<内容>
帝国屈指の幽霊屋敷と噂される“涜神館”。その涜神館を買い取ったソーンダイク卿により、古今東西の霊能力者たちが館に集められる。彼らの手によって、実際に霊を呼び出そうとする儀式が行われることに。“妖精の淑女”と呼ばれるエイミー・グリフィスは、同じく館に招待された心霊鑑定士のダレン・ダングラスと偶然出会い、共に館へとおもむく。そこで彼らが体験したのは、世にも奇妙な連続殺人事件であり・・・・・・
<感想>
元々はライトノベルスの書き手であったらしい著者の手代木氏。今回、本の帯に“星界社 令和の新本格ミステリカーニバル”と銘打っているのを見て、購入した次第。
近年、ホラーとミステリを融合させた作品というものをよく見るようになってきた。ただ、そういった作品においても、日本が舞台として書かれているものがほとんどという気がする。本書では、海外を舞台として、ホラーとミステリを融合させており、その設定自体が珍しいと感じた。しかも、超自然的なものをそのまま物語に取り入れつつ、しかもミステリを展開させていくという内容になっている。
悪魔崇拝の痕跡がいたるところに残されている館。前の当主は行方不明となり、そして超自然的な不可解な現象が今もたびたび起きている。そうした館に集められた霊能者たちが、数々の不思議な体験に遭遇しつつ、次々と命を落としてゆく。館に隠されていると噂されている宝物の存在、そして冥府の入り口は本当に実在するのか!? そして館に集められた人々のそれぞれの思惑。すべてが交錯したとき、最後に見出される真実はいったい・・・・・・というような物語が語られている。
ミステリとして成立しそうもない世界設定にもかかわらず、そこにしっかりとミステリ的な解釈を用いて、物語を成立させる手腕が素晴らしい。ミステリ的な部分の収束のみならず、物語としてもしっかりと目を惹くものとして完成させているところもまた見事であった。これは今年のミステリ界における隠し玉的な逸品と言えよう。
<内容>
明治44年正月、刑務所から出獄したばかりの大杉栄は旧知の刑事から富豪の夫人の失踪事件について調べて欲しいと依頼される。金に困っていた大杉は渋々ながら依頼を受けることに。
そして大杉が事件の調査をしているころ、東京では何者かがペスト菌をばらまこうとしており、陸軍が事件自体を葬らんと暗躍していた。やがて大杉はペスト事件にまでも首を突っ込むこととなり・・・・・・
<感想>
歴史において明治維新や太平洋戦争については、さまざまな文献・小説等を読んで、ある程度の知識は持っている。しかし、その間の明治後期から大正時代については全くといっていいほど私は知らない。特に活躍したという人物がいるまでもなく、一般的に知られているような大きな事件が起きているわけでもない。そういった時代を背景に本書では歴史ミステリが展開されている。
本書の著者・典厩五郎という人の作品を読むのはこれが初めて。とはいえ、すでに数々の歴史ミステリを書いているようで、本書を読んでもその書き方の安定感から熟練した手さばきを感じることができる。
とはいうものの、一作品としての私的な評価はあまりかんばしくない。それというのも前述のとおり、この時代背景に詳しくないがゆえに、登場人物や小説内の出来事に対して、何が本当に起きたことで、何が創作なのかという判別がつかないのである。よって、どの部分にミステリ性を感じればいいのかが最後まで不透明なままであった。本書の巻末に実在の登場人物に関する付記があるとはいえ、事細かいことまでをいちいちそれで判別していくというのも難しいことである。
また、本書の中で起こっている事件が結局はひとりの女性の失踪騒ぎだけでしかないというのも微妙なところ。もう一つ別にペスト菌騒ぎもあるのだが、それはまた別の事件。よって別々の事件が二つただ起こっていただけということで、歴史ミステリを読まされたというよりも、ただ単に歴史上の人物(らしい)人々が右往左往していただけというように感じられた。
これであれば、歴史小説を普通に書いてくれたほうが、面白く読めたのではと感じられたが、それはようするに自分自身の知識のなさが問題なのであろう。というわけで、本書は読む人を選ぶミステリと言って良いかもしれない。逆にこの時代についてよく知っている人が読めば、かなり楽しめる内容なのではないかと思われる。