SF は行−ひ 作家 作品別 内容・感想

七十四秒の旋律と孤独

2020年12月 東京創元社 単行本
2023年12月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 「七十四秒の旋律と孤独」
 「マ・フ クロニクル」

<感想>
「七十四秒の旋律と孤独」は第8回創元SF短編賞を受賞した作品。「マ・フ クロニクル」は、その短編の設定を引き継ぎ、ひとつの長編を描いたものとなっている。

「七十四秒の旋律と孤独」は、面白かった。作品のキモは“空間めくり”といういわゆるワープ中、人類は時間の経過を感じることができないなかで、特定のAIを備えたロボットのみが時間を感じ取れ、その間行動するができるという設定。その時間が“74秒”となっているのである。

 その74秒を使っての、スピーディーな戦闘シーンを注目点としつつ、ロボットが抱く繊細な感情が表された作品ともなっている。これは賞を受賞するのも納得のいく出来と言えよう。


「マ・フ クロニクル」は、人工知能を備えたロボット、“マ・フ”と言われるものが、宇宙を旅し、惑星探査に出かけるという内容。8体のマ・フを乗せた宇宙船がとある惑星にたどり着き、そこで人類との邂逅を果たす物語が描かれている。

 人類によるコンタクトではなく、ロボット側からのコンタクトを描いたというところが実に興味深い内容であった。ただ、この作品、納得しづらいというか、変に思われた部分があり、それゆえ作品にのめり込むことができなかった。というのは、“マ・フ”があまりにも人間的すぎていて、8体のロボットというよりも、8人の中学生くらいの知性しか持たないものの集まりのようにしか思えなかったのである。

 この作品では、“マ・フ”らが、思いのほか困難な状況に陥るがゆえに、ミッションとしては失敗を辿るというような結末に向かうこととなる。ただ、この8体のメンバーであれば、どれだけ簡単なミッションであっても、結局は失敗し、何も成し遂げられなかったのではと、思わずにはいられなかった。ロボットとしては、あまりにも不完全すぎるように思えてならなかった。


悪夢のかたち

1973年12月 早川書房 ハヤカワ文庫JA
2021年10月 早川書房 ハヤカワ文庫JA(復刊)

<内容>
 「レオノーラ」
 「ロボットは泣かない」
 「革命のとき」
 「虎は目覚める」
 「百万の冬百万の夢」
 「悪夢のかたち」
 「殺人地帯」
 「死を蒔く女」
 「人狩り」

<感想>
 平井和正氏といえば、「幻魔大戦」のイメージしかないのだが、残念なことにその「幻魔大戦」も途中までしか読めていない(アスキーから出たノベルス作品が途中までしか出なかった)。そんなわけで、平井氏の作品に関するイメージとしては漠然としたもので、“世紀末”というものくらいしか頭に浮かばない。

 ただ、この作品集を読んでみると、イメージそのままで、退廃的とか世紀末というようなワードが自動的に思い浮かび上がるものとなっている。何故かわからないが、とにかくネガティブな作品ばかりというのが読んだ正直な感想。

 ロボットやアンドロイドなどが取り上げられている作品がいくつか見られたのが印象的。ただ、それら作品に出てくる主人公があまりにも悲観的すぎるところがなんとも微妙。それゆえか、何故かロボットやアンドロイドに対してもネガティブなイメージとなってしまうような。

「虎は目覚める」は、SF作品でありながら、ミステリとしても読むことができて印象的。「百万の冬百万の夢」は、単なるサラリーマンの愚痴を描いたものかと思いきや、とてつもない展開が待ち受けている。ある意味これこそネガティブの最高位といえる作品かもしれない。

 と、そんな感じで色々なネガティブ模様を垣間見えることができる作品が集められている。これは、これで独特の色合いが出た作品集と言えよう。ふと思うのだが、今の世でいえばネガティブな雰囲気というのも普通のように感じられるが、これが書かれた時期というのは、社会的にもう少し希望があふれていた時期ではなかったのかなと思わずにはいられない。もしくは、そのころから来る世紀末に対する漠然とした不安が感じ取られているような社会的雰囲気であったのだろうか。


「レオノーラ」 リンチを受けたケンは精神的に病んでしまった。そんな彼のためにアンドロイドが介護することとなり・・・・・・
「ロボットは泣かない」 良質なロボットを中古で安く手に入れることができたものの、そのロボットのせいで家庭が崩壊し・・・・・・
「革命のとき」 愚連隊の男の口から突如、バイロンの詩が語られることとなり・・・・・・
「虎は目覚める」 ロケットマンは定期的に退廃した地球へと降り立っていた。すると、その地域では凶悪な殺人狂が度々現れ、人々はパニックにおちいっており・・・・・・
「百万の冬百万の夢」 倦怠な毎日を送るサラリーマンの男は、今日も雨のなか会社へと出向くのであるが・・・・・・
「悪夢のかたち」 ケイという妻がありながら、タレントと不倫した男は・・・・・・得体のしれない記憶に蝕まれてゆき・・・・・・
「殺人地帯」 アルは幸せそうな日本人の小男と出会い、彼の話を聞くことに。数日後、その日本人が・・・・・・
「死を蒔く女」 念じることによって人を殺せるという女の患者から話を聞いた医者は・・・・・・
「人狩り」 たまたま組んだパートナーのせいで、執拗以上に追われることとなった男は・・・・・・


ノルンの永い夢

2002年11月 早川書房 ハヤカワSFシリーズJコレクション

<内容>
 SF新人賞を受賞し、晴れて作家としてデビューすることになった兜坂亮は、ハイネマン書房の編集者・時田から数学者の本間鐡太郎をモデルにした小説の執筆を依頼される。その依頼を引き受けた後から兜坂は徐々に己の知らない大きな陰謀の中に巻き込まれていくことに・・・・・・
 その依頼された数学者の本間鐡太郎とは第二次世界大戦中、留学生としてドイツに渡り、工学者としても力を発揮していた。そしてあるとき彼のその実力は、学術都市の司令官であったヘルマン・ゲーリングの目に留まることになる。本間はゲーリングに自分は時空を超えることができると話すのだが・・・・・・

<感想>
 平凡に始まる出だしから、「これはSFらしくない作品なのかな?」などと思ったがとんでもない。タイムスリップからドイツ帝国までを巻き込むとんでもない国家陰謀SF小説であった。

 主人公が徐々に陰謀に巻き込まれていくパートと、50年前の戦時中のドイツのパートとに分かれて物語りは始まる。この部分での戦時中のパートがなかなか面白いと。本間鐡太郎が新発明をしていくパートには興味をそそられた。この部分だけ抜き出して一冊の本としてみても面白かったかもしれない。

 そしてその後、二つのパートは徐々に一つへと近づいていくのだが、後半の物語の収束の仕方はどうであっただろうと感じてしまう。序盤におけるタイムスリップについては、ある程度法則性みたいなものがあり、物語のつじつまも合わせられていたと思う。しかし、後半のタイムスリップに関しては、もはや法則やつじつまが崩壊してしまったとしかいいようがない。著者としてはこのタイムスリップによるカタストロフィをドイツの崩壊を通して描きたかったのかもしれないが、できれば整合性を保ったまま結末へと進んでもらいたかった。タイムスリップというものを題材にしたのだから“崩壊”よりは“影響”を書いてもらいたかったのであるが、ひょっとしたら、この“崩壊”というパートでさえもタイムパラドクスの一部でしかないのかもしれない。

 なかなか変わった味わいを残す内容であり、非常に興味深い一冊であった。なんだかんだというものの一気読みさせられてしまった。


壺 空  聖天神社怪異縁起

2004年06月 光文社 カッパ・ノベルス

<内容>
 日高町苫丑の遺跡で奇妙な形の壺が発見される。世紀の発見に調査員たちは心躍らせるのだが、この遺跡には不穏な気配がつきまとっており・・・・・・
 遺跡で発見された壺に魅入られる地主、その地主に復讐を誓う老婆。遺跡に不穏なものを感じ取り、発掘のアルバイトとして働き始めた神主の息子・聖天弓弦(しょうでんゆづる)。彼らの思惑が入り混じり、遺跡の壺の全てがそろったとき、壺の中の暗黒が世界を飲み込もうとし・・・・・・

<感想>
 平谷氏の本はハヤカワからのSF作品「ノルンの永い夢」を初めて読み、今回カッパ・ノベルズから新刊が出ていたのを機に本書を手に取ったしだいである。単発の作品かと思っていたのだが、前に「呪海」という作品が出ていて、本書はその続編となる作品であった事に読んでいるうちに気づく。とはいえ、物語自体はこの作品のみのものなので、本書だけ読んでも十分に楽しめる内容となっている。キャラクター造形を深めたいのであれば、前の作品から読むべきといったところ。

 本書は普通の“伝奇”作品である。呪術系とでもいえばよいだろうか。主人公は神主の息子ということで、簡単に言ってしまえば悪霊祓いといったところであろう。それをもっと大掛かりな敵と大掛かりな呪術で対戦し、敵を葬っていくというもの。この手の作品でよくあるように、変に美形キャラを強調したりしないところには好感がもてる。また、今作は町レベルの遺跡発掘がテーマとして語られていて、それについても丁寧に描かれていてそれなりに興味深い作品として出来上がっていると感じられた。

 全体的に地味な印象もあるのだが、丁寧に書き込まれた読みやすい伝奇小説として好感が持てる作品ではないだろうか。また、本書では主人公の行く末というものがこれからどうなるかということも興味深く描かれており、また脇役の空木という男の造形も面白く、キャラクター小説としてもなかなかなのではないかと思う。この作品が世間一般でどう評価されているのかはわからないのだが、もう少し注目されてもいい作品ではないかなとも思える。




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