<内容>
弁護士の私は、殺人事件の容疑者を弁護することとなった。男はストーカーをした後に、その女性と幼い子供を殺害したという容疑がかけられている。容疑者は殺害した覚えはないというのだが、裁判の場でその証言が覆ることとなる。裁判の在り方をめぐって、司法を敵にしたことにより私は懲戒処分を受けてしまう。その後、私が弁護士稼業に復帰して間もなく、昔の事件の関係者が事務所に現れることとなり・・・・・・
<感想>
最近の新人作家は、ものを書くというレベルが高いように思われる。さまざまな新人賞があるなかで、文章が稚拙であると感じることはほとんど無くなったような気がする。この作品の作家も書く力は十分に新人離れしていると感じられた。
ただ、“物語を書く”とか“展開させる”という点ではまだまだというより、いまいちであった。そもそも弁護士が主人公のわりには、後半は元弁護士で十分というような内容。また、書かなくてもよいことが長々と書かれたり、書くべきところが十分でなかったりと、内容については欠点ばかりが見受けられた。
ハードボイルド調にて、弁護士が探偵として活躍するという設定は面白いと思える。とはいえ、その設定を十分に生かし切れていなかったし、一冊のミステリ作品としても不十分という内容。大賞受賞作としても、ずいぶんと物足りないという印象。
<内容>
女子高において美術部の生徒、江崎ハルナが飛び降り自殺した。美術部の生徒の自殺はこれで二人目で校内では幽霊騒ぎまでが巻き起こる。そんな中、国語教師の宮坂が江崎ハルナとつき合っていたという噂が流れ始める。そしてその宮坂も校舎から飛び降り自殺をしてしまう。いったいこれら一連の自殺騒動の原因は何なのか・・・それとも自殺ではないのか・・・。宮坂は死ぬ前にとある文学作品の新人賞に作品を応募していたのだが、その作品の中にこの謎を解く鍵が・・・・・・
<感想>
うーん、この作品はミステリーなのだろうか。いや、当然ミステリーと呼ぶに値する作品であることは間違いない。しかしまたミステリーとは素直に呼びにくい作品であることも事実である。
そう感じさせる理由とは、この作品が論理やトリックではなく、“感情”が前面に押し出されているからだと思える。“どうやって?”というような問いよりは、“どうして?”というような感情的な問いかけが強くなされている作品であると思う。しかし、そこで問われるべき“どうして?”という部分が結局はぼかされたまま物語が終わってしまっているという印象が残る。それゆえに本書はミステリーと言っていいのだろうかという印象を抱いてしまう。
と細かいことをつついてしまったが、基本的には青春小説とミステリーがそれなりにうまく融合したミステリーであると言っていいだろう。物語りの中心となる国語教師が発表したという小説の裏に隠された謎も練りに練られた凝ったものとなっている。文学作品が織り交ぜられ、“ヘビイチゴ・サナトリウム”という奇妙なタイトルが心に残る、変った味わいの本であった。
<内容>
高校の敷地内での新築工事の最中、白骨死体が発見された。その白骨死体のそばには日付が刻印されたボールペンが落ちていた。そのボールペンは6年前に4人の当時の在学生が記念に作ったもので4本しか存在しないものだと言う。そしてその内のひとりは6年前事故に遭い、いまだ病院で意識不明のままであった。
その意識不明となっている中里柚乃は当時起きた出来事を日記として残していた。そこには柚乃そっくりな少女と出会うという不思議な話が書かれていた・・・・・・
<感想>
昏睡状態でいた者が目を覚ましたが、かつての記憶は失われていた。しかし、彼女は元気であったときの手記を残しており、その手記からかつての自分の人生をたどっていくという内容の小説である。
このように“記憶”というものを扱ったミステリーなのかというと、本書はそれだけではない。というよりも、ミステリーという属性から抜け出し、既にSFといってもよいのではないかとも考えられるものとなっている。
どういう事かといえば、本書では現実的な出来事だけに収まらず、非現実的な出来事もいくつか起こっている。本来、ミステリーというのはその非現実的な出来事を現実に回帰させるのが常套な手段である。しかし、本書ではそれらの非現実的な出来事を現実の中に収めようとはしていない。一見、最終的には収めようとする試みがなされているように思えなくもないのだが、結局はあやふやなままで終わらせてしまっている。
と、そんなわけで本書は通俗のミステリーを楽しみたいという人にとっては少々肩を空かされたような気分になってしまうと思う。それよりも、非現実的な青春小説を読もうというスタンスのほうがとっつきやすいのではないだろうか・・・・・・と、そこまで言ってしまうとライトノベルスの属性に当てはまってしまう様な気もするのだが。
<内容>
若槻調査事務所の調査員、高原。彼のもとにひとりの依頼人がやってくる。依頼人が言うには娘が誘拐されたのだと! 誘拐犯から身代金を要求されているので、娘を取り戻してもらいたいと言うのである。なぜ、こんな調査事務所に依頼してきたのかと不思議に思い、よくよく聞いてみると、娘が誘拐されたというのはオンライン・ゲーム上でのことであったのだ。不可解な事件ではあるが、依頼人の少ない事務所では仕事を断るわけにもいかず、渋々依頼を受けることにしたのだが・・・・・・
<感想>
のっけから誘拐のシーンで始まり、ずいぶん事件性の高い内容の話だなと思いきや、なんとネット上で起きた事件。それをパソコンが得意かどうかもわからない調査事務所に依頼する方も依頼する方であるが、引き受ける方もよく引き受けたなと感じてしまう。
読み始めたときには、ネット上での犯罪というまるでSFめいた内容のものをうまくミステリとして消化することができるのかと半信半疑であったのだが、読み終えてみると意外とうまく出来上がっていたと感じられた。不必要にSFチックにせず、物語をうまく現実的な感情のなかで消化しきっていた。そこが小説として成功した鍵であったのではないかと思われる。
ネット上での出来事ということで、SFチックにするのであれば人間関係が希薄となりかねない恐れがある。そこをこの作品では、あえて人間関係を濃密に描くことにより、SF的なところから社会派ミステリへと呼び戻すことができていたように思われた。
主人公の探偵がよりこまめに依頼人やその周辺の人々、事務所の仲間、さらには家族と関わることによって、より人間性やコミュニケーションというものを重視し、小説としての厚みがでてきたように思える。ゆえに、ネット上で起きた事件とかそういったこととは関係なく、調査事務所の探偵が活躍する普通のミステリ小説として仕上げることができたのではないだろうか。
これといった強烈な印象こそ残らないものの、それなりの佳作作品であると思われる。
<内容>
若槻調査事務所に勤める向坂のもとに依頼人がやってくる。突然、何者かわからない怪しい男につけ狙われたので、家まで護衛してくれないかというのだ。そう依頼してきた人物はサングラスをした謎の美女。本来ならば探偵の仕事とはなりえないのだが、向坂は依頼を引き受ける。依頼人と共にその自宅へと向かうのだが、家へと入る直前に怪しげな三人組の男に襲われ、向坂は意識を失い、依頼人は殺害されることとなる。向坂は、いったいどのような事件に巻き込まれることとなったのか。汚名を返上すべく、調査を開始していくのだが・・・・・・
<感想>
ハードボイルドというよりもライトボイルドとでも言うべきか。ただし、ライトというわりには、主人公の探偵はこれでもかと言わんばかりに叩きのめされるというヘヴィな展開。
主人公が挑む事件は、探偵自身が巻き込まれた殺人事件。依頼人の女性は何故、見ず知らずの者達から襲われることとなったのか。物語のプロットは、なかなか複雑なものとなっており、結構凝った内容。だからといって決してわかりづらいということはなく、読みすすめ易かった。普通に楽しめるミステリ作品に仕上げられている。
前作「ウィズ・ユー」(同ミステリ・フロンティアから出版)を読んだ時も感じたのだが、おしいのは“これ”といった特徴がないところ。キャラクター造形も普通であるし、物語もよくできているとはいえ印象が薄い。ライトな感覚で読めるというところがこの作品の売りであるのかもしれないが、いっそうのこと重い雰囲気のバリバリのハードボイルドに挑戦してみてもよいのではなかろうか。
<内容>
「主役のいない誕生会」
「ニンジンなんてキュウリなんだよ」
「おしゃべりな男たち」
「雪月花の女たち」
「タイトルはそこにある」
<感想>
ここに掲載されている5作の作品が全て劇作品調に描かれているところが特徴。会話主体で話が進む中、それぞれの作品で思いもよらないどんでん返しが繰り返される。
どの作品も面白く、それぞれ結末にて明るい話となっているところが救われる。ただ、そこへいく途上では胸糞悪い会話が続けられるのがなんとも。男女に関わる話が主体となっているので、ドロドロとした展開になってしまうのは仕方ないのことなのか。そういったなか、最初から最後まで悪い話として続けられてゆく「おしゃべりな男たち」は印象的。
そしてタイトルにもなっている最終話は、ちょっと趣向が変わっていて、それまでの4作に登場した人物が(全員ではないのだが)集結して語られるものとなっている。しかもアシモフ著の「黒後家蜘蛛の会」風のミステリになっていて、「黒後家蜘蛛の会」のファンとしてはより一層楽しめた。また、内容に関しても「タイトルはそこにある」が一番良かったかなと。
どれもが演劇という形になっても楽しめるのではないかと思われる作品。他のミステリと一風変わっていて、そういった意味でも見どころのある作品集。
「主役のいない誕生会」 バーに呼び出された三人の男。しかし当の主役は行方不明となっており・・・・・・
「ニンジンなんてキュウリなんだよ」 結婚を予定している男女ともう一人の女。その三人の関係の顛末は!?
「おしゃべりな男たち」 兄弟で話をしているうちに思いもよらない秘密が明らかになり・・・・・・
「雪月花の女たち」 ひとりの男に関わった姉妹の話とその顛末。
「タイトルはそこにある」 脚本家が遺した作品のタイトルとは??
<内容>
剣道全中2位の実力を持つ磯山香織は、なんとなく出場した市民大会で無名の選手に負けてしまう事に。香織は自分が負けた理由がわからず、強さを求め、その相手が進学するであろう高校へと入学する事に。そこで西荻早苗と出会った香織であったが、勝つことにがむしゃらな香織に対して、当の早苗は勝利にこだわらず剣道を楽しむ事ができればいいというスタンスで・・・・・・
<感想>
最近、話題となるスポーツ小説がよく出ており、それらが結構面白いので、この作品も読んでみようと思い購入。この著者の作品を読むのは初めてなのだが、この作品が単行本で出ていたときから気になり、文庫本になったら読んでみたいと思っていた。そして読んでみると予想通り面白い作品であった。
内容は剣道が強くなりたいと願う女子高校生たちの物語。ひとりは剣の道というよりは武士道を突き進むような、周囲からちょっと浮いた女の子・磯山香織。もうひとりはごく普通の女の子ながら勝負にはこだわらず剣道が好きで続けて行きたいという考えの西荻早苗。普通であれば、二人は互いに関係のなく、それぞれで剣の道を志す事になるはずであったのだが、たまたま出場した市民大会で早苗が香織に勝ってしまったことから二人の関係はややこしくなる。
そうして、香織が早苗にちょっかいを出しつつ、二人は別々の考えの下で上達して行く。ただ、以外であったのは、香織のほうが挫折とまではいかないが、自身に迷いが生じることとなり、なかなか立ち直れなくなってしまうこと。最初は香織に対して、あまりにも一本気過ぎて、少々鬱陶しい少女と感じたのだが、むしろ一本気であるがゆえに、迷い道にはまりやすい気質なのだろうとも納得させられた。
しかし、香織もやがて今まで自分ひとりの力だけでここまで来たのではないということに気がつき、早苗らの助けもあって、元の道へと戻ってゆくこととなる。そうしてラスト近くでは、物語の急展開により、結構ジーンとさせられてしまうことになる。
この物語の主人公は性格の極端な人物であるのだが、結局のところ普通にスポーツを行いながら悩み成長してゆく様が描かれた王道のスポコンものであると言ってよいのであろう。二人の主人公により視点が交互に入れ替わりながら描かれているのだが、ミステリではよくありそうな描き方がスポコンもので有効に活用されるとは思わなかった。
剣道に全く詳しくない私でも楽しむ事ができたので、誰もが楽しめる小説であることは間違いないであろう。どうやら映画化されるようなので、これをきっかけに多くの人に広く読んでもらえればと思っている。また、この映画化により早めに続編を文庫本で読む事ができればなとも期待している。