真保裕一  作品別 内容・感想2

アンダルシア   6点

2011年06月 講談社 単行本
2012年02月 講談社 講談社ノベルス
2021年03月 講談社 講談社文庫

<内容>
 スペインを訪れていた外交官・黒田康作は、フランスとスペインの国境をまたぐ小国アンゴラから、日本人によるSOSを受けることに。本城美咲と名乗る女性は、パスポートを亡くし、身動きがとれなくなったという。他の職員の白い眼を無視し、黒田は本城を迎えに現地へと車で移動する。その後、黒田は本城と会い、車でバルセロナまで送り届ける。ただ、本城と話をしているうちに黒田は相手の話におかしな点を見つけ、不審に思い始める。その後、アンドラから殺人事件の報が届き、本城美咲が事件に関連していると・・・・・・

<感想>
 外交官シリーズ3作目。ようやくの文庫化。同時期に文庫化された「天使の報酬」を読んでから、さほど時期をあけずに読むことができた。

 まぁ、面白いと言えば面白いのだが、色々と不満に思える点もある。前作でも思ったことなのだが、外交官という立場の者がいったいどこまで事件に関わるべきなのか、また、実際にどこまで事件に関わることができるものなのかが不透明だということ。まぁ、外国において色々な問題や責任を負うべき立場などがあいまいになるからこそ、むしろ色々と関われるということもあるのかもしれないが。

 そして本書では特に、主人公の黒田が余計な介入をしたことによって、話がややこしくなったのではないかと、とらえられるところも大きな問題と言えよう。それゆえに、せっかくの黒田の善意も無駄というか、黒田自身の立場も微妙なものとなり、この作品自体がシリーズの立ち位置を危うくしているように思えてならなかった。

 結局のところ、設定が複雑すぎるかなと。その設定について、色々と書き込まねばならなかったり、主人公の立ち位置の不安定さによって、やたらと主人公に負荷がかけられたりと、余計と思える描写が多すぎるように思えてならなかった。物語の筋は複雑であっても、主人公の立ち位置はわかりやすいもののほうが良いのではないかと考えてしまうシリーズである。


ローカル線で行こう!   6点

2013年02月 講談社 単行本
2016年05月 講談社 講談社文庫

<内容>
 鵜沢哲夫は県庁から県の最大のお荷物とされる赤字ローカル線への出向を命じられた。出世争いから外れたと気にしながら働く中、その赤字ローカル線に新社長がやってくる。再生を託されたのは地元出身の新幹線カリスマ・アテンダント篠宮亜佐美(31歳)。彼女が繰り出す奇抜なアイディアとやる気にひっぱられ、徐々に経営が回復すると思われるなか、不穏な事件が相次ぐこととなり・・・・・・

<感想>
 地方の赤字路線を復活させようという内容。カリスマ・アテンダントの女性が社長として引っ張られてきて、県から出向してきている職員や、やる気のない者たちを鼓舞し、ローカル線を盛り上げてゆく。また、そんな彼女たちを邪魔しようとする勢力があり、それらに対処するという難題も抱えることに。

 ありがちなお約束の成功物語でありつつも、楽しく読める内容。元カリスマアテンダントの女社長と県から出向してきた職員の二人が主人公でありつつ、他にも彼らと共にさまざまな登場人物がローカル線を盛り立ててゆく。笑いあり、涙あり、恋ありのドラマ化映画化もってこいの作品ともいえよう。

 ただ、ひとつ思ったのは、前半はローカル線の復興が中心に話が進むのだが、後半は真保氏の代表的な作風である役所を中心としたいわゆる“小役人小説”となってしまっている。後半になるとローカル線と町に関わる陰謀を暴くというものが強くなり過ぎて、ローカル線を盛り立てるという部分が薄まってしまったのはやや残念。最後まで、もっと路線中心の復興小説として進めてもらいたかったところ。


正義をふりかざす君へ   6点

2013年06月 徳間書店 単行本
2016年03月 徳間書店 徳間文庫

<内容>
 不破勝彦は元妻の依頼により、久々に故郷へと戻ることに。不破はその故郷で新聞社で働き、結婚したのち義父のホテル業を手伝っていた。しかし、食中毒事件で義父が失脚し、仕事が立ち行かなくなったとき、勝彦は故郷から逃げ出したのであった。そんな彼に元妻が頼むのは不倫の証拠写真を撮った者を調べてもらいたいというもの。元妻の不倫相手は、今度の市長選に立候補する男だという。選挙妨害に関わるものなのか、不破が昔の伝手をつかって調べていこうとするのだが、彼に対する思いもよらぬ仕打ちが待ち受けており・・・・・・

<感想>
 以前、真保氏が選挙に関わる小説を書いていたが、それに陰謀劇的なものを加えたような作品。かつてとある事件により故郷から逃げ出した主人公が、元妻の頼みでスキャンダル事件の調査を行うこととなる。

 最初は、もっと主人公が道徳的なことを無視して、ハメットの小説のように町ぐるみで仲たがいさせるような陰謀をしかけていけば面白いのではないかと思ってしまった。ただ、作品を読み続けていくと、実は最初から主人公自身が陰謀に絡めとられ、なすがままに近いような状況になっていたということを理解させられる。

 主人公がおとなしめの性格ゆえに微妙な内容であったかなと。いくら本人に非があるからといって、かつての恨みを持つ者たちにより、なすがままというか、頭をさげるがままというのもどうかと。この辺は読んでいてストレスがたまるところ。“正義をふりかざす”ということの是非がテーマではあるのだが、その“正義”というもののありかたに主人公自身がこだわり過ぎているようにも思われる。まぁ、その辺はいかにも真保氏描く主人公の愚直さが表れていると感じさせられた。

 主人公に対する周囲からの恨みつらみにはストレスを感じさせられるものの、物語全体としては、なかなか面白かったかなと。これは主人公のみならず、物語全体としてもあまり“正義”という観点にこだわり過ぎない方が、町ぐるみの謀略小説として楽しめたのではないかと思われる。実はこの本を購入した後、読むことを敬遠してしまっていたのだが、その理由はこのタイトルにある。なんか、このタイトルを見ると倦怠感が押し寄せてくるのであるが、実際に読んでみるとそこまでというものではなかったので、タイトルを違ったものにすれば、もっと色々な人に読んでもらえたのではと。


アンダーカバー 秘密調査   5.5点

2014年07月 小学館 単行本
2017年04月 小学館 小学館文庫

<内容>
 若きカリスマ経営者・戸鹿野智貴は恋人とフィリピン旅行に出かけた先で、身に覚えのない麻薬の所持により逮捕された。すぐに釈放されるかと楽観視していたものの、戸鹿野はそのまま起訴され刑務所に入れられることとなる。その影響で、彼の会社は破綻してしまう羽目に。何故自分ははめられたのか? 誰の手のより? 戸鹿野は刑務所の中で復讐を誓い・・・・・・
 一方、イギリスで麻薬捜査官をするジャッド・ウォーカーはユーロポールへの出向を命じられ、イタリアにて、マフィアの幹部が惨殺された事件を捜査することに。その背景を探ってゆくと、次々と他の事件に遭遇し、ようやく要となる人物に突き当たり、ジャッドは日本へと行くこととなり・・・・・・

<感想>
 何者かにはめられた企業経営者・戸鹿野が復讐を遂げるために、相手の正体を暴こうと単独調査する。また、世界を股に掛ける麻薬調査官ジャッド・ウォーカーは、マフィアの幹部が惨殺された事件を調べていくうちに、徐々に戸鹿野の事件に近づいていく。さらに、フリーライター・伊刈美香子は執拗に戸鹿野の事件を追い、やがて真相へと肉薄していく。

 長き時間をかけて、三者三様でそれぞれの事件を追っていき、やがてそれらがつながってゆくという構成。全体的に面白くはあるものの、なかなかジャッドの事件と戸鹿野の事件がつながってこないところが微妙な点か。また、途中までは存在感を示していた伊刈美香子のパートが最終的には軽く扱われてしまうというのも惜しいところ。

 真保氏が描く作品ゆえに、それなりにうまくできているとは思えるのだが、ちょっと事件が大きくなり過ぎたという感じ。結局個人の復讐に収まりきらないところにまで事件が行ってしまっている。また、登場人物で戸鹿野という人物がどうしても実在の人物であるホリエモン(堀江貴文氏)としか想像できなくて、登場人物の戸鹿野の行動と実在の人物との言動がうまく私の頭の中でかみ合わず、ずっと違和感を感じていた・・・・・・まぁ、そんなことを気にするのは私ぐらいか?


ダブル・フォールト   6点

2014年10月 集英社 単行本
2017年10月 集英社 集英社文庫

<内容>
 新米弁護士の本條務は、刑事事件を担当することとなった。彼が担当するのは、工場経営者の男が金融業者の男を刺し殺したという事件。その加害者の弁護を本條は担当することとなる。工場経営者から話を聞くと、殺意はなかったのだが金融業者から脅された際に、つい誤って机に置かれていたペーパーナイフで刺してしまったという。本條は加害者の減刑を勝ち取るため、被害者の素行について調べを進めることに。ただ、本條は加害者の男が何かを隠しているのではと疑問を抱く。そうしたなか、被害者の娘が本條に対して妨害行為を行いはじめ・・・・・・

<感想>
 海外の法廷ものを読んでいても、どこか別世界の話と感じてしまうのだが、日本の法廷ものを読むと、身近なところにある非日常のように思われ、いろいろと想像を掻き立てられることにより恐ろしくなってくる。本書では、ひとつの殺人事件を通しての弁護の様子が描かれた作品となっている。

 加害者を弁護する際に、減刑を勝ち取るために、ときには被害者の身元を洗い出し、その素行に触れるという事もありえるようだ。これは、被害者側の遺族からすれば、あまりにも残酷なこと。なんで、殺害された後に、さらに人格を貶められなくてはならないのかと。裁判には、そうした加害者側、被害者側の思惑がそれぞれ錯綜するものだと、あらためて気づかされることとなった。

 また、本書はエンターテイメント系のミステリでもあるので、単に裁判の現実的な問題を知らしめるだけではなく、被害者の娘の思惑と、加害者側の弁護士の疑問が交錯し、そこから物語にもうひと波乱味付けをしている。さらに言ってしまえば、最後には思わぬような結末が待ち受けている。

 ベテラン作家である真保氏の作品ゆえに当たり前ではあるが、裁判に関する話がうまく描き込まれているなと感心させられる。なんとなく江戸川乱歩賞を獲得するためのお手本のような作品と思えてしまうほど。弁護士というものにまつわるさまざまな現実的な問題を、エンターテイメントを交えて描いた良質なミステリ作品。文庫版の表紙はアニメ調であるが、内容はなかなか重たいものとなっているので注意。


レオナルドの扉   6点

2015年02月 角川書店 単行本
2017年11月 角川書店 角川文庫

<内容>
 時はフランス革命直後。ジャン少年は数年前、祖父と二人でこのイタリアの片田舎の村へとやってきて、時計の修理などをしながら生計を立てていた。そんな平和な生活を送っていたジャンであったが、突如フランスの軍隊が村へと侵攻してくるという事態が起きる。しかも彼らはジャンの行方を捜していたのである。修道女のビアンカと名乗る者に助けられ、なんとか窮地を脱するジャン。そんな彼は思いもよらない話を聴くこととなる。ジャンはレオナルド・ダ・ヴィンチの遠い親戚であり、ダ・ヴィンチが遺したと噂されるノートのありかをジャンが知っていると思われているというのだ。いつしかジャンはダ・ヴィンチのノートの争奪戦に巻き込まれ・・・・・・

<感想>
 子供向けの冒険小説という感じの作品。ダ・ヴィンチの血を引く少年が、ダ・ヴィンチの残したノートの争奪戦に巻き込まれる。

 それなりに面白い冒険小説であった。やや、設定が大掛かりなゆえに、書き足りなさを感じられる部分もあるのだが、一冊の作品としてまとめればこのくらいでちょうどよいのであろう。少年たちが遺された手がかりからダ・ヴィンチのノートのありかを捜索するという展開は、物語としてはベタであるが、それゆえに安心して読める作品と言えよう。

 主人公の敵役として登場するビクトール・バレル大佐という人物がいるのだが、最初は憎まれ役という感じであったが、後半になるとその不遇っぷりに、だんだんと気の毒になってきた。この大佐の存在がコメディ的な色合いをそれとなくかもし出しており、なかなか良い具合に仕上げられている。


赤毛のアンナ   5.5点

2016年01月 徳間書店 単行本
2019年01月 徳間書店 徳間文庫

<内容>
 児童福祉施設で過ごし、大人になって社会へ出て働き始めた志場崎安那が傷害事件を起こし逮捕された。かつて彼女と共に時間を過ごしたもの達は、彼女がそんなことをするはずがないと考える。彼女と別れた後、疎遠になっていたことを後悔しつつ、皆が安那を助けるために、彼女に何が起きたのか? そして過去に起きた事件のこと、それぞれを調べ始め・・・・・・

<感想>
 以前に真保氏が書いた「繋がれた明日」に通ずるところがある作品。ただし、こちらの主人公は犯罪者ではなく、児童福祉施設で生活したことがあるという過去をもつ女性。その女性は子供のころから赤毛のアンにならい、強くたくましく生きようとするものの、さまざまな障害を突き付けられることとなる。その様子を本人視点ではなく、彼女の周囲にいた人々の目線から語られるというもの。

 その強くたくましく生きていたはずの女性が傷害事件を起こしたという知らせが伝えられるところから話は始まる。そして、その知らせを聞いて、過去に彼女と親交があったものの、現在は疎遠になっている人々が彼女の現状を知ろうと動き出してゆく。

 赤毛のアンを意識し過ぎたのか、主人公の造形が少々行き過ぎているような。なんとなく、このような人物であればもう少しうまく生きれるのではないかと思われるのだが、むしろ現実的に考えるとこんなものなのか。赤毛のアンが現代に登場したら、こんな人生を送ってしまうのではと突き付けられているような気がしなくもない。ちょっと生き方が不器用な感じがするものの、基本的にその主人公自体は何ら罪を犯していないことを考えると、十分同情の余地はある。

 全体的に興味深く読めはしたものの、過去にこだわりすぎて肝心な現在については、あまり言及されていなかったような。さらにいえば、ちょっとこの結末は、それまで表現されてきた彼女の人物像から考えるとがっかりしてしまうようなもの。なんとなく、疲れ切った状態で行き着くところまでたどり着いた赤毛のアンを見ているような感じになり、ちょっと痛々しかった。


脇坂副署長の長い一日   7点

2016年11月 集英社 単行本
2019年11月 集英社 集英社文庫

<内容>
 脇坂誠司が副署長を務める賀江出署にアイドルが一日署長としてやってくる。その大きなイベントが行われる中、地域課の巡査の行方がわからなくなるという事件が起こる。さらには脇坂の家庭においても不穏な事件が進行しているよう。業務を一手に担わなければならなくなった脇坂であったが、1日のうちに次から次へとトラブルが舞い込み・・・・・・

<感想>
 かなり面白かった。読み始めはコメディ調という感じがして、そんな雰囲気のまま話が進んでいくのかと思いきや、最後はシリアスな展開が待ち受けている。

 いろいろな要素がてんこ盛りとなっている内容。アイドルが一日署長としてやってくるイベントを中心に、巡査の行方不明事件とからむ謎のバイク事故、脇坂副署長の家族が絡む謎の事件、一日署長イベントで起こる不穏な事件、そして徐々に過去にまつわる汚職が浮き彫りとなってゆく。これらの事件がそれぞれバラバラのものではなく、互いに結び付けられていて、やがてひとつの元に収束していくこととなる。

 また、本書は単に事件を解決するのみだけでなく、警官の矜持を示す作品にもなっている。ここで主人公の脇坂副署長のキャラクターがいかんなく活かされている。

 文句なしの作品と言いたいところであるが、色々な要素がてんこ盛りになりすぎたためか、脇坂以外のキャラクターが目立たなくなってしまっているのがもったいないところ。特に最初はもう一人の主人公かと思われた脇坂の娘の存在が後半では空気のようになってしまっていたのがもったいかなったような。


暗闇のアリア   6.5点

2017年07月 角川書店 単行本
2022年08月 講談社 講談社文庫

<内容>
 官僚の夫が自殺したとの知らせを受けた、週刊誌のライターである富川真佐子であったが、“自殺”したということに不審を持つ。警察に事情を聴くも“自殺”という結果はゆらぐこともなく、そこで真佐子は知り合いのつてを頼りに警視庁の警部補・井岡に捜査を依頼することに。渋々ながら井岡が事件について調べてゆくと、不審な自殺を遂げたといういくつかの事件が徐々に浮き彫りになって行く。また真佐子も単独で捜査を行い、少しずつ闇に隠された真実へと・・・・・・

<感想>
 官僚の死亡、出版社勤務の妻による必死の調査、その必死さに気圧されて事件を解明しようとする刑事たち、そして海外を股にかけての陰謀劇。といったところで、真保氏ならではのいつもながらの小役人シリーズ的な作品かと思って読んでいたのだが、今までの作品とは異なるテイストの内容となっていた。

 最初は不審に思われた自殺事件の調査から始まる。調査を進めるも、なかなか自殺を覆すような物証がでてこない。ただ、細い糸を辿っていくうちに光明が差し、そこから徐々に別の事件の存在が明るみに出てくるようになる。そして、露わにされる多くの不審な自殺事件。それが日本から海外をまたいだものとなっていて、広大な範囲での調査・捜査が展開されてゆくこととなる。

 読んでいる最中、途中でこの物語がどこへ行こうとしているのか段々と彷徨い歩くような感覚に陥ってゆく。それが最後の最後まで読み進めてゆくと、ようやく全貌が明らかになり、どのような意味を持って収束するのかが理解できるようになる。これはずいぶんと広大な復讐劇であると納得されられることとなる。

 結構長めの作品ではあるのだが、それでも書き足りない部分があったような。結局のところ事件を犯した中心人物の心変わりの分岐点はなんだったのか。その辺については、書き切れたなったのか? あえて書かずに推測させるようにしたものなのか? 真相は闇の中へという感じではあるものの、その“闇”というものを存分に感じ取ることができた作品。最後の煮え切らないエピローグについても、この内容だからこそ、このようにしか終わりえない作品なのだろうと納得させられてしまう。


お前の罪を自白しろ   6点

2019年04月 文藝春秋 単行本
2022年05月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 衆議院議員の幼い孫娘が誘拐されるという事件が起きた。犯人の要求は「明日の午後五時までに記者会見を開き、お前の罪を包み隠さず自白しろ」と。議員の陣営は、裏工作に奔走しつつ、記者会見の内容について検討を始める。一方、警察の方は犯人を突き止めようとするのだが、時間も手がかりもなく・・・・・・

<感想>
 真保氏の作品で、誘拐もの。その誘拐もののなかでも、これはなかなか毛色の変わったものと言えるだろう。

 本書は警察小説ともいえるのだが、それよりも政治小説というような感触のほうが強くなっている。孫を誘拐され、誘拐犯から、記者会見を開き己の罪を自白しろと要求される。それに対し、政治家は何をどこまで話せばよいのかという検討、さらには会見後の自分や自分の政治家として地盤を引き継ぐ息子たちへの地位の確保の確約。そういった政治的なやり取りに奔走する場面が続くこととなる。

 その政治的な奔走が描かれる中盤は、ややわかりづらいところも多く、ちょっと読み進めづらかった。しかし、後半に入り、記者会見が行われ、そして犯人への言及等がなされる場面になってからは、俄然話が盛り上がることとなる。

 読み終わってみれば、十分面白い作品であったなと。政治的な内容に関しても興味深く読めたし、最後の最後では警察小説として十分な内容として仕立て上げられていたので、全体的に満足できた。特に最後の締めが良かったかなと。結構、難しい題材の作品であったと思われるが、それにしてはよくまとめられていたなと感嘆。




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