SF か行−く 作家 作品別 内容・感想

最初にして最後のアイドル

2018年01月 早川書房 ハヤカワ文庫JA

<内容>
 「最初にして最後のアイドル」
 「エヴォリューションがーるず」
 「暗黒声優」

<感想>
 短編「最初にして最後のアイドル」が第四回ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞。その他2つの作品を加えた短編集。

 タイトルを聞いて、何やら軽そうなイメージを持つかもしれないが、このタイトルがオラフ・ステープルドンの「最後のして最初の人類」にかかっていることが分かる人は、異なる印象を持つのではなかろうか。実はこの短編、出だしこそ頭の軽そうなアイドルチックな感じで始まるものの、その後はまさに「最後にして最初の人類」を彷彿させるようなハードSFへと変貌していくのである。アイドルが第2世代アイドル、第3世代アイドルと質・形ともに変貌を遂げ、人類の面影すらも失った状態で、何故かアイドル活動を根底においたまま主人公は孤独に進化を遂げていくという内容。これはもう、実際に読んでもらわなければ伝わらない描写とすさまじさであふれている。

 それに続くように「エヴォリューションがーるず」という作品もすさまじい。こちらは携帯の課金ゲームをベースにした小説であり、課金を繰り返す主人公はあまりにも夢中になるあまり、想像上の課金ゲーム世界へと移行し、いわゆる“ガチャ”と言われる行為を続けていくことになる。そしてその“ガチャ”によって、ひたすら自身の形を進化するかのごとく変貌させてゆき、己の欲望を成し遂げようとする。これまた何ともすさまじいとしか語りようのない物語。

「暗黒声優」のほうは、前の2編と比べると、人間という枠組みがある程度残っているように思えるので、やや軽いSFのように錯覚してしまう。しかし、“声優”という職業と言うか、形態のようなものを用い、それを宇宙船の運航に用いて銀河系はるかを旅してしまうという発想はもはや想像の枠組みを超えていると言ってよいであろう。

 そんなこんなで、現代における事象とハードSFをものの見事に組み合わせた見事な作品集と言ってよいであろう。今後が期待される新たなSF作家が現れたということは間違いない。


始まりの母の国

2012年04月 早川書房 ハヤカワSFシリーズJコレクション

<内容>
「始まりの母」と呼ばれる、単体で子供をなすことができる独自の生態系を持つ島。そこは女性だけが暮らす島であった。その島に住むエレクは、謎の漂流物を拾う。弱っていた“それ”を匿い、周囲に隠れて介抱することを決めるエレク。そうしたなか、突如島は争乱に巻き込まれることとなり・・・・・・

<感想>
 SFシリーズJコレクション、創刊10周年ということで久々の連続刊行。その最初を飾る作品。内容については、SF作品としては個人的に苦手な部類にはいるかなと。

 土着ファンタジー風というか、スローテンポというか、そのような雰囲気でゆるゆると土地の情景と風俗が紹介されていくというような物語。それが中盤から後半になると、一気に戦乱に巻き込まれ、怒涛(というのは言い過ぎかも)の展開を見せる。

 個人的には苦手とは言ったものの、前半のスローテンポな作風のまま、島での生き様や情景を見せるという内容のみで良かったのではないだろうか。それが中盤以降突然、多視点になってしまい全体的な雰囲気が崩れてしまった。さらに戦争の場面についても、内容にしても、流れにしても物語上うまく描かれているとは決して思えなく、むしろ余分だったのではないかと感じられた。

 と、そんな感じで、いろいろな部分が期待とは異なる作品であったかなと。


母になる、石の礫で

2015年03月 早川書房 ハヤカワSFシリーズ Jコレクション

<内容>
 3Dプリンタが進化を遂げ、やがて人でさえも生み出すようになっていった。地球を飛び出した者たちの手により生まれた“始祖”。その“始祖”より生まれた“二世”と呼ばれる者達。虹、霧、針、そして“41”と呼ばれる“二世”の4人は、コロニーを離れ生活していたのだが、やがて“始祖”と再会することとなり・・・・・・

<感想>
 タイトルからして、かなり地道な精神的な物語なのかと思ったのだが、ふたを開けてみればなんとハードSF! 最初は状況がよくわからなく、人物像も想像しにくかったのだが、途中に何故このような状況になったかという説明があり、それによりある程度物語を把握できるようになった。

 大雑把にいえば、3Dプリンタが発達し、やがてはそれが意思を持ち、機械自体が自身の力でさまざまなものを作るようになり、人間に成り代わるようになったということ。そして、その機械らは地球を飛び出し、宇宙へと旅立ってゆく。

 物語が分かりづらいのは当然で、何故ならばここでは、我々がまだ目にせず想像もし得ない、進化や発展を描こうとしているからである。ということで、その先行きを期待したのだが、何故か物語は躊躇や逡巡ばかりで、先へと進もうとしない。主となる者達(主人公とは言いづらいので)は、何かをしなければならないと思いつつも、結局自分の足で先に進むことができず、周囲の状況に流されるなかで選択を強いられることとなる。

 そうして最終的には・・・・・・これがまた、小さなところへと落ち着いてしまったなと。最初は“進化”やその“先行き”というものを期待していたのだが、結局どこにも進むことができなかったようであり、己の中だけで満足してしまったような。もう少し、その先へと歩みを進めてもらいたかったのだが。




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