た行 ち  作品別 内容・感想

愛の徴  天国の方舟   

第48回メフィスト賞受賞作品
2013年05月 講談社 単行本

<内容>
 2031年、量子コンピュータ「にらい」が開発され、そのテストが行われていた。「にらい」は、フランス国立文書館のデータベースを利用して新しい検索用アルゴリズムを作り出すというもの。いつしか「にらい」は、17世紀のフランスの世界にリンクし、やがて魔女呼ばれることなるアナの成長を促すこととなり・・・・・・

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<感想>
 上記に内容を大雑把に書いたものの、大雑把すぎるかな? なにしろ壮大というか、長大な物語でしかも難解ゆえに、きちんと内容を記すことが難しい。それどころか、中身をきちんと理解するのも難しい。ある意味メフィスト賞らしい作品ともいえるのだが、近年であれば“ハヤカワSF Jコレクション”あたりから出ていたほうが、違和感はなかったと思われる。

 本書は、読ませる物語というよりも、書きたかった物語という気がしてならない。色々と意味深なことを表しつつも、結局最後の最後まで主題を絞り込むことができなかった。というか、主題となりうるものが色々とあり過ぎる。個人的な見解では、量子コンピュータにより“意識”というものを構築するために、ひとつの物語が必要となり、その物語を経て“意識”たるものが誕生を遂げる・・・・・・というようなものかと思ったのだが、最終的に違った方向へ行ってしまった模様。

 途中の過程とかは難しくてもよいのだが、もう少しわかりやすいビジョンや目的がほしかったところ。あとは、ただ単にフランスだからとかではなく、量子コンピュータが構築(もしくは検索?)する物語が何故、魔女アナの物語でなければならなかったのかということを深く掘り下げてもらいたかった。さらに言えば、上下二段組みで600ページというのは、あまりにも取っ付きにくいのではないのかと。すぐに講談社ノベルスから出版されたところを見ると、単行本が売れなかったのではとつい邪推してしまう。


君が見つけた星座  鵬藤高校天文部   5点   

2017年02月 原書房 単行本

<内容>
 「見えない流星群」
 「君だけのプラネタリウム」
 「すり替えられた日食グラス」
 「星に出会う町で」
 「夜空にかけた虹」

<感想>
 高校天文部恋愛系ミステリ、というような感じ。主人公は肉体的・心情的に重いものを抱えているようであるが、基本的にはライトなミステリという感じ。

 天文部としての日常を過ごす中で、変わった出来事が起き、それを解決しながら日々を過ごすという物語。天文部という設定のなかで、それなりにうまくミステリとしてまとめられているし、ライトノベルズ風の物語としてもいいのではないかと。

 ただ、余計と思える部分が多々見られるのが気になってしまう。特に最初の「見えない流星群」で殺人事件が起こるものの、これは事件自体が全く必要ないと思える。ちょっとした謎を作るために、わざわざ殺人事件を起こす必要ないだろう。本来であれば、そこで学校側から天文部の活動自体が終わらせられてもおかしくないような出来事なのだから。

 また、「星に出会う町で」のSNSのストーカー事件も、結局いらなかったのではと思われる。基本的にどの短編でも題材はそろっていると思われるので、その単純なものだけで十分物語を構築できたのではなかろうか。もっと“天文部”としてのネタのみで書き切ってもらいたかったところ。

 あと、これは私見であるが、主人公との恋愛関係って、いるのかなと。あくまでも天文部の仲間としての話で良かったように思えるが、これは読み手によっては恋愛ありきのほうがいいというひともいるのかもしれない。ひょっとすると、女の子向けのミステリ小説だったのかな?

「見えない流星群」 誰もいないはずの部室でついた光と顧問の死。
「君だけのプラネタリウム」 下校中、女性とが髪の毛を切られるという通り魔事件の真相。
「すり替えられた日食グラス」 天文部が部員勧誘のために作った日食グラスがなくなった?
「星に出会う町で」 ボランティアの旅行先で遭遇したSNSにまつわる事件と誘拐事件。
「夜空にかけた虹」 菅野美月が遭遇するトラブルと彼女にまつわる秘密。


誰がための刃  レゾンデートル   

第4回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作
2012年04月 講談社 単行本

<内容>
 世間を騒がす連続殺人鬼“ジャック”。ジャックを名乗る者は、なんらかの犯罪に関与しながらも法の裁きを受けなかった者を選びナイフにより殺害してゆき、現場にはRの文字が書かれたトランプを残していった。ジャックの行方を警察が追うなか、外科医である岬雄貴は自分が末期癌であり、残り数か月の命であることを知る。自暴自棄になった岬であったが、意外なことから連続殺人鬼ジャックと関わりを持つこととなる。そして、暴漢に襲われていた少女・沙耶と出会うこととなり・・・・・・

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<感想>
“ばらのまち福山ミステリー文学新人賞”の第4回の受賞作品は、これまでと打って変わってハードボイルド調の作品。ハードボイルドというよりも、冒険作品というか伝奇アクション作品というか、ずいぶんと今までの受賞作とはイメージの異なる作品である。

 ただし、読んでみると本書が何故受賞したかはすぐにわかる。何と言っても読みやすい。ページ数がかなり厚い作品であるが、それも気にならないくらいリーダビリティに優れた作品である。

 メインとなる話は末期癌患者の青年医師が、ふとしたことから関わることとなった連続殺人鬼に立ち向かうという内容。そこに、謎の集団から追われることとなる少女の存在を加えている。これら二つの話は物語の流れのうえで重なることとなるが、内容上は重なってはいないので、全く別の問題という感じ。ただし、作中にヒロインを登場させたいという思いから、こういう流れができたということは納得できる。

 まぁ、読みやすい作品なのでお薦めはできるものの、分厚いゆえに無理に読まなくてもという気もする。少なくとも、本格推理小説を期待して読むと、肩透かしをくらうかもしれない。とはいえ、最初から別に本格推理小説であることを匂わせているわけではないので、あくまでもフェアなスタンスである。




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