柄刀一  作品別 内容・感想2

UFOの捕まえ方   7点

2007年11月 祥伝社 ノン・ノベル

<内容>
 「サイト門のひらき方」
 「身代金の奪い方」
 「UFOの捕まえ方」
 「見えない共犯者の作り方」

<感想>
 毎年の恒例ながらも、今回もまた内容の濃い本格ミステリ短編集となっている。今作で4編と短編の数が少ないのは「UFOの捕まえ方」が長くなりすぎてしまったとのこと。ただ、内容の濃さからすれば、この作品を長編化してしまってもよかったのではないかと感じられた。

「サイト門のひらき方」
 柄刀氏の作品では珍しく時事ネタを取り扱っているという気がした。自殺サイトと失踪事件をからめた内容。本作品のメインは“暗号”。サイトに公開されている文章の中から暗号を解き、失踪者の行動を龍之介が読み取ろうとする。
 本作品は暗号もののみというような内容なので、特にどうこうといったところはないのだが、それでも暗号の作り方については見事であると思える。人によってはこれは解くことができるのかな? 私では一生かかっても解けなさそうな・・・・・・

「身代金の奪い方」
 柄刀氏による誘拐モノ。当然のことながら身代金の受け渡しがキモとなる。どんな新しいやり方を見せてくれるのかと思ったのだが、いたって普通。これは読んでいて分かりやすすぎるネタといえよう。ただ、理系ミステリである龍之介シリーズらしく、龍之介の余計な行動が真相をあらわにするという展開は心憎い。

「UFOの捕まえ方」
 これは一番読み応えのある作品であった。短編だというのがもったいないくらい。秋田県に出没した謎のUFO騒ぎと、同時期に起きたシャンデリアの上で発見された死体をめぐる殺人事件の謎を龍之介が読み解くといったもの。
 これこそ柄刀氏らしい本格ミステリ作品と言えよう。これ一編のみ読んだだけでも大満足である。島田荘司ばりの奇想が展開される作品。

「見えない共犯者の作り方」
 こちらの作品はやや普通目。アリバイトリックものと言えなくもない作品。一応、“見えない共犯者”という存在がポイントとなっているものの、あまり感銘は受けなかった。とはいえ、事細かに伏線を張り、それらを全て回収しているという点は相変わらず見事である。


奇蹟審問官アーサー 死蝶天国   7点

2009年04月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 「バグズ・ヘブン」
 「魔界への十七歩」
 「聖なるアンデッド」
 「生まれゆく者のメッセージ」

<感想>
 奇蹟審問官アーサーの活躍を描く短編集。ネタとしては龍之介シリーズと同じようなものを扱っているように思えるが、背景に宗教色を用いることにより、シリーズとしての独特な雰囲気を出している。個人的には「聖なるアンデッド」一本だけでも大満足。柄刀氏らしい本格ミステリの世界が繰り広げられている。

「バグズ・ヘブン」
 幻視という不思議な能力を持つと噂される女性が閉ざされた建物のなかで殺害されているという事件が起こる。それなりの伏線は張られているものの、密室トリックについては普通。それよりも異様であるのは、犯行現場の様と犯人の動機について。どちらかといえば、宗教的な内容というよりも、病理学的な内容を扱っていると感じ取れる作品。

「魔界への十七歩」
 雪山の山荘に住む男が銃殺されるのだが、犯人とおぼしき者の足跡が途中で消えているという奇怪な状況。これもトリック云々よりも、事件を犯した者の心理的な面が強調されるかのような作品。確かにこれは奇蹟審問官アーサーが扱うにふさわしい事件と言えよう。

「聖なるアンデッド」
 聖なる永久死体、うごめくゾンビによる殺人事件、謎の呪術師、村で起こる奇怪な事件の数々とその奇妙な状況から見出される真実とは!?
 本作品のなかで本格ミステリとしては一番濃い内容の作品と言えよう。まるで教会とブードゥー教の争いを描いているような内容なのだが、解き明かされれば、全てが収まるべき現実にピタリと当てはまってゆく。長編にしても良いくらいのできであるが、変に冗長にせず、これくらいの分量でまとめたほうが密度として調度良いのかもしれない。良作の中編と言えよう。

「生まれゆく者へのメッセージ」
 最後は書下ろしでボーナストラック的な短めの作品。ミステリ的な要素もあるものの、仏教の審問にアーサーが立ち会うということがメインのような内容。


モノクロームの13手   5点

2010年02月 祥伝社 単行本

<内容>
 彼らが気がつくと、見たこともない不思議な世界にいた。彼らはそのマス目が書かれた場所から出ることができなかった。そのマス目は白い丸と黒い丸で表されており、白い丸のマス目にいるものは生きており、黒い丸のマス目にいるものは死んでいるかのように動かない。しかし、外から他の者が入ってきたときに、その世界は変化し・・・・・・

<感想>
 ゲームとミステリを融合させた小説を目指したようであるが・・・・・・決してうまくいっているとは言えないであろう。というよりも、はっきり言ってしまえば失敗作。

 まずは設定があいまいである。オセロを用いているというのはわかるのだが、外からどのような法則で黒か白が打たれるのかというのがいまいちピンとこなかった。盤の中にいるものが主導権を握っているように書かれているものの、そこに無理があったように思われる。あいまいな要素があればあるほど、ゲーム小説としては完成度が低く感じられてしまう。

 また、登場人物が多すぎるというのも欠点であろう。コマの数だけの人物が登場し、それら一人一人の人生を描くとなると小説としての内容が薄まってしまう。できれば最初の4人だけにスポットを当ててもらいたかったところ。

 等々、欠点と思えるところを挙げていくときりないのだが、反対に長所を挙げるとなるとこれといったところが見当たらない。オセロをゲーム小説として用いたという部分は悪くないと思うのだが、設定の練り具合が足りなかったか。なんとなくメフィスト賞の新人の小説を読んだという感じ。


人質ゲーム、オセロ式   6.5点

2010年11月 祥伝社 ノン・ノベル

<内容>
 龍之介が館長を務める“体験ソフィア・アイランド”にて、オセロ連盟による催しが行われることになっていた。それはネットを通してオセロをし、その様子がテレビでも中継されるという大がかりなもの。しかし、その公開対局の最中、スクリーンが何者かに乗っ取られた。それはオセロ連盟の元会長である久能警視を告発するのものであった。犯人と名乗る者はこちらの要求をのまなければ人質の命はないという。7年前に起きた銃撃事件の真相とはいったい!? そして犯人が人質としているのは誰なのか? 警察達が犯人の正体を暴こうと捜査している最中も事態は動き続け、さらなる事件が!!

<感想>
 なかなか凝った趣向の作品となっている。単純に犯人を捜すというだけではなく、進行しつつある事件の中で被害者が誰なのかも伏せられており、それらの謎も含めてリアルタイムで事件の謎を解くこととなる。さらには、7年前に起きた銃撃事件の真相にも迫るという難しい事件に龍之介が挑戦している。

 なんとなくムリクリに話をややこしくしているようにも思えなくはないのだが、そこは臨機応変に活動した犯人の手柄ということにしたい。犯人の計画が犯行前から崩れてしまったものの、それでも計画を実行し、自分なりに事件のつじつまを立てていこうとする。そういった理由もあってか、事件はより複雑となりつつあるものの、事件現場からの情報を得ながら龍之介が起きた事態を細かく分析し、ひとつひとつ謎を解いて行く。

 今回は龍之介に動きが全くないせいもあってか、事件の解答は見事ながらもかなり推測に近い領域で謎を解いているという気がした。特に過去の事件に関しては、現場の検証をできるわけでもなく、明らかとなっていた事実のみで、起きた真相を推測してゆくこととなる。その推測を語って行く中で、なんとなくつじつまの合いそうな状況を語ったら、それがうまく当たってくれたという感じ。

 今作ではノン・シリーズの前作「モノクロームの13手」と同様“オセロ”が舞台背景に用いられている。この作品でも“オセロ”自体はなんら有効活用されていないなと思って読んでいたのだが、よくよく考えてみると、タイトルにある“オセロ”という言葉はゲームのオセロを表しているのではなく、シェークスピアの劇の“オセロ”を表している模様。そう考えると納得できなくもない。

 例年、年の始めに出ている龍之介のシリーズが今年は遅れていたので、どうしたものかと心配していたのだが、これだけ濃密なミステリ作品に仕上げてくれれば文句は言うまい。今後の作品にも期待。あと、シリーズの登場人物がだいぶ増えてきたようなので、そろそろ人物表が欲しいところである。


システィーナ・スカル    絵画修復士 御倉瞬介の推理 6点

2010年11月 実業之日本社

<内容>
 「ボッティチェリの裏窓」
 「システィーナ・スカル」
 「時の運送屋」
 「闇の揺りかご」

<感想>
 絵画修復士・御倉瞬介のシリーズ3作目。ただし内容は、フィレンツェを舞台に瞬介の若かりし頃、妻となるシモーナとの出会いが描かれている。
 このシリーズはミステリとしても読ませてくれるのだが、今作ではやや美術的な分野のほうに傾いていたと感じられた。その内容が美術的な方向に傾き過ぎたせいか、ミステリ的には中途半端に感じられたり、謎自体がそれほどのものでなかったりとやや食い足りなかった。

「ボッティチェリの裏窓」は瞬介が絵画の修復を頼まれた家で奇妙な出来事を目撃する。また、彼が修復する絵画に関する謎にも言及する。
 こちらは屋敷で起こる出来事よりも、絵画の内容にまつわる秘密のほうが気になったのだが、こちらについては食い足りなかった。屋敷の謎自体はたいしたことがなかったので、絵画にまるわる秘密でひっぱっていってもらいたかった。

「システィーナ・スカル」は壁画を見て、ショック死をした老夫人の謎にせまる内容。老夫人が生きてきた人生についての物語はすさまじいの一言。ただ、物語を追うだけになってしまったのが残念なところ。

「時の運送屋」はひとりの画家が最後に残した決死の思いを御倉瞬介が読み取るというもの。こん身の思いで残した遺言ということはわかるのだが、あまりにもわかりにくすぎやしないだろうか。尋常では読み解けない謎を残した意味がわかりにくい。

「闇の揺りかご」は地震により閉じ込められたまま、子供を産み、命を落とした女性の想いについて、真相を読み解くという内容。今回掲載されたなかでは一番短い作品ながらも、一番ミステリとしての内容がよいと感じられた。他の作品と異なり、美術的なものからやや離れたがために、ミステリに没頭できていたようにも感じられる。とはいえ、それではこのシリーズのスタンス自体が意味のないものになりかねない。

 なかなか美術とミステリを両立させるというのも難しいことであると考えさせられた。特に最近ではこうした作風のものが多く出ているので、そういったなかで傑出した作品を出すというのは、並大抵のことではできないであろう。


バミューダ海域の摩天楼   6点

2011年04月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
「バミューダ海域のドラゴン」
 機密装置を載せた空軍輸送機が消息を絶った。場所はあの有名な“バミューダ・トライアングル”。アメリカ情報保安局の要請を受け、ウェルズリー工科大学のDrショーインこと13歳の松陰博士が怪事件の謎を解く。

「熱波の摩天楼」
 ペルーにて遺跡の発掘作業を行うDrショーインの元に情報保安局の者がやってきた。アメリカの打ち上げに失敗した人工衛星の破片がこの地方に落ちてくる可能性があるためのとこと。そうしたなか、Drショーインはウイルスと薬剤にまつわる争いに巻き込まれ・・・・・・

<感想>
 おぉっ、新シリーズはなんと13歳の天才児! でも、“天才・龍之介が行く!”シリーズの龍之介とイメージはほとんど変わらない。違うところと言えば、龍之介よりも13歳のDrショーインのほうがしっかりしているところくらいか。

 キャラクターに関しては置いといて、やっていることは悪くないと思われる。現代科学の新たな流れを取り入れ、さまざまな不可解な事象の謎を解くという試みは面白い。久々に理系ミステリを堪能できた気がする。

 ただ、不可解だったのは2作目の「熱波の摩天楼」。1作目の「バミューダ海域のドラゴン」が良作だったゆえに、2作目でやたらとトーンダウンしてしまった気がしてならない。

 落下する人工衛星、古代遺跡の謎、感染する謎のウイルスといったさまざまな要素が挙げられているにもかかわらず、そのどれもがリンクしないという不思議な内容。特に人工衛星が添え物にすぎなかったのには納得がいかなかった。ミステリとしても、謎の提示がほとんどなされないまま話が進められていくし。
 まさか、シリーズ2作目にして早くも行き詰ってしまったのか??


翼のある依頼人  慶子さんとお仲間探偵団  6点

2011年07月 光文社 単行本

<内容>
 「女性恐怖症になった男」
 「翼のある依頼人」
 「見えない射手の、立つところ」
 「黄色い夢の部屋」

<感想>
「マスグレイヴ館の島」に登場した、シャーロキアン達が集うミステリ作品集となっている。どうやらシリーズ化?

 個人的にはシリーズ作品として微妙に思うことがある。今作の事件を見てみると、このシリーズの特徴(著者はコージー・ミステリを意識しているらしいが)を生かした事件という感じがしないのである。最初の2編は、まぁまぁとしても「見えない射手の、立つところ」なんかは、作風にあっていないのではないだろうか。
 せっかくシャーロキアン達が集うというのであれば、それらしい事件を扱った方がよいと思われる。また、名探偵が多すぎて、中心となる人物が分かりづらいというのも難点。

 マンションでの火災の後、死体が発見される「女性恐怖症になった男」と、迷いこんで来たしゃべるインコを保護したことにより明らかになる事件を描いた「翼のある依頼人」。この2編は事件の規模も大きすぎず、シリーズ作品としてもよかったのではないだろうか。ただ、ほんわかしたシリーズのようでありながら、意外と陰惨でどろどろとした内容の事件ばかりというのはいかなるものか。
 それと「女性恐怖症になった男」のほうのトリックについては、真昼間におおっぴらにできるものではなさそうな気がしたのだが・・・・・・

「見えない射手の、立つところ」は空中に浮いたピストルが発砲し、殺人事件が起こるという不可能殺人を描いたもの。とはいえ、事件の解決を聞いてもいまいち拳銃が空中に停止したままという絵図を思い浮かべることができなかった。

 最後の「黄色い夢の部屋」は分量からしてボーナストラック的な作品なのだが、意外と悪くない内容。これら一連の物語の締めくくりとしてはマッチしていると言えよう。


密室の神話  6.5点

2014年10月 文藝春秋 単行本

<内容>
 警察に遺体があるとの通報があり、美術アカデミーの別棟を確認することとなった戸賀刑事。管理人立ち合いの元、中を調べようとすると、外鍵だけではなく、内鍵も閉められていた。中に人がいないのを確認しつつ、ドアを蹴破って内部へはいる戸賀刑事。別棟の中にも内側から閉められた扉があり、それらを蹴破って入っていくと、とうとう死体を発見することに。建物の外側は雪で埋もれており、人の足跡はついていない状況。ただ、その中にひとつだけ靴の跡が残されていた。内部から鍵が閉められていたこともあり、世間から四重密室と騒がれることとなる事件。被害者は品行方正な学生で、決して人から恨まれるような者ではなかった。いったい、誰が、何故、そしてどのようにしてこのような犯罪を成しえたのか??

<感想>
 柄刀氏、3年ぶりの新作。以前は、これでもかというばかりに新刊が書かれていた柄刀氏であったが、2011年の半ばから沈黙してしまい、なかなか新刊が出されなかった。心配していたところにようやく3年ぶりの新刊が! しかもタイトルに“密室”と付いていれば、これは期待しないわけにはいかないであろう。

 今作ではなんと4重密室に挑むという作品。雪の上に足跡が付けられていないという状況。さらには建物の外から死体が置かれていた部屋までは、内側から施錠された扉を3か所通らなければたどり着けない。このような密室に挑む作品というものは近年書かれなくなりつつあるので、この状況だけでも十分に楽しむことができてしまう。

 今作の大きな特徴としては群像小説のようになっていること。主となる人物が誰なのかがわかりにくく、さらには、誰が事件と直接関係ないのかさえわかりにくい。結局最終的には、あまり事件に関係ないというか、描かれなくてもよいのでは感じられる人物も多々いるのだが、あえてこのような書き方に挑戦したようである。

 この作品では“密室”というものが強調されているようであるが、真相まで辿りつくと、実はミステリの主題としては“いかに”よりも“何故”という動機の方に力が入れられていると気づかされる。群像小説のように描かれているのも、この“何故”というところにポイントが置かれた故に、ということなのであろう。

 最終的には思いもよらぬ角度から攻め込まれ、なるほどと感心させられてしまう内容。ただ、未消化に終わってしまっているところもあり、ちょっと不満に残ってしまうところもある。さらに言えば、本格ミステリ故に、きちんとした探偵役が欲しかったかなと思わずにはいられない。あえて、中心となる探偵役を存在させないことがこの作品のポイントだとわかっていつつも、そう考えてしまう。


奇蹟審問官アーサー 月食館の朝と夜   5.5点

2017年12月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 陶芸家が遺した月食を観測するための不思議な館で一晩に二人の人物が殺害されるという事件が起きる。弟の甲斐の誘いにより、現場を訪れていた奇蹟審問官アーサー・クレメンスが事件の謎に挑む。

<感想>
 久々の柄刀氏の作品。昔、柄刀氏の作品を読んだとき、トリックについては秀逸なのだが、書き方や構成などは微妙だなと感じられた。しかし、作品を書くにしたがって、そういったところも改善され、昔の作品と比べて、内容全体がレベルアップしていった。それが久々に書いた作品という事もあってか、本書については昔の作品に逆戻りしてしまったというように感じられた

 前半、長々と物語の背景について語られて、中盤くらいでようやく事件が起こるのだが、その前半に語られた要素が後半に活かされていたようには思えなかった。特に“月食”とか“美術品”とか、そういった重要と思える要素がほとんど事件に生かされていないということが、どうしたものかと。

 中途半端な論理系フーダニットものの作品を読まされたという感じ。なんやかんやで“奇蹟審問官”が挑む事件ではなかったような。


ミダスの河   名探偵・浅見光彦 vs. 天才・天地龍之介   6点

2018年07月 祥伝社 単行本

<内容>
 ルポライターの浅見光彦は、かつて移植手術を待つ少女と出会い、その少女と適合するドナーが見つかったため移植手術を受けようという日、その病院を訪れた。するとそのドナーの女性が病院からさらわれたとの報を聞くことに。事の発端は、ドナーの女性が資産家の隠し子ではないかという疑いによるものだと・・・・・・
 天地光章は従兄弟の天地龍之介と恋人(?)の長代一美の3人で山梨県で行われている砂金採りのイベントに参加していた。そのイベントの最中、土手の上を走っていた車から人が転げ落ちてくるのを目撃する。助けに駆け寄るも、その男性は死亡してしまう。光章ら3人は、目撃者として不可解な殺人事件と関わり合うこととなる。
 やがて二つの事件は“甲斐のミダス王”と呼ばれる資産家を中心として結びつき、彼のもとに浅見光彦と天地龍之介らが集うこととなり・・・・・・

<感想>
 柄刀氏の新作は、単なる天地龍之介シリーズというわけではなく、なんとミステリ作家・内田康夫氏のキャラクターである浅見光彦を登場させての豪華共演作。豪華といっても、柄刀氏の作品を読み続けている人を別とすれば、圧倒的に浅見光彦のほうが有名であろうが。

 舞台は信玄埋蔵金が噂される山梨。浅見光彦は手術を待つ少女のドナーが誘拐されたという事件を追い、天地龍之介は砂金採りイベント中に遭遇した殺人事件の目撃者となる。そうした二つの事件が交錯してゆき、やがて探偵コンビが顔をそろえて、協力して事件の解明を行ってゆくというもの。

 序盤の展開はかなり魅力的と思えた。浅見光彦、天地龍之介、それぞれのパートで事件が発生し、その裏には“隠された金鉱”の存在があり、やがて二つの事件が重なってゆくということを予感させ、その後の展開が気になってしょうがなかった。ただ、中盤は中ダレ気味。序盤は、それなりに事件が立て続けに起こるものの、中盤は特に事件も起こらず、無意味に時間を過ごしているような気がしてならなかった。後半にはいると、素早い展開が戻って来て読む側を惹きつけるものの、それだけに作品全体をもっと短くしても良かったのではないかと考えずにはいられない。

 あと気になったのは、事件を起こす犯人があまりにも小物というか、事件自体の存在意義が希薄にも感じられるところ。特にドナーの誘拐犯については結局何がやりたかったのかわからず、さらにはそんな人物に右往左往させられる主人公や警察側の対応も微妙。事件全体と犯罪者側のスケールが合わなかったように思えたのは難点であったかなと。

 とはいえ、基本的にはミステリ作品として、それなりの出来栄えであったと感じられた。アリバイトリックや一見、密室殺人と思われる不可能犯罪についてもしっかりとした解決がなされていた。まぁ、全体的には浅見光彦ファンも天地龍之介ファンも納得させられる作品であったのではないかと思われる。


或るエジプト十字架の謎   7点

2019年05月 光文社 単行本

<内容>
 「或るローマ帽子の謎」
 「或るフランス白粉の謎」
 「或るオランダ靴の謎」
 「或るエジプト十字架の謎」

<感想>
 柄刀氏、エラリー・クイーンの国名シリーズに挑戦! と銘を撃ちたくなるような作品集。全編、探偵役として柄刀作品のシリーズ探偵である南美希風(みなみ みきかぜ)が登場する。

 どれもが一筋縄ではいかない本格ミステリ短編作品として完成されている。国名シリーズを模したタイトルも決して適当につけられているわけではなく、それぞれの作品でしっかりと“帽子”“白粉”“靴”“十字架”が存在感を発揮している。

「或るローマ帽子の謎」と「或るフランス白粉の謎」はある種、続きの作品と言ってよいであろう。それぞれ独立した内容ではあるが、時系列として続き、同じ人物が関わっていることもあり、ひとつの作品のような感じでも捉えられる。また、この二つの作品の特徴は、作品の最後に至るまでポイントとなる謎が何なのかがわからないというところが共通している。どちらも、容疑者と言える人物が登場しておらず、何を謎としているのかがよくわからない。にもかかわらず、最後の最後には真犯人があぶりだされるというアクロバティックな展開が見られるものとなっている。

 その後の「オランダ靴」と「エジプト十字架」は打って変わって、通常のミステリとなっている。複数の容疑者がいるなか、不可解な犯行状況のなかで誰が犯行を遂げたのか? そして何故そのような不可解な状況が現場に残されたのかが謎となる。オランダ靴では庭に付けられた一方向のみの木靴による足跡。エジプト十字架では道案内表示に括りつけられた首無し死体の謎。それらがどのような必然性により、そのような状況が構成されたのかを南美希風が解き明かすこととなる。

 どれもがガチガチのミステリらしい作品となっており、久しぶりに本格ミステリを堪能させられたという感じになり大満足である。個人的には「ローマ帽子」と「フランス白粉」と続けられる二つの作品が読んでいる側の想像を超えた意表を突く作品と感じられ、秀逸であった。「オランダ靴」と「エジプト十字架」は、前の二つと比較すると普通のミステリという感じではあったが、それでも十分に水準を超えた本格ミステリとして読むことができる。久々に柄刀氏の良い作品を堪能することができて大満足。


「或るローマ帽子の謎」 帽子蒐集家の倉庫に扮した麻薬取引現場。そこで死体が発見され、ビデオカメラで検証するのだが・・・・・・
「或るフランス白粉の謎」 白粉が飛び散る死体発見現場。犯人が仕掛けたとある罠により、犯人が特定されることとなり・・・・・・
「或るオランダ靴の謎」 犯行現場に残された木靴による片道の足跡。それが意味するものとは・・・・・・
「或るエジプト十字架の謎」 道案内の表示に括りつけられた首無し死体。犯人は何故、死体の首を切断しなければならなかったのか・・・・・・


流星のソード   名探偵・浅見光彦 vs. 天才・天地龍之介   6点

2019年08月 祥伝社 単行本

<内容>
 北海道小樽にまつられる隕石から作られたという流星刀。いつしか、その流星刀を巡る事件に天地龍之介と浅見光彦が巻き込まれる。龍之介一行は、生涯学習施設の所長を務める龍之介の骨休めのために小樽を訪れていた。そこで彼らは、突如目の前で死亡する女性を目の当たりにすることに。その女性は毒殺されたようだ。一方、小樽に観光ルポの執筆に来ていた浅見光彦は、事件に巻き込まれた龍之介らと再会。彼らはまた事件を共に捜査することを強いられることに。そして、さらなる殺人事件が明るみに出るものの、二つの事件の関連性がわからず、捜査は暗礁に乗り上げる。しかし、さらなる事件を経て、事態は急展開することとなり・・・・・・

<感想>
「ミダスの河」に続いての、柄刀氏による浅見光彦トリビュート作品。柄刀氏が創作したキャラクター・天地龍之介と浅見光彦を共演させたミステリ作品第2弾。前作がそこそこ面白かったということはあるものの、これをシリーズとして続けるのはどうかなという疑念はなくもない。というのも、柄刀氏のことは個人的にはファンであるが、ミステリとしてのトリックなどについては光るものがあるのだが、物語を描くうえでは決して流暢な作家とはいえないと思っている。ゆえに、こういったトリビュート作品を書くのには、適していないのではと感じてしまうのだ。

 その疑念通り、今作では“隕石で作られた流星刀”という背景があるものの、物語上あまりうまく活かされていないと感じてしまった。また、肝心の事件に関しても漠然としたものが二つあるのだが、それらがうまくかみ合わないゆえに、内容に引き付ける魅力が乏しかったかなと。そんなわけで、後半までは正直言って、読み進めるのが辛く思えた。

 ただ、事件の解決に関しては、やはり見るべきところがあり、特に事件全体の構造については、なかなか目を見張るものがあると感嘆させられる。それゆえに、途中の物語の引きや、構成について惜しいと感じられるのだが、それがいつもの柄刀作品だと納得してしまう部分もある。そんなわけで、柄刀氏のファンであれば、いつもながらの納得の作品という感じなのだが、果たして浅見光彦ファンを納得させられるのだろうか? と余計なことを考えずにはいられなくなる。


ジョン・ディクスン・カーの最終定理   7点

2020年09月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 ジョン・ディクスン・カー生誕百周年に伴い上陸した幻の本「カーの設問詩集」。そこには実在の事件のなかで未解決のままとなっている犯罪が掲載されており、なかでも“ジョン・ディクスン・カーの最終定理”と呼ばれる不可能犯罪が注目をひくものとなっていた。この会を開催した大学生の面々らは、過去に起きた未解決事件の謎を解こうと知恵を絞る。そんなとき、屋敷のなかで水中銃による殺人事件が起きることとなり・・・・・・

<感想>
 2006年に出版された「密室と奇蹟」に収録されていた短編を大幅改定し長編化したもの。といっても、もともとの短編も中編と言ってもいいような分量であったので、そんなに変わっていないような気もする。

 ただ、その中身は面白い。過去に起きた二つ時不可能事件を紐解きつつ、現代に起きた不可能事件も解き明かすというぜいたくな内容。ひとつが曰く付きの拳銃が離れた場所で殺人を犯すというもの。もうひとつは人体発火事件。そして現代に起きた事件は、不可能状況で起きる水中銃による殺人。

 何気に現代に起きた水中銃事件が、思っていたよりも凝っているものとなっており、感心させられてしまう。しかもそれが過去の事件に結び付けられるとはなおさら・・・・・・

 かつて「密室と奇蹟」を読んだ人でも、私のようにすっかり内容を忘れてしまっている人は再読をお薦めしたい。さらに、未読の人にはなおさらお薦めできる作品。今年一番、本格ミステリ濃度が濃い作品ではなかろうか。


或るギリシア棺の謎   6.5点

2021年03月 光文社 単行本

<内容>
 南美希風とエリザベス・キトリッジの二人にとって縁の深い篤志家で老齢の安藤朱海の訃報が届いた。安藤家はギリシアをルーツとする家系であり、棺に関する不思議な風習が伝わっていた。そんな安藤家であったが、安藤朱海の葬儀を行う途中に、脅迫状と遺書が発見されることに。しかし、その遺書が作為的なものであり、ひょっとすると朱海は殺されたのではないかという疑惑がもたらされる。また、安藤家では数年前に行方不明になっていた朱海の孫が1年前に刺殺体で発見されるという事件が起きていた。今回の朱海の死は過去に事件に関わりがあるのか? 安藤家を調査した南美希風くだした真相とは!?

<感想>
 読みにくかった。話はよくできていると思われるのだが、とにかく読みづらい。なかなかの難物。

 ストーリーが地味なところが、とっつきにくいと思われる理由のひとつ。序盤から後半までにわたり、遺言書や脅迫状がどのようにして置かれたか、もしくは何のためにそれらが作られたかということについて、事細かに延々と議論を重ねているのである。とにかく、そのひとつひとつの事象について、丁寧すぎるというか、細かすぎる議論と推理が語られ続けるのである。

 大雑把に事件を話の流れをまとめると、まず長い間療養中であった安藤朱海が亡くなった(安藤家頭首の妻)。自然死と思われたのだが、他殺や自殺の可能性が示唆される。といっても、どちらの行為も一見、不可能に見える。そして行方不明であった安藤夏摘(朱海の孫で、夏摘の夫は既に死亡)が1年前に刺殺体で発見されている。その事件が今回の朱海の死に関係するかも焦点。また、安藤拓矢(夏摘の兄弟)は、現在服役中。刑務所に入っていることにより、さまざまな事件に関してはアリバイがあるのだが、彼は事件に何らかの関わり合いがあるのか。

 と、こんな感じで重要なポイントと思われるものや、さまざま事件がありつつも、直接的な殺人事件に対する指摘のようなものがないためか、事件捜査は地味にゆるゆると進行してゆく。読んでいる途中は、なんともやるせないというか、話の進まなさにじれったいと感じられる部分が多々ある。ただ、話が終わったのちに、よくよく話をおさらいしてみると、良くできている話だと思えるのだから始末が悪い。もう少し、書き方についてなんとかならなかったものか。いや、むしろ重厚なミステリ作品として、このくらいの語り口の重さがあったほうが良いということか? 良くできているミステリと感じつつも、人にはお薦めしにくい作品。


或るアメリカ銃の謎   6.5点

2022年07月 光文社 単行本

<内容>
「或るアメリカ銃の謎」
 カメラマンの南美希風と法医学者のエリザベス・キトリッジは山を散策中、その近くの領事邸宅で起きた殺人事件に巻き込まれることに。パーティー後、客のひとりが銃により死亡していたという。法医学者としてエリザベスは検視をすることとなったのだが、その後、エリザベスの行方がわからなくなり、さらには新たな銃殺事件が勃発し・・・・・・

「或るシャム双子の謎」
 知人の館に滞在中の南美希風とエリザベスは、小型飛行機の墜落事故に遭遇する。その事故により、橋が落ち、さらには火災により館に閉じ込められることとなる。そうした状況下で、二人の男が殺されるという事件が起き・・・・・・

<感想>
 柄刀氏による国名シリーズ作品。今作では2編が紹介されている。「或るアメリカ銃の謎」のほうが長めの中編という分量の作品であり、「或るシャム双子の謎」のほうはやや短め(といっても100ページ近く)のものとなっている。出来栄えは「或るアメリカ銃の謎」が良かったかなという感想。

「或るアメリカ銃の謎」は、二つの銃殺死体が取りざたされる事件。その犯行方法というか、アリバイが調べられ、誰がどのようにしてこれらの事件を成し遂げたのかが問題となる。そのうちの一つの事件は、隠された別の事件が大きな動機となっていて、物語の構成上の工夫に驚かされる。その隠された動機の扱い方が秀逸と言えよう。もうひとつの事件のほうは、何気に“足跡”がキーポイントとなっている事件。思いもよらぬ物証から真相が明らかにされることとなる。

「或るシャム双子の謎」は、アリバイミステリという感じの内容。うまくできているとは思えるものの、若干パンチ力が足りなかったような。閉ざされたという設定や、双子というもの自体が、細かくは活かされてなかったような気がする。それでも、設定として取り上げられたものは、すべて回収するように物語は書かれている。やはり、ページ数がもう少しあったほうが、読み応えが感じられたように思われる。


或るスペイン岬の謎   6.5点

2023年08月 光文社 単行本

<内容>
 「或るチャイナ橙の謎」
 「或るスペイン岬の謎」
 「或るニッポン樫鳥の謎」

<感想>
 柄刀氏による国名シリーズもこれが最後。冊数にすれば4冊分であり、それぞれ、ちょっと癖のあるミステリ模様を堪能することができた。今作は、3編の作品が掲載されているが、それぞれ味のあるミステリ作品となっている。それぞれに“密室”が含まれているのだが、その“密室模様”については、まぁ、普通といったところ。それよりも本書は、設定と設定に見合った動機についてが注目すべき点であると感じられた。

「或るチャイナ橙の謎」は、反転された部屋と服装があべこべにされた死体の謎に迫る。何故、服装が反転されたのか? そして死体の身元をわかりにくくした犯人の意図とは? これらが芸術的な設定をからめつつ、謎が解かれることとなる。意表をついた、真相と動機には目を見張るものがある。

「或るスペイン岬の謎」は、1年前に起きた殴打されて、裸で放置された被害者の謎。被害者は生きていたものの記憶障害にかかり、さらにはその前に起きた放火事件は自分が起こしたと語り始める。こうした過去が、現在においてさらなる事件を引き起こすこととなる。これまた、なかなか面白い事件が描かれており、解決に関しても感心するところであるが、犯行の模様が大雑把すぎるように思われた。特に1年前に起きた事件が、秘密裏に事を進めるのは難しそうな気がするのだが。そういった実行上の問題を除けば、なかなかうまくできていると思われた。

「或るニッポン樫鳥の謎」は、一緒に暮らしていた内縁の夫と妻のうち、妻が殺害されるという事件。外部の犯行は不可能とされ、夫が容疑者となる。密室については、あぁ、そうかというくらいしか。事件の動機と真犯人像については、心情的に理解できなくもないという内容。シンプルながらも、それなりに面白いと思えた作品。

 これにて探偵・南美希風が活躍する国名シリーズは終わりとなるが、南美希風自体は、元々他の作品にも出ていたので、今後も別の作品で活躍してくれることであろう。ただ、このシリーズ固有のキャラクターのようであった、エリザベス・キッドリッジは、これで最後になるのかな。




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