ミステリー・ハローワーク



その1.人の我慢も12まで

「あなたの希望職種は探偵にかかわる業務ということでよろしいですね」
「はい」
「いまのところ求人を受け付けているのは・・・・・あっ、ちょうど探偵のファイロ・ヴァンス氏が助手を探していますよ」
「うーーん、ヴァンス氏ですか。ただ、あの人は人格がなぁ・・・」
「しかし、それを除けば“名探偵度”、“知名度”などと、かなりあなたのご希望どおりかと思いますよ」
「まぁ、それは確かに」
「一度こういったところで働いてみることも経験かと思いますが」
「それもそうですね。ではそこを紹介してください」


−−−−−−−−−−無事採用の後、1ヶ月後


「すいません、胃を悪くしたので辞めてきました」
「たしかに、人の良い地方検事でさえ12作品しか持ちませんでしたからね」
「後半の作品は目に見えて薄くなりましたしね」




その2.微妙? な親子

「あなたの希望職種は探偵にかかわる業務ということでよろしいですね」
「はい」
「いまのところ求人を受け付けているのは・・・・・あっ、ちょうど探偵のエラリイ・クイーン氏が助手を探していますよ」
「えっ、本当ですか」
「ここであれば警察のお墨付きですし、エラリイ氏の評判もなかなかのものですよ」
「うーーん、どうしようかなぁ」
「探偵助手として働きたいのであれば最高のところだと思いますが」
「でも、あそこの親子関係というのが微妙だしなぁ」
「確かに長年、男二人で暮してしますしねぇ」
「しかも給仕に雇っているのは“少年”ときてますし」

「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「むふっ」
「むふっ(ポッ)




その3.オヤジ・サンドイッチ

「あなたの希望職種は探偵にかかわる業務ということでよろしいですね」
「はい」
「いまのところ求人を受け付けているのは・・・・・ええと、探偵業ではないんですけど、警察関係ではどうでしょうか」
「どのような内容でしょうか」
「今のところ、メグレ警部の部下とフロスト警部の部下という求人がありますけど」
「うわっ、どちらもきつそうな職場ですね」
「はい。どちらも残業が多い割には手当てはあまり付きません」
「・・・・・・・・・・」
「どちらも、上司のわがままに嫌というほど翻弄され、場合によっては肉体的危険をともなう事もあります」
「・・・・・・・・・・」
「上司の叱責と煙草まみれになること間違いなし」
「・・・・・・・・・・」
「しかも、どんなにがんばって働いても結局上司よりも目立つことのできないという職です」
「謹んで、お断りします」




その4.悔い改めたまえ

「あなたの希望職種は探偵にかかわる業務ということでよろしいですね」
「はい」
「いまのところ求人を受け付けているのは・・・・・ええと、ブラウン神父のところからの求人がありますね」
「どのような内容でしょうか」
「神父に懺悔をする役ですね」
「それってまさか・・・」
「はい、犯人役です」
「そんなの、いやですよ」
「しかしひょっとすると、『見えない人』のような有名な作品として名を残す可能性もありますよ」
「いや、名を残すといっても・・・」
「一度、神父さんと話をしてみてはいかがですか」
「そうですね。話だけでも聞いてみたいですしね」


−−−−−−−−−−


 月光の下、彼とブラウン神父は長い時間をかけていろいろな事を話した。
 彼はいままで他の人には話したこともないような事柄までもブラウン神父には話すことができた。
 そしてその後、彼を見たものはいない。




その5.払うべき代償

「あなたの希望職種は探偵にかかわる業務ということでよろしいですね」
「はい」
「いまのところ求人を受け付けているのは・・・・・ええと、探偵とは業種が異なりますがアルセーヌ・ルパン氏からの求人なんてどうでしょうか」
「どのような内容でしょうか」
「ルパンを捕らえる役割ということだそうです」
「というとポスト・ガニマールのような役割ですか」
「ちょっと待ってください。あぁ、実際にはルパンの逮捕に一役かうという事みたいですね」
「といいますと」
「役割としてはルパンの部下としてということだそうです」
「えっ、いったいどうゆう設定なんですか」
「ルパンの部下であるにもかかわらず、ルパンを裏切り警察に売るという役割ですね」
「・・・・・!」
「しかも、最後にはそのルパン自らの手によって制裁されて・・・」
「絶対に嫌!!」




その6.あぁ、崇高なる日本人探偵の元へ

「あなたの希望職種は探偵にかかわる業務ということでよろしいですね」
「はい。ただ、最近女性求人がかなり減っていると聞いているのですがどうでしょうか」
「いえ、男女に関わらずどちらも減っているというのが現状ですよ」
「そうなんですか・・・・」
「それでも時期によっては、良い求人もありますしね」
「ぜひとも良い求人があったら紹介してください」
「ええと・・・・・あっ、ちょうど探偵の御手洗潔氏が助手を探していますよ。しかも男女問わずということですよ」
「えっ、私大ファンなんです。ぜひとも御手洗さんのもとで働きたいです」


−−−−−−−−−−


 その後ハローワークの職員が御手洗氏に連絡をしようとする前に、御手洗氏の代理人を名乗る女性からの電話によりその求人は一方的に打ち切られることとなった。
 また、その求人に応募した女性をその後見たものは誰もいない・・・・

 そして、その裏にハリウッドの大女優がかかわっていたということは御手洗氏本人でさえも預かり知らぬところであった。




その7.つい、真実を

「あなたの希望職種は探偵にかかわる業務ということでよろしいですね」
「はい」
「いまのところ求人を受け付けているのは・・・・・ええと、ネロ・ウルフ氏のところからの求人がありますね」
「えっ、しかしあそこにはもう専属の助手の方がいるはずでは・・・」
「ええ、その方が体調を崩したらしいようでして、期間採用ということですがどうでしょう」
「ウルフ氏のもとで働くのはかなり大変だという噂を聞いているのですけど・・・」
「そのようですね。しかし、期間採用ですから思い切ってやってみたらどうですか」
「うーーん、どうしようかなぁ」
「大変な美食家だそうですよ。といっても他の人はもっぱら見ているだけだそうですが」
「・・・・・・・・・・」
「かなりの巨体だそうで、動くのもままならないようですから、その分助手が奔走することになりますね」
「・・・・・・・・・・」
「気難しい人で、始終どなりちらしているそうですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「さらには・・・・」
「あのぉ、本当に薦めているんですか」




その8.一芸がなければ自分をも助けられず

「あなたの希望職種は探偵にかかわる業務ということでよろしいですね」
「はい」
「いまのところ求人を受け付けているのは・・・・・ええと、ピーター・ウィムジィ卿のところで求人を募集していますね」
「助手ですか?」
「いや、執事だそうです」
「確か、執事はすでにいるはずでは・・・」
「ええ、新しい執事をもう一人募集とのことですがどうです?」
「本当は助手がいいのですが、探偵業の経験になるかもしれません。思い切ってやってみたいと思います」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−数日後


「どうでした」
「だめでした。一芸に秀でていなければ探偵の執事は勤まらないと、執事の方から断られました」
「執事というのも厳しい世界ですね」
「探偵助手以前にその執事の方との兼ね合いがうまくいかなくて・・・トホホ」
「というか、“出る釘は打たれる”のような」




その9.生存確率??

「あなたの希望職種は探偵にかかわる業務ということでよろしいですね」
「はい」
「いまのところ求人を受け付けているのは・・・・・ええと、探偵業ではないんですけど、警察関係ではどうでしょうか」
「どのような内容でしょうか」
「87分署からの求人ですね」
「87分署ですか。有名なところですよね」
「ええ、それに条件的にも悪くないようですね」
「あぁ、ただ免許がないですから、警察の仕事とかつけないと思うんですけど」
「大丈夫です。そういった特殊な資格が必要のない役割になっていますから」
「それにあそこは殉職率も高そうですし・・・」
「それも大丈夫です、87分署職員ではなくて、そこに勤務する刑事の家族の役柄だそうですよ」
「もっと、死ぬ確立が高そうじゃねぇか!!」




その10.七転八倒の末に

「あなたの希望職種は探偵にかかわる業務ということでよろしいですね」
「はい」
「いまのところ求人を受け付けているのは・・・・・調度、ヘンリー・メリヴェール卿が助手を探していますよ」
「あの名高いH・M卿がですか」
「ええ、しかしなかなか厳しい方のようですよ」
「いえ、かまいません。むしろ大変やりがいがあると思います」
「あぁ、ただ、助手というよりも身代わりを探しているというか・・・」
「身代わり?」
「ええ、蛇に追いかけられたりとか、車に追いまわされたりとか、丘から転げ落ちたりとか・・・」
「・・・・・・・・・・」
「インディアンの踊りを踊ったり・・・あぁ、これは本人がやるそうですけどね」
「・・・・・・・・・・」
「H・M卿に降りかかるすべての災いをあなたが請け負うという役目ですけれどどうでしょうか」
「・・・・・わかりました。これも経験です。ぜひともやってみようと思います」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−数日後


「どうでした」
「だめです、私では周りの笑いをとることができませんでした」
「世の中、推理だけでは食っていけないんですねぇ」








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