や行 ゆ  作品別 内容・感想

#真相をお話しします   6.5点

2022年06月 新潮社 単行本
2024年07月 新潮社 新潮文庫

<内容>
 「惨者面談」
 「ヤリモク」
 「パンドラ」
 「三角奸計」
 「#拡散希望」

<感想>
 話題になって、長い間本屋の店頭にかざり続けられていた作品。興味はあったのだが、その当時は手を出さず、文庫化されたのを機に、さっそく読んでみることにした。読んだ感想はというと、サスペンスチックな短編が揃っていて、面白い作品集であった。話題になっていたのも納得である。

 最初の「惨者面談」は、わかりやすいネタというか、早々に違和感を感じるような内容なので、特に感銘を抱くような作品ではなかった。むしろ、最後のどんでん返しの付け加えみたいなものが余計ではないかと思えたほど。

 ただ、その後の作品は良かった。特に「ヤリモク」はうまくできていたと思われる。罠にはめられたサラリーマンを描いたかのような作品であったものが、最後に反転する様が見事。しかも、いかれた動機がなんとも言えなかった。

 また、「三角奸計」もヴァーチャル飲み会という今どきのものを題材とし、そこに犯罪計画を持ち込むという内容に魅入られた。現代的なアリバイミステリみたいな味わいの作品。

 特に目を惹いた作品は「#拡散希望」。これはまさに、この時代だからこそ描くことのできるミステリと言えよう。なさそうで、あり得そうな一作。何を言ってもネタバレになりそうなので、気になる人は是非とも読んでいただきたい。


「惨者面談」 家庭教師の面談をしていた学生は、その面談相手の親子の様子がおかしいことに気づき・・・・・・
「ヤリモク」 出会いサイトでうまい具合に気に入った女に出会うことができた男であったが・・・・・・
「パンドラ」 精子提供を行ってからしばらく経ち、育った相手から連絡が来て・・・・・・
「三角奸計」 昔の仲間との3人での気乗りのしないヴァーチャル飲み会であったのだが・・・・・・
「#拡散希望」 島で暮らす小学生は、あるとき自分の周囲における、とある秘密に気づくこととなり・・・・・・


絞首商會   5点

第60回メフィスト省受賞作
2019年09月 講談社 単行本

<内容>
 大正時代の東京。村山博士が刺殺されるという事件が起きた。その村山博士は秘密結社と関わっているとの噂があり、その関係から殺害されたのではないかと。そうしたなか、村上家に住んでいた水上婦人は真相を探るべく探偵を雇う。その探偵とは元泥棒という一癖ある人物。元泥棒は相棒の画家と共に四人の容疑者のなかから真犯人を見つけようとするのだが・・・・・・

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<感想>
 つまらなかったという一言。大正時代を舞台にして、それらしい雰囲気で語られている物語であるのだが、とにかく中身に全く興味がもてなかった。

 最初に殺人事件が起き、その犯人を探偵役のものが追うというきちんとしたミステリ的な流れであるのだが、それにも関わらず全く興味を惹かれない中味。登場人物、事件背景、“絞首商會”というスパイ結社らしきもの、元泥棒の探偵、“私”という語りのようである画家の存在。こういったものの設定がどれも微妙であり、そして話の流れがつまならすぎる。それゆえに、読み終えるのに大変苦労した。

 最後の謎ときの部分がある程度よくはできている感じであるので、それゆえのメフィスト賞受賞かと思うのだが、それでも全体的な評価は低い。なんとなくであるが、京極夏彦氏の京極堂みたいのがやりたかったが、うまくいかなかったという感触の小説。


方 舟   7点

2022年09月 講談社 単行本

<内容>
 大学時代の友人であった7人は、就職した後に集まり、そのうちの一人に誘われるまま謎の遺物へと向かうことに。そこは地下に造られた建物であり、かつて過激派のアジトとなっていたり、宗教団体が修行場所としていたと言われているもの。その建物の中に、別件でその地を訪れていた親子3人と出会い、10人は建物のなかで一夜を過ごそうとする。そんなとき地震が起こり、彼らは地下建造物のなかに閉じ込められてしまう。出口を開けるには、誰か一人が建物の中に残らなければならないという状況。そうしたなか、突如その閉ざされた建物のなかで殺人事件が起きることに。残された9人は、犯人を見つけ、その犯人を説得して、出口を開ける役割を担わせようと考え・・・・・・

<感想>
 今年の注目作品と聞き、買ってさっそく読んでみた。これがなかなか面白い内容。

 謎の地下施設に閉じ込められ、そこから脱出を図ろうとするもの、その閉ざされた建物のなかで殺人事件が起きてしまうという話。この地下施設が何故存在するのかとか、何か秘密が隠されているのかとか、そういった内容は含まれていない。あくまでも密閉された地下に取り残されたという舞台設定のみが重要となる。

 また、もうひとつ注目される部分は、この建物から脱出する方法がひとつだけあるのだが、そのためには誰か一人が犠牲になって建物内部に残らなければならないという状況にあること。そんななかで何故か殺人事件が起きてしまい、そこで生き残っている者達は犯人を特定し、その人物を説得して、ひとり建物に残ってもらうことによって生き残りを図ろうとする。

 そんな極限状態の中、探偵役の者が最後の最後でなんとか犯人を特定するすべを見出すことになる。そして、犯人が特定し、最後は・・・・・・となるのだが、その最後にもう一波乱待ち受けており、それがこの作品に強い印象を決定づけるものとなっている。

 いや、なんともダーク・ファンタジーならぬ、ダーク・ミステリとでもいうべきか、なかなか凄まじいラストであった。最後まで読むと、犯人の動機についてもなるほどとと思えはするものの・・・・・・いやはや鳥肌が立ってしまうというしか・・・・・・


431秒後の殺人  6点   

2022年04月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 「431秒後の殺人」
 「睨み目の穴蔵の殺人」
 「眠れる映画館の殺人」
 「照明されない白刃の殺人」
 「立ち消える死者の殺人」

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<感想>
 カメラマンの安見直行の恩師が事故により死亡。離婚話でもめていた妻が怪しいと思えるものの、アリバイが成立し、事件は事故として片づけられる。納得がいかない安見は、祖母の勧めで、失せもの探しが得意という六角法衣店を訪れる。店の若き店主、六角聡明と出会い、二人は事件の謎に挑んでゆくことに。

 本書は、ミステリ作品として普通に面白い。ただ気になったのは、探偵役の人物造形にえらい苦労しているなということ。最初の「431秒後の殺人」では、あまり設定がはっきりしていなかったのか、やたら不愛想な男として主人公が登場。しかし、その次の作品からは、かなりマイルドになって登場していた。また、最初は失せもの探しが得意というような特徴を持っていたものの、途中からそのへんもあやふやになっていったような。結局は普通の二人の青年による探偵活動が行われていく作品集というような感じに落ち着いていった。

「431秒後の殺人」は、トリックとしては、被害者の方が考えつきそうなトリックではないかと、そこだけ違和感が残った。
「睨み目の穴蔵の殺人」は、普通にサスペンス系のミステリのような感触になっていて面白かった。
「眠れる映画館の殺人」は、トリックの発想が面白い。ただ、トリックに凝り過ぎたことによって、証拠を残し過ぎているような。
「照明されない白刃の殺人」は、物語として面白かった。カリスマ性を持ちつつも、極端ないい加減さを持つ人物に関わった者たちの悲哀。
「立ち消える死者の殺人」は、六角自身の事件であり、過去に起きた病室からの失踪事件に挑んでいる。普通によくできている。

 ミステリ作品集として、それぞれ面白く読むことができた。ただ、今後このキャラクタ設定で続けていけば続けていくほど、最初の設定があやふやになり、薄味になっていってしまうような気がしてしまう。それだけ気の利いたキャラクタ設定というのが難しいと言うことか。


「431秒後の殺人」 落ちてきたブロックによって男が死亡するという事件。一見事故死のようであるが、果たして・・・・・・
「睨み目の穴蔵の殺人」 襖の絵が動くと噂されるいわくつきのカプセルホテル。そのホテルで実際に殺人事件が起き・・・・・・
「眠れる映画館の殺人」 少しの客しか入っていなかった映画館で上映中に殺人事件が! 犯人は館内の客の中に!?
「照明されない白刃の殺人」 骨壺の祟りにおびえる男は、クラブイベント中に舞台上で刺され・・・・・・
「立ち消える死者の殺人」 六角法衣店が競売にかけられる!? 危機を乗り切るために、過去に起きた六角の母親の失踪事件を調べることとなり・・・・・・


臨床真理   5点

第7回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作
2009年01月 宝島社 単行本

<内容>
 臨床心理士の佐久間美帆は藤木司という二十歳の青年を担当することとなった。彼は今まで福祉施設で暮らしており、一緒に暮らしていた少女の自殺を受け入れる事ができず大暴れして、病院に入れられていた。藤木は佐久間に対してもなかなか打ち解けなかったが、熱心に患者に取り組もうとする佐久間に対して少しずつ心を打ち明け始め、自分の特殊な能力について話し始める。そして藤木が言うには、自殺した少女は何か秘密を抱え込んでいたと・・・・・・佐久間美帆は藤木の話の真偽を証明するために、彼が暮らしていた福祉施設の調査を始めようとするのだが・・・・・・

「このミス」大賞 一覧へ

<感想>
 第7回「このミス」大賞は「屋上ミサイル」とこの「臨床真理」の2作であったのだが、正直なところこの作品が選ばれた理由がよくわからない。個人的には「屋上ミサイル」一作で十分だったのではないかと思われる。

 本書は“臨床心理士”というものを取り扱った小説のはずであるが、その臨床心理士という要素をほとんど生かしきれていない。事件に関与するきっかけぐらいにしか感じられなくて、それがなんとももったいない。

 そして、その臨床心理士という要素を除けば、あとは単なるサスペンス小説でしかない。途中の展開もまるわかりであるし、ラストにいたっては必然性のない展開というようにしか感じられなかった。

 この作品が大賞に選ばれる過程の選考においては「屋上ミサイル」と「臨床真理」の2作で全く評価が分かれて、もめたということであるが、要するに人によって評価が異なるということなのであろう。まぁ、どちらがより好みの作品か、それは実際に読んで試していただけたらということで薦めておきたい。




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