や行 よ  作品別 内容・感想

背 律   6点

2016年03月 原書房 単行本

<内容>
 真田明菜は姉で医師の由香里と共に、ALSを患った後に亡くなった父親の墓参りに来ていた。その後、買い物をし、姉の婚約者の家へと行くこととなったのだが、その婚約者で医者の長谷川優樹が刺殺されているのを発見することに。生前、長谷川とトラブルがあったとされる安住医師が捜査線上に上るのであったが・・・・・・
 一方、厚労省の医療事故調査チームの大内山碧は、問題児として有名な向井俊介を助手とし、旺林医大病院へと向かう。その病院では、ある特定の医師が行った手術において多くの死亡者を出しているとして内部告発があったのだ。その医師、安住について調査を始めてゆくのだが・・・・・・

<感想>
 原書房さんからいただいたのをきっかけに読んでみた作品。この吉田恭教氏という著者の作品を読むのは初めて。読んでいる途中にあれ? と思い、いろいろと調べてみると、この作品に登場する向井俊介という人物は他の作品にも登場しているよう。それならばシリーズと銘打って出版したほうが、読むほうも取っ付きやすいと思われるのだが。

 医療サスペンスということで、今まで読んだ作品のなかでは「チーム・バチスタの栄光」に似ているかなと感じられた。探偵役となる主人公もエキセントリックな人物であるし。全体的に無駄なく、きっちりとまとめられた内容に仕上げられている。

 父親をALSにより亡くし、今度は姉の婚約者が殺害され、事件に巻き込まれることとなった看護師・真田明菜。その事件の捜査を担当することとなった刑事。そして大学病院の内部告発を調査することとなった厚労省の大内山碧。この3つのパートにより物語が進められてゆく。最初はALS患者の生死の尊厳の話から始まり、それを中心に話が進められてゆくのかと思いきや、流れは別の方向へ。ただし、最後にはそのALSの問題へと回帰してゆくこととなる。

 全体的にうまく描かれているものの、テーマが多過ぎて、それぞれが薄まってしまったという感触。またミステリとしては、犯人がだいたい検討がついてしまうので、そこは微妙と思われた。ただ、“WHO”よりも“WHY”、“HOW”に力を入れた内容と捉えられるので、これらについては十分読み応えがあったと感じられた。

 それぞれうまく書かれていて、読みやすくできているのだが、全体的に薄味であったかなと。ドラマ化するならば、ちょうどよさそうな作品という印象。


誘う森   5点

2008年06月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 妻が自殺してから一年。洋介は未だ妻が自殺した事を信じられないでいた。彼の妻は自殺の名所と呼ばれる森で、自殺防止のボランティア活動を行っていた。そんな妻がどうして・・・・・・。洋介はちょっとしたきっかけから、一年前の事件を調べ始めることに。そうすることによって、妻の実家の酒蔵に関連した事件の背景が徐々に見え始め・・・・・・

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<感想>
 書き手の技量は充分に伝わるのだが、ミステリ作品としては丁寧すぎるのでは、と感じられた。さまざまな描写がなされるものの、その細部にわたってこと細かくきちんと描かれている。しかし、あまりに細かく描くことで主題そのものがわかりにくくなってしまう気がする。

 また、主人公である洋介の視点だけでなく、死んだ妻による視点も加えて章分けしているのだが、妻の視点は余分であると思われた。それが加わることによってかえってミステリ性が弱まってしまっているように思える。

 きちんと描く作家であるゆえに、ミステリにはあまり向いていないのではないだろうか。普通の小説を描いたほうが力量が生かされる作家というような気がする。


夜想曲   5.5点

1999年08月 角川書店 単行本
2001年08月 角川書店 角川文庫

<内容>
 俳優の桜木は記憶の一部を失くしていた。山荘で同期会が催され、そのなかで連続殺人事件が起きたという事はうっすらと覚えているものの、その詳細については憶えていなかった。そんな桜木の元にワープロ原稿が送られてきた。その原稿は桜木を犯人と告発するものであり・・・・・・

<感想>
 家の本棚の片隅にひっそりと収まっていた本。昔読んだはずなのだが、どのような内容なのか全く覚えていなかったので再読。ちなみにこの著者の依井貴裕氏は、全部で4作のミステリ小説を書いたようであるが、この作品以後新作は書いていないようである。

 内容は、1日目、2日目、3日目と別れた原稿により、記憶の覚束ない俳優を連続殺人の罪で告発するというもの。前代未聞というほどではないにしろ、なかなかアクロバティックなことをやっているのだが、残念なことに微妙と思われる点が多過ぎた。

 告発する原稿の内容が、事実を描いているのか、それとも俳優を貶めるために虚実を描いているのか、そこが微妙。事実の割には整合性がとれておらず、それであれば思い切って虚実と割り切ったほうが良かったと思うのだが、虚実というようにも割り切って書き切れなかったようである。

 そういったところをうまく処理することができれば、最後にカタストロフィーにつながったのであろうが、工程が微妙であったために騙されたというような感触よりも、疑問点ばかりが頭に浮かんでしまうという始末。時代をうかがわせる新本格ミステリの失敗作という感じ(当時はこういったものが結構あったような)。




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