浦賀和宏  作品別 内容・感想

記憶の果て   6点

第5回メフィスト賞受賞作
1998年02月 講談社 講談社ノベルス
2001年08月 講談社 講談社文庫
2014年03月 講談社 講談社文庫(上下巻)

<内容>
 高校を卒業し、大学生となる直前、安藤直樹の父親が自殺を遂げた。原因もわからぬまま、とほうにくれることとなる直樹。父親の書斎に残されたパソコンを起動すると、“裕子”と名乗るプログラムが直樹に呼びかける。徐々に直樹はパソコンの中から呼びかける“裕子”と心を通わせることとなる。その存在の正体を探るべく、父親の知人らから話を聞く直樹であったが、段々と自身の出生の秘密をたどることとなり・・・・・・

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<感想>
 懐かしくて、新装版を買って読んでしまった。この作品は、講談社ノベルスで発売当初に購入し読んでいたので、17年ぶりの再読となる。

 今読んでみると、単なるミステリのみならず、いろいろな要素が詰め込まれた作品なのだなと改めて認識させられた。今の世であれば、SFとして紹介されてもおかしくないのかもしれない。ただ、個人的には青春小説という印象が一番強い。主人公の安藤直樹が父親の死を通して、父が遺した人口知能と自身の出生の秘密にせまるという内容。

 主人公の人格設定のせいか、雰囲気的には暗いと感じられる。ただ、内容を通してみると、意外と18歳くらいの男の願望が全て詰まっているように思える。気を許せる友人がいて、部活の想い出があり、彼女とくっついたり・別れたりし、人工知能を通して普通では経験することができない体験をすることとなる。良いほうに転べば、十分に充実した学生生活というように捉えることができる。また、人口知能や事件などを通すことにより、自分が普通ではなく特別な存在でありたいという願望をかなえているようにさえ思えてしまう。

 まぁ、その充実するはずの学生生活が、主人公の性格的な問題のせいか、真っ直ぐなほうへと向かわず、内包的な方へと向かっていってしまうこととなる。また、その感情がミステリとしての真相にもうまく結びついており、驚愕の結末が旨い具合にはまっているとも感じられる。

 若干、ミステリとしての濃度が足りないとか、その他にも欠点と思われるところは多々見受けられるのだが、若手新人作家の作品としては十分であると思われる内容。メフィスト賞前期の作品では、賞と時代性の象徴ともいうべき一冊であったのではないかと思えてならない。


記号を喰う魔女   FOOD CHAIN   5点

2000年05月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
「僕が死んだ時、居合わせた人間達を僕が生まれたあの島に向かわせてください」そう遺書を残し中学生が自殺した。孤島を訪れた5人の同級生を襲う殺戮劇。死体には、全て「逆さV」の記号が残されていた。犯人は、そして生き残れるのは誰?

詳 細

<感想>
 ホラーだ! ホラーであろう!! 理系ホラーか?(ようするに理屈っぽいということ)

 序盤からやけに陰惨な空気だけがただよう。情報があまりあたえられず淡々と進められていくせいか、中学生という設定になっている天文部員や学校の様子なども希薄でそれがいっそう暗い雰囲気をたたえている。そして島へと舞台は移るが正体不明な登場人物が出てくる中、殺人が起きる。この作品のなかではあまり、誰が殺したのか?とか何のために?というものが非常に希薄に感じ、かつ登場人物達から感じる不気味な印象からホラー作品という印象を受けた。いままでの浦賀作品でも「ミステリー?」と感じた作品はあるがこれもまた異なる雰囲気のものとなっている。特に中学生がカニバリズムを淡々と語ったり、意義のない殺人や死体の損傷といったものが物語をかくも不気味に感じさせる。

 この作品は全4作品に関連する登場人物が出てきているので、あわせて読めばそれなりに感じ入る部分もあるが、単品として読むならばちょっとした怪奇小説というところだろうか。いちおうカニバリズムの島へ来たはずが招かれた者が・・・・・・というオチかな??


眠りの牢獄   6点

2001年05月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 階段から落ちて昏睡状態になってしまった女性をめぐり集められた三人の青年。三人は核シェルターに閉じ込められ、そこから出る条件は彼女を突き落としたのは誰なのか告白することだった。同時に外では完全犯罪の計画がメール交換で進行。ラストで明らかになるあまりにも異常な“切断の理由”とは!?

<感想>
 著者にとっては、初めていままでのシリーズから外れた作品となる。そして登場人物に作家をなりわいとしている「浦賀」という人物が主となってでてくるので、奇妙な雰囲気がかもし出される。

 内容は、岡嶋二人の作品の「そして扉が閉ざされた」を思わせるような舞台設定。さらにそこに、メールを使った交換殺人が舞台裏で繰り広げられる、という具合になっている。本書のページの薄さもあってか、話がスピーディーに展開されてゆく。話もうまくまとまっており、ラストへと進むにつれてピースがうまくはまってゆき、見事に一枚の絵になるといった具合だ(といってもそれほどピースの数が多いわけではないのだが)。

 話自体は結構うまくまとまっていておもしろい作品になっていると思う。ただ、読了後よく考えてみると、なぜ今になってこういう作品を書こうと思ったのだろうか?と疑問に思うふしもある。どちらかといえば、著者にとっての6冊目の作品というよりは、デビュー前の作品を改稿したものみたいに感じられた。


彼女は存在しない   6点

2001年09月 幻冬舎 単行本

<内容>
 加奈子は町で一人の女に突然、「アヤコさんですか?」と訪ねられる。その見るからに不安定そうな女は由子と名乗る。加奈子は恋人の貴治とともに、その由子に関わることになって行く。そんな日々の中のある日、貴治が・・・・・・
 大学生の根本有希は幼いときに父が亡くなり、つい最近母親を亡くして、妹と二人暮しをすることになった。しかしその妹の亜矢子は内向的で家に閉じこもりがちの毎日を送っている。しかしとある事から有希は妹の言動がおかしいことより、彼女が多重人格なのでは? と疑い始める。やがて彼の身の回りに奇妙な出来事が・・・・・・

<感想>
 いよいよ、講談社以外でも活動を始めた浦賀氏。最新作はどのようなものかと思ったが、学生たちが主人公のせいもあってか、やけに文章が幼く思えるような気がした。これは前作の「眠りの牢獄」でも同じようなことを感じた。また、内容とは関係ないようなとりとめもないことに文章が割かれたりするのも気にはなったのだが・・・・・・

 さて内容のほうだが、多重人格やらなにやらと、なんでこんな題材をいまさら持ち出すのかな?と思い、作品自体に疑問を感じながら読んでいた。それでも「眠りの牢獄」のように、なにか仕掛けはしているのだろうなとは思いつつ警戒していたのだが・・・・・・そうきたか・・・・・・。思わず、最初のほうのページをめくり確認してしまった。最後は見事にやられました。

 アイディアは非常に良いと思うので、あとはそこに行き着くまで読者の目を離さないような工夫や文章力があればなと思う。今後の作品にも十分期待してよいだろう。


学園祭の悪魔   ALL IS FULL OF MURDER

2002年02月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 あの日から、世界は壊れはじめていたのかもしれない。首なし死体、連続猟奇殺犬事件、そして・・・・・・私の周りに“死”が堆積していく。学園祭で出会った笑わない“名探偵”安藤直樹は、すべてを解決してくれるのだろうか?

<感想>
 2001年以来、絶好調な著者。今回もまた変わった作品を書いてくれた。「眠りの牢獄」「彼女は存在しない」に次ぐ作品であるので、だまされまいとかまえながら読んでみたが、作中で特に謎として提示されるものはない。そしてエンディングへと・・・・・・

 まぁ、いってみればモダンホラー的な作品であり、サプライズ小説ともいえる。評価とかそういった対象になる作品ではないのだが、安藤直樹シリーズの一環としては、なかなか見せてくれる作品ではなかろうか。著者の書きたかったこともなんとなく読みとることができ、これは、作中にある“名犯人”というものを創作したかったのではなかろうか。まぁ、“名犯人”といっても“悪人”との境界線というのもわかり辛くはあるのだが。

 ただ、それでもそれなりに色々と楽しませてくれる浦賀氏ではある。


こわれもの   6点

2002年04月 徳間書店 トクマ・ノベルス

<内容>
 売れっ子マンガ家、陣内龍二の婚約者・里美が交通事故で死んだ。ショックのあまり、陣内は、自作のヒロインを作中で殺してしまう。たちまちファンからの抗議が殺到。その中に里美の死を予知した手紙があった。日付は事故の数日前。陣内が手紙の差出し人を訪ねると、神崎美佐という48歳の落ち着いた女性だった。部屋には作中のキャラクターが飾られ、熱心なファンであることを示している。何故、神崎は里美の死を予知できたのか? そして、予知された死は防げないのか?

<感想>
 浦賀氏、初のトクマノベルス作品。出版社が異なるせいもあるのか、これまでとは違った設定での作品。ミステリーとして主となるところは、予知能力の真偽。作家、陣内はだまされているのか? それとも・・・・・・

 といった内容で、人気漫画「スニヴィライゼイション」の作家・陣内が主要人物としえ語られて行く。全体的に言えば、通常のミステリー作品であろう。その結末内容ともにまぁまぁというところ。もう一味何かがなりないというのが正直な感想。できれば、作中で語られている「スニヴィライゼイション」の内容や結末に、(ミステリー的なトリックではなくても良いので)なにか一味つけてくれればと思ったのだが。


浦賀和宏殺人事件   6点

2002年05月 講談社 講談社ノベルス密室本

<内容>
 ミステリ作家浦賀和宏は悩んでいた。次作のテーマは「密室」。執筆が難航するなか、浦賀ファンの女子大生が全裸惨殺死体で発見される。彼女が最後に会っていたのは浦賀和宏!? そして、その裏にはもうひとつの事件が!!

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<感想>
 また、それにしてもアクの強いものを。読み始めれば、不可解というか、度を越したかのような文章があちらこちらに散りばめられている。というよりも、不平不満で仕上たかのような小説。ただし、そこで終わってしまえばミステリでもなんでもないのだが、その文章をトリックにしてしまうというのは前代未聞。確かにここまでやれればたいしたものだ。

 とはいうものの、何かこの人の最近の本、読むの疲れるんだよねぇ。なんかストレスで書いているかのような気が・・・・・・しばらくの間、インターネットから離れてみたらいいんじゃないかなぁ。


地球平面委員会   5点

2002年05月 幻冬舎 幻冬舎文庫

<内容>
 大学に入学した僕が賑わう校内で見たのは、「新委員募集中。あなたも信じてみませんか。地球が平面であることを」と書かれたビラを校舎の屋上から撒く女の子。その子に惹かれる僕の周囲で事件が起き始める。放火、盗難そして殺人事件・・・・・・一体僕は何に巻き込まれたんだ?

<感想>
 読んだ感想はずばり、また突っ込み所満載の本を書いたなぁと。とはいいつつもあまり細かいところまであぁだこうだといってもしょうがないので省略。内容はといえば、幻冬舎文庫から出ていることでそう感じたのかもしれないが、清涼院流水氏が描くかのような世界観である。学生達が登場して生活感を語ったり、恋愛感情が出てきたりというところは今までの浦賀氏らしい作風。そこに、よくぞここまでといってしまいたくなるようなラストにおける大スペクタクル(ちょっと言い過ぎか?)。うーーん、なるほど。著者はこういった疑問を抱いていたのか。しかし、それを一つのネタとして作品にしてしまうのはすごいところなのかもしれない。まぁ、こんな考えも方もあるといった一つの作品ということで。


ファントムの夜明け   6点

2002年12月 幻冬舎 単行本

<内容>
 死はいつも愛するものを奪っていく。でも、あなただけは・・・・・・
 元恋人の失踪、明らかになる妹の死因、忍び寄る死の気配。連鎖する悲劇の果てに待っていたものとは!?

<感想>
 浦賀版「クロスファイア」とでもいえばよいのだろうか。
 ただし本書の特徴としてはきっちりと分野わけするよりも、読んでいくうちに何が起こるのか先が読めない小説であるという捉え方のほうがよいのかもしれない。

 序盤は主人公の過去にスポットが当てられていて、かつて双子の姉がいて、何らかの事故によって亡くなったとされている。主人公の現在の状況と照らし合わせながら、過去がフラッシュバックされて徐々にその過去がはっきりとしていき主人公の現在の状況にある影響を及ぼす、というようなところか。サスペンス的であり、ホラー調でもありながら語られていくさまは、今までの浦賀氏の書きかたとは異なる作調に感じられた。

 浦賀氏といえば、ついこの間出版された「地球平面委員会」でも書かれているような、学生的な感覚をベースにしたようなものとしての印象が強い。それが今回の作品では、だいぶ文章が落着いたかのように思えた。もしかしたら(えらそうに言わせてもらえば)一皮むけたという言い方をしてもよいのかもしれない。

 話の内容もなかなか魅せてくれるものがあるのだが、後半の展開は少し強引だったように感じる。急な展開を挿入しなくても、前半と同様のペースで物語を構築していってくれたほうがそれなりに落着いた作品になったのではないかと思える。もしくは多少冗長になっても前半部のネタだけで一冊にまとめてしまってもよかったのかもしれない。このような作品が書けるのであれば、単なるサプライズ的な作品にこだわらずとも多様な作品が描けるのでないのだろうか。2003年の活動も目が離せなくなりそうである。


透明人間   6点

2003年10月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 里美の父親は10年前、不可解な状況のなかで死んでいるのを発見された。里美は父親の死には透明人間が関わっているはずだと信じていた。
 ある日、里美に父の死後世話になった弁護士から電話がかかってくる。父親が研究していたときのデータが家に残っているかもしれないので探したいのだと。そして里美は自分の家の地下に巨大な実験施設がはることを初めて知ることになり・・・・・

<感想>
 あくまでも浦賀流ではあるものの、ここ最近ではめずらしく正統派本格ミステリーで勝負してきたと感じられた。

“透明人間”というものを主題におきつつ、話が進められていくのだが、前半はやや冗長に感じられる。事件らしい事件も起きなく、主人公の女性の日常がフラッシュバックしつつ淡々と進められていく。そして中盤から事件が動き出し、その後は一気に物語がヒートアップし、ラストまでは一気に読まされた。

 ミステリーのトリックの部分だけ抜き取れば、同じメフィスト賞作家の霧舎氏あたりがやりそうな大掛かりなネタである。探偵役の安藤直樹による解決は根拠が飛躍しすぎているようにも感じられるのだが、インパクトは十分にあるのでそれなりに満足。その解決の後にもう一押しくらいあるのかなと思っていたのだが、すんなりと終わってしまったという感もある。

 最近の浦賀氏の作品では叙述トリックを仕掛けてくるものが多かったので、警戒しながら読んでいたのだが、そういった作品のものとは若干趣向が違ったようである。最終的には不透明なまま終わってしまった部分もいくつかあるので、なんとなくもやもやした気分が晴れない気持ちもあるのだが、こういう終わり方もありであろう。


松浦純菜の静かな世界   6点

2005年02月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 事件に巻き込まれ、妹を亡くしながらも、自分自身はほとんど無傷であった八木剛士。傷心の中、剛士は松浦純菜と出会う。彼女は大怪我を負った後、療養生活をおくっていて、2年ぶりにこの町に帰ってきたのだという。そしてその時、町では女子高生連続殺人事件が起きていたのだった。松浦純菜は何故かその連続殺人事件に興味を示し、事件の様相を探ろうとする。いつしか、剛士は巻き込まれるかのように純菜と行動を共にすることになり・・・・・・

<感想>
「透明人間」以来、1年ちょっとぶりの新作である。浦賀氏の他の作品を読んだときにも感じたことがあるのだが、本書を読んで思ったのは、これが処女作なのではという感覚である。通常の作家であれば、何作か書いていれば次第に熟練とまでは言わないまでも、なんらかの慣れというものを感じるのだが、何故か浦賀氏の作品は唐突にまた“ふりだしに戻った”かのような感覚を受けてしまうのである。これが評価としてプラスに働くのかマイナスに働くのかは微妙なところなのであるが、これもこの著者の特徴のひとつというところか。もしくは、まだ作法とか作風というものに対して試行錯誤中という事なのであるのかもしれない。

 本書の内容についてだが、途中まで読んでいるときは「これって本当にミステリなのかな?」と心配をしてしまったのだが、最終的にはきちんとしたミステリ作品としての結末が付けられていた。失礼な言い方かもしれないが、不思議なことに何故かそれだけでも安心してしまった(「ファウスト」に掲載された短編の例もあったので)。

 主人公と純菜の関係としては乙一氏の「GOTH」を思い浮かべられる。本書では「GOTH」とはまた異なる男女の関係ではあるにしろ、なんとなくまっすぐとは言い切れない微妙な感情の行き来にそう感じさせられた。

 ただ一つ思うのは、なんでこの著者の感情描写はこうも“鬱屈”しているのだろうかということ。とにかく嫌な感情があふれている、というかあふれ出している。別にここまで世界を斜めに見なくてもと思うのだが・・・・・・。この“鬱屈”した雰囲気がいまいちメジャーになりきれない一つの要因ではないかとも強く感じられる。

 とまぁ、いろいろと思うことを書いたのだが、結論としてはまぁまぁの作品というところ。確かにそこそこ面白く読めたのではあるが、パンチ力もあまり感じられなかったし、意外と普通に終わってしまったなぁ、というのが正直な感想である。

 本書がもう14作目なのであるのだが、今だ足元が定まってないのかなといったところ。


火事と密室と、雨男のものがたり   5点

2005年07月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 またもや八木剛士の通う学校で事件が起きた。校庭にて女子高生の首吊り死体が発見されたのだ。足跡が彼女のものだけしかないことから、明らかに自殺と思われたのだが、松浦純菜はその事件に怪しいものを感じ取り、またもや八木と共に首を突っ込んでゆく事に。最近、近隣にて頻発する放火事件と何か関わりがあるのだろうか? 死んだ女子高生の身辺を調べているうちに、ひとりの不思議な男の存在が明るみに出て・・・・・・

<感想>
 どうもここ最近の浦賀氏の作品を読んでいると、作家としての力量が後退してきたのではないかと感じられる。前作「松浦純菜の静かな世界」を読んだときにそう感じたのだが、今作ではその勢いが加速したかのように思われた。

 まず本書はミステリーとして成立しているとは言いがたい。自殺体がただ怪しそうだというだけで突っ走る学生達と、なんの情報も開示しないまま何の捜査をしているのかわからない刑事たちが右往左往してるだけのように思われた。

 また、作風にしてもどうかと感じられるところがある。もし、浦賀氏の事を知らない人がこの作品を読めば佐藤友哉氏に影響されていると感じるのではないだろうか。ようするに、鬱屈した部分が肥大に書かれたミステリーともただの小説とも判断が付かないような物語がただ続いているだけなのである。作品の後半部分で、いよいよこれからミステリー的な謎解きが始まるのかと思いきや、延々一章分を使っていじめの話が語られたりと、内容としてもグタグタとしか言いようが無い。

 昔、法月氏が作品を書くのに行き詰った(と思われる)時に作品中にその鬱屈した思いがぶつけられていたような作品がかつてあったが、最近の作家が行き詰まったらこのようになるという一つの事例として見ればよいのだろうか? 本当に浦賀和宏という作家は考えれば考えるほど不思議な作家である。


上手なミステリの書き方教えます   

2006年06月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 (省略)

<感想>
 なんでこんな本を金を払ってまで買ってきて、時間を割いて読まなきゃならないんだろうと思いながら読んでいた。

 前半はいじめられっこのネガティブな心情が延々と書き綴られている。それが二段組でぎっしりと。中盤は作中の小説家の心情と最近の小説に対する批判が延々と書き綴られている。そして後半ようやくミステリーとして展開されるのかと思いきや、それほどのことはなく、前半とほぼ変わらない描写のまま話が終わってしまう。

 とにかく、感じたことといえば、「なんだこれ?」という思いだけ。

 今までは浦賀氏の本は全て読んできたのだが、それもこの作品でおしまいにしていいかなと思っている。最近「ファウスト」誌上に書いている作品や、現在講談社ノベルスで出されているシリーズを見ると、どうもミステリー路線からは完全に外れてきているようである。

 一応、ライトノベルス系の作品を書いているような気はするのだが、その路線には全くはまっていなく、また、舞城氏、佐藤氏、西尾氏のような新路線系にも引っ掛かっているとは思えない。

 ということで、最近の浦賀氏の本からは何ら期待するような要素が見えてこなくなったので、もうこれ以上読み続ける必要はないだろう。

 個人的な話ではあるが、“混沌の父ウグノ・ルと魔人ウグノ・リ”には笑えた。


萩原重化学工業連続殺人事件   6点

2009年06月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 洋館にて身元不明の女性の死体が発見された。しかもその死体は頭部が切り取られ、中の脳が取り出されていたのである。このような奇怪な殺人事件が連続して起こることに! 次は工場跡地で同じような状況で女性の死体が発見される。今回は身元が確認できたものの、死体発見者の話を聞くと、状況はまるで密室殺人事件のように思え・・・・・・
 引き続き起こる、脳が抜き取られるという殺人事件。この事件の背景に萩原重化学工業が関連しているようなのだが・・・・・・

<感想>
 浦賀氏の作品は八木剛士シリーズが肌に合わなかったのでしばらくの間敬遠していた。そんなわけで、3年ぶりとなった浦賀作品。ひょっとすると今まで書かれた作品に関連する部分があるのかもしれないが、基本的には単体と見てよい作品のようである。

 で、読んでみた感想はといえば、面白くないことはないのだが、ミステリだとは言いがたく、浦賀氏流の物語を読まされたという印象。

 本書では連続殺人事件が起こり、その死体から脳が持ち去られたりと、何故そのようなことが? とか、犯人はどうやってこのような犯罪をなしえたのか? などといった謎は数多く提示される。しかし、それらの謎は論理的に解明されるようなものではなかった。

 一応、数多くの謎が最後にはきちんと解答されているものの、この作品には作中の独自のルールがあり、それらが解答前に全て提示されているわけではないがゆえに、ミステリ作品とは呼びにくくなっている。話全体をうまくまとめているがゆえに、ミステリとも言いたくなるような気持ちも湧き出てくるのだが、基本的には浦賀氏流のSFっぽい物語といったところだろう。

 あとは、それなりにうまくできている小説だとは思えるので、余計に思えるところをもっとスリム化してもらえれば、さらに一般的に人気のでる作品となるのではなかろうか。浦賀氏のファンのみに訴えかける作品だというのであれば、この作品そのままでもかまわないのかもしれないが。


彼女の血が溶けてゆく   6点

2013年03月 幻冬舎 幻冬舎文庫

<内容>
 フリーライターの銀次郎は、元妻である聡美から依頼を受ける。彼女は医者であり、現在医療ミスを巡る事件により訴えられているというのだ。彼女が担当した患者が、血が溶けるという溶血を発症し、後に原因不明のまま死亡したという。銀次郎は、死亡した女性のほうに何らかの過失がなかったかを調べるために調査を開始するのであったが・・・・・・

<感想>
 久々の浦賀氏の作品。一時期、“八木剛士シリーズ”が肌に合わなくて敬遠していたのだが、幻冬舎文庫から続けざまに作品が出たのを見て、久々に読んでみたくなった。

 今回読んでみると、硬派な医療ミステリという感じに仕上がっている。これは、作家誰か知らされずに読んでいたら、浦賀氏の作品だとはわからなかったと思われる。こんなしっかりした小説を書き上げる作家だったけ? と、痛感させられた。

 内容は医療ミスを巡る調査となるのだが、徐々に死亡した女性を巡る複雑な相関図ができあがってゆくこととなる。その複雑な相関図が完成すると被害者の女性がどのような意思を持って、何を成し遂げようとしたのかが明らかとなる。

 なかなか一筋縄ではいかないミステリ作品として仕上げられている。最後のどんでん返しも面白いというか、この著者ならではの悪意のようなものがうまく突き立てられている。こう言っては失礼かもしれないが、思いもよらぬ佳作と言えよう。


彼女のため生まれた   6.5点

2013年10月 幻冬舎 幻冬舎文庫

<内容>
 フリーライターの桑原銀次郎は、母親が殺害されたと聞き、故郷の浜松へ戻る。生き延びた父親から聞いたところ、家に何者かが押し入り、母親を刃物で殺害し、父親に切りつけた後逃走したという。その後、犯人は高校の校舎から飛び降り自殺を遂げる。犯人はなんと銀次郎の高校時代の同級生の渡部という男。ただし、銀次郎との間に交友関係はなかった。その渡部が残した遺書によると、高校時代に同級生の女性が銀次郎にレイプされ自殺をし、その恨みを遂げるための犯行だというのだ。身に覚えのない汚名をはらすため、銀次郎は事件の裏に隠されたものを調査し始める。

<感想>
「彼女の血が溶けてゆく」に続く、フリーライター桑原銀次郎が主人公となる作品。今回もまた銀次郎の身辺で起こる事件であるのだが、どれだけ不幸に見舞われるのだと気の毒にさえ思えてしまう。ただ、内容については面白かった。前作もよい作品と思えたが、今作はそれを超えていると感じられた。読み手の想像を超えた悪意が見事にはまっている作品。

 今回の内容は、高校時代の同級生に銀次郎の母親が殺害されるというもの。その同級生が銀次郎に恨みを持っていたという事だが、銀次郎の方はその同級生とはほとんど交友がなく、課せられた汚名についても全く心当たりがない。その汚名が、ネットによって公開されてしまい、身の潔白を図るために銀次郎は事件の調査を行う羽目となる。

 社会的な観点からしても怖い内容と言える。身に覚えのない罪をきせられ、それが社会に公開されてしまったとき、どのようになるのかという一例ともいえよう。ここでの主人公はフリーライターという地位ゆえの利点を生かして打開策をはかるのだが、一般人であればどのように対処すればよいのかと考えるとぞっとしてしまう。

 主人公の銀次郎は同級生が残した遺書の矛盾点をつきつつ、関係者に対する取材を繰り返し、徐々に事件の背景をあぶりだす。その同級生が事件を起こしたという事自体は変わりないものの、何故事件を起こしたのか、そして何故銀次郎に罪をきせようとしたのか、その真実に肉薄していく。

 そうしてやがて真相にたどり着いたかに思えたのだが、最後にさらなるどんでん返しが待ち受けている。そこで明かされる真相がなんともいえないもの。タイトルの意味がわかりづらいものとなっているが、最後の最後でその意味に気づかされることとなる。著者の浦賀氏といえば、ネガティブなイメージを思い浮かべてしまうが、そのネガティブさをうまく作品に表しきった内容といえよう。昨年の間に読み切っていれば、自分のベスト10に入れてもよかったなと思わされる出来栄え。


彼女の倖せを祈れない   5.5点

2014年04月 幻冬舎 幻冬舎文庫

<内容>
 フリーライターの桑原銀次郎は、同業者のフリーライターが殺害されたという知らせを受ける。そのフリーライターは因縁の人物で、とある事件で銀次郎と関わることとなったのである。それが縁でというわけでもないが、フリーライター殺害事件を記事にすべく調査を始めた銀次郎。すると、大手の新聞社もこの事件を追っていることを知ることに。やがて、ひとつのコスプレ写真を元に真犯人の元に肉薄することとなるのであったが・・・・・・

<感想>
「彼女の血が溶けてゆく」「彼女のために生まれた」に続く三作品目。前作、前々作とよかったので、こちらも期待したのだが、やや期待外れという感じであった。

 この作品は、前作「彼女のために生まれた」にて、因縁の関係となったフリーライターが殺害されたという知らせを、桑原銀次郎が受けたところから話が始まる。その事件を調べていくうちに、意外な事実が明るみに出る・・・・・・と言いたいところだが、その意外な事実に桑原銀次郎が到達するというわけではないのが、今作のポイント。途中の展開が、ちょっと変わっていて、後半は異なる視点の者により話が語られてゆくこととなる。

 社会派小説というか、政治家の裏側を歪んだ形で描いたという作品。ただ、政治を描いているというわけではなく、あくまでも歪んだ人物を描いたというものであり、その歪んだ人物が政治に関わりがあるというだけ。

 最終的に、ミステリ作品らしい仕掛けも施しているのだが、あまり決まりきらなかったかなと。特に腑に落ちた感がないような仕掛けであった。なんとなく、今までの桑原銀次郎の作品というよりも、以前の浦賀氏が描いていた作品っぽい方向に行ってしまったかなという感じの小説。


ifの悲劇   6.5点

2017年04月 角川書店 角川文庫

<内容>
 小説家の加納は妹が婚約しているにも関わらず、その妹と関係を持ってしまう。婚約者の要求にこたえることのできなかった妹はやがて自殺を遂げることに。しかし、その自殺の理由は婚約者であった男の浮気が原因だと知った加納は婚約者の殺害を試みようとし・・・・・・

<感想>
 上に記したあらすじだけでは内容が伝わりにくいと思われる。本書の主人公は作家であり、プロローグでパラレルワールドミステリを書くことを示唆する。そして作家自身がまるでそのパラレルワールドを体現したかのようにストーリーが進められてゆく。物語は二つのパートにわかれ、A:犯行直後に目撃者を殺した場合と、B:犯行直後に持喜劇者を殺さなかった場合の2つの話が交互に語られてゆくこととなる。

 そしてこの二つの物語を最終的にどのようにして処理していくのかが焦点となるのだが・・・・・・なんと驚愕の結末が待ちうけていた。これはやられたというか、なかなかの力技が炸裂している。実はこの作品、買おうかどうしようか迷っていたのであるが、これは買って正解であった。薄めの文庫書下ろし作品ゆえに、軽く流してしまっている人が多いと思われるが、これは読み逃すともったいない作品。今年、上半期の目玉といっても過言ではあるまい。

 あと、何気に作品後半に、著者が幻冬舎文庫から出しているシリーズ作品の主人公であるルポライター桑原銀次郎が登場している。これが思いもよらぬ役割を担うこととなっているので、そちらのシリーズを読んだことのある人は、なお楽しめることであろう。なるべく先入観無しで読んでもらった方が楽しめるので、すぐにでも入手して読んもらいたい作品。


Mの女   6点

2017年10月 幻冬舎 幻冬舎文庫

<内容>
 ミステリ作家の西野冴子は、友人である篠亜美から恋人だというタケルを紹介される。冴子はそのタケルの挙動に不審なものを感じ、タケルについて調べ始める。すると、とあるノンフィクション作家の作品が送られてきて、その内容は一家が殺害され、ひとりの男の子だけが生き延びたというものであった。ひょっとすると送り主は、タケルがその生き残りの男の子であることを示唆しているのではないかと・・・・・・

<感想>
 今年は「ifの悲劇」に続いて2作目。近年、幻冬舎文庫から出版された作品が増えてきたことからも、浦賀氏の作家活動が乗りに乗ってきたということを実感させられる。

 今作は、ミステリ作家の西野冴子が友人の恋人の男性に不審なものを抱くところから始まる。その男の背景を調べていくと、やがてさまざまな事件が浮かび上がり、男がそれらに関係しているのではないかと疑いを持つこととなる。さらには、冴子の友人に近づいたのは、なんらかの目的で冴子自身に近づくためではないかという疑いが芽生え始める。また、ひとりの女性ノン・フィクション作家の存在も浮き彫りになってゆくことに。

 今作は、読者をだますというよりは、主人公である西野冴子を騙すためのミステリであるように感じられた。なんとなく海外作品の「わらの女」とか、そういったものに近いものを感じてしまう。ただ、作品のラストは、ややあいまいな感じで終わってしまっているので、ちょっと未消化気味であるかと。ひょっとするとミステリというよりも、女と女の対決を描いたサスペンス的なものを意識して描いたものなのかと思えなくもない。


デルタの悲劇   6点

2019年12月 角川書店 角川文庫

<内容>
 かつて3人の小学生がクラスメイトをいじめ、公園の池で溺れさせて死亡させる事件が起きた。ただ、目撃者がいなかったために事件は事故と判断され、そのまま月日が流れる。10年後、その死亡した少年の友人であったという八木剛と名乗る男が、3人のもとを訪れて、自首せよと脅迫を迫ることとなり・・・・・・

<感想>
 主要登場人物に八木剛という浦賀作品を読んでいる人にとってはお馴染みのような名前が出てくるものの、どうやらシリーズ作品の“八木剛士”とは関係なさそうなので、あくまでもノン・シリーズ作品として読むことができる。以前に出版された「ifの悲劇」ばりの衝撃の結末が待ち受けている作品。

 A、B、Cというパートに分けながら、その3つが並行して物語が流れてゆく。何かあるのだろうと思いながら読んでいくものの、何が待ち受けているかはわからない。後半になって、ちょっと違和感を感じる展開になってきたのだが・・・・・・結局ラストに驚かされてしまうことに。

 よくぞ、こんな内容のものを考えたなと感嘆。ただ、トリックのみの作品であり、単に読者を驚かすためというのみになっているゆえに、もう一工夫ほしいところか。「ifの悲劇」もあまり世間からは注目されなかったので、こういった内容のものを書くのであれば、もうちょっと何かを付け足さなければならないのかもしれない。個人的は面白かったが。


殺人都市川崎   6点

2020年05月 角川春樹事務所 ハルキ文庫

<内容>
 治安の悪い川崎に住む赤星は4月から高校生になろうとしていた。赤星は武蔵小杉へ引っ越していった元恋人の愛のことを考えながら、現在の彼女である七海とデートをしていた。その七海が元担任の後藤が、伝説の殺人鬼・奈良邦彦を見かけたという話をしていたら・・・・・・
 赤星と別れて武蔵小杉へ引っ越してきた愛は、きちんと赤星と話をしなかったことを後悔し、川崎へ行って赤星と会うことを考える。お目付け役として従弟の拓治がついてくることとなったのだが、その拓治は川崎の伝説の殺人鬼・奈良邦彦について調べているということを話し始め・・・・・・

<感想>
 近年、「ifの悲劇」や「デルタの悲劇」などでも扱われているどんでん返しを狙った作品。それを意識しながら今作はどんな狙いがあるのか? と、本書を読んでいくことに。中学を卒業したばかりのやや不良少年っぽい赤星少年のパートと、以前その赤星の元カノであった愛との二つのパートが並列に語られている。この二つのパートが後半、どのように絡むこととなるのか??

 そんな感じで読んでいってのラストで明かされる真相・・・・・・今回も驚かされたことは間違いないが、驚愕というほどではなかったかな。さらに言えば、やや強引すぎるような気がしなくもない。かつ、未消化なままで終わってしまった事項もあるので、全体的にはやや微妙なできかなと。スプラッタ・サスペンスというジャンルで見てみれば、よい味を出しているといえるのかもしれない。

 今後に期待・・・・・・と言いたいところだが、残念なことにこれが浦賀和宏氏の遺作となってしまった。何かやってくれる作家という印象がいまだにあったので、もう作品を読めなくなると思うと残念でならない。デビュー作から読んでいただけに、この若い作家の訃報がなんとも身にこたえる。




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