総 評
今年は例年に比べて本格ミステリ界の重鎮による新作が少なかったような気がする。では、それがミステリ界の不況につながったかといえば、そんな感じもしなかった。今年は一年を通して、強烈な作品と言うものは出てこなかった気がするが、それなりに質の高いレベルの作品が出続けていたように思える。
例年通りの活躍が見られたのは、三津田信三氏、道尾秀介氏、鳥飼否宇氏といったところ。
本格ミステリ界の重鎮としては毎年のように新刊を出してくれている有栖川氏、芦辺氏、二階堂氏の活躍が光る。また、笠井氏の久々の新刊も見逃せないところ。久々と言えば、今年は法月綸太郎氏、貴志祐介氏が2冊も新刊を出したという驚きの年とあいなった。
さらには、テレビ界をもにぎわせている東野氏のガリレオ・シリーズの新刊が、質の高さを変えていないところは見事である。
新人作家では、講談社ノベルスから2冊の本を出した深水黎一郎氏、「告白」の湊かなえ氏、「遠海事件」の詠坂雄二氏らが目立ったところ。
個人的に読み逃した作品としては牧薩次氏の「完全恋愛」。これは年明けにゆっくり堪能したいと思っている。
今年の各方面の企画もの見ていくと・・・・・・と、いっても国内の企画ものというのもだんだんと元気がなくなってきた感じがする。メフィスト賞は3冊出てはいるが、本格ミステリからは程遠くなっていくようだし、ミステリーランドはかろうじて企画だけが続いていると言うような状況。また、ミステリ・フロンティアに関しては、新刊を多く出してはいるものの、ここ最近のレベルの低さが気になるところ。
そんななかで唯一気を吐いているのがミステリー・リーグ。ベテランから新人までバランスよく、かつ質の高い作品を出し続けているのはたいしたものといえよう。これに続くようなミステリ企画が他にも出てくれればと2009年以降に期待したい。
とはいえ、最近では講談社や光文社あたりから企画とは関係なくミステリ関連の書籍がよく出るようになってきたので、そういった企画ものの穴を充分埋めているようには感じられる。
海外ものについては、年始に「ライノクス殺人事件」と「検死審問」といった良作が復刊されたので、これをランキングに入れようかと考えていたのだが、一年を通してミステリ作品が盛況であったために、復刊作品を入れなくても充分にランキングを埋める事ができた。
今年はなんといっても「チャイルド44」の年といえるであろう。どのランキングでも上位を占め、かつ新人の作品と言うこともあり、年末の話題を一気にかっさらった感じがする。
他には7年ぶりに復活したフロスト警部の新刊、ランキングの常連ポール・アルテ、今後ランキングの常連になりそうなD・M・ディヴァイン、本格ミステリの重鎮マイケル・イネス等々、話題が尽きなかった年である。
そんななか、今年も新作が出ながらも話題に上らなかったロバート・ゴダード、軒並みランキングには入っていたものの例年に比べれば元気がなかったジェフリー・ディーヴァー、久々の新刊で話題をさらったものの個人的にはツボに入らなかったデニス・ルヘインといったものも忘れてはならないところ。
今年、海外のミステリ作品を盛況にさせた一因としては海外の企画ものが良い作品を出し続けているということに尽きるであろう。
「ヴィンテージ・ミステリー」「論創海外ミステリ」「KAWADE MYSTERY」「Gem Collection」と、これらが軒並み良作を紹介してくれている。「Gem Collectio」は現在ちょっと休止気味のようであるが、大丈夫であろうか? また、「論創海外ミステリ」は初期に比べるとメジャーな作品にもとりかかるようになったようで、よりとっつきやすくなっている気がする。
2009年もこれらの企画が、がんばってくれれば海外ミステリ作品については安泰であろう。
Mystery Note に戻る
Top に戻る