことにより、徐々に蒼は彼女を護ろうとする意志が芽生え始め・・・・・・

<感想>
 話が始まった当初は、保養所で過ごす蒼の話がメインとなり、まるで外伝のような内容と感じられてしまった。その保養所で蒼が出会った少女・晶那。過去に、彼女の父親と祖母と父の愛人が亡くなるという事件の存在が明るみになり、その話をメインとして物語が流れていくこととなる。

 晶那の境遇が蒼自身の体験と似たものであることと、彼女自身に惹かれてゆくことにより、晶那に対し保護欲が芽生え始める蒼。蒼と一緒に保養所で過ごすものの、手持無沙汰のため、晶那の過去の事件を調べる深春。物語の表舞台にはなかなか出てこないものの、それとなく蒼の様子を見張っているかのような京介。そうしたなかで、平和と思われた保養所のなかで、過去をなぞるような事件が起きることとなる。

 最初は外伝的な話かと思いきや、最終的にはしっかりと前作と今までのシリーズにつなげる内容となっている。過去と現在の事件については、なんとなくあっさり目に流してしまったかのような感もあるのだが、それよりもシリーズとしての展開のほうが驚愕がひろがる。だんだんと探偵シリーズというよりは、超人対怪人のような伝奇的な謎めいた内容になってきているような。終幕へと至る準備が着々と進行されている。この作品の結末を読むと、もう次の作品が気になって気になってしょうがない。残りあと2冊! どのような展開を迎えることとなるのか!?


黒影の館   建築探偵桜井京介の事件簿   6点

2009年01月 講談社 講談社ノベルス
2015年08月 講談社 講談社文庫

<内容>
 栗山深春や蒼たちのもとから姿を消した桜井京介。その行方を捜そうと二人は師にあたる神代宗から知っていることを聞き出そうとする。二人の熱意に負けた神代は、桜井京介の過去を語ることに。それは、神代が義父の死によりイタリアから日本に戻ってきたときの1980年のことであった。神代は門野と再会し、彼により人里離れた土地に連れ出される。その地に立つ久遠家の館、そしてアレクセイと名乗る美少年と出会うことに。しかし、神代はその地で久遠家の過去に起きた事件と、現在に起こる毒殺事件に巻き込まれることとなり・・・・・・

<感想>
 次巻が最終巻、ラストまであと2冊! というところでまた過去へと戻るのかと。実際にはそうでもないのだが、なんとなくこのシリーズって暗い過去を掘り出す作業ばかり行っているような印象。

 今作では神代宗と桜井京介の出会いが描かれている。門野に騙されて(?)、神代がとんでもないところに置き去りにされ、さらには桜井京介らが住む洋館にて殺人事件に巻き込まれる。そこで、桜井京介の母親の死についての謎と真相が語られてゆくこととなる。

 今作ではラスボス登場となるべきところだと思いきや、一向にその姿を現さず。むしろ中ボスの暗躍ぶりが目立った内容。次で終わってしまうのに、このくらいの進行度で良いのかなと感じられてしまった。何しろ、まだ明らかになっていない過去もあるようだし。もう、現在のほうについてはなし崩し的で、過去に起きたことに対する真相のほうが重要だということなのであろうか?

 シリーズ作品としてはどうにもモヤモヤ感が残るものとなってしまったが、泣いても笑ってもあと1作なので、そこでの大団円を期待するのみ。まさか、全てに解決がつかず、蒼を主人公として桜井京介が黒幕となる“Season2”とか出ないよな??


燔祭の丘   建築探偵桜井京介の事件簿   6点

2011年01月 講談社 講談社ノベルス
2016年08月 講談社 講談社文庫

<内容>
 周囲の者達に別れを告げ、父親と対決すべくひとり旅立った桜井京介こと久遠アレクセイ。そんな彼の後を追おうと、神代、栗山、薬師寺香澄らが奔走し、行方の手がかりを得ようとする。そうするうちに、京介が高校時代に過ごした学園での事件の存在が明らかとなる。果たしてその事件の真犯人は本当に桜井京介なのか!? そうして京介を含め、一同がたどり着いた真相と、その行く末は・・・・・・

<感想>
 長かった桜井京介との冒険もこれで終わりとなる。私は文庫によりこのシリーズを追ってきたので、最初の「未明の家」が文庫化された2000年以来。冊数を数えてみると、蒼が主人公を務める外伝も含めると19冊も読んできたのかとびっくりしてしまう。意外とシリーズ作品の数がこんなにも多かったのかと。

 この完結編である「燔祭の丘」は、まさしく追尾を飾るにふさわしいオールスターキャスト総出演。まぁ、出てきていないひともいるとはいえ、これだけのメインキャストがいれば十分であろう。今作は、意外にも桜井京介が主人公と言うよりは、薬師寺、栗山、神代らの京介を追いかける側のほうが主役として存在感を示していたように思われる。面白いのは三者三様に京介を追いかけつつ、その過去を調べており、薬師寺はひとのよさ全開で騙されつつ京介の元へと連れてゆかれ、栗山は強烈な個性を持つ人たちの手下として扱われつつ京介に近づいてゆき、神代は他の二人とは別に大人らしい展開(?)で京介の過去と現在に迫ってゆく。この三者三様が建築探偵シリーズらしさを出していて、最終作として微笑ましく読むことができた。

 もはや結末はどうでもいいというか、シリーズキャラクターが一堂に会すことができればそれで十分。特に、誰か欠けるということもなく(もちろんサブキャラクターの皆さんたちは色々とあるのだが)、基本的にハッピーエンドのような形で満足させられた。当初は本格ミステリ的な内容のものとして読んでいたはずであったのだが、中盤くらいからはもうキャラクター作品という感触の方が強くなったという印象。まぁ、それでも最後まで追うことができて良かったとは思っている。ただ、その後に続く“returns”とか“episode0”とかはお腹いっぱいでもう十分という感じ。


黄昏に佇む君は   6点

2011年11月 原書房 ミステリー・リーグ

<内容>
 私立W大学文学部教授・神代宗。彼はよく人から聞かれることがある。「何故ヴェネツィア派絵画を研究課題としたのか?」と。神代は1966年当時の自分が大学生であったことを思い返す。宗の実の姉と結婚した神代清顕に養子として迎えられた宗は神代姓を名乗ることとなり、神代夫妻の援助により大学へと通うこととなる。そして大学でひとりの美少年と出会い、彼のモデルとなったことから事件に巻き込まれてゆくこととなる。

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<感想>
 篠田氏の本は建築探偵シリーズを文庫版で読みとおしているところ。ゆえに、その建築探偵シリーズ外伝とはいえ、最新巻を読んで大丈夫かと心配したのだが、問題なく読むことができた。本書は建築探偵シリーズでお馴染みの神代教授の過去にスポットを当てた作品。

 思ったよりも内容の濃い小説であった。ミステリとしては薄めであるのだが、小説としては非常に内容が濃い。300ページほどの作品で、どちらかと言えば薄めのもの。ゆえに内容もライトなものだろうと思っていたのだが、思いもよらず濃厚な小説に仕上げられている。

 この作品で驚かされるのが、この薄いページの中に、義理の父と息子の関係、画家の兄弟の感情と憎しみ、その兄弟と父親との関係、こういった感情がまざまざと描かれているのである。さらにはここに描いただけではなく、複雑に彩られた関係の中で最終的には本編の主人公である神代宗へと回帰することとなるのである。

 神代宗の視点から語られるのみの物語かと思っていたのだが、それよりも他の人物からの神代宗への思いの方がより強烈であり、印象を残すこととなる。また、こういった人生を歩んできたがゆえに、建築探偵シリーズに出てくる面々を温かく見守っているんだなと納得できてしまう。




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