<内容>
荘氏の思想に従って人々が暮らす竹林の村。そこで起こる奇妙な事件の数々。薬の行商の池旅庵(いけりょあん)という者の進めで竹林の村へと行くことになった自称「観察者」の鳶山久志と植物写真家の猫田夏海。その村は七世帯のみが住むという隔絶された村であった。
源隻(ひとつ・ゲンセキ)自治会長
源環(たまき・ゲンカン)ゲンセキの甥
恵光(めぐみひかる)巨漢、充のことを気にかけている
杉透(すぎとおる)長老
柳玲(やなぎあきら)眼が不自由
匠周(たくみあまね)学者肌
旺充(さかえみつる)二十歳前の若者、時期村長
その住人のなかで、次期村長となるはずの充は村で他に若者がいないせいか、奇行が目立ち他の村人も心配している。また、そこには二十年前の村の惨劇の影も存在しているのであった。そんなある日、恵が猫田に結界を敷き充の眼を覚まさせるというような言葉を残す。そして次の日、恵は首を切り落とされた惨殺死体となり、発見される。首は獲物をとるための罠に掛かっており中空にぶら下がっていた。さらには追い討ちをかけるように、恵の告別式のとき、皆で酒を回し飲みしている最中に充が突然苦しみだし死亡する。また、村とは関係ないと思われた池旅庵までもが喉を刺されて・・・・・・。いったい誰がどういう理由で? 事件の謎を解こうと奔走する猫田。そして猫田はみなの前で自分の推理を披露するのだが・・・・・・
<感想>
雰囲気といい、構成といい実にいい。全体的なレベルはともかくとして、起承転結が見事にはまっているというか、うまく書かれている。最近、キワモノめいたミステリーが多いなか正々堂々と勝負している作品。それになんといっても分かりやすい。しちめんどくさい表現などを使わずに、うまく隔絶された村の状況を示し、事件を説明していると思う。まぁ、肝心の事件の出来や解決がちょっと、と思うがしかし良い作品を読んだという感じにさせられた。
<内容>
植物写真家・猫田夏海は、ボトルに入っていたフロッピーディスクを拾う。そのディスクには、未確認生物を調査探索するサークル「ウルトラ」の一行が、沙留覇島という島に調査に向かい遭難した顛末が記されていた。驚くべきことに沙留覇島とは、「人魚」が棲み、幻の鳥と言われる「朱雀」が舞い、謎の仙人が人を欺く、空想上の生き物が現実に現われる島だった。猫田は、鳶山と高階の三人で、不思議の詰まった島・沙留覇島探しの旅に出るが・・・・・・
<感想>
読物としては非常に面白い。民俗学的でありながら、簡潔に書かれており読みやすい。幻の生物の存在と聞くと眉をひそめながらも、それが現実でないながらも何らかの民俗学的考察があるのではないかとかんぐってしまう。そのようなツボをある意味心得たかのような小説。
しかしながら、ミステリー色を強くしようとすればするほど、破綻が大きくなるような感覚は否めない。あまり、策をろうせずに、ひとつの大きなトリックだけでも持ってくるとか、またはちょっとした叙述トリックで終わらせたほうが、すっきりしていたのではないだろうか。
<内容>
オオムラサキの供述が正しいとすると、ムクゲコノハを殺した犯人がいなくなってしまう。これはひょっとして遠隔殺虫? その間に犯虫はアリバイ工作をして・・・・・・(「蝶々殺人事件」より)
「えっへん、これは前代未聞の事件ですな。つまり失踪現場は当時、三重の密室だったわけで」確認をとるように探偵がいった・・・・・・(「哲学虫の密室」より)
クマ蜂が推理する。アリが捜査する。ゴキブリが犯虫を追う。昆虫界の怪事件に三匹が挑む。
<感想>
著者の熱意が感じられる野心作。昆虫世界をミステリにて伝えたいという思いから書かれたのだろう。ただ、試みはいいのだがミステリとしては成功していない。昆虫を探偵にしたてて昆虫の世界で捜査するという発想は面白いが、その昆虫世界のルールの定義があいまいすぎると思う。そのうえ、昆虫の特殊な性質や知られざる昆虫などが出てきたらもはやお手上げである。
まぁ、著者にしてみればミステリというのはあくまで手段であって、昆虫を描いた本を描きたいということから出版されたものだと思うので細かいことは気にしないほうがいいのかもしれない。昆虫に主題をおくならば、挿絵を多くするなりもうすこし親切設計にしてもらいたかった。
<内容>
そこはヒマラヤの奥地、桃色の花々に煙る文字通りの桃源郷だった。針金倫明ら日本人スタッフの目的は、新種の鳥を世界に先駆けて撮影すること。古老が出した条件は一つ「神の領域を侵してはならない」だ。通訳はさらに、神とはイエティ(雪男)だと訳した。本当に実在する? 半信半疑のまま撮影を開始した直後、カメラマンが惨殺され、遠ざかる巨人の影と足跡が!
<感想>
もっと長い話にしてもよかったと思う反面、このくらいの長さでもちょうど良いとも思う。あまり長々と書かれると内容がだれるような気もするし、推理の部分においては早く進みすぎると感じた。その部分部分によって、ここは長くてもいいし、ここは短くてもよいというように評価が分かれてしまう。結局のところ全体的にうまく惹きつけるような話を書いてくれるのであればもっと長くてもよかったのかというところか。
推理小説としての効果としてはもう少し話が長いほうが良かったと思う。推理が二転三転するのだが、その展開があまりにも速く、考えている間も噛みしめる間もないので推理というよりは独白に近いような印象を受けた。
また、一つの目玉でもある最後の文章もよく考えて書いているなぁと感心はするが、それだけに留まってしまう。ただし唐突な展開であるせいか全体的な効果としては薄く感じた。まぁ、全体的に微妙であるというところで。
<内容>
異常な興奮状態に陥ると頭の回転が速くなるという変態的な数学助教授の“覗き”の最中に巻き込まれる事件とは?
大学生に生物の“擬態”の講義をする講師が授業の最後に学生達に出す課題とは?
人間のクローンは秘密裏に創られていたのか!? ことの真相は?
<感想>
柄刀氏が書いた「アリア系銀河鉄道」ほどのインパクトはないものの、鳥飼氏にとってはそういったような分岐点になるような作品ではないだろうか。この本格的というタイトルはなかなかあっていると思う。
(読んでいる最中、“変態的”のほうがいいのでは? とも思ったが)
「変態」
これぞまさしく変態的と世の中に指し示すかのような作品である。本編の主人公はまさに変態的。そしてその変態的な主人公が常識を打ち破る非常識推理にて事件解決へと(たまたま)導いてしまう。
とち狂ったかのような統計的な推理はもはやあっぱれ。事件自体はどうってことないのだが、主人公の“統計予測”に圧倒される。残念ながらこの短編のみの主人公。
「擬態」
鳥飼氏が書いた「昆虫探偵」を思わせるような内容。日々、レジメを用いた授業を繰り返し、そして最後に生徒達に出す課題の内容が面白い。なんとなく無茶苦茶にも思えるのだが、発想は面白いと思う。
「形態」
最後の短編は、あぁーあ、やってしまったかというようなもの。クローンという扱いにくいそうな、いかにもアレなネタを出してしまったがゆえに物語がしまらなくなってしまっている。読者をだまそうとしているのか、そうでないのかもわからないままで終わってしまい中途半端。
そして最後に「前期試験」と題した仕掛けをしているものの、別になくてもいいように感じられる。本作は独立した3編の短編集ということで十分であろう。
短編のそれぞれのネタに関しては面白くとらえることができたので、もう少し発展させればかなり面白いものが提供されるのではないだろうか。今後にも期待。
<内容>
沖縄・やんばるの森にて、昆虫最終家の松崎と柳澤は立ち入り禁止の米軍演習地の奥へと足を進めていく。するとそこで二人は米軍の脱走兵と遭遇し、ともに米軍から逃走するはめに。そして二人は脱走兵の情報により宝探しへと巻き込まれていくのだが・・・・・・
<感想>
鳥飼氏の作品はデビュー作の「中空」から読んでいる。「中空」の主人公が女性であったのと著者名からは性別がわからないので、まさか女性作家か? などと思ったことがある。まぁ、その後の作品を読んでいくうちに女性ではないだろうなとは感じはしたが。そして今回の著作には鳥飼氏の写真が掲載されていた・・・・・・ごつい、おっさんだった。うわ、重い荷物をかついで、ひとりで山の中へ駆け入っていって、写真を撮りまくっているような、いかついおっさんだ(←失礼)。
読んでいて不思議に思うことが一つあった。何ゆえこの本の登場人物達はこんなにも余裕がないのだろうと。それほど追い詰められたような状況下ではないはずなのだが、何故か皆自分を追い込んでいる。それゆえに、物語全体がちぐはぐした雰囲気に包まれていたような気がする。宝探し、暗号、昆虫の宝庫、大自然と様々な魅力的な要素があるのにどうしてこんな小説になってしまったのだろうか。ラストにおける謎解きが意外にしっかりと決まっていたので、かえってもったいなく感じられてしまう。
これはひょっとすると、あえて“やんばるの森”を恐ろしく描き、一般の人たちを立ち寄らせないようにするための計略なのかもしれない。そして著者はひとりでゆっくりと昆虫採集を・・・・・・(そんなはずはない)
<内容>
導師と名乗る男に拾われて共同生活を送っていた彼らは、その導師の思想の元にロックバンド“ディシーヴァーズ”を結成する。しかし彼らのデビュー当日、楽屋にて殺人事件が勃発する。
そしてその十年後、数々の大事件が起き、導師の思想が明らかになったとき、さらに大きな惨劇が・・・・・・
<感想>
鳥飼氏のロックバンドを扱った小説というと「本格ミステリ04」に掲載されていた短編「廃墟と青空」というものがある。それを意識しながら本書を読んでみたのだが、出来としては短編の「廃墟と青空」のほうがよくまとまっていて良かったと思う。残念ながら本書は長編にしたことにより失敗してしまったかなと思わずにいられない。また「廃墟と青空」に比べて、登場人物があまり魅力的でなかったことも、そう感じられた要因のひとつかもしれない。
本書は2部構成になっており、殺人事件が起こる前半と連続無差別爆破事件が起こる後半とに分かれている。前半では殺人事件は起こるものの、どちらかといえば登場人物紹介にそのほとんどが割かれている。そして起こる殺人事件も普通というくらいの印象でしかなかった。
後半の無差別爆破事件は一応その事件の見立てを解くような構成となっているのだが、干支の知識にからんだ話が出てきたりと読者に解かせる謎というものではなかったように思える。一応、この後半で物語全般に関わる謎が解かれるようになっている。
本書はミステリーではあるものの、謎解きという小説ではなかったと感じられた。ただ、それならば前半のとってつけたような密室殺人事件のような犯罪は起こす必要がなかったと思われる。いっそうのこと、もっと物語を強調するような内容のほうがよかったのではないかと感じられた。そして魅力的な登場人物を配置すれば、もっと面白い小説が出来上がったのではないかと思えるのだが。
<内容>
「青空と廃墟」(季刊「ジャーロ」:2003年春号)
「闇の舞踏会」(季刊「ジャーロ」:2003年秋号)
「神の鞭」 (季刊「ジャーロ」:2004年春号)
「電子美学」 (季刊「ジャーロ」:2004年秋号)
「人間解体」 (書下ろし)
<感想>
「青空と廃墟」は去年の「本格ミステリ04」にて既読であり、お気に入りの作品。何がお気に入りかと言えば、ミステリ的な内容ではなく、その物語性。あるプロデューサーが意図的に伝説のロックバンドを創り上げようとする試みが描かれており、そのバンドのメンバー達が個性的に描かれている作品である。肝心なはずのミステリー部分はといえば、それだけを取り上げれば普通であるとしか感じられない。しかし、物語と込みで考えてみればそれなりに佳作のできに思えてしまうというのは、ひいき目な視点が過ぎるのであろうか。
で、他の作品なのであるが共通する部分は全編通して“ひぐらし主水”という人物が出てくる事と、事件の舞台として様々な芸術が扱われているということ。と、このように書いてみれば何かまとまりのある作品集のように思えるのだが、徐々にその様相はとりとめのない方向へと向かって行ってしまう。
本作品集をミステリーとしてみてみると、その舞台設定がとても凝ったものになっているといえる。消失するロックバンド、芸術家が集う中での芸術的な死、屋外での雷を使ったパフォーマンスの中での殺人、“イカ”をインターフェースとして視点が切り替えられた中での殺人。というように、とても普通では考えられないような場の中でミステリーがあつらえられているのである。ただし、その反面あつらえられているだけで終わってしまっているとも言える。そこに、その舞台設定を生かした解答を持ってくることができれば、本所は優れた作品集になったのであろう。結局それらを収束しきることができなかったというところが本書の難点である。
ゆえに本書を読んでの感想といえば、何か変わった短編を読まされたという強い印象が残るのみ。
<内容>
五龍神田刑事は数々の難事件をホームレスで情報屋のたっちゃんと、その仲間で最近になって現われた“じっとく”こと十徳次郎の協力を得て解き明かす・・・・・・つもりであったのだが・・・・・・。
五龍神田刑事の推理とは裏腹に次々と意外な真相が明かされる全13編!
<感想>
最近妙な本ばかり書いている鳥飼氏なので、本書にも期待してしまったのだが・・・・・・内容はいたって普通。五龍神田という長たらしい苗字の刑事が主人公でホームレスの力を借りて事件の謎を解くというもの。とはいうものの、最後はいつも上司に良いところを持っていかれてしまうのだが。というパターン化した短編が並ぶ作品であり、それらが普通の展開でずっと続くので途中飽きが感じられたが、それを見越したかのように後半に入るとそのパターンがいつの間にやら崩されていた。
後半は先が読めない展開が続き、その分盛り返したかなとも思われた。ただ、やはり近年の鳥飼氏の作品に比べれば地味であるので、印象の薄い内容のまま終わってしまったという感じであった。いくつか、ダイイングメッセージなどに突飛なものがあり楽しむ事はできたが、個人的にはもう少し爆発してもらいたかった。
<内容>
今年も福岡国際マラソンが開催される。今回の大会は北京オリンピックの代表選考も兼ねており、多くのランナー達が優勝の座を狙っていた。そんな中、他にも様々な目的を持ったランナー達が参加し、波乱を呼ぶレースとなる事は必至かと・・・・・・。今、号砲と共にランナー達が駆け出し、マラソンの幕が開けた!!
<感想>
以前、倉阪鬼一郎氏が「42.195」というマラソンに誘拐事件をからめた作品を書いていたが、この作品は「42.195」よりも、もっと“マラソン”自体に重点を置いたものとなっている。本書の内容はマラソンが始まってからゴールするまでの間の中のみで描かれている(回想は別として)。ゆえに、最初はいきなりマラソンのスタートから始まるので、どのような内容で、どのようなミステリーなのかわからないまま話が展開していく。それが途中で、各ランナーの思惑が少しずつ明らかになって行くのだが、最後の最後で明らかにされる事もあり、終始手に汗握る内容となっている。
本書は確かにミステリーと言ってよいのであろうが、その純度は低いと思う。どちらかといえば、フィクション性の高いスポーツ小説といったところであろうか。とはいえ、ランナーが走り始めてからゴールに到るまでの展開に目を離せない内容となっている事は確かなので、楽しんで読めるエンターテイメント小説であることは間違いない。
<内容>
写真家の猫田夏海は撮影の仕事のため北海道に来ていた。そこで巨大な樹木が土砂崩れのため、そのままの体勢を保ったまま数十メートル移動したということを聞き、さっそく現地へと出かけていく。その木は巨大なテーマパークが建設されている敷地の中にあった。この村では現在、工事の推進派と反対派が真っ向から対立しており、さまざまな揉め事が起こっていた。そんな最中、反対派の道議会議員が行方不明となる。さらには、いくつかの場所で起こる謎の木々の移動騒ぎ。木々の移動は事件と関連しているのか。そして、反対派と推進派の対立は殺人事件へと発展し・・・・・・
<感想>
最近の鳥飼氏の活躍ぶりを見ていると、この本もまたとんでもない作品なのかと思っていたのだが、これは普通に落ち着いたミステリ作品として仕上げられている。本書では久々にデビュー作「中空」に登場していた探偵が活躍する作品となっている。
読み始めたときは“樹木が移動する”ということが書かれており、これまたとんでもない作品なのかと考えてしまった。しかし、読み進めてみると、樹木が移動したというのは土砂崩れによるものと明かされ、常識的な範囲内において繰り広げられる作品として話は進んでいく。とはいえ、“木の移動”事件はこれだけではなく、他にも小さな木が街道に沿って植え替えられていったり、大きな樹木の位置が変っていたりと、色々な木にまつわる事件が起こってゆく。
さらには、テーマパーク開発に対しての推進派と反対派の対立(かと思われる)による殺人事件が起きて物語は山場を迎えることに。
そして最終的には、事件の全体像が明かされることとなり、木々の移動、いくつかの殺人事件らが関連性をもってすべての謎が意味をもってひとつの絵図へとあてはめられていく。この事件の解決ぶりはなかなか丹精であり、うまく出来ている推理小説であると感心させられる。
ただ、この作品に出てくる登場人物らが探偵も含めて、かなり地味であり、その分全体的に話の印象が薄くなってしまったのは残念なところであるが、これはこれで評価すべき作品であると思われる。
最近では奇抜な作品ばかりが注目される鳥飼氏であるが、こういった作品も書くからこそ他の作品が栄えてくるのであろう。本書は落ち着いた本格推理小説としてお薦めできる良本である。
<内容>
博物学者、南方熊楠が秘境・熊野で遭遇した難事件に挑む。熊楠が現在住み着いているその村で赤ん坊がさらわれるという事件が起きた。その赤ん坊の行方を調べているうちに事件はやがて殺人事件へと発展していく。これらの事件は最近村で目撃される狐憑きの少年と何か関係があるのか?
<感想>
読む前は勝手な先入観からバカミスっぽい作品だと思っていたのだが、思いの他まじめなミステリが展開されていたので驚かされた。しかも、さまざまな仕掛けに彩られた作品となっており、ミステリファンを楽しませる要素がてんこ盛りの作品となっている。
最初は博物学者とその弟子が語り合う場面から始まっており、雰囲気としては京極氏の多々良先生の作品のような民俗学風ミステリという香りがただよっている。ちょっとした狐憑きの目撃事件から話は始まってゆき、そこから村を揺るがすような大事件がスピーディーな展開で描かれている。
物語の舞台は1903年の明治時代となっており、そのころの地方の山に住むものたちの情景もあわせて描いたような作品となっており、なかなか興味深い作品に仕上げられている。とある一家の血縁の謎、狐憑き、人狼などさまざまな要素をまとめてひとつのミステリとして展開させる手腕はさすがといえよう。
また、とある有名な探偵が友情出演していたり、作品自体にちょっとした仕掛けをほどこしていたりと、ミステリファンをニヤリとさせるような場面を挿入しているところも心憎い。これは今年の掘り出し物といえる作品かもしれない。意外と見逃せない一冊。
<内容>
「夜歩くと」 漸変態に関する考察
「孔雀の羽に」 過変態に関する研究
「囁く影が」 完全変態に関する洞察
「四つの狂気」 無変態に関する補足
<感想>
出た! これこそ今世紀最大の“ディクスン・カーに最も読ませられない一冊”。あの世のカーがこれを読んだら、怒りのあまり生き返ってきそうな気がする。
それぞれの作品のタイトルを見ればわかるようにカーの作品から引用したものとなっている。内容も公衆トイレでの密室殺人事件、ビルのフロアでの密室殺人事件、屋上で見えない物の声により人が転落死するという奇怪な事件、とそれぞれに怪奇的な不可能犯罪が用いられている。
ただし、それらの事件が“変態的”にアプローチされているところが大問題なのである。
いやー、これはバカミスというよりは、あまりのおげれつさに脱力してしまう内容である。ここまで脱力させられるのは「六枚のとんかつ」以来であろうか。それなりに面白いミステリではあるのだが、万人には薦められないという困った作品である。
と、最初の三作品を読んだところまではミステリとしては、少々レベルの低い、変なミステリ作品ということで終わってしまうのだが、最後の「四つの狂気」にて全ての思いが覆されてしまう。最後まで読み終えると、「おぉ、これこそ2008年最大のバカミスだ!」と感嘆させられるような内容となっているのである。
上記の文章を読むと最初から最後まで褒めていないような気がするのだが、これはあっさりと見過ごしてよいようなミステリ作品ではないということは確かである。くだらないことを真剣に行う変態系ミステリ、きわもの系と油断して足をすくわれることなかれ!!
<内容>
企業経営に成功し莫大な富を得た日暮百人は会社を引退し、島を買い取り、そこに現代アートを集めるための美術館を造った。その美術館は藍田彪という建築家によって建てられ、そこを日暮が選んだ6人の芸術家に利用してもらい、彼らをまとめる役割として樒木侃がキュレーターとして常駐していた。
美術館に集められた芸術家たちは、画家、舞台作家、彫刻家、音響芸術家、パフォーマンス芸術家、映像芸術家といった特殊な才能はあれども一筋縄ではいかない人物ばかり。そして、彼らが自分達の芸術を披露しようとするとき必ず事件が起こることに・・・・・・
<感想>
いや、これはなかなか面白い。純然たるミステリ作品とはいえないものの、開けてみるまで何が飛び出すか分からないびっくり箱のような作品である。
この作品では私設美術館に6人の前衛的な芸術家達が集まり、それぞれが自分の作品を披露する。彼らはこの奇妙な美術館に集められただけあって、それぞが予想だにしないような前衛的なアートを繰り広げるのである。その予想だにしないアートの中で、さらに予想も付かないような奇怪な事件の数々が起こるのである。
これはもう、その事件自体を眺め渡すだけでお腹いっぱいになってしまいそうなミステリ作品である。事件の解決においては、事件自体が前衛的すぎて、理解が及ばないようなものばかりなのだが、それぞれがひとつの作品として見栄えがするものになっていることも確かである。
本書は通俗のミステリとは一線を画するものであるが、良い意味でも悪い意味でも強烈な印象をかもしだす作品となっている。全体的にミステリ作品としては弱いと思えるのだが、これでミステリとして成功を収めていたら、それこそとんでもない作品になってしまうことであろう。
まぁ、これもまた、ひとつの新しいミステリの形として受け入れたいと思っている。個人的にはものすごく好みの作品であった。
<内容>
大手玩具メーカー、トリストイの人事部に所属する物部真治。彼は人事部の仕事として、理由不明で欠席している女性職員の調査を命じられる。どうやらその女性職員、社内の同僚から、ストーカーじみた、いやがらせメールを受け取っていたらしいのだ。また、トリストイで目玉商品として開発された恐竜のおもちゃが盗まれたとの報告が! 物部はそのなくなった商品の捜査もしなければならなくなり・・・・・・
<感想>
鳥飼氏の作品にしては普通の作風のミステリ。というか、鳥飼氏がこのような企業内ミステリを書いてくるとは思わなかった。
ただし、企業内ミステリといっても決して堅苦しい内容ではない。全編ユーモアに満ち溢れており、ごく普通のお気楽系の社員達が事件を解決していくというもの。
この作品の主人公、人事部の職員である物部にはひとつ特技があり、それは相手の嘘をみやぶることができるというもの。ただし、本作ではあまりそれが生かされていなかったように思われた。本書ではこの主人公以外にも数々の一癖二癖ありそうな者たちが登場しており、今後シリーズ化するとしたらおもしろそうだという雰囲気が感じられる。
ということで是非ともシリーズ化して、主人公にももっと特殊能力を生かして活躍できる場を作ってもらえたらと望む次第である。
内容はいたって普通であるが、気軽に読むことができるライト系のミステリ作品として薦めておきたい。
<内容>
以前、“鉄拳”というバンドで一世を風靡した四人。そのギターリストのルビーがサナトリウムで死亡したという連絡がバンドメンバーに届く。ルビーの死に不審なものを感じた3人は、彼が入っていたというサナトリウムへと向かう。そこで彼らは謎の実験場の様子を目の当たりにすることとなり・・・・・・
<感想>
鳥飼氏らしい変な作品であるのだが、“変”というだけで終わってしまっていて、決してバカミスのような雰囲気のものには仕上げられていない。というか、この小説はどのようなジャンルの作品だと言えばよいのだろうか? そんな奇怪な内容。
この作品に出てくるバンドメンバーたちは、以前に鳥飼氏が書いた「廃墟と青空」に登場している。この作品はそれの後日譚といってもよいように思われる。ゆえに、これだけ読んだとしても何の感慨も浮かばないであろう作品。記憶では、まだ「廃墟と青空」は単行本に掲載されていないはずなので、どうせならこの作品に「廃墟と青空」を掲載し、そして「このどしゃぶるに日向小町は」を続ければ作品としてきちんと成り立ったのではないかと思える。
ということを考えると、ひょっとすると文庫本あたりではそういう体裁をとってくれるかもしれないので、未読の人はそれが出版されるのを期待して待った方がよいかもしれない。そんなわけで「廃墟と青空」を読んでいない人には特にお薦めはしないということで。
*「廃墟と青空」は「本格ミステリ04」(講談社ノベルス:2004/06)に掲載
**その後、「廃墟と青空」が「痙攣的」(2005年刊)に掲載されていたことが判明
<内容>
観察者・鳶山久志と植物写真家・猫田夏海がさまざまな事件に巻き込まれるシリーズ作品集。
「眼の池」
「天の狗」
「洞の鬼」
<感想>
新シリーズ!・・・・・・ではなく、よく調べてみれば著者の処女作「中空」や「樹霊」といった、いくつかの作品に登場している“観察者”と呼ばれる怪しげな人物が探偵役となって活躍するシリーズ。
3編のうちのひとつ「天の狗」は推理作家協会賞候補作となっており、別のアンソロジー集で既読。よって、メインの作品を読んでいるのだからさほど楽しめないかと思っていたのだが、他の2編もなかなか面白く、十分に楽しんで読むことができた。
「眼の池」が個人的には一番良かったかなと。とある人物が自分の生い立ちを語りだす。彼によると自分の兄が河童に連れ去られたという。その奇妙な話を聞いた観察者・鳶山が事の真相を読み解く。
話に出てくる池の中に見えた“眼”の正体が秀逸。最初に場面を思い浮かべた時に、色々と不審な点を思い浮かべたのだが、真相を聞いて納得。さらには、それだけで推理は終わらず、予期せぬ真相が暴きだされることとなる。
「天の狗」は複数の人々が見ている中、“天狗の高鼻”と呼ばれる岩をロッククライミングしていた青年が頂上で惨殺体となって見つかるという事件。あちらこちらに伏線がちりばめられ、その回収ぶりが見事と言えよう。怪しげな雰囲気と怪奇色が実にマッチしている。
「洞の鬼」は祭りの最中に鬼を務めるはずの者と洞窟内で断食をしていた芸術家が殺害されるという事件。不可能犯罪のようでそうでもなさそうという、やや微妙な事件。その事件に至るまでが、やや長かった。
事件の真相はまぁまぁという感じなのだが、“鬼”というものに対する解釈とか蘊蓄などには、なかなか読み応えのある内容となっている。話としては面白かったが、ミステリとしてはバランスがやや悪かったかなと。
<内容>
「プロローグ 宮藤希美の登場」
「事件ファイル1 独身中年ゴシチゴ暗号事件」
「事件ファイル2 通勤電車バラバラ殺人事件」
「事件ファイル3 日本観光コスプレ変死事件」
「事件ファイル4 先輩刑事モンペで殉職事件」
「事件ファイル5 世界遺産アリバイ幻視事件」
「エピローグ 御園生独の退場」
<感想>
女刑事・宮藤希美が謎のバーテンダー御園の助言をヒントに妄想を働かせ、難事件を解決していくという作品集。
これまた類似品の多い、ちかごろよく見られるライト系のミステリ作品集かと思いきや、意外と凝った内容になっていた。ミステリとしては、目も当てられないとは言わないまでも、結構なし崩し的に事件が解決されて行ってしまう。しかし全編通して見てみると、事件の関係者が別の事件とつながっていたり、他の作品でちょこっと出て来ていた登場人物が重要な役割を果たしたりと、細かい所に力が入れられている。
ひとつひとつの作品を見たらそれほどでもないような気がするのだが、全編読み終えてみると、思いのほか、しっかりできていたなと思えなくもない。微妙なインパクトのある作品集であったという気がする。
<内容>
「幽き声」
「呻き淵」
「冥き森」
「憑き物」
<感想>
「物の怪」に続く、講談社ノベルスでの“観察者”シリーズ。前作は短めと感じたので、やや読み足りなかったのだが、今作は十分満足させられる内容。今年読んだ国内本格ミステリ作品のなかでは、一番良かったのではないだろうか。
「幽き声」(かそけきこえ)は、イヅナさまといわれる霊能者にまつわる事件。イヅナさまの正体と真相に迫る。
「呻き淵」は、滝壺に現れた幽霊と村人達が口を閉ざす村の秘密の過去に迫る。
「冥き森」は、ユタ様と呼ばれる祈祷師と再婚してから人が変わったといわれる酒蔵の主人の謎に迫る。
「憑き物」は、「幽き声」の後日譚を描いたもの。
どれもがミステリらしい不可解な謎を用いてる。また、どの作品も怪談めいた怪しい雰囲気が出ていて実によい。真相としては、“観察者”シリーズらしく動物等の生態が鍵となっているので、事前にはわかりにくい内容ではある。とはいいつつも、それで面白さを損ねることは一切ない。
どの作品も意外性に満ち溢れているので、読み応えがあるミステリ作品集となっている。これは鳥飼氏の出世作になってくれればと、期待したい作品。上半期一押しの本格ミステリ。
<内容>
磨きがかかりつつある妄想刑事・宮藤希美、忍者の末裔・望月暁子、男好きの耽美刑事・三谷浩二朗。三人の微妙な刑事たちとその他の真面目な刑事たちが活躍する妄想刑事シリーズ第2弾。
「事件ファイル1 三人の数学教師の問題」
「事件ファイル2 三枚の天狗の面の問題」
「事件ファイル3 三体の不明死体の問題」
「事件ファイル総括 三件の重大事件の問題」
<感想>
シリーズ作品として「妄想女刑事」という本書の前段となる作品があるのだが、そちらは個人的には好みではなかったので、この作品も読まなくてもいいかなと思っていた。ただ、今まで鳥飼氏の全作品を読んでおり、さらには本書が文庫描き下ろしという手軽さもあって、とりあえず読んでみようと思った次第。
というような感じで読んで、実は全然期待していなかったのだが、これが意外にも楽しんで読むことができた。これは、なかなか面白いミステリとして仕立て上げられているのでは。
第一話は、一人の数学教師の殺人と、二人の数学教師の失踪を描いたもの。第二話は、身代金の少ない誘拐事件と犯人が使用した天狗の面の謎を解く。第三話は、ごみ屋敷から発見された死体、それを機にさらに二体の死体が発見されるという事件。
第二話の誘拐事件については、おおまかなところが読めてしまうので、むしろ警察の稚拙な捜査のほうが気になってしまうほど。他の二編はなかなかよくできていると思われた。第一話、第三話それぞれに関しても、ある種わかりやすいトリックが使われているものの、うまく描かれていると思われる。数学を背景とし、さらにはそれをヒントとして用いたり、またはゴミ屋敷という特異な舞台を用いたりと、それぞれが背景を効果的に扱ったミステリ小説として描かれている。
さらには、最終章で語られる三件の事件における、ちょっとしたつながりについては絶句させられてしまう。なんとなく、「本格的」シリーズの簡易版的な様相の作品であった。
<内容>
プロローグ
「魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室」
「英雄チェン・ウェイツの失踪」
「監察官ジェイマイヤ・カーレッドの韜晦」
「墓守ラクパ・ギャルポの誉れ」
「女囚マリア・スコフィールドの懐胎」
「確定囚アラン・イシダの真実」
エピローグ
<感想>
世界各国から死刑囚が集められた収容所、ジャリーミスタン終末監獄にて起こる事件を扱った連作短編集。明晰な頭脳を持ち、牢名主と呼ばれる老人シュルツと、その助手を務めるアラン・イシダ。この二人の死刑囚がさまざまな難問に挑む。
一番ミステリらしい作品と思えたのは、最初の「魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室」。タイトルの通り、密室殺人事件を扱っている。閉ざされた二つの独居房のなかで殺害された二人の男。誰が、どのようにして殺人を成しえることができたのか? 一見、不可能殺人であり、さらには死刑間近の囚人を何故殺害する必要があったのか? という謎に正面から挑んでいる。方法のみならず、動機がポイントのミステリになっている。
他には、唯一脱走を成し遂げた男のその方法に迫り、殺害された監察官の謎を解き、錯乱した墓守が抱えていた秘密を暴く、といった監獄内で起きた事件が扱われる。そして、男が一切立ち入ることのできない女囚人のエリアで懐妊した女の謎から、アラン・イシダ自身の秘密へと、連作形式でラストへと突入していく。
それぞれの話がきちんとしたミステリとして成立しているものの、最初の密室以降は、やや印象が弱めであったかなと。最後の二編の話もミステリ的には普通という感じがしたものの、ジャリーミスタン収容所を背景とし、語り手として配置されたアラン・イシダを巡る話としてはうまく占めているなと思われた。ラストは、もっと単純に終わるのかと思っていたのだが、予想外の方向へと話が進み驚かされる。それなりに、きっちりとした印象を残した連作ミステリ作品であった。
<内容>
綾鹿科学大学大学院准教授・増田米尊は、用意していた発表用の論文がすり替えられていることに気づく。その中身は、まるでミステリ小説のようなものとなっていた。増田は自分の研究室に在籍する学生たちの誰かがやったのではないかと疑うのだが、確定できず。その後も、何度も論文がすり替えられ続け・・・・・・
<感想>
変態フィールドワークで名をはせる増田准教授を主人公とするシリーズ第3弾。シリーズといっても、別に続けて読む必要はなく、これ一冊だけ読んでも何の問題もなし。今作では、その増田が何者かによる論文の改稿に悩まされる。苦労して書いた発表用の論文が、推理小説のような内容の作品に度々すり替えられてしまうのである。
「処女作」研究室に在籍する人物の名前を使い、主人公の女性を誰が妊娠させたのかを当てさせる内容。
「問題作」突発的かと思えた強盗犯が事件を犯した理由は?
「出世作」女と不倫をしていると思われる男のフルネームは?
「失敗作」完膚なきまでの失敗作(らしい)。
こうした作中作が掲載され、そのたびに誰がこれを書いたのか? そして内容についての推理が繰り返される。一応は一貫した物語となってはいるものの、ボツネタをつぎはぎして、一つの作品にしたという感じが否めない。ただ、ボツネタといいつつも、それらすべてバカミスとなっており、このシリーズに掲載するためのバカミス、もしくはこの作品のためのボツネタと、前向きに感じられないこともない。90%の脱力感と10%の感心で出来上がっているシリーズらしさを存分に感じ取ることができる内容。まぁ、こういったネタが嫌いな人には受け入れられないかもしれないが、個人的には好み。そして、最後の1行に思わず笑わされてしまった。
<内容>
植物写真家の猫田夏海は、撮影中に足を怪我をし、高知県にある白崇教の宗教施設に滞在することとなる。その教団は、アルビノの者が教主になることが多く、“タイガ”と呼ばれるアルビノの鮫を崇めていた。その教団で、教主が刺殺される事件が起き、人の出入り不可能の場所故に発見者である教主の孫が疑われることに。さらに、再び不可解な事件が起こり、現場は混迷を極める。生物オタクの鳶山と合流した猫田が、事件の捜査を進めていくと、教団の隠された真実が・・・・・・
<感想>
観察者・鳶山と植物写真家・猫田が活躍するシリーズ作品。今作では、アルビノの鮫を崇める宗教団体の施設で繰り広げられる殺人事件に迫る。
物語は猫田と、教主の孫である明神純との視点が切り替えられながら進められてゆく。猫田は怪我をしてせいで、歩くのが不自由になり、教団に助けられ、明神純の世話になる。当の純は、双子の姉がアルビノで次期教主と期待されており、その待遇の違いに劣等感を抱いている。そんな劣等感を抱いた純が次々と事件に遭遇し、さらに自分の境遇を嘆くこととなる。
ミステリとしては、ある種の密室殺人と、サメに食いちぎられたかのような事件(事故?)とに挑むこととなる。ただ、事件の解決がなされると、これらの殺人事件に関しては、実はミステリ的には大したものではないことがわかる。本書においての重要な点は、なんといっても教団が抱える秘密に尽きる。それを解くことによって、過去に起きたさまざまな事象が明らかとなり、今回起きた事件についてもきっちりとした解釈がなされるのである。
ある意味意表を突いた内容と言えるであろう。過去に似たような真相を用いたものはあるものの、うまく組み合わせて作られた作品という気がした。講談社ノベルスで出ているシリーズとしては、今作が初の長編となるのだが、今作もまたよく出来ていると感心させられた。かなりミステリ濃度の高いシリーズと言えるであろう。
<内容>
「慈悲心鳥の悲哀」
「三光鳥の恋愛」
「耳木兎の救済」
「鸚哥の告発」
「仏法僧の帰還」
<感想>
宗像翼(男)が、大学で所属する動物生態学研究室にて、研究テーマである鳥の観察をしていく。そのなかで、さまざまな事件や謎に遭遇し、それらを解明しつつ、成長を遂げていくという物語。あくまでも短編作品ではあるのだが、時系列順に並べられ、時間もそれにつれて経過してゆき、そこで主人公の恋愛問題がとりざたされているので、ひとつの長編作品という感じにもとらえられる。
全体的に面白い物語にはなっているものの、ミステリとしては非常にライト。ミステリのネタというよりも鳥の生態に関わる方が強いものもあるので、ガチガチの本格という感じではない。鳥類学、軽度の謎解き、男女の恋愛、研究室に携わる色々な人々と、そういった多くの事がからんだ、浅く広いミステリという印象。
一冊の本として、楽しく読むことができるので、気軽に手に取るミステリ作品としてはいいのかなと思われる。ただ、鳥飼氏のガチガチのファンでなければ、文庫くらいで読むほうがちょうどよいような。
<内容>
戦国時代の九州、残忍な行為によって周囲の勢力を叩き潰し、成り上がった鷹生龍政。龍政は奪った城を赤く染め上げ紅城と呼び、近隣の戦国大名たちを震え上がらせた。周囲の者たちに恨みを買いつつも、傍若無人に振舞う鷹生龍政。彼の栄華が続くかと思いきや、紅城では不可解な事件が連続して起こる。首無し死体、毒殺事件、流れ矢による死亡事件、さらには天守の密室。これらの事件は鷹生龍政に対する呪いなのか・・・・・・
<感想>
なかなか面白かった。似たような趣向でいえば、山田風太郎氏の「妖異金瓶梅」のような感触を受けた。
時代は戦国の世で、残虐な城主・鷹生龍政の周囲で起こる怪異を描いたもの。鷹生龍政は、新興勢力として周囲の戦国大名から怖れられるものの、その傍若無人な様子により内外から恨みを買うという人物。そして城内で怪異が起きるかな、怪しげな人物を次々と粛清していき、さらに恨みを買うこととなるという始末。
起こる怪異とは、自殺か、他殺か首無し死体の謎。毒を用いた殺人事件の謎。流れ矢による死亡事故はどのようにして起こったものなのか? そして密室のはずの天守で起きた殺人事件。こういった事件が起きつつ、鷹生龍政は徐々に精神的に追い込まれ、紅城は破滅の道を進んでゆくこととなる。
大枠の陰謀についてはわかりやすいといえるのだが、個々の謎についてはきちんとしたミステリとして描かれている。何気に最近にして珍しい本格ミステリを堪能できる作品であると感じられた。また、大味なトリックが用いられているのも個人的には好感触。
<内容>
アマゾンの奥地で見接触民族の存在が明らかとなり、しかも彼らはホモ・サピエンスではない別種の人類のDNAを持っている可能性があると噂された。その噂を確かめるべく日本から形質人類学者の日谷隆一率いる調査団が現地へと向かい・・・・・・
「隠蔽人類の発見と殺人」
「隠蔽人類の衝撃と失踪」
「隠蔽人類の絶滅と混乱」
「隠蔽人類の発掘と真実」
「隠蔽人類の絶望と希望」
<感想>
ホモ・サピエンスとは別のDNAを持つ隠蔽人類の存在を明らかにするために調査団がアマゾンへと乗り込むが・・・・・・。という感じで話は始まってゆくのだが、そこからはもう何が起こるかわからないという展開が連続していく。その圧倒的というか、あっけにとられるような急展開が見物の作品。
序盤こそはミステリっぽい展開がなされるものの、徐々にSF色のほうが強くなっていったような。後半もミステリ的な部分を序盤と変わらぬ勢いで続けてくれたら個人的にはもっと良かったと思えたのだが。
これは残念なことにネタバレなしでは中身を語れない作品。今年一番の奇書? もしくはバカSFといっても過言ではなさそうな作品。
<内容>
「天網恢恢疎にして漏らさず」
「大山鳴動して鼠一匹」
「我が物と思えば軽し笠の雪」
「善人がなおもて往生をとぐ」
「株を守りて兎を待つ」
「前門の虎、後門の狼」
「同じ穴の狢」
<感想>
災害をモチーフとしたミステリ作品集。地震、噴火、大雪、火災、洪水、竜巻、台風とうことだが、昔であればどこの国の話なんだと思えたであろうが、今の日本であれば、よく見られる現象になってしまっている。ゆえに、このような作品が書かれたのも、ごく当たり前のことなのかなと。
取り扱っている内容は深刻なものであるが、主人公はネットジャーナリストの郷田と、その郷田に体よくこき使われているアルバイトの三田村。二人が取材に行った先々で様々な事件に巻き込まれ、その謎を郷田が見事に解き明かすという内容。災害を取り扱っている割には、ライトなユーモア風ミステリという感触に仕立て上げられている。
少ないページ数で軽くミステリをやっています、という感じの割には、意外としっかりとミステリがなされていると感じられた。それぞれ扱っている事件が、こんな簡単に終わらせずに、もっと内容を深めて、それなりの作品集にすればいいのにと、もったいないと思えるほど。ただ、一番すごそうな内容と思えた“教会の十字架に刺さっていた首なし死体”の事件に関しては、真相がちょっと期待外れであったかなと。その他は、何気にしっかりとした内容になっており、それなりに読みごたえがあった。
気軽に読める作品の割には、しっかりと内容が詰まっているので、おすすめのミステリ作品集である。また、主人公が何気に悪辣なところもまた、見所であると思われる。
「天網恢恢疎にして漏らさず」 地震:蔵の中の死体、消えた小判、倒れた後起き上がった地蔵。
「大山鳴動して鼠一匹」 噴火:噴火により死亡(?)した男。誰が誰を追っていた?
「我が物と思えば軽し笠の雪」 大雪:閉ざされた民家で死亡していた女性の謎。
「善人がなおもて往生をとぐ」 火災:火災現場から助けられた男はその後、何故殺された?
「株を守りて兎を待つ」 洪水:洪水により流された住宅から発見された二つの死体の謎。
「前門の虎、後門の狼」 竜巻:教会の十字架にささっていた首なし死体の謎。
「同じ穴の狢」 台風:台風により地滑りが発生し、死亡事故が起きたのだが・・・・・・
<内容>
第一話 ツートーン誘拐事件
第二話 キマイラ盗難事件
第三話 アッパーランド暗殺事件
<感想>
なんとパンダが見習い探偵となり活躍するという牧歌的な内容・・・・・・なのであるが、実は人類が謎のウイルスにより死滅したのち、動物が世界を支配する社会がひろがっていったというディープな設定。そんなわけで、動物たちは言葉を交わし、二足歩行するものも増え、そうしたなかで人類が送ってきた暮らしと似たような社会が形成されることとなったというもの。
探偵事務所で働く元警官のライガー(ライオンと虎の交合種)のタイゴと、かつては保育士を目指しながらもタイゴの活躍を目の当たりにし探偵助手となる小柄なジャイアントパンダ・ナンナンの二頭が事件に関わり、謎を解いてゆく。
本書には短編3作品が掲載されているが、それぞれが意外ときちんとしたミステリとして仕上げられている。ただ、特異な設定ゆえに、なんとなく変わり種の動物探しを行っているだけというような感じの内容に思えなくもない。面白くありつつも、微妙なところもありというような。
それでも「アッパーランド暗殺事件」は、厳重監視のなかで、いったいどのような生き物が暗殺を企てたのか? という謎のミステリとなっており、なかなか興味深い内容であった。そして、事件の真相も思わぬ展開を見せていて楽しんで読むことができた。
全体的にユーモアチックに楽しめるミステリ作品集となっているので、読んでいて楽しいのは事実。動物好きにはたまらないのかもしれない。あと、今回の作品を読んでいると、なんとなく続きがありそうな感じもしたのだが、どうなのだろう?
「ツートーン誘拐事件」 黒白ツートーンカラーの動物が誘拐される事件が起き、とうとうパンダのナンナンまでもが・・・・・・
「キマイラ盗難事件」 備蓄庫の内部にあるわらのみが盗まれた事件。目撃者の証言は全て別の動物を示しているのだが・・・・・・
「アッパーランド暗殺事件」 共和国の大統領であるチンパンジーが殺害された。厳重な警護のなか、いったい誰がどのように!?
<内容>
綾鹿市動物園にて、3人組の人気女性アイドルグループ、チタクロリンのコンサートが行われることとなった。そのコンサートが始まる前に、メンバーのひとりがレッサーパンダの檻に指を入れたところ、指をかみ切られるという事件が起きた。その事件を皮切りに、チタクロニンの面々と周囲の人を襲う事件が次々と起こる。しかも、被害者は何故か指の一本を切り取られるという事件が続くことに。最初の事件から、この件に関わることとなった動物園のチーフ警備員の古林新男は、綾鹿署の刑事らと共に事件解決に挑む!
<感想>
読み始めは、ちょっと微妙とも思われたのだが、読んでいくうちに惹きこまれ、終わってみればなかなかという感じ。うまくできたミステリ作品であると思われた。
最初は、登場した3人組のアイドルグループがどこまで事件に関連していくのかと思っていたのだが、なんと最初から最後までそのアイドルグループの話にまつわるものとなっている。またひとり、またひとりと指が切られてゆく連続切断事件(しかも、常に別々の指が、ということで5回分)という様相もなかなかすごいものがある。これが、全体的な事件としてまとめられるものなのかと不安に思いつつ読んでいたのだが、意外と最後にきちんとまとめられているので驚かされる。
いや、話として強引と言えないこともないのだが、その強引な話を力業でまとめているところが凄いと思われる。登場時には、ちょっとしたアイドルグループというものの存在が、読み終わってみれば、あまりにも凄まじい人間関係の様相に驚かされてしまうこととなる。よくぞこんな事件を、というか、よくぞこんな人間関係を作り上げたなと感嘆。