<内容>
美容室で見習いとして働く川島輪生(もとき)、通称リンネは職場で疎外されていた。シングルマザーの母親は飲んだくれで、家に帰ってもストレスを抱え込むだけ。そんなリンネの唯一のストレスのはけ口はツイッターに不満を書きつけること。ある日、リンネは思いもよらず、電車のなかで騒ぎを起こしていた外国人をカバンに入れていたカット用のハサミで、周囲に気づかれることなく刺してしまう。その行為に快感を覚えたリンネは似たような手口で人を襲い始める。そして偶然ファミレスで騒ぐ若者たちを目の当たりにし・・・・・・
<感想>
最初は無軌道な若者たちの視点から物語が始まってゆく。そして、孤独な美容師見習いの青年の視点に移り変わり、中盤から後半にかけてはテレビ・ディレクターの視点によって話が展開されて行くこととなる。
前半の展開はエピローグであったかのように、中盤からはテレビ業界関係者からの視点で物語が進められてゆき、そのままラストまでスピーディーになだれ込んでゆく。普通に受け止めれば、通り魔と化した青年の犯行をいかにして効果的にテレビの題材として扱うかという話。ただし、当然のながら歌野氏による作品ゆえにそれだけで終わるはずもなく、どのようにしてラストでひっくり返されるかを期待ながら読んで行くこととなる。
ラストについては・・・・・・二度ビックリという感じ。ただ単に驚かされるだけではなく、タイトルである“ディレクターズカット”というものがいかに効果的に使われているかを痛感させられてしまう。これはなかなかうまく描かれていると感心させられる。
歌野氏の作品で“密室殺人ゲーム”という非人道的な行為を主体として描かれた作品郡があるのだが、本書はそれに通じるものがある。ただし、本書はその非人道的な行為が“テレビ界の常識”というような形で書かれていることに戦慄を感じてしまう。テレビだからといって何でもあり、というわけではないのだが、そこで働く者たちにとっては道徳よりも・・・・・・という考え方が蔓延しているような・・・・・・いやいや、あくまでフィクションであるのだが。
<内容>
小学生の間宵紗江子の父親、夢之丞は紗江子のクラスメイトたちに大人気で、皆が紗江子の家に遊びに行きたがった。そんなあるとき、紗江子の友人の詩穂が間宵家に遊びに来ていたのだが、その後突然、詩穂の母親と夢之丞の二人が行方をくらませる。二人は駆け落ちしたのではないかと噂され、夢之丞の妻である己代子は、奇行にはしり、詩穂や詩穂の父親を執拗に糾弾し始める。そして、その己代子の奇行により、多くの人々が人生を狂わせられ・・・・・・
<感想>
なんか凄い内容であった。病的なクレーマーというか、近所にいたら絶対に嫌な迷惑な人の話という感じから始まるのだが、そこからどんどんと話を派生させていくところがすさまじい。しかも単なる奇行話で終わらせないところもなかなかのもの。全体的に“厭”な小説であるのだが、どこか惹かれるものを感じて、読み進めていってしまった。奇行一代記ならぬ三代記とでも銘を打ちたいところ。
<内容>
40年ぶりの同窓会の一環として、修学旅行を再現した旅行が行われることとなった。かつて修学旅行で来た離島・弥陀華島にたどり着いた元教師と当時の生徒たち。宴席の場で久我陽一郎は、当時の自分たちの高校をモデルにミステリ小説を書こうとしていたことを告白する。その夜、宿泊先の風呂場で久我が死体となって発見される。いったい何が起きたというのか? 久我を殺害する動機のある者は? 旅行に来ていたもの達は、ひとりひとり己の人生に向かい合い・・・・・・
<感想>
絶望的につまらなかった。“首切り島の一夜”という、いかにもミステリらしいタイトルであるのだが、物語に何の意味合いも、もたらしていなかった。
いったい何が“絶望的”かというと、この作品の各章が全て異なる名前から成り立っている。それゆえに、ひとりひとり別々の視点から語られる物語であることは、たやすく想像がつく。そして物語が始まり、最初の章は普通に事件の発端を描いていて良かったのだが、次の章では起きた事件に何も関係ない当人の人生を語るのみ。ここで思ったのが、こんな感じで残りの6章分、ひとりひとり、つまらない鬱屈した人生を読まされる羽目になるのかと絶望的になったのである。そして、実際にその通りの流れで話は進んでいくこととなる。
というわけで、とにかく退屈で絶望的な小説であった。一応、ちょっとした仕掛けもあるのだが、それについても本題の殺人事件と関係のない仕掛けであったりする。二度読み、三度読み必至と帯に書いてあったものの、話がつまらなさすぎて繰り返し読もうとする意欲が全くわかなかった(本当は、一読ではわからない秘密が隠されているのではないかと必死にページをめくり戻していたのだが)。
歌野氏の作品だからこれは今年のNo.1小説かもしれないと期待していた自分がなんとも・・・・・・むしろ、今年のワースト作品であった。