SF た行−た 作家 作品別 内容・感想

ラー

2004年05月 早川書房 ハヤカワSFシリーズJコレクション
<内容>
 タイムマシンが完成した未来の世。考古学者であるジェディはピラミッドに魅せられ、紀元前の過去へと遡り、クフ王のピラミッドが完成しつつある時代へとタイムスリップした。その世界でピラミッドの監督官であるメトフェルという人物と出会い、ジェディはピラミッドの謎について調べを進めてゆくことに。ピラミッド建立に秘められた謎とはいったい!?

<感想>
 短い作品であったが綺麗に完結にまとめられたSF歴史物語としてうまく描かれた作品であると思う。

 内容は主人公の老考古学者がタイムスリップして実際にピラミッドが建てられている現場へと行き、その謎を調べるという話が生真面目に書かれている。最初は別にタイムスリップなどという設定はさほど重要ではなく、ただ単に歴史が描かれているだけの作品という印象であった。しかし話が進むにつれ、謎の核心へといたるには主人公が他の世界から来たという設定がきわめて重要であるということが理解できる内容となっている。

 登場人物らが性格のまっすぐな人ばかりしか出てこないせいか、妙などろどろしたような描写が無く、読み通しやすい物語となっている。また、登場人物らが皆まっすぐな性格ゆえにすがすがしい真摯さが感じられ、そこに好感が持つことができ素直な感動へと結びついた作品であるともいえよう。

 ただ一点、未来から未開の地に姿を現すことによって、現地の人々にどのような効果を与えるのかということを考古学者がわからないというのは不可解に感じられたのだが。


グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船

2023年07月 早川書房 ハヤカワ文庫
<内容>
 昔に日本の上空を飛行したのことのある、飛行船グラーフ・ツェッペリン。その時代に生きていなかったはずなのに、何故かその飛行船の記憶を持つ夏紀と登志夫。二人とも互いの事をうっすらと映像で記憶しているような、していないような、つたない想い。お互い見ず知らずのはずの二人が別々に生きているなか、記憶だけが交錯し合い・・・・・・

<感想>
 2024年に出版された「SFが読みたい」を参考に購入した作品。ちなみにランキングでは国内編の一位となった作品である。著者の高野史緒氏(女性)は、江戸川乱歩賞なども受賞していて著名な人ではあるが、私自身は今まで1冊くらいしか作品に触れていない。

 今作は、ちょっと特殊な“ボーイ・ミーツ・ガール”作品とでも言えばいいのであろうか。ただ、青春SFという感じではあるものの、“出会い”そのものが貴重である感じであり、“恋愛”ものという感じではなかった。出会うことこそ、貴重な体験であるという感じに捉えられた。

 この作品に関しては、どこまでがネタバレであって、どこまでを話してよいものなのかがわかりづらい。ハヤカワ文庫の裏に書かれているあらすじでは、結構核心的な事も書いてしまっていたような気もするので、ネタバレに関してはさほど気を使わなくてもいいのかもしれない。

 全体的に見て、不可思議に思えたことをきっちりと事象に当てはめるような内容のものではなかったと思われる。ただ、それはここで書かれる世界観ゆえに、あえてそのように描かれたものであり、作品内容からすれば、決してマイナスイメージになるようなものではないと考えられる。そうした曖昧な世界線のなかで、主要登場人物が選択するとある行動が大きなポイントになっていたという感じであった。全編通して映ろう、曖昧さや、不確定さが物語の魅力とも捉えられた作品。


やみなべの陰謀

1991年01月 メディアワークス 電撃文庫
2006年04月 早川書房 ハヤカワ文庫
<内容>
 「千両箱とアロハシャツ」
 「ラプソディー・イン・ブルー」
 「秘剣神隠し」
 「マイ・ブルー・ヘヴン」
 「千両は続くよどこまでも」

<感想>
 この田中哲弥という作家のことは今まで知らなかった。たまたまこの本を書店で見つけ、手にとってみると、帯に大森望氏による推薦文が載っていた。「孤高の天才が遺した、前世紀最後の奇跡」と。それを見て、あぁ、若くして亡くなった作家なんだと思いつつ、今度はあとがきを読んでみると・・・・・・どうやら死んでいるわけではないようである。

 どうやらこの作者、今世紀に入ってから作品を書き上げていないようであり、それを惜しむ気持ちが大森望氏による帯の文句となっていたようだ。ただ、私がこの本を見つけたときには、田中氏の今世紀最初の新刊(2006年5月出版)「ミッションスクール」が並んでいたので、本書と一緒に買ってきて、まずはこの「やみ鍋の陰謀」から読んでみたのである。

 それで読んでみての感想はというと・・・・・・いや、これはまたぶっ飛んだ本である。どうもこの作品、ライトノベルスで出版されていたようなのだが、ライトノベルスとしてはアクが強すぎたのではないだろうかと思えるほどのもの。

 本書は連作短編になっていて、五つの作品がタイムトラベルものとしてつながってくるという構成。ただ、1作目、2作目を読んだだけではそのつながりはわからなく、3作目を読んで、ようやくこれらの話はどこかにつながりがあるのでは? と思い始め、5作目で全てが完全に解き明かされるというもの。

 解き明かされるとはいっても、別に個々の事象に理由はなく、ただ単につながりが語られるだけという風にとれなくもない。とはいえ、逆に考えてみれば、特に理由もなく、このような時系列がバラバラの作品をひとつにまとめてしまうという力技はすごいとしか言いようがない。別にこれといって印象に残るものはないのだが(アロハシャツの大男と千両箱くらい)、何か変に感心させられてしまう本なのである。

 とりあえず、こんな変な本を読むことができたとちょっとお得な感じになれなくもない小説ということで。


銀河帝国の弘法も筆の誤り

2001年02月 早川書房 ハヤカワ文庫JA
<内容>
「ブラックホールの中にホトケはいるかおらぬか、そもさん」
 史上初めて傍受された知的生命体からのメッセージは、なぜか敵意むきだしのの禅問答であった!? <人類圏>存亡の危機に立ち向かう伝説の高僧・弘法大師の勇姿を描く表題作、大量のゲロとともに銀河を遍歴した男の記録「嘔吐した宇宙飛行士」など、人類数千年の営為がすべて水泡に帰す、おぞましくも愉快な遠未来宇宙の日常と神話、5篇を収録するSF短編集!

 「脳光速 サイモン・ライト二世号、最後の航海」(S-Fマガジン1997年8月号)
 「銀河帝国の弘法も筆の誤り」 (書き下ろし)
 「火星のナンシー・ゴードン」 (書き下ろし)
 「嘔吐した宇宙飛行士」 (S-Fマガジン2000年2月号)
 「銀河を駆ける呪詛 あるいは味噌汁とカレーライスについて」
  (S-Fマガジン1999年9月臨時増刊号掲載「銀河を駆ける呪詛」改題)


<感想>
 突込みどころ満載のようであり、わざわざ突っ込んでもしょうがないような気がする本書。それでもここまでやれれば上出来でしょう。

「脳光速 サイモン・ライト二世号、最後の航海」
 科学者の切れぶりが面白い。なんだかんだいってSFの王道のような話。

「銀河帝国の弘法も筆の誤り」
 それなりのオチ(?)もある。禅問答(?)もこれだけ続けられると不覚にも笑える。

「火星のナンシー・ゴードン」
 思わず読み返してしまった。なるほど。

「嘔吐した宇宙飛行士」
 これはちょっとグロイ。本当に悪趣味。

「銀河を駆ける呪詛 あるいは味噌汁とカレーライスについて」
 なるほど、これがいいたかったのですね。

 ところで本書はSF初心者が読んでもかまわないものなのでしょうか?


忘却の船に流れは光

2003年07月 早川書房 ハヤカワSFシリーズJコレクション
<内容>
 かつて世界は悪魔の襲来によって滅びた。主は、生き残った子らのため、5つの階層からなる閉鎖都市を想像した。
 その都市を統べる<殿堂>に住む聖職者に位置する若き僧・ブルーは、悪魔崇拝者の摘発に初めて参加したとき、<殿堂>の支配に対して疑問を抱き始める。修学者ヘーゲル、保育者マリアらに出遭ったときからブルーの人生は急転直下の波瀾の中へと吸い込まれていく。

<感想>
 これぞ田中流“神曲”か、はたまた“蒼穹の昴”田中版か!?(いいすぎか?)

 本書はSFといえども、ガチガチのハードSFとはまた異なるものとなっている。内容をおおざっぱにいうと、一つのコロニーの中での階級制や生活様式、そしてその世界の中の矛盾を若き聖職者の目を通して描いている。特に本書の特徴となっているのが、その階級制であり、生まれついた階級により地位だけでなく姿かたちまでもそれぞれが異なるという、一風奇怪な世界が創造されている。その中で主人公はその世界でのさまざまな出来事に巻き込まれながら、少しずつ真実へと近づいていき、最終的にはその世界の真理を理解することになるというもの。

 上記の説明が難しく感じられるかもしれないが、本文を読むと難しく感じることなく、スムーズに読み進めることができる。リーダビリティは十分な小説となっている。ただ、難をひとついえば、決して万人向きとはいえないその作風にある。田中氏の愛読者ならば、いまさら言うことはないのだろうが、なんといってもその作風はグロい! 一面の畑の肥料をまかなうことができるくらいの糞尿で小説がおおわれているといっても過言ではないかもしれない(もちろんそれだけではないのだが)。と、その辺を気にせずに読むことができるのならば、逆に読み逃すには惜しいくらいの超大作ができあがっている。

 また、さらに付け加えるのであれば、ラストにもうまくオチをつけている。この作品は読んでいて、最終的に話がうまくまとまるのだろうかと思っていたのだが、想像以上にきれいにまとめたなというように感じられた(といってもネタとしてはオリジナルではないのだろうが)。

 ただ、ひとつ言えるのは、本作はSF作品において今年度の目玉であると言い切ってよい作品であろう。


蹴りたい田中

2003年06月 早川書房 ハヤカワ文庫
<内容>
 「地球最大の決戦 終末怪獣エビラビラ登場」
 「トリフィドの日」
 「やまだ道 耶麻霊サキの青春」
 「赤い家」
 「地獄八景獣人戯」
 「怨臭の彼方に」
 「蹴りたい田中」
 「吐仏花ン惑星 永遠の森田健作」

<感想>
 あぁ、思っていたよりも、さらにくだらない作品だ。とりあえず感じたのはそのこと。さすがは田中啓文だと、色んな意味で感心してしまった。でも本書は田中氏の本を始めて読む人向けの本ではないと思う。まずは、「銀河帝国の興亡は筆の誤り」あたりを読んでからのほうがいいのではないだろうか。“蹴りたい田中”という某有名書籍をパロディにしたタイトルに惹かれて読んだ人はびっくりするだろう。なにしろ一番最初の短編で“ウルトラマンと怪獣の闘い”が繰り広げられるのだから。

 きのこSF「トリフィドの日」。きのこが出てくるSFって他にも読んだことがあるような気がする。きのこはSFによく似合うということか。それとも実は“きのこ”は宇宙外の・・・・・・

「やまだ道」は以外に面白かった。山田正紀氏に対する愛情と「神狩り2」を書いてもらいたいという妄執がよく表れている。意外にそこそこ普通(田中氏にしては)の青春小説かも。

 今回は糞尿はなしかと思いきや、「地獄八景獣人戯」で見事挽回。グロさ、相変わらず。矢七大活躍。

 それにも増して「怨臭の彼方に」は最高。エイリアンによる地球侵食というネタを書いた人は数多くいるだろうが、体臭による世界侵食を書いた人は他にはいるまい。これはくだらないとはいえ、壮大なスケール(の体臭)といえよう。

 で、本題にもなっている「蹴りたい田中」であるが、これはいまいちだった。表題ネタだけのような感じがする。駄洒落も不発というように感じる。あぁ、付け加えておくと大戦中の物語めいた感じの代物。

 菅浩江氏の作品に「博物館惑星 永遠の森」というものがある。そのパロディが「吐仏花ン惑星 永遠の森田健作」これ。菅氏もうかばれまい。菅氏自身が扉に文章を書いているものの、菅氏が田中氏を訴えたとしても別に不思議には感じない。

 今回の作品集は全体的にいまいちだったような気がする。田中氏の本を初めて読むという人には、やはりお薦めしたくない。是非とも他の本を読んでから、こちらを読んでいただきたい。そうすれば、もろもろに対する耐性はできているであろう。そんな感じ。


星を創る者たち

2013年09月 河出書房新社 単行本
2017年12月 河出書房新社 河出文庫
<内容>
 「コペルニクス隧道」
 「極冠コンビナート」
 「熱極基準点」
 「メデューサ複合体」
 「灼熱のヴィーナス」
 「ダマスカス第三工区」
 「星を創る者たち」

<感想>
 谷氏が描く土木SFシリーズをまとめたもの。7つの短編のうちの3作品は、1988年に書かれたもの。ただ、そのときに掲載された雑誌がなくなってしまったがために、宙に浮いてしまったシリーズ。それが2010年になり、SFアンソロジー「NOVA」で復活。3つの作品を「NOVA」で書き、最初の3編を改稿して、さらに最後の「星を創る者たち」という作品を書き下ろしてようやく単行本化された。

 その内容を大雑把に書くと、
 「コペルニクス隧道」 <月面> 技術主任・山崎が圧送管の異常に気付く。
 「極冠コンビナート」 <火星> 機材主任・立川は二酸化炭素濃度の上昇に気付く。
 「熱極基準点」 <水星> 常駐技術員・秋山は測量での誤差に気付く。
 「メデューサ複合体」 <木星系衛星群> 主任技術員・堂嶋は異様な圧迫感に気付く。
 「灼熱のヴィーナス」 <金星> 汎用級整備士・埴田は現場の事故対応に不信感を抱く。
 「ダマスカス第三工区」 <土星> 山崎部長は事故現場を調査するも不穏なものを・・・・・・
 「星を創る者たち」 <土星> 山崎部長らは異星人からの信号の意味を読み取ろうとするのだが・・・・・・

 まぁ、シリーズとしては面白いものの、全体的にそれぞれの作品が中途半端に終わっているように思えたのが気になるところ。最初の「コペルニクス隧道」は、事件が起き、そして解決まできちんと導かれているものの、その後の作品となると、最終的な解決まできっちりと導かれていないものが多かった。また、それぞれ異なる星にて、さまざまな事象というか建設トラブルを描いているものの、あまり星の特性が生かされていないように感じられた。それならば、一つの星での出来事でも良かったのではないかなとも思われた。

 スケールが大きくて面白いとは思えるのだが、どこか技術者シリーズというよりは、小役人シリーズ的な感触のほうが強かったように感じられた。もう少し技術的な解決をそれぞれしっかりと描いてもらいたかったところである。




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