2009年ベストミステリ




2009年国内ミステリBEST10へ     2009年海外ミステリBEST10へ



このランキングは2009年1月〜12月までの間に出版された本を対象としています。





総  評

 本格ミステリ小説の出版点数が少ないというのは、ここ数年普通のことのように思える。それでも新たに本格ミステリ小説を書こうとする作家が着実に出てきてはいるので、完全にすたれたというわけでもない。結局のところ、ちょうどよいくらいの本格ミステリ作品の量であると言ってよいのであろう。

 今年ベテラン勢で活躍していたのは、歌野氏と東野氏、それと、もはやベテランといってもよさそうな柄刀氏あたりであろうか。この人たちは本を出すごとに、それぞれきちんと話題になるのだからすごいと言えよう。また、竹本健治氏も強烈な作品を出しているとは言いがたいが、ここ数年着実にミステリ小説を出版している。

 近年のミステリ界が不況と感じられないのは、道尾氏、三津田氏、米澤氏らが良書を毎年のように出し続けているおかげであろう。今年もそれぞれが良い作品を書いてくれている。また、ミステリ作家とは言いがたくなってきたが伊坂氏の活躍も光るところがある。これらを追うように、大倉氏、乾氏、北山氏などといった若手作家(実際若いかどうかはわからないが)が続いてきてるため、一年中ミステリ小説を堪能することができるわけである。

 また、最近は本格ミステリを書こうとする新人作家が多く見られ、今後も期待できそうな状況が続いている。松本寛大氏、小島正樹氏、山口芳宏氏、深水黎一郎氏といったところが有望株である。


 このように多くのミステリ作家が活躍しているはずなのに、各出版社の企画物に目をむけると、元気の無さが目立つばかり。

 ひとり気を吐くミステリー・リーグであるが、こちらは良い作品を出してはいるものの、固定された作家(愛川氏、三津田氏)ばかりが書いているという状況。

 ミステリ・フロンティアは出版点数は多いが、新進の作家を中心にしているためか、注目作品はほとんど出ていない。昔のメフィスト賞などと比べると、やや小さくまとまってしまっているような作品ばかりという印象である。

 当のメフィスト賞も細々と続いているという状況。また、講談社のミステリーランドや理論社のミステリーYA!などもかろうじて続いているという感じ。
(個人的にはミステリーYA!で大倉崇裕氏が書く「オチケン」シリーズが結構好きであったりする)

 また、企画物ではないのだが、今年は光文社のカッパ・ノベルスの刊行点数がやけに少なかったという気がしてならない。もはや“登竜門”どころではないということなのだろうか。
 それに比べて、講談社ノベルスの作品は、これでもかというほど出ていたように思える。月に2回に分けて出していたりと、そのインフレ気味なところが不気味なくらいであった。




 海外作品については、話題作は多かったものの、本格ミステリというジャンルに絞れば出版点数は少なかったように思える。
 私は、ここ数年続けて「本格ミステリベスト10」に投票しているのだが、今年の投票作品は「ルルージュ事件」「チャーリー・チャン最後の事件」「虎の首」「検死審問再び」「死せる案山子の冒険」という五冊。ちなみに「ルルージュ」と「チャーリー・チャン」は2008年末に出た作品なので、ここでのランキングからは泣く泣く外すこととした。

 見てもらえばわかるとおり、出版された本格系のミステリ作品を挙げてしまえば、そのままランキングになってしまうという状況。一時の本格推理小説のインフレぶりが嘘のように、近年は出版点数が激減している。

 その一番の理由としては、企画物が廃れてしまったせいであろう。いまだに、こういった作品を刊行しているのは“論創海外ミステリ”のみとなってしまった。“KAWADE MYSTERY”や“Gem Collection”などは、刊行が終了したというわけではないはずなのだが、ここ最近噂さえも聞こえてこない状況。

 そんな中で、唯一気を吐き続けるのが創元推理文庫くらいであろう。ハヤカワはポール・アルテ頼みというところ。なんとなく2010年も今年と同じような状況が続くような気がする。あとは、未読作品が数多く復刊されることを期待したい。


 ただ、本格ミステリというジャンルを置いといて、広い意味での海外ミステリ小説に目を向けると話題作には事欠かない状況。

 今年の話題作はなんといっても「ミレニアム」。これがまた、書いている著者が出版されるのを見届ける前に亡くなってしまったり、本国スウェーデンでは映画と共に爆発的な人気を得ていたりと、伝説的といってよいような評判を呼ぶこととなった。

 それとは対照的に大きな話題になることはなかったものの多くの人の支持を集めたのが「ストリート・キッズ」でお馴染みドン・ウィンズロウが書いた「犬の力」。こちらは派手さはないものの、多くの読書家に強烈な印象を与えた様子。

 その他にもトム・ロブ・スミスによる続編「グラーグ57」、マイクル・コナリーによる新キャラクターが活躍する「リンカーン弁護士」、タイトルの通り静かなブームとなりつつあるジョン・ハートの「川は静かに流れ」、リンカーン・ライム・シリーズの続編「ソウル・コレクター」などなど、多くの良書が刊行された。


 こんな具合で、やや本格ミステリ小説ブームからは遠ざかりつつあるが、近年は欧米にかぎらずさまざまな国の小説が紹介されるようになり、話題には事欠かないという状況。近代的なミステリ小説については、全く心配することなく来年もさまざまな作品を読むことができるのであろう。





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