SF た行−つ 作家 作品別 内容・感想

機龍警察

2010年03月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 大量破壊兵器が衰退し、近年では機甲兵装と呼ばれる近接戦闘兵器が台頭し、テロなどに頻繁に使用されていた。そのような事態を受け、警察はこれに対処するための特捜部を作り、“龍機兵”と呼ばれる新型機を導入した。3体の龍機兵に乗り込むのは、警察関係者ではなく、国内外からスカウトした傭兵たち。そうしたこともあり、特捜部の存在は警察機構から白眼視され、さまざまな軋轢を生むこととなる。そうしたなかで、機甲兵装による立てこもり事件が起き、龍機兵を率いる特捜部はSATと連携し、事件に対処することとなったのだが・・・・・・

<感想>
 2010年に出ていた作品なのだが、そのときはスルーしていた。さらにシリーズとして新刊が出たということもあり、とりあえず読んでみようかなと手に取って見たのだが・・・・・・これが、びっくりするほど面白かった。SF小説でありつつも、ベースは濃厚な警察小説となっており、そこにうまいぐあいにSF設定である龍機兵というものをうまく掛け合わせている。

 群像小説となっているのだが、キャラクターのひとりひとりの個性がきちんとしており、読んでいて混乱するようなこともなく、非常に読みやすかった。また、個性のあるキャラクターそれぞれに、さまざまな過去や秘密を持たせているところは、シリーズとしての今後の展開を期待させられる。

 今回の作品では龍機兵というものの存在よりも、特捜部という特殊な部署がいかに警察内部で忌み嫌われているかが強調して描かれている。そうした軋轢のなかで、最善を尽くさなければならない特捜部の苦悩が痛々しくもリアルである。

 今後、龍機兵の存在についてや、それに乗り込む傭兵3人の過去、さらには他の特捜部の面々についてと、その龍機兵を狙う闇の組織との闘い、こうしたことにスポットが当てられながら話が続けられてゆくのであろう。この作品のみであると食い足りないのだが、まだ続くシリーズものとなれば、今後十分に堪能できるであろうという期待を感じとることができる。この続編が既に文庫で出ており、購入してあるので、そちらを読むのが本当に楽しみである。


機龍警察 自爆条項

2011年09月 早川書房 単行本
2012年08月 早川書房 ハヤカワ文庫(上下)

<内容>
 密輸船を調べようとした捜査官が殺害され、その後犯人は船の乗組員を数名殺害したのち、自殺を遂げるという事件が発生した。無差別大量殺戮事件として、たいへん後味の悪いものとなったものの、当初事件はそれだけのものと思われた。しかし、同様の手口で密輸が各地で行われていたことが判明し、大規模なテロが日本で行われることが予測された。調査の結果、日本にイギリスの高官が来日することとなり、その命をアイルランドのテロ組織が狙っているというのである。実はそのテロ組織は、現在特捜部に配置されているライザ・ガードナー警部がかつて所属していた組織であった。テロ組織のトップ、“詩人”と呼ばれるキリアン・クインはライザの前に姿を現し、彼女の処刑を予告する。警視庁特捜部は、そうした複雑な背景のなか、テロ組織のもくろみを防ごうとするのであるが・・・・・・

<感想>
 最近、巷では小説のみならずTVでも“警察もの”がはやっているが、そうしたなかでもこの「機龍警察」は随一といえるほどの面白さを誇っている。ただし、「機龍警察」はその名の通り単なる警察ものではなく、ロボットあり、スパイ工作あり、国際的な陰謀ありの近未来警察小説である。

 その「機龍警察」の第2弾となる本書であるが、この作品では3体の龍機兵のうちの1つに乗り込むライザ・ガードナー警部をクローズアップした内容となっている。アイルランドのテロ組織が日本に来日するイギリス政府高官の命を狙おうと画策する。さらに彼らは、かつて組織に所属しながらも逃亡したライザ・ガードナーの命も狙おうとしている。高官の暗殺、ライザの暗殺、さらにもう一つ謎の目的を持っているようなのであるが、警視庁特捜部はその目的を突き止め、テロ組織の陰謀を防ぐことができるのかが焦点となる。

 そうした行動が進められる中、ライザがどのようにしてテロ組織に入り、どのような経緯を経て現在に至るのかが描かれている。そうして、徐々に特捜部というものがどのような組織であるのかが明るみにでるように展開されている。

 息の詰まる目まぐるしいテロ組織と特捜部の攻防戦。さらには、その二つの組織だけではなく、横槍をいれようとする警察上層部や、自分たちの利益を考えて行動する他の組織との情報戦、これらの交渉をこなしつつも、期日となるイギリス高官の来日が刻一刻と近づいてきて、そして運命の日を迎えることとなるのである。

 いや、本当に濃い内容の作品である。単なる警察小説にとどまらず、海外の組織を含めた大きな陰謀を描いているがゆえに、複雑な様相をていしている。そうした状況下からテロ組織やその他の同行の真意を見出しつつ、事態の解決をはかってゆくのである。いやはや、警察ものというよりも、国際警察ものという雰囲気になってきており、捜査する側はますます大変だと感嘆するのみ。よくぞこうした複雑な設定を作りつつ、最終的にきちんとまとめあげたなと、その力技に感服。

 まだまだ特捜部や龍機兵にまつわる謎が多々残されているようである。これから徐々にそれらが明らかになるであろうと共に、特捜部の面々がこれからどのような運命をたどることとなるのかも、非常に興味深い。第3弾の「暗黒市場」が既出ているのだが、文庫化されるのが待ち遠しい。そのうち、単行本で買ってしまいそうな気が・・・・・・


馬の首風雲録

1967年12月 早川書房 日本SFシリーズ13
2009年04月 扶桑社 扶桑社文庫

<内容>
“馬の首”と呼ばれる暗黒星雲に、知的生物が存在するのを人類は発見した。その生物は人間に酷似しているものの、頭は犬の形。その犬の頭の原住民“サチャ・ビ”たちに、人類“コウン・ビ”が関わることによって、政治に影響を与え、戦乱が勃発することに。その戦争に乗じて儲けようとする行商人“戦争婆さん”と4人の息子。彼らが行商を続けていくうちに、息子たちがひとり、またひとりと戦渦に巻き込まれていくことに・・・・・・

<感想>
 筒井氏が書いた長編第2作目がこの「馬の首風雲録」。よって、50年近く前に書かれた作品という事となる。

 読んで感じたのは、犬の頭の生物という設定があまり生かされていないなということ。これならば別に人間でもよかったのではないだろうかと感じられた。この理由についてはあとがきに書かれており、人間で戦争小説を描いてしまうと残酷になってしまうゆえに、SF的設定にしたとのこと。これが書かれた時代を考えると、そういう話も深刻な問題であったのだろうと考えられる。

 物語は、風刺というほど固くはないけれども、戦争というものに対する皮肉が描かれているのは確かなのだろう。戦乱に書き込まれてゆく普通の人々の悲惨さ、許容を超えた命令を下される軍人の嘆き、そして戦争に関係ない人間にとっては迷惑、こういったことを、さまざまな視点(主に4兄弟と婆さんの視点)から描いている。

 SFでありつつも、どうしても反戦小説という色合いが濃いと感じてしまう。まぁ、実際には反戦というよりも戦争小説であって、そこから何を感じ取るかは読者しだいということであろうか。ロマンというものよりも、いたって現実的なものを突き付けられるようなSF作品という印象。


東海道戦争

1969年 早川書房 ハヤカワ・SF・シリーズ
1973年08月 早川書房 ハヤカワ文庫JA
2021年10月 早川書房 ハヤカワ文庫JA(復刊)

<内容>
 「東海道戦争」
 「いじめないで」
 「しゃっくり」
 「群 猫」
 「チューリップ・チューリップ」
 「うるさがた」
 「お紺昇天」
 「やぶれかぶれのオロ氏」
 「堕地獄仏法」

<感想>
“ハヤカワ文庫JA1500番到達記念”により2021年に復刊された作品。筒井康隆氏によるSF短編集。大別すると、社会風刺系のものと、ロボット系のものに分かれるような。

「東海道戦争」は、唐突に開かれた戦線により、それに踊らされ、高揚する人々の様子を描いたもの。最初は、単に戦争の噂のみで終わってしまう話かと思ったのだが、次第に戦争の現実と悲惨さに彩られることとなる。情報が不確定ななかで起こる凶事に対する恐ろしさを示しているようでもある。

 また、「堕地獄仏法」では全体社会めいたものを、宗教的に描いているような感じの作品であり、 「やぶれかぶれのオロ氏」は、マスコミ界隈に対する風刺のようなものが描かれている。「やぶれかぶれ〜」は、あくまでも社会風刺のような作品であると思われるのだが、その他の作品においてロボットに関する内容のものがいつくか描かれているので、それらと同様の捉え方で見てしまいたくなるような。

 そのロボット関係の作品が「いじめないで」「うるさがた」に当たるのだが、やけにロボットに対するあたりが強いように思えてしまう。これは著者自身のロボットに対する感情なのであろうか。といいつつも、「お紺昇天」では、異なるものの見方をしているのだが・・・・・・外見が車であれば、扱いがこうも変わるのかいと、突っ込みを入れたくなってしまう。

「しゃっくり」は、時間繰り返し系のSF作品。同じ場面が繰り返される中で、最後の現実的な終わり方がもの悲しい。「チューリップ・チューリップ」は、タイム・パラドックス系のようであり、パラドックスがないというか、過去未来から現れた自身の数がネズミ算的に増えていくというなんとも言えない内容。しかも、同じ人間が増えたからといって、“三人集まれば文殊の知恵”というわけにはいかず、役立たずが増えるだけという考えもまた皮肉のような。


バレエ・メカニック

2009年09月 早川書房 単行本

<内容>
 芸術家の木根原の娘・理沙は9年前海に溺れ、現在も昏睡状態のままである。理沙は昏睡状態ながらも、変わった様相を示しており担当に特別の医師がついているという状況。そうしたなか、突如理沙の意識が現実の世界にあふれ始めた。その異常事態のなか木根原は娘の元へ向かおうとするのだが・・・・・・これが後に言う“理沙パニック”の始まりであった。

<感想>
 3章から構成される幻想譚。1章を読んだ時には幻想小説というイメージが強かったが、2章、3章と進むにつれてSFという印象も色濃くなってくる。1章から3章という時系列を経て、ひとりの少女の意識が世界にあふれたことによる顛末を描いた作品。

 タイトルから勝手に、もう少しメカニック的なものを勝手に想像していたのだが、そこは津原氏が描く作品ゆえに精神的な世界が色濃く出ていた。やはりSFというよりは全体的には幻想小説という印象がどうしても強くなってしまう。ようするに通常の津原氏らしい作品をイメージしてもらえばよいということであろう。SFっぽさを強く求めた人はちょっと違うと感じてしまうかもしれない。

 とはいえ、序盤に登場したちょっとした人物が後に大きな役目を果たすこととなっていく構成は面白かった。また、物語全体でそれぞれの登場人物がそれぞれきちんと役目を果たしており、無駄な者がいないように作られているところが見事と言えよう。

 読む人によって抱くイメージはそれぞれ異なると思われるので、興味があれば試しに読んでもらいたい。私のイメージとしては近代的幻想小説という印象。




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