<内容>
学園内で探偵というバイトを生業にしている“わたし”。わたしは放課後にひとりの人物と出くわしたために、屋上で発見された死体を巡る事件について捜査することとなった。殺害された人物は隠し撮りによって女生徒を脅すことを繰り返していた悪名高い生徒。その男は屋上から突き落とされた形跡があるのだが、わざわざその死体が屋上に上げられていたのであった。誰が? どのようにして? 探偵である“わたし”が出した結論とは・・・・・・
<感想>
登竜門って一年に一回というわけではなくなったんだ・・・・・・と思いつつ読んでいたのだが、この作品も最近の登竜門から出た作品に負けず劣らず、中途半端な立ち位置にあると感じられた。
まぁ、ページ数が短いので飽きる前には読み終えることができるものの、全体的につたなさばかりが目立つという印象であった。たぶん、その世界観が好きになれなかったので全体的に悪い印象に思えてしまったのだろうが、学校の中で学生らしい活動をせずに“わたし”と連呼しながら、探偵活動をやっていますと言われても全く興味をひきつけられない。
またこれも最近はよくある話で“ジェンダー”というものを用いたミステリというものが多くみられるが、本書もそのパターンの中に納まりきってしまう内容でしかなかったと思える。もう少し死体移動のトリックが気の利いたものであればミステリとしての内容が強められたのでは思えたのが残念なところ。とりあえず、次の作品に期待というところで。
<内容>
86人の殺害を自白し、実際には100人以上を殺害したのではないかとも言われている男、佐藤誠。彼は冷徹な計画によって、多くの殺人を繰り返し、死体を発見されないように処分し、警察の目から逃れ続けてきた。そんな彼の犯罪のなかで、唯一例外ともいえるのが“遠海事件”と呼ばれるもの。この事件では二人の人物が殺害され、しかも首を切られた状態で発見されていた。何故、佐藤誠はこのような行為に及んだのか? 秘められた真実とはいったい!?
<感想>
この作品は詠坂氏にとって、光文社の登竜門でデビューしての、2作目となる作品。前作のとんがったようなハードボイルド風の作品に比べれば、ミステリ作品としては本書のほうがずっと読み応えがあるものとなっている。
まずは設定が面白い。86件の殺人を自供した連続殺人鬼、佐藤誠。その佐藤誠が犯した事件の中で不可解に思えるひとつの事件を抽出し、その事件について言及していくという内容。物語の進めかたもドキュメンタリー風なパートを間にいれたりと、なかなか凝った構成になっている。
そして、最終的に真相があきらかになるのだが、うまくできてはいるものの、印象としてはやや平凡に終わってしまったという気がしないでもない。個人的にはラストで佐藤誠と対峙する人物は“探偵”のほうがよかったのではないかと感じられた。
ただ、全体的に地味な印象がするといっても、ドキュメンタリー風に進めているということもあり、そのへんは著者なりの意図があって行ったものではないかとも感じられる。
まぁ、何はともあれ、1作目を読んだことにより、この2作目を買うのをややためらったのだが、3作目が出たときには迷わずに購入することになるであろう。
<内容>
ローカルな都市伝説“電気人間”。その電気人間は噂をすると人々の前に現れ、電気で人を殺してゆくというのだが・・・・・・
その不確定な噂を調べようとした人々が不審な死を遂げるという事件が相次ぐことに。これらの死については全て事故ということで処理されているのだが、本当は電気人間というものが存在するのでは? ゲーム雑誌のライターである柵馬は事件を調べようとするのだが・・・・・・
<感想>
前作「遠海事件」と本作はほとんど関連はないのだが、舞台となる“遠海市”という地名だけは関連しているようだ。今後はこの“遠海市シリーズ”として作品を書いてゆくのだろうか。
今作は“電気人間”という地方の都市伝説を用いてのホラー系ミステリというような内容で描かれている。たぶん“電気人間”というものについては聞いたことがないので創作であると思われるのだが、その都市伝説を調べていくうちに、登場人物らが謎の死を遂げてゆくこととなる。
そうして、真相はいったい!? という風に話が進められてゆくのだが、今作については結構普通に終わってしまったなという気がした。普通と言っても、きっちりひとひねりがなされていたりと、それなりのものになってはいるのだが、珍しい作風でもないし、結末に関しても別の作品で見た事があるようなもの。今回はオリジナリティに欠けたせいか、普通のホラー系ミステリ小説に収まってしまったなというところ。
この著者の作品はこれで3作目となるのだが、今後はどうなってゆくのだろうか。2作目は地味に注目されたという気がするのだが、それに比べると本書は地味なうえに弱いと感じられてしまう。次の作品ではもう一工夫こらしてもらえればと期待したいのだが。
<内容>
警視庁捜査一課の刑事・雪見は連続殺人事件の犯人の手がかりを追っていた。その事件の犯人は、犯行後死体の上にタンポポを残していくことから“タンポポ”と呼ばれるようになった。被害者同士の関連はなく、何故事件が起きているのか手がかりが全くつかめない。そんなとき、過去の事件を調べていると全く同じ殺害方法での連続殺人が10年前に起きていることを知る。その事件の犯人はすでに捕まっており、刑務所に服役中であった。何故、過去の事件を模倣する事件が起きることとなったのか? 事件の鍵は、10年前の事件を警察に先駆けて解決していた“月島前線企画”にあることがわかり・・・・・・
<感想>
3部構成の話となっているのだが、第1部は警察小説、第2部は学園小説、そして第3部は冒険活劇のような内容となっている。そのような展開で過去の事件を模倣する連続殺人犯を追うという展開がなされている。
展開は面白いと感じられた。過去と現在の事件を探る刑事と“月島前線企画”という探偵のような何だかよくわからない集団(集団と言っても結局4人?)。さらには舞台を閉鎖された学園に移すことによって事態は混迷極めることとなる。
ただ、不満だったのは犯人の正体を含む結末について。こういう終わり方をしてしまうと、物語全体が単なるキャラクター小説にすぎなかったというようにしか思えなくなってしまう。“月島前線企画”というものも、ひょっとすると過去の作品のなかで出てきている者もいるかもしれないが、現状では特に愛着があるというわけではないので、結局のところ物語への入れ込み具合も薄いまま。何だったら、“月島前線企画”という者が解決する事件でも先に一本作っておいてもらいたかったくらい。それとも、今後これらの面々が再び活躍するという話が出てくるのであろうか。
まぁ、詠坂氏もこれで4冊目の本となるのだが、相変わらずどんな内容のものを書き上げてくれるのか、全く持って予想がつかないままである。
<内容>
寿明は漫画家をめざしていたものの、いつしか漠然とその夢をあきらめ、バイトをしながら日々を過ごしていた。同じように何をする気もなく、日々をだらだらとすごす仲間の頼太、将樹、丈と寿明を含めた四人はゾンビ映画を撮ることにした。廃墟となった商店街へ出向いてみると、そこで彼らは本物の死体を見つけてしまう。彼らは警察に通報せずにその死体を使ってゾンビ映画を撮ろうとするのだが、後日その死体が跡形もなく消えてしまい・・・・・・
<感想>
思っていたよりもミステリ的ではなく、普通に青春小説という感じであった。何をしようにもやる気のでない今風の若者4人。そんな彼らがゾンビ映画を撮ろうと決意するのだが、実際に死体を見つけてしまい、さらにはその死体が消え失せ、右往左往するという話。右往左往といいつつも、基本的にローテンションな内容なので、バタバタした感じにはなっていない。
この小説は、非日常的な出来事が起こり、それをきっかけにして、立ち直っていこうとする若者の話。自分の人生にどのように向き直っていくかということがだらだらと書き連ねられているといったところか。
一応、ミステリ的な展開はあるにしても特筆すべき点はない。また、とあるトリックが仕掛けられているものの、他の作品でも過去に取り上げられたことがあり、決して目新しいものではない。とはいえ、この作品にはそのトリックがうまくマッチしているというようにも思え、決して後味が悪くなっていないところが不思議なところである。
<内容>
「穴へはキノコをおいかけて」
「残響ばよえーん」
「俺より強いヤツ」
「インサート・コイン(ズ)」
「そしてまわりこまれなかった」
<感想>
ミステリというよりは青春小説。ゲームライターを主人公として、先輩記者との関係、雑誌への寄稿、過去の思い出などが昔のゲームをモチーフとして描かれている。
実はここで挙げられているゲームは私にとってど真ん中といってよい世代なのだが、不思議とあまり共感できる内容ではなかった。小説のモチーフとなっている、スーパー・マリオ、ぷよぷよ、ストリート・ファイターU、スペース・インベーダー、ドラゴン・クエストV、ほぼリアルタイムで体感している。ただ、自分で熱中してやったというよりは、人がやっているのを見ていた方が多かったかなと。アクションやシューティングが苦手だったので。
どの話もしっかりとした結末を付けているというよりは、あいまいに終わらせていると感じられたせいか、それゆえにミステリとしてはとらえられなかったのかもしれない。なんとなく、それぞれの話でリドル・ストーリー的なものを感じられた。ただ、一番リドル・ストーリー的な「残響ばよえーん」が一番面白いと感じられたので、別にリドル・ストーリーが悪いというわけではないのだろう。
各作品で問題提起されていることが、あまり共感できなかったというのも、微妙に感じられたところなのかもしれない。最初の「穴へはキノコをおいかけて」はマリオは何故ジャンプするときに片手を上げるのか、という事をとりあげているのだが、その問題提起自体に共感を覚えなかった。他の作品もおおむねそんな感じであった。
ちょっと癖がある内容のような気もするので万人向きではないかもしれない。それでも人によってとらえかたは異なると思われるので、是非とも30代から40代の男性には読んでもらいたい作品である。何か心に残すものが人によっては見つかるかもしれない。
<内容>
群雄割拠の戦乱の時代に、突如現れた異界“常闇”。その闇が天下統一を目前にしていた軍を飲み込んだことで覇権は一変した。その“常闇”という謎の存在に対して各地の軍が共闘を図ることとなり・・・・・・
<感想>
異界を背景としたミステリかと思いきや、ミステリ的な要素はなく、そのままファンタジー小説となっている。日本国に似たような世界でありながら、異なる世界を構築し、その世界が“常闇”という謎の存在に翻弄される様子を描いたダークファンタジー。
というわけで、誰にでも薦められるような小説ではない。特にミステリだと思って手にとると期待外れとなってしまう。著者の詠坂氏は、最近ミステリから離れつつあるような気もするが、特にミステリのみを書くことにはこだわっていないのかもしれない。まぁ、もともと描いていたミステリ作品もかなり変化球気味であったのだが・・・・・・
この作品の最後で、これはとある小説を翻訳した作品というような構成にしているのだが、ファンタジー小説ということであれば、そういった趣向はなくてもよいような気がする。なんとなく、山口雅也氏の「日本殺人事件」をイメージしたが、著者のなかでは、そんな感じの小説のつもりであったのだろうか。
<内容>
ボクシング部に所属する高校生・高橋和也は、同じ学校の変わり者である若月ローコと関わりあうこととなる。亡霊が出るという噂のある廃校で出会った二人。名探偵志願だという若月ローコに渋々ながら、付き合い続ける高橋。そんな高橋には、ローコと行動を共にするある個人的な理由があり・・・・・・
<感想>
探偵志願の女子高生と、それに振り回される同級生の男。そのように描くと、どこかほのぼのとしたものを思い浮かべるかもしれないが、決して“陽”としては描かれず、絶えず“鬱”な雰囲気で描かれている。なんとなくではあるが、乙一氏描く「GOTH」に近いところがあるような印象。
詠坂氏の作品を読み慣れていれば、らしいと感じられるかと思われるが、そうでなければやや中途半端な印象を受けてしまうかもしれない。冒険小説として突き抜けているわけでもなく、恋愛小説というほど甘くもなく、ミステリ小説というには物足りないと。ボクシング部の少年と探偵志望の女の子、校舎の廃墟や数々のちょっとした事件。こういった要素があれば、もっとすっきりしたミステリが描けるように思えるのだが、そこをあえてすっきりさせないところが持ち味といったとこか。読み手によって、好き嫌いが大きく分かれそうな作品。
<内容>
映画制作のロケハンで島に渡った6人。ディレクター、アシスタントディレクター、脚本家、美術、カメラマン、アシスタントカメラマン。彼らは終始、カメラを回しながらロケを行っていたが、その際に同僚の死に遭遇する。やがて1人、2人・・・・・・そして全員が死亡することに。警察は残されたテープと現場を検証した結果、事故と結論付ける。しかし、島に渡らずに生き残ったプロデューサーは、その結論に納得できず、月島前線企画へ依頼を持ち込み・・・・・・
<感想>
ロケハンに孤島を訪れた6人の映像制作者たちが、次々と死亡し、全員亡くなってしまったという事件。依頼人となるプロデューサーから持ち込まれた映像を元に、月島前線企画の面々は、事件の裏に潜むものを探ろうとする。
詠坂氏のシリーズものといってよいのかどうか、月島前線企画の面々が事件検証を行うというもの。ロケハンにて撮影された映像を、逐一見ながら細かく検証していくこととなる。ただし、警察が事件性無しと判断したものから、新たな真相が見出せるのかどうか? ただ、依頼を持ち込んだプロデューサーの胡散臭さがやや気になるところ。
全体的に地味な展開が続き、さらには地味な内容である。島で6人が死亡するというとショッキングな内容に感じられるが、そのドキュメンタリーの様子も何故か淡々としたものと感じられる。さらには、その事件というか出来事自体に、大きく揺さぶる展開や新たな事実がでてくるのかと思いきやそうでもなく・・・・・・と、そんな感じで後半に至ってもやや退屈にさえ思えてしまう内容。そうして、結局のところこの物語が何を言いたいのかというと・・・・・・最後の最後でそれが明らかになるのだが、ちょっと、驚かされてしまった。というか、ここまで一つの長編を書き上げて、言いたかったのが「そんなネタなのなのかい!」と、驚きあきれつつも、潔いというか、なんというか。
<内容>
複数の自殺事件について、一点だけ、それらを結ぶ共通点が存在した。それは“暃”という文字のタトゥーシールが貼られていること。それぞれの事件において、自殺であることは間違いないはずなのだが、これらは誰かの手によって導かれた事件なのかという疑いが持ちあがる。そこで刑事部別室所属となっていて、実態が曖昧な案件の捜査を専門とする早川と山本の出番となった。二人は“暃”という文字の意味について考え始め・・・・・・
<感想>
久しぶりに読む詠坂氏の作品。ミステリっぽい作品のような気がしたので手に取ってみたのだが、その実、ちょっと毛色の変わった作品となっている。ホラーのような、ミステリのような。
幽霊文字という題材を扱った作品。徐々に使われなくなって、いまや普通に使われる漢字からは消えたものの、形だけは残っているもの。そのなかから、“暃”という文字が取り上げられている。自殺した死体に残されているこの文字にどのような意味があるのか? それを考察する物語となっている。
本書はミステリ云々よりも、“考察”自体に重きが置かれて、それこそがこの作品の目玉であるような気がする。その文字一つを取り上げて、どれだけのことが考えられるのかがテーマであるかのよう。その大きなテーマを軸にミステリ的な路線が添えられているとも言えよう。
ある種、有名ホラー作品「リング」とかにも通じるものがあると思えるのだが、最終的な解がわかりやすいものではないがゆえに、いまいちブレイクしそうもない内容と思えた。ただ、“考察”をテーマにしているような、という観点から考えれば、最初から明快な答えを求めるというものではなかったのであろうとも考えられる。