<内容>
私立探偵の桐山真紀子は姪の早麻里(さおり)から人捜しを頼まれる。なんでもルームシェアをして部屋を貸し出していた女性の行方がわからくなってしまったのだというのだ。真紀子は手がかりもほとんどない状態で捜査を進めてゆくと、とある化粧品メーカーの暗部に触れてしまうこととなり・・・・・・
<感想>
うーん、あまり好きなタイプの小説ではなかったな。もう少しミステリ色が濃いと思っていたのだが、どちらかといえばルポ小説というか、取材してきたものを小説にしたというような作品。それでも一応は、社会派ミステリという印象を強く感じた。
本書ではルームシェアというものを通して、現代人の社会性の希薄さを描いた作品といってよいであろう。背景にきわめて現代的なものを感じた作品であった。
始まりでは私立探偵の捜査が着々と進められていく様子が描かれている。探偵の仕事の様子というか、ライターの取材の様子を描いているようにも思えるのであるが、主人公が女性ならではの捜査の仕方については注目すべきところである。こうした地道な捜査も、探偵やライターの仕事に興味のある人は読んでも損はないと思える。
そうしてそのまま探偵の仕事らしく事件が収束していくのかと思ったのだが、後半の展開に関してはいささか唐突過ぎるように思われた。ヤクザから襲われたり、前半から伏線を張っていたとはいえ、突然本格ミステリっぽくなったりと、バランスが欠けていると感じられた。確かに、急な展開を起こしたほうが読み手を惹きつけられるとは思うのだが、事件への導入は地味なものであったのだから、後半ももっと地道な描き方でよかったように思える。
まぁ、決してつまらなかったということはなかったので、読んでも損はないであろう。社会派ハードボイルド風ミステリ小説という響きに興味を持てれば読んでみてもよいのでは。
<内容>
バレーのインターハイ予選に敗退し、夏休みも終わり、文化祭の準備に勤しむ栢山(かやのやま)高校の生徒たち。そんなとき、閉ざされたシャワー室にて、バレーボール部の女子マネージャーの死体が発見される。現場は密室により、当初は自殺かと思われたのだが、死因から殺人事件とみなされる。クラスメイトや元バレー部の面々は、マネージャーの死に納得がいかず、誰が犯行を行ったのかとそれぞれ捜査を行ってゆくのだが・・・・・・
<感想>
横溝正史ミステリ大賞“落選作”とのこと。そういった背景もあるものの、つい“密室”という言葉にひかれて購入してしまった。そんなに期待せずに読んだものの、これがなかなか面白く、楽しんで読むことができた。こうしたミステリ作品がめっきり少なくなった中で、これは読み逃すには惜しい作品。
舞台は文化祭の準備が行われる校舎の一室。閉ざされたシャワー室にて死んでいるのが発見されたバレー部のマネージャー(厳密にはインターハイ予選が終わった時点で引退)。現場には誰でも入れるというわけではなく、時間制限があり、そのアリバイの様相を重要な事項となる。
このマネージャーが皆から人気のある人物で、とても人から殺されるような恨みをかうような人物ではない。では、なぜ彼女は殺されなければならなかったのか? そして、このような周到ともいえるような準備がどのようにして行われたのか。さまざまな謎がクラスメイト達の脳裏をよぎる。
本書は単一視点ではなく、章ごとに視点がきりかわり、別々の目線から物語が語られてゆくこととなる。そうして、主たる出来事が起きた3〜4日に何が起こったのかが語られ、最後に真相が明かされることとなる。序盤は、やや物語の流れをそぐような語りとか、無駄な描写があったりというようなことを感じたのだが、後半に行くにつれて作調に慣れたのかだんだんと気にならなくなっていった。最近の新人作家のレベルが高いせいか、どうも初作品に対しても厳しい目で見がちになってしまう。
そうして、ラストへと至るのだが、そのラストの様相がなかなか。メイントリックに対してはまぁまぁ、というところなのだが、動機が見事に決まっていたかなと。学校を舞台にした青春ミステリらしい作品というものが顕著に表れていた。特に、最初のバレーの試合から、最後の真相が明かされるところまで物語が見事につながっていたというところが非常にうまいと感じさせられた。これは2015年上半期、一番の目玉ともいえる本格ミステリ作品ではなかろうか。