2004年ベストミステリ




2004年国内ミステリBEST10へ     2004年海外ミステリBEST10へ



2004年01月〜12月までの間に出版された本を対象としています。





総  評

 2004年後半の国内本格ミステリの出版ラッシュには圧倒された。なんと言っても、長年沈黙していた新本格の重鎮らがそろって新作を引っさげてきたのには思わず嬉しい悲鳴を上げてしまった。そして、さらには有力な若手作家達もさらなる台頭を遂げた年であった。とにかく2004年は話題には事欠かない年であったといえよう。

 ただ私的には、長年待たされた新本格派の作家達の作品が期待はずれだったなということが残念であった。巷においては高い評価を得ているようなので、私くらいしか感じていないことなのかもしれないが、やはり作家というものは長年間隔を空けすぎてしまうと、読者が求めるものとの間に齟齬が生じてしまうのではないかとと考えられる。
 なんといってもミステリ界はさまざまな形で動きつつある(去年「桜葉」が圧倒的に支持されたのも一つの例)。そういった中で活動し続けていなければ作家と読者の間では距離が広がる一方になってしまうのではないだろうか。また、読むほうの意識も変われば、作家側の作品に対する意識というものも変わってくるであろう。そうすると、こちらがその著者に望んでいたものと、実際に書かれた作品との間に距離感が生じてしまうのは当然のことなのではないだろうか。
 一例をあげれば島田氏が「アトポス」以降、作品が書かれなくなった後に一端戻ってきたときには、高評価を得る事ができなかったように思える。しかしその後に、どんどんと作品を書き続け、今では御手洗潔が復活を遂げたというそれなりの地位にまで持ち上げることに成功したのではないだろうか。
 要するに言いたい事は、一読者の希望にすぎないのかもしれないが、ただただ「書き続けていてほしい」という事なのである。長年沈黙した後に、大作をという考え方もあるのかもしれないが、やはり書き続けている中でこそ良い作品ができるのではないかと、今年の作品群を読んでみて感じてしまうのである。世間一般では高い評価を受けている作品に対してこのような事を述べるのはどうかとも思われるのだが、それでも私にとっては「生首に聞いてみろ」や「暗黒館の殺人」は待ち望んでいた本格推理小説とは少々異なるものであったのだ。

 なんか苦言めいた事が長くなってしまったので、気をとりなおして他の国内の作品に目を向けてみると、新人ともいえる加賀美氏、大山氏、石持氏らの台頭が目立っているといえよう。ここ最近は、光文社から出たミステリ作家が目立っている傾向にあるようだ。また、もはや新人とは言えないものの、乾氏、伊坂氏あたりがますます磨きをかけてきたといえるであろう。特に乾氏は今年ブレイクした作家の1人と言い切って良いと思う。ただ、私にとって「イニシエーション・ラブ」はミステリの範疇からはややはずれるような気がしたので、ランキング内には入れていない。ただ面白い作品であったことは確かであるが。

 また、企画でいえば今年は東京創元社の“ミステリ・フロンティア”の1人勝ちというように思える。“ミステリー・リーグ”は「イニシエーション・ラブ」、“本格ミステリマスターズ”「紅楼夢の殺人」と良書はあるものの、あまりにも単発すぎるかなという気がした。もう少し、多くの“本格推理小説”を書く作家を起用してもらいたいと感じざるを得ない。


 海外のほうはどうかというと、さほど話題になる作家が出てこなかったかなというところである。ジョン・ダニングの「ダヴィンチ・コード」が有名になったようだが、こちらは未読。他の作品をみわたせば、ディーヴァー、ウォーターズ、アルテと最近良く聞く作家の名前ばかりである。

 今年もう少しがんばってもらいたかったのは国書刊行会。世界探偵小説全集第4期を終わらせて、そろそろ次のラインナップを紹介してもらいところである。国書は今年、SFに力を入れすぎたのでは、と感じられた。
 あと、話題になりそうなのは“新樹社の復活”といったところか。久々に新樹社がミステリ関連の書籍を出してくれた。しかも、ノックスの未訳の作品とまた渋いところをついてくれたものだ。2005年以降は何を出版してくれるだろうか。レオ・ブルースの残りの作品あたりを希望したいところである。
 また、最近になって論創社というところがやたらとがんばっているように思える。2004年の年末には“論創海外ミステリ”という、ちょっと「やっちゃった」という感じの強いラインナップの作品を集めて刊行を始めている。外れが多そうなラインナップながらも当たれば大リーガー級に飛ばしてくれそうな予感をさせてくれる。これはある意味注目株の出版社である。





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