SF さ行−さ 作家 作品別 内容・感想

シン・マシン

2004年06月 早川書房 ハヤカワSFシリーズJコレクション

<内容>
 脳の一部が機械になってしまうという奇病、機械化汚染症候群(MPS)が社会を一変させた。しかし、そのMPSにかかることによって人々は互いに情報を相互交換できるようになり、多くの人が病にかかり始めた事により、MPSにかかっている状態がいつしかベーシックへとなっていった。そしてMPSを発祥していない者はスタンドアロンという蔑称で呼ばれるようになった。
 国東弾という青年はスタンドアロン。その時代においてスタンドアロンという状態では職業に付くこともままならなく、弾は探偵の真似事をして金を稼いでいた。ある日、弾の双子の弟が奇病にかかり危篤に陥る。その弟を助けようと奔走しようとする弾は謎の陰謀へと巻き込まれてゆくことに・・・・・・

<感想>
 読み始めは設定を生かした近未来SFという印象であったのだが、中盤以降は山田風太郎忍法帖のような伝奇小説に近い感じへ流れ込んでいった。読了した後には、SF伝奇小説として進行しながら兄弟の絆を描いた内容の小説と捉えることができた。

 当初は近未来の世界を克明に描き、その内容を元に話が展開されるのかと思っていたのだが、少々違った方向へと展開し始めた。その近未来設定がなかなかうまく描かれていたので、その路線のままのみで話を進めてもらえればと思われ、少々残念な気がした。

 そして中盤から後半にかけて伝奇小説のような流れとなっていくのだが、確かにこういう展開のほうがある意味読みやすいのだろうなとは感じられた。しかし、その後半の流れにより、せっかく前半で構築した世界があまりにもあやふやな加減になってしまったのはもったいないと思われる。それでも話の流れとしては、それなりにうまくまとまっているのではないだろうか。とはいえ、ラストへ至る展開は人によって好き嫌いがあるのではないかと思われるのだが・・・・・・

 なかなか良く書けてはいるものの、ちょっとSFなのか伝奇なのかというジャンルの狭間にひっかかりが感じらる小説と感じられた。このハヤカワSFシリーズで書くのであれば、もう少しガチガチのSFでも良かったのではないかと思われる。しかし、その分読みやすい小説にはなっていると思うのでSF初心者にもお薦めできる本となっている。


妖精作戦

1984年08月 朝日ソノラマ ソノラマ文庫
1994年10月 朝日ソノラマ ソノラマ文庫(改訂版)
2011年08月 東京創元社 創元SF文庫(1984年発行のオリジナル版を復刊)

<内容>
 高校2年の榊はオールナイトで映画をハシゴして見終えた朝、学校へ行く途中で転校生の少女・小牧ノブと出会う。実はこの少女、超能力を持つというわけありの人物であり、組織から逃れるために転校を繰り返していたのである。そんな彼女を守ろうとする探偵の平沢。そして騒動に巻き込まれることとなった榊とその友人である沖田と真田とつばさ。彼ら5人は組織にさらわれた小牧ノブを救おうと、陸海空、果ては宇宙までへと飛びだすことに!!

<感想>
 笹本氏の作品って読んだことがなかったので知らなかったのだが、あの「ARIEL」を書いた人だったのか! 読んではいないけれど、作品をよく本屋で見かけたものだ。

 本書はその笹本氏のデビュー作を復刊したもの。読んでみると、青春SF冒険活劇という時代を感じさせる作品であることがわかる。当時はライトノベルズというジャンルもなかった時代で、このようなライト系の作品をなかなか読むことができなかったのであろう。そうした背景のなかで、こういった作品が熱烈に歓迎されるというのも当然のことであろう。

 とはいえ、個人的には決してうまくできている作品だとは思えなかった。“超能力”というお題目があるわりには、ほとんどその超能力が出てこず、終始ドタバタコメディのみで最後まで突っ走っていく(その力技がすごいという見方もある)。また、青春モノとか学園モノというジャンルとしても見られたようであるが、そこの部分が多いに不満。というのも、前半部はもっと主人公達の学園で過ごす様子を描いてもらえればと思わずにはいられなかった。そうすれば、各個人の特徴や特技がもっと栄えたのではなかろうか。さらに言えば、ほとんど接点のない少女を命がけで助けに行くというスタンスも理解しづらかった。

 と、そんなわけで個人的には、その時代では大きな起点となる作品であったかもしれないが、オールタイムベストというわけではないなと感じられた作品。




著者一覧に戻る

Top へ戻る