<内容>
“キチク”とあだ名される硬派の武本刑事とその家系によって特別扱いされるお坊ちゃま刑事潮崎。二人が不法所持拳銃事件を追っているなか、麻薬取締官の宮田らとぶつかる。互いに別の事件を追っていたのだが、それが同一の人物にたどりついたのだった。それぞれが集団の枠の中から異なる理由で外れつつあるなか、それぞれの思いを秘めて単独で事件の真相を究明しようとする。そして彼らが行き着いた先にある事件の真相と、彼ら自身の未来とは・・・・・・
<感想>
重い内容を軽妙なテンポで扱い、わかり易く説明している。警察の機構や階級、麻薬取締官の制度についてなどを説明しているのだが、内容を壊さないようにうまく話が展開されている。この微妙なさじ加減はなかなかのものではなかろうか。
登場人物らもうまく書き分けられ、それぞれが生き生きと描かれている。彼らがそれぞれ苦悩する様を描き、かつ葛藤する中で捜査を進めていく様相がうまくまとめあげられている。ただ一つ、事件自体をもうすこし地味なものにまとめあげてもらいたかったと思う。こういった登場人物の葛藤や苦悩などと相反して、後半部分が少々アクション的な色が強く出すぎてしまったと思う。また、私的に後半はどうも楡周平氏の「Cの福音」にかなりだぶるところが感じられたというのもマイナスであった。これだけ登場人物らに味がだせるのであれば、もっと事件自体は地味なものでも十分に書ききれたのではないだろうか。そのほうが本書の流れにはあっていたように思えた。
それでも処女作でこういう作品が書けるのはすごいと思う。さらなる作品を楽しみに待ちたい。
<内容>
大山雄大20歳は「楽して給料ガッチリもらいたい」今時な考えの消防士。同じく消防士であった、殉職した親父みたいになりたくないと思っている。ある日雄大ら消化班の面々は火災現場にて外国人労働者を救出する。その現場に不穏なものを感じ取った雄大が調査してみると似たような放火事件が連続して発生していることを突き止める。いつしか雄大はその事件の中へと巻き込まれていくことに・・・・・・
<感想>
日明氏の2作目の作品であるのだが、もはやベテランであるかのように非常に読みやすい文体であり、なかなか面白く読むことができた。事件自体を描くというよりは事件を通して成長していく一人のいまどきの若手消防士の肖像を描いた作品である。
話の背景としては大きく二つの事象が取り上げられている。消防士そして消火活動の現状についてというもの。もうひとつは外国人労働者の実情というもの。この二つを採り上げていて、様々な説明がなされているのだが、感心するのはその説明が実にわかり易いためにページをめくる速さが鈍ることなく読み進められる。これは著者の力量であろう。ただ一つ注文を付けるのであれば、ここで採り上げている二つの事象というのは、それぞれが大きなテーマであると感じられるのでどちらか一つだけで十分に1冊の本として語り尽くせたのではないだろうか。今回の作品では消防のみに焦点を当てて、語りきってもらいたかった。
内容としてはそういった背景もあって、事件の進行もそれほど早くなくミステリーという観点からは弱いと感じられる。しかし、消防士の成長物語としては面白い読物に仕上がっている。これから日明氏は、社会派の軽ミステリーという作風にて地位を築き上げていくのかもしれない。
<内容>
蒲田署刑事課の武本と和田は近所からの通報により、幼女を自宅に拉致していた男を逮捕し、その幼女を保護する。武本がその幼女の身元を調べると、どうやらこの子は不法入国者の子供であるようで人身売買の組織によって売られたということが明らかになる。武本はその辺の事情に詳しい生活安全課の小菅から捜査法をレクチャーしてもらうことに。
思ったよりも根の深い背景の中で事件の解決を迫られる刑事課の刑事達。その中で、法を犯してまでも子供達を護ろうとする小菅と法を犯したものに対して容赦の無い和田との間で板ばさみになる武本。そんな中、武本の前に姿を現したのは、警察を辞職した潮崎であった。
<感想>
本書は日明氏の第1作「それでも、警官は微笑う」の続編にあたるもの。よって、前作の主人公であった、武本と潮崎が再び登場する物語となっている。しかし、ここで思うのだが潮崎の登場は早すぎたと感じられる。前作で警察を辞めて、今度はキャリアとして再び警察に戻ろうとする途上の潮崎が描かれているのだが、その立場があまりにも中途半端に感じられた。ここで潮崎を出すのであれば、きちんとした形を整えた状態で出してもらいたかったところである。よって、できれば間を開けてシリーズ3作目、4作目あたりに再登場してもらいたかったというのが正直なところ。
では、なぜ潮崎を出さないほうが良かったのかというと、潮崎を出すことによって“警察小説”という形が薄れてしまったからである。全編読んでみて感じた印象はというと、“警察小説”というよりも“社会改造計画”とでもいいたくなるような内容に感じられた。ようするにこのような内容であるならば、「警察小説でなくてもいいのでは!」というようになってしまうのである。結局本書では武本が主人公の警察小説という内容が薄まってしまい、その分事件自体もやけに小さく収まってしまったというように感じられた。
といった不満があるにせよ、本書には評価すべき点も多い。なんといってもこの著者の作品において、毎回感心するのは読みやすいということ。まだ3作目とは信じられないくらいのリーダビリティを有している。また、本書は社会派作品として多くの社会問題を投げかけている小説でもある。そういった意味では興味の尽きない作品となっている。
しかし、なんといっても、もう少し武本を活躍させてもらいたいと感じて止まない事も確かである。
<内容>
最近、似たような状況で起きる火事がひんぱんに発生していた。その火事が起きた世帯には老人が住んでいて、火災の原因はどれも偶然が重なった事により起きたというもの。消防士の大山雄大は出火原因に疑問を持ち、単独で事件を調べていく。そこで大山が遭遇した事実とは!? 「鎮火報」の第2弾!
<感想>
「鎮火報」に続き、今回も楽しむ事ができた。やる気のなさそうな消防士という建て前でありながらも、実は心の奥に“熱血”を秘めた大山雄大の成長が垣間見える本書。相変わらず、消防士についてや、その周辺を取り巻く情勢をわかりやすく描いてくれている。物語のみならず、このわかりやすく、読みやすい小説であるという事には多大な評価を与えたい。
ただ、ミステリーとしては喰い足りなさを感じてしまった。本書での謎となる部分は、何故老人が住む家ばかりで偶然のような出火が頻発するのかというもの。主人公がこの謎を追っていくことになるのだが、あっさりと話の中盤で解決されてしまう。では、その後はどのような展開になるのかと言うと、ヒューマニズム論というか人生論が語られるような形で物語が流れていく。それらは特に説教くさいという程のものではないので、読むことに対し“つまづく”というような事はないのだが、もう少し抑え目でも良かったと思われる。
もっとミステリーとして終始してもらいたかったと言うのが残念なところ。とはいえ、今後続編が出ることを期待したくなる本である事は間違いない。