SF ハ行−ハ 作家 作品別 内容・感想

パラドックス・メン   The Paradox Men (Charles L. Harness)

1953年 出版
2019年09月 竹書房 竹書房文庫

<内容>
 記憶を失くし、名前を失くした男は、“盗賊”と呼ばれる組織に助けられ、アラールという名前と大学教授の地位を与えられ、“盗賊”として活動することとなる。アラールは、帝国の宰相と敵対することとなり、窮地に陥るも、謎の女であり宰相の妻であるケイリスの力を借りて生き延びる。やがて、アラールは自身の謎を巡る陰謀に取り込まれることとなり・・・・・・

<感想>
「2020年版 ミステリが読みたい!」を参考にして購入した作品。近代的な今風な表紙からして、新しい作品かと思いきや、なんと幻とされる古典的SF作品であるとのこと。著者のチャールズ・L・ハーネスの処女作品である。

 読んでみて、目新しい作品のようでありつつも、近年読んだSFと比べるとどこか古臭さを感じ取れるようなものであったのは確か。SF的に広がりそうで、何故か広がらないというようなちょっと微妙な展開。設定にはSF的なものを感じつつも、どこか古風な盗賊の冒険譚ようにも感じられてしまうのである。

 全体的に物語上の色々な謎があるかと思われたのだが、基本的に回収したのは、主人公の正体だけであったような気がしてならない。つまりはタイムトラベル的なネタのみに終始してしまったような感触。しかも真相が明らかになったところで終わっているので、真相が明かされた後の話が語られないゆえに、物語全体が収束しきらなかったような感じ。そんな感じで、なんとなく一発ネタのみで終わってしまったような・・・・・・


銀河市民   Citizen of the Calaxy (Robert A. Heinlein)

1957年 出版
2005年05月 早川書房 ハヤカワ文庫SF<復刊>

<内容>
 太陽系から遠く離れた惑星サーゴン、そこでは奴隷の売買が行われていた。奴隷市場で競りにかけられていたのは薄汚れた少年ソービー。誰も彼を買うものなどいないと思われたが、年をとった乞食が彼を安値で買い取ることとなる。乞食の名はバスリム。彼はただの乞食ではないようで、ソービー少年に独特の教育を施していく。ある日、ソービー少年にとって転機が訪れ、彼は惑星から宇宙船にて旅立つこととなり・・・・・・

<感想>
 久々にハインラインの作品を読んだ気がするのだが、読み始めて驚かされたのは、ハインラインってこんなに読みやすかったっけ? ということ。あとがきを読むと、本書はジュブナイル・シリーズということで書かれた作品だそうで納得。とはいえ、ジュブナイル・シリーズだからといっても、十分に大人が読むに耐えうる作品であった。

 本書はひとりの少年が成長し、奴隷という立場から、自由人としての地位を勝ち取っていくという内容。まさにタイトルの“銀河市民”という名にふさわしいものとなっている。少年の成長ものというだけでも読者の興味を惹きつけるのには十分なのだが、それだけではなく、主人公のソービー少年が過ごすことのなるさまざまな世界の設定も興味深いものとなっている。そうした世界を通して、主人公は自身にとっての自由とは何かというものを考え、行動をしてゆくこととなるのである。

 実にご都合主義的な展開もあるものの、そのご都合主義的な流れが見事に少年の人生を深く考えつくすものとなっており、実にうまくできているなと感心させられる。この一冊の本のみで満足させられる反面、シリーズものとしてもう少し長く、詳細に主人公の成長を見られたらとも思われた。また、後半はSF的な派手さがなかったところも残念。

 今回ハインラインの作品を読んだのは久しぶり。昔読んだ作品で「夏への扉」くらいは覚えているのだが、他に何を読んだのかは覚えていない。この「銀河市民」がおもしろかっただけに、これをきっかけにハインラインの作品を集めてしまいそうで怖い。また、これで積読が・・・・・・


月は無慈悲な夜の女王   The Moon is a Harsh Mistress (Robert A. Heinlein)

1966年 出版
1976年10月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 人類は月へと進出したが、いつの間にか月は地球政府による植民地となりつつあった。その圧政により、月に住む人々は苦しい日々を送り続けていた。
 あるとき、コンピュータ技師であるオケリーは政府の計算機室のコンピュータが自我を持ち始めたことに気がつく。それ以来、オケリーは彼にマイクという名を付け、会話を楽しむ日々を送っていた。そんな中、オケリーはたまたま反政府デモの集会に参加することとなり、そこで騒動に巻き込まれる。いつの間にかオケリーは反政府団体のワイオミング、かつての恩師ベルナルド教授、そしてコンピュータのマイクと共に地球から月を独立させる運動の先頭に立つこととなり・・・・・・

<感想>
 これまた長らく積読にしていた一冊。SFに興味のない人も、本屋にてこのタイトルの本を見かけたことはあるのではなかろうか。何年も前に出版された本であるが、今だに本屋で容易に手に取ることのできる一冊であり、ハインラインの代表作の一つである。しかし、このタイトルにインパクトはあるものの、「月は無慈悲な夜の女王」と言われても内容が全く想像できない。私も購入してから、ろくにあらすじも見ずにいたので、実際に読んでみるまではどのような内容の作品なのか知らなかった。

 なんと本書は月に住む人々が結託し、地球からの独立を目指すという話である。内容だけ見ると壮大な話であるのだが、登場人物をかなり絞ることにより、読みやすく理解しやすい内容になっている。

 本書で印象的なのは、なんといっても自我を持ったコンピュータ。この存在こそが、月の独立を急速に発展させた要因となっている。読み始めた時は、万能なコンピュータ在りきの作品のようで、少々興ざめする部分もあったのだが、読み進めていくと決してそれだけの小説ではないことがわかる。月に住む者たちがどのような状態で、何故今革命を起こさなければならないかを考え、そしてどのようにして地球政府に対し有利な立場に立つことができるかが考え抜かれている。

 全体的に見て、アイディア有り、アクション有り、思想有りと様々な要素がうまくまとめられた作品となっている。さらに言えば、単なるアクションSFとしてではなく、こうした思想系のSF作品としても稀有な存在と言えるのではないだろうか。

 実際に読んでみて、刊行された当初から35年にわたって出版され続けてきたことが十分に納得できる内容であった。SFにどっぷりつかっている人にとっては今更な作品かもしれないが、まだSFを読み始めたばかりという人はこういう作品もあるのだということを知ってもらいたい小説である。


夏への扉   The Door into Summer (Robert A. Heinlein)

1957年 出版
2009年08月 早川書房 ノベルズサイズ<新訳版>

<内容>
 友人と会社を起業した発明家のダニエル。しかし、その友人と恋人に裏切られ、会社の経営権を失い会社から去らなければならないことに。失意にくれるダニエルは近頃噂となっているコールドスリープを行い、30年後の世界で目覚めようと決意する。愛猫のピートも連れて、未来の世界へ旅立つはずであったのだが・・・・・・

<感想>
 日本で最も有名な海外SF作品と言ってもよいのではないだろうか。私もかなり昔に読んだきりであったのだが、新訳版が出たのをきっかけに再読してみた。

 昔読んだ時も思ったのだが、読みやすいし、わかりやすい。初読のときは、まだSFも読みなれていない時期でありハードSFなどはとても手が届かないような状況であったが、この作品だけは素直に面白いと思うことができた。

 本書の内容は、簡単に言えばタイムトラベルものであるのだが、そこには情けない男の再生の物語とか、発明家としての矜持とか、裏切りと信用の物語でもあり、小さな恋の物語でもあったりする。しかし、本書においてなんといっても重要な位置をしめるのは猫のピートであろう。実際には、さほど大きな役割があるわけでもないのだが、なかなかの存在感を出している(表紙にて扱われているという影響も大きいと思う)。

 タイムトラベルを扱う物語というと、理論だとか理屈だとかさまざまな障害をクリアしなければならないのだが、そういった点を極力省いて物語重視の方向へと進めたことも成功の一因と言えよう。ラストのほうでタイムパラドクスについて、ある程度言及しているところもあるのだが、分量としてはこのくらいでちょうどよい。物語が終わってしまえば、ご都合主義以外の何事でもないのだが、そのご都合主義がきっちりと決まった作品と言えよう。

 これからもSF初心者向けの作品として最適という位置づけであり続け、永遠に本屋に並び続けるSF作品であることに間違いなかろう。


宇宙の戦士   Starship Troopers (Robert A. Heinlein)

1959年 出版
1977年03月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 ジョニー少年は、友人が入隊するという言葉をきっかけに、気軽に地球連邦軍に志願することを決意する。両親の反対を押し切り、入隊した彼を待ち受けていたのは、宇宙最強の兵科と呼ばれる機動歩兵。ジョニーは一人前の戦士となるために、地獄の特訓を受ける。そうして見事に機動歩兵の兵士として成長した彼は、クモ戦争と呼ばれる異星人との戦いに投入されることとなり・・・・・・

<感想>
 だいぶ昔に読んだのだが、ピンとこず、今回再読を試みた。さすがに大人になると(大人という年齢をだいぶ過ぎている気はするが)この「宇宙の戦士」の内容をきちんと理解することができた。昔、読んだ時には異星人との戦闘の様子を描いたアクション巨編と勝手に思っていたようで、ピンとこなかったのであるが、実は本書はそのような作品ではなかったのである。

 この作品が何を描いているかというと、ひとりの人間が一人前の兵士になるための訓練と道徳についてなのである。本書はSFゆえに、宇宙で戦う戦士という名目があるのだが、実は宇宙というものはさほど重要ではなく、これは現代社会における兵士に置き換えても十分通用する内容なのである。兵士になるための訓練と、特に精神的にどのような過程をたどり大人(いっぱしの兵士)へと成長していくかが事細かに描かれているのである。

 そして、一人前の兵士となれば、即戦争へと投入されることとなるのだが、そこからまた上級士官へと至る過程が描かれているのである。ゆえに、本当に戦闘らしい場面が描かれているのは、最初と最後くらいか。

 と、そういうわけでSFアクションを期待する人にとっては肩をすかされてしまうかもしれないが、これはこれで結構読まされる内容である。とはいえ、青年の成長物語であるにも関わらず、なんとなくある程度社会を経験してきた大人が読むほうが共感を覚えるのではと感じられてしまう。むしろ、SFファンではない大人に読んでもらいたい作品と言えよう。


レッド・プラネット   Red Planet (Robert A. Heinlein)

1949年 出版
1985年05月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 火星に人が住むことができるようになった時代、人類は火星人と共存し、互いに干渉せずに過ごしていた。そんな火星に住むこととなったマーロウ家。その長男ジムは、友人のフランクと共にアカデミーへ入学することとなった。ジムは火星でバウンサーという生物を拾い、飼うこととなった。この生物は、人の言葉をテープレコーダーのように完璧に繰り返すことができる不思議な生物。ジムはこの生物にウィリスという名前を付け、アカデミーへと連れていくことに。そのアカデミーで彼らを待っていたのは、軍のような威圧的な校則を押し付ける新任の校長。ジムとフランクは、この校長が火星においてとんでもない企てを抱いていることを知り、アカデミーを脱出しようとするのであったが・・・・・・

<感想>
 ハインラインのジュヴナイルのひとつ。火星にて、二人の少年が冒険を繰り広げるという内容。火星人や、変わった火星生物などといった存在も物語に色を添えている。

 ジムとその友人フランクがアカデミーに入学するものの、新任の校長がやたらと校則を厳しくし、軍隊のような圧政を強いられることに。二人は校長に目を付けられ、学校生活が益々厳しくなる中、校長が火星全体を巻き込む陰謀に加担していることをしり、アカデミーからの脱出を図る。

 一応、ジュヴナイル作品という事で、読みやすく面白いのだが、主人公が終始一貫していないところが残念に思えた。後半は、大人が活躍する場面となり、ジムとフランクの存在感が薄くなってしまった。そこは、子供たちが主人公なはずなのだから、最後までその路線で続けて行ってもらいたかったところ。また、最後の最後で急展開となった火星人との関係に関しても、尻切れトンボ気味に終わってしまっている。

 結構、謎の火星人の存在とか、バウンサーという未知の生物とか、魅力的な要素はいっぱい詰まっていたように感じられた。ただ、ページ数の関係か、構成していた要素についてすべて書き切れなかったというように思えた。ちょっと詰め込み過ぎてページが足りなかったという事なのだろうか。


人形つかい   The Puppet Masters (Robert A. Heinlein)

1951年 出版
2005年12月 早川書房 ハヤカワ文庫SF<新装版>

<内容>
 アメリカに未確認飛行物体が着陸し、その調査に捜査官が派遣されたものの誰も帰ってこなかった。秘密捜査官サムは上司であるオールドマン(おやじ)と、赤毛の捜査官メアリと共に現地調査におもむく。そこで彼らが発見したのは、何者かによって町全体の人々が操られているという状況。決死の捜査のすえ、ナメクジのような寄生生物に取り付かれていることを発見する。サムとオールドマンは、地球が宇宙からの侵略者によって襲われている状況を知らせようとするのであるが・・・・・・。人類対侵略者の決死の戦いが始まる。

<感想>
 いやはや、ハインラインのSF小説はわかりやすい。ということを再認識させられる内容。SF初心者大歓迎。

 テーマは侵略もの。宇宙からの侵略者に対し、捜査官らが奔走し、対抗策を練ってゆく。その未知の脅威がわかりづらいものであり、なかなか政府をはじめ広域での理解を得ることができず、侵略に対し後手にまわらざるを得ない状況。しかし、徐々にアメリカ全土で侵略者に対抗する手段をとるようになってゆく。

 とはいえ、主人公である秘密捜査官サムが活躍する場面に関しては、その都度その都度勝利を得られるものの、全体的な視点で見れば侵略者側のほうが有意に進んでゆく。絶望極まりない状況の中で何らかの打開策を打ち出せないかと主人公たちは知恵を絞ってゆく。

 本書は、侵略者に立ち向うという内容のみならず、“家族と成長”を描いた作品でもある。主人公サム(仮名)の成長物語であり、父と子の物語であり、男と女の物語でもある。やや青臭さというものを感じてしまうのだが、そこは時代性によるものか。まぁ、ハインライン得意のテーマであるのだろう。こうしたテーマが作品をわかりやすくし、取っ付きやすいものとしている要因であるのかもしれない。

 うまく描かれたSF作品といえよう。特にSFらしいテーマである、宇宙からの侵略というものを、戦線によるものではなく、精神を乗っ取る生物との戦いとして描いているところも大きな特徴。テーマ別としてそのジャンルに残る名作である。


ダブル・スター   Double Star (Robert A. Heinlein)

1956年 出版
1994年06月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 失業中の俳優ロレンゾ・スマイズは、酒場で会った男から頼まれた仕事を、つい引き受けてしまった。最初は俳優の力量を生かし、誰かを演じるだけの簡単な仕事かと思っていたのだが・・・・・・なんと、誘拐された首相のかわりに火星に乗り込んで儀式に参加するというものであり・・・・・・

<感想>
 俳優が一時的に首相の代役を勤めることとなるのだが、辞めるきっかけがないまま、どんどんと代役の状況が続いていくという物語。1956年に書かれた当時の事はわからないが、今だと結構ありがちな物語という気がする。

 一応、SFということで舞台に火星が出てきたりもするのだが、その火星については後半生かしきれていなかった気がする。もう少し、SFらしい特異性を持たせてもらいたかったところだが、それは60年以上昔に書かれた作品ゆえに、そこまで要求する必要もないのかもしれない。

 個人的に思ったのは、俳優として首相の代役を続けてゆくことに満足感を得るというのは一介の職人としてどうかということ。一応、主人公は“俳優”という職業に誇りを持っているという設定であるのだが、この物語の流れでいえば、マジシャンのスキルを持ったものが泥棒として働く、というようなこととあまり代わりがないように思えてしまう。故に俳優というものに誇りを持っているのであれば、代役に満足することなく、むしろ別の選択肢があったのではないかと思わずにはいられなかった。


天翔る少女   Podkayne of Mars (Robert A. Heinlein)

1958年 出版
2011年04月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 火星に住む火星年齢8歳(地球年齢15歳)のポディは、念願の宇宙旅行へと旅立つことに。期待に胸をふくらますポディであったが、天才児でありながら何をしでかすかわからない弟と一緒に旅をしなければならないことが唯一の不満。そうして旅に出るものの、ポディはさまざま難題に悩まされることとなり・・・・・・

<感想>
 タイトルといい、少女が初の宇宙旅行に出かけるという設定といい、良さげな成長物語を期待していたのだが・・・・・・何とも言えない物語であった。ハインラインのジュブナイル作品らしからぬ仕上がりに驚かされてしまった。

 読んでいる最中は、冒険譚が描かれる作品かと思いきや、意外と地味な展開ばかり。まぁ、それでも主人公の少女・ポディを中心に描かれた内容であるので、さほど気にせずに読んでいたのだが、ラストの衝撃が何とも・・・・・・。これではポディの物語というよりも、その弟の物語であったようなと・・・・・・

 この作品の解説は作家の坂木司氏が書いていて、この物語を読んだ後の読者の気持ちを見事に表しているので、本編とあとがきとセットで楽しむことができる。この作品自体はあまりお薦めできるものではないのだが、坂木氏の楽しめるあとがきと共にネタとして読む価値はあるかもしれない。


宇宙に旅立つ時   Time for the Stars (Robert A Heinlein)

1956年 出版
1985年11月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 はるか未来、人類が外宇宙探査のために亜光速宇宙船を送り出そうとしていた。そこで目を付けられたのは、双子である者たち。彼らには特殊な能力があるとみなされ、選抜された者たちは明らかに双子の間でやりとりできるテレパシーを有していたのだ。そのテレパシーを利用して宇宙と地球とで交信を図ろうというのである。選出された双子のなかのトムとパット。終始積極的なパットが申し出て、宇宙へと行き、やや内気なトムは地球に残って交信を行うこととなっていたはずであったのだが・・・・・・

<感想>
 分かりやす過ぎるSFと難解なハードSFとの狭間にあるような作品で、ちょうどよいSF小説という感じ。宇宙への旅を描いた小説ということで、いかにもというSF小説らしく、さらにはページ数もちょうどよく、手に取りやすい作品である。

 惑星探査に乗り出すという内容のものであるのだが、その連絡手段として双子のテレパシーを利用するという変わった設定。そんなわけで、この作品では双子の兄弟トムとパットが主人公となる。語り手はやや内気なトム。一方パットは要領がよく、全てのものをパットの目の前からかっさらっていくような人物。ただし、二人の仲は決して悪くはない。

 そうしたなかで当然のごとく宇宙へ行くのはパットで、地球に残って連絡を取り続けるのはトムとなるはずが、ちょっとしたアクシデントによりトムが宇宙へと旅立つことに。そしてこの物語は宇宙への旅にスポットが当てられるだけではなく、二人の兄弟の心理面についても深く入り込んでゆくこととなる。

 序盤は双子の心理的な問題について語られることが多いが、後半は惑星探査の状況が多く語られてゆくこととなる。その探査についてはトムら宇宙船の乗組員たちは過酷な作業を強いられることとなってゆく。

 ハードSF的な要素あり、宇宙での冒険あり、さらには兄弟の物語でもある。といった具合に、さまざまな要素が詰め込まれた内容の濃いSF作品。最終的にはハインラインの代表作を思い出させるような展開までも。なかなか読みどころの多い作品。


プランク・ゼロ  ジーリー・クロニクル【1】   Planck Zero;The Xeelee Chronicle T (Stephen Baxter)

1997年 出版
2002年12月 早川書房 ハヤカワ文庫SF

<内容>
 西暦3600年代、マイケル・プールが開発したワームホール・テクノロジーが、恒星間宇宙への扉を開いた。豊饒にして冷徹なる時空の真理、多種多様な生命形態との遭遇を繰り返していく人類。だが、その前途には、宇宙の黎明期から存在する謎の超種族ジーリーとの邂逅、そして百万年にもおよぶ興亡の歴史が待ち受けていた・・・・・・

<感想>
 宇宙開拓史から人類の行き着く先というのをテーマに練り上げられた作品となっている。ただし、長編ではなく連作短編という形式がとられている。しかし個々の短編を見てみると、一つに繋がるような形式のものではなく、かろうじてテーマにそっているという雰囲気のようにも感じとれる。

 とはいうものの、プロローグから語られる“イヴ”という存在やジーリーという種族の謎などの共通項が存在し、それらが徐々に明らかになっていくという意味での連作にはなっている。それらが年代というよりも世紀や時空を超えてつむがれる物語による宇宙史年表といったところか。

 第一部では、人類の夢・宇宙進出が描かれている。まさに人類開拓史といったところだ。しかし、それを読んで感じることは、“人類が歩けば生態系を破壊する”といわんばかりの進出ぶり。もちろん意図的に行っているわけではないのだが、外からの侵入者はその星のものにしてみれば邪魔者に他ならないわけである。結局、人類は地球にいるときと同じようなことをやっているなぁー、と無駄な感心をしてしまった。

 第二部、第三部においては宇宙人の逆襲というべき、宇宙生物らによる人類の支配が描かれている。しかしながら、人類は他のただ淘汰されていくような生物らとは別に、手を代え品を代え、時には逃げ出し、時には形態さえも変えてしまいながらもたくましく(はたまたいやしく)生き延びて行くのであった。こういうのを読んでいると、人類って一番いやなエイリアンじゃないのかなぁ、などと感じてしまう。

 全作品通して感じたのは個々の人々の活躍・働きについては書かれているのだが、人類が集団として描かれているところがなかったので、宇宙人支配の背景についてはわかりにくく感じられた。まぁ、そういうことに焦点を当てたかったわけではないのだろうからこれは意図的なものなのかもしれない。しかし個々の戦術めいたような記述ばかりが目立ったので、もう少し“集団”的な要素も加えてくれたらというのが要望である。

 さて、次の巻にて完結するはずであるが人類はいったいどこにいきつくのだろうか?


真空ダイヤグラム  ジーリー・クロニクル【2】   Vacuum Diagrams;The Xeelee Chronicle U: (Stephen Baxter)

1997年 出版
2003年01月 早川書房 ハヤカワ文庫SF

<内容>
 宇宙進出から1万年の歳月が経過し、異星種族スクウィーム、クワックスによる支配をも克服した人類は、ついに超種属ジーリーに次ぐ地位を獲得するに至った。しかし、彼らはまだ知らなかった。時空の開璧闢以来、数百億年をかけてジーリーが遂行してきた計画の存在を。その目的が、間近に迫った宇宙の終末とともに成就されることを・・・・・・

<感想>
“ジーリー”に追いつこうとした人類が到達したところとは・・・・・・
 まぁ、本当に行き着くところまで行ってしまったという感があるのだが、それが飛び出しすぎたとも感じてしまう。著者としてはこれが“見せたかった世界”であるのかもしれないが、読んでる側からするとはぐらかされたようにも感じられる。そんなわけで、私にはこの物語から最終的な到達点というものを自分なりにうまく見出すことができなかった。

 それぞれの短編において、人類が個々にあがき突き進みながら自分たちの道を開いていくというのが当初からの主旨であったのではないかと思う。しかしそれが、最終的には導き手の存在によって異なるところへと昇華していくというようになってしまっている。そこにもまた全編を通しての主旨の違いを感じてしまい違和感を拭い去ることができなかった。

 ただ、それでも個々の短編から考えさせられることは多々あった。人類がこうも見果てぬ夢を追い求めあがくのも、他の知的生命体に比べて寿命が短いからなのかということを考えた。それがとくに短編のひとつの「ゲーデルのヒマワリ」から顕著に感じさせられた。これは決して人間には考えられない生き方でありながらも、その生き方(というより生存方法というべきか)に魅せられるものがある。

 少なくとも本書ではそういった宇宙の“海”に存在する人類を通しての他の生命体を見事に描ききっているということは間違いない。


第六ポンプ   Pump Six other Stories (Paolo Bacigalupi)

2008年 出版
2012年02月 早川書房 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ5002

<内容>
 「ポケットのなかの法」
 「フルーテッド・ガールズ」
 「砂と灰の人々」
 「パショ」
 「カロリーマン」
 「タマリスク・ハンター」
 「ポップ隊」
 「イエローカードマン」
 「やわらかく」
 「第六ポンプ」

<感想>
 この著者は昨年日本でも翻訳された「ねじまき少女」で有名になったのだが、その作品を持っているにもかかわらず今だ未読で、先にこの「第六ポンプ」から読むこととなった。でもこちらのほうが短編集ゆえに、パオロ・バチガルピの世界に触れるには最適の作品と言えるかもしれない。

 著者はアメリカ人のはずなのに、何故か作品はアジアンテイストが感じられる世界観。あとがきを見ると、どうやら大学で東アジア学を専攻し、その後中国にわたり企業のコンサルトなどをしていたよう。それゆえに、この作風ということか。作品のどれもが近未来を描いているようなのに、アジア調でレトロな雰囲気が広がっている。それぞれの短編は全くつながりはないはずなのだが、まるで同じ地図上の上で繰り広げられる物語のようでもある。

 「ポケットのなかの法」では、タイトルに秘められたひとつのアイディアと少年の奔走劇に魅入られてしまう。
 「フルーテッド・ガールズ」は歪んだアイドル感のようなものとエロスをうまくさらけ出したような作品。
 「砂と灰の人々」はまるでゲーム感覚の作品のようでありながら、ラストでうまく虚無感を表している。
 「パショ」は閉鎖された村の因習と、外に出て世界を学んできたひとりの青年の葛藤が描かれている。
 「カロリーマン」は“ねじまき少女”の最初の世界設定が描かれた作品とのこと。
 「タマリスク・ハンター」は“水”の権利に悩まされる人々の生活が描かれた作品。
 「ポップ隊」は人口統制と間引きの様子を生々しく描いた近未来SF。
 「イエローカードマン」はSFというよりも、まるで現実のアジア世界を描いたような錯覚を受ける内容。
 「やわらかく」は打って変わって幻想ミステリ調。
 「第六ポンプ」は素人がポンプを直そうと奔走する機械SF系作品。

 読んでみると、作品のどれもが味があり、しかも一癖二癖ある内容に仕上げられている。過剰なSF描写はないので、SF初心者にも十分に楽しめるのではないだろうか。なんとなく読みやすいアジア文学作品を堪能できたという感じであった。


ねじまき少女   The Windup Girl (Paolo Bacigalupi)

2009年 出版
2011年05月 早川書房 ハヤカワ文庫(上下)

<内容>
 石油資源が枯渇し、エネルギーが新型ゼンマイによってまなかわれるようになった近未来。そこでは、遺伝子操作による疫病が蔓延したため、一部のバイオ企業が世界経済を握るようになっていた。そんななか、バンコクの工場を経営するアンダースン・レイクは“ねじまき”と呼ばれる少女型アンドロイドのエミコと出会う。エミコはかつては日本企業が所有していたのだが、バンコクにおきざりにされてしまったのであった。彼女は現在の境遇をよく思っていなく、新人類の都へ旅立つことを夢見ていたのだが・・・・・・

<感想>
 アジアを中心とした近未来の造形はよくできている。その世界設計は、現状の世界に近いものでありながら、明らかに異なるものであり、まるでパラレルワールドのようでさえある。しかし、世界設定はよいのだが、肝心な物語が微妙のようで・・・・・・

 なんとなく、物語自体は普通の新興国におけるクーデターを描いているのと変わらないような状況。あまりSF的という感じがしなかった。また、“ねじまき少女”という存在も後半になってようやく存在感をましつつあったのだが、ラストでは尻つぼみになってしまったような感じ。後半、ねじまき少女同士の戦闘というのを期待していたのだが、それもなくすんなりと内戦が終結してしまう。

 個人的には先に読んだ「第六ポンプ」のほうが楽しめたような。ただ、「第六ポンプ」の各短編と、本書は設定が似通ったものが多く、相互に比較すると面白そう。この「ねじまき少女」は、あまり楽しめたという気がしなかったのだが、まだ世界設定に慣れていなかったせいなのだろうか。内容を理解しつつ、もう一度熟読すれば見方が変わるかもしれない。とはいえ、やはり物語自体は地味というような気がどうしてもしてしまう。


シップブレイカー   Ship Breaker (Paolo Bacigalupi)

2010年 出版
2012年08月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 地球温暖化により気候変動が深刻化した近未来のアメリカ。ネイラー少年は廃船から貴重な金属などを回収する仕事“シップブレイカー”を生業として日々細々と生きていた。あるとき、大型ハリケーンが彼らの居住地を襲った翌日、めったに目にすることのない高速船が打ち上げられているのをネイラー少年は見つける。一足先に貴重品を回収しようと船の中を探索すると、そこで唯一の生存者である少女と出会い・・・・・・

<感想>
 長らく積読としてきたSF作品。「ねじまき少女」という作品で有名になったパオロ・バチガルピの第二長編。

 読んで感じたのは、非常に読みやすい作品であるという事。SFの書籍を見ると、どうしても最初に取っ付きにくさを感じてしまうのだが、この作品は読み始めると、あれよあれよという間に一気読みすることができた。その分、ハードSFというような内容ではなく、むしろSFというよりも冒険小説として読めるような内容。近未来を舞台とした小説でありつつも、あまりSF的なものは感じられなかった。

 壊れた船舶から部品などを取り出すというシップブレイカーというものを生業とした少年の物語。シップブレイカーというと何やら響きがよいが、要は廃品回収作業であり、決して実入りの良い仕事ではない。ただ、海沿いの小さなコミュニティで暮らす少年は、それ以外に働き場もなく、しかたなくやっているという状況。さらには、その仕事ですらも今後続けてゆけるかが微妙という立場に追いやられつつある。

 そうしたときに、高価な廃船を見つけ、そのなかに生存者の少女を見つけたことから少年の冒険が始まってゆく。やがてはその少女を巡る争奪戦に巻き込まれ、しかも少年は自分の父親に立ち向かわなければならなくなる。

 と、そんなストーリーであるが、面白いと思いつつも、本当の見たいのはその先の話なんだけどなぁ、と。少年がやがて旅立つ日が来るものの、自分のコミュニティから出ていった割には、そこもあまり変わり映えしないところであり、最終的にはふりだしに戻ってしまったような・・・・・・。面白い話でありつつも、やや消化不良に終わってしまうところが残念。主人公にはもっと外の世界を感じ取れるような場所へと旅立ってもらいたかった。


ヨーロッパ・イン・オータム   Europe in Autumn (Dave Hutchinson)

2014年 出版
2022年07月 竹書房 竹書房文庫

<内容>
 舞台は近未来のヨーロッパ。ポーランドのレストランでシェフとして働くルディは、エストニア人であり、各国を渡り歩いていたという経歴をかわれ、謎の組織にスカウトされる。そんなルディが行う仕事は“運び屋”。ただし、彼自身が何を運んでいるのかはわからないまま、仕事をこなしていく。そうして、仕事をこなしていくうちに、彼自身でさえも理解できないような厄介ごとに巻き込まれ窮地に陥る羽目となる。ルディはいったい、何に関わっていて、何故命を狙われることとなったのか? やがてルディは組織の秘密を紐解いてゆくこととなり・・・・・・

<感想>
 本書は「SFが読みたい!」でランキングに掲載されていたのを見て気になり、読んでみた作品。独特の味わいのある小説となっている。

 この作品を読んでいるときは、これってSF小説ではなく、純然たるスパイ小説ではないだろうかと疑問に思えた。物語を追っていくと、若干現代社会と異なるところがあるような気がして、ひょっとすると近未来の世界を描いたものかなと漠然と感じられる。とはいえ、技術的にそこまで発展している世界とも感じられず、現代社会を描いた作品と言っても十分に通じる程度。

 そうした世界のなかで、レストランのコックがその国籍や経験を買われ、謎の組織にスカウトされスパイ行為を行ってゆくこととなる。ただ、そのスパイ行為についてだが、主人公はその中味についてよくわからないまま運び屋をしているというだけで、はっきり言って全体像が見えてくるようなものではない。スパイというよりも、お使い行為を行っているだけとも捉えられるようなもの。

 そうしたなか、物語が進んでゆくうちに、というか後半くらいになってからやっと、主人公らが生きる世界の構造と問題が徐々に明らかになり、本書が実はSF作品だということが理解できるようになってくる。と言いつつも、作中で細かいことが色々と描かれるわけではなく、漠然とした世界をなんとなく捉えるというような感覚のまま話が終わってしまったという感触。

 結局詳しい事は、あとがきを読んで、ようやく理解できたという感じ。何気にこの作品はあとがきを読んでから、物語に取り掛かったほうが理解しやすいとも思える内容。本書はシリーズ作品となっているようで、本国では既に続編が出ているもよう。今後続編が出るのか、出たとしてもそれを買うのかもわからないが、続きを読むのであれば、本書をじっくりと再読してからがよさそうな気もする。


フェッセンデンの宇宙   Fessenden's Worlds (Edmond Hamilton)

2004年04月 河出書房新社 <奇想コレクション>(日本独自編集)

<内容>
 「フェッセンデンの宇宙」
 「風の子供」
 「向こうはどんなところだい?」
 「帰ってきた男」
 「凶運の彗星」
 「追放者」
 「翼を持つ男」
 「太陽の炎」
 「夢見る者の世界」

<感想>
 全体的な感想はというと、SFとしての空想が広がる中でネガディブな方向へと繰り広げられる作品が多かったように感じられた。作品としてはどれもすばらしく、それぞれがSF的な創造へと広げられているものの、はっとするところで現実へと引き戻されるような感覚を味合わされる。なかなか味わい深い作品集であった。

「フェッセンデンの宇宙」
 小さな短編の中に大きな世界が広がっている作品である。人間がモルモットなどを使用して、幾多の実験を行っているように、この地球自体が一つの実験農場であるかもしれないという作品。考え深い作品といえるが、考え込まないほうがよいような内容とも思える。これは全て一抹の夢だということにしたほうが、幸せに過ごせることであろう。

「風の子供」
 ファンタジー的な作品。“風の谷”という舞台設定と“風”自体に意思を持たせる設定がなかなか良い。宇宙へ飛び出すまでもなく、未知の生物は地球上に多く存在するということか。
 ラストの主人公の悩みは、ある種結婚後の男性が誰でも悩みそうな事柄でもあり風刺的にもとらえることができる。

「向こうはどんなところだい?」
 SF作品を読んでいるというよりはベトナム帰還兵の物語を読んでいるように感じられる。この作品が書かれたころの年代がどのあたりかはよくわからないのだが、案外反戦思想が描かれている作品であるのかもしれない。

「帰ってきた男」
 これは何ともいえず悲しい話である。日本の作品で言えば江戸川乱歩の「白髪鬼」に相当する。とはいえ、こちらの話はあまりにも現実過ぎてなんともいえないやるせなさがつのる作品となっている。

「凶運の彗星」
 テレビなどで「私は富士山の噴火を止めた」とか言う人がたまに登場することがあるが、私は宇宙人の侵略を阻んだと言って信用してくれる人はいるだろうか? 本人達のみの冒険譚といったところか。

「追放者」
 これは著者がSF作品を書き続けているときにふと考え付いた疑問を小説にしたものであろう。ショート・ショートSFの逸品。

「翼を持つ男」
 これは「風の子供」に似たところのあるストーリーといえるであろう。本編では主人公自身が異端のものとなり物語が進められる。なんといっても主題は“本能”といったところか。両立というものはなく、地上に生きるものは地上に生きるがゆえの本能があり、空を生きるものには空を飛ぶための本能があるのだということを感じさせられる。

「太陽の炎」
 エベレストの初登頂は誰か? とか、北極最北端にたどり着いたのは誰が先か? などといった話があるが、それを宇宙レベルで描いた話である。しかし、“初”にこだわりすぎるのは当初の目的を見失うことになるような気がするのだが・・・・・・

「夢見る者の世界」
 この作品は「追放者」で著者が思いついた疑問を“夢”で二つの世界をつなぐことにより実現した作品といえるだろう。あくまでも両方の世界に生きるということではなく、片方どちらかが虚構であるということにこだわるところがSF作家らしきところか。


反対進化   Devolution and Other Stories (Edomond Hamilton)

2005年03月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「アンタレスの星のもとに」
 「呪われた銀河」
 「ウリオスの復讐」
 「反対進化」
 「失われた火星の秘宝」
 「審判の日」
 「超ウラン元素」
 「異境の大地」
 「審判のあとで」
 「プロ」

<感想>
 今年初頭に出た作品であるのだが、長らく積読のままにしてしまっていた。それが今月またハミルトンの短編集が出るという事なので慌てて読むことに。

 最近、キャプテン・フューチャー・シリーズを読んでいるせいか、どうしてもハミルトンの作品に対しては、そういうスペース・オペラ系のイメージを持って読んでしまう。実際に、今回の短編の中にも「アンタレスの星のもとに」や「失われた火星の秘宝」のようにがちがちの冒険モノが描かれた作品も含まれている。

 しかし、今回の作品集ではその他、色々なハミルトンの作品の様相を見ることができるようになっている。

 冒険モノではあるものの、意外な展開を見せる「ウリオスの復讐」(しかし、これは中盤が長すぎたように思えた)。「呪われた銀河」や「反対進化」はハードSFに相応しい出来栄え。さらに「超ウラン元素」はハードSFと冒険モノがうまく融合した作品となっている。

 そして、「猿の惑星」を思わせるような「審判の日」、植物系SF「異境の大地」、地球の終末を描いた「審判のあとで」、作家と言う立場を通して宇宙飛行士となった息子への思いを綴る「プロ」とさまざまな物語がつむがれている。

 私的にはハードSF系とはいえ、読みやすく面白かった「呪われた銀河」と「反対進化」がベストであった。

 一冊や二冊の短編集や単一のシリーズだけではなかなかハミルトンの良さはわからない。これからまだまだ未訳の作品が訳される事のなるだろうから、引き続きこらからも追って行きたいと思っている。


眠れる人の島   The Isle of the Sleeper and Other Stories (Edomond Hamilton)

2005年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「蛇の女神」
 「眠れる人の島」
 「神々の黄昏」
 「邪眼の家」
 「生命の湖」

<感想>
 ハミルトンという作家はガチガチのSF作家であると思っていたのだが、なんとデビュー作は怪奇幻想小説であったとのこと。その後もそういった小説を書き続け、さらに作家としての幅を広げるためにSF作品も書きだしたとのこと。ようするに、色々なジャンルの作品を書き上げていたようだ。

 ここに掲載されているのは、そうした幻想怪奇作品のなかから傑作5編を精選したとのこと。怪奇小説、冒険小説、B級パルプフィクション風と、それぞれ味のある内容を楽しむことができるようになっている。

「蛇の女神」は考古学者たちが新たに発見された遺跡の探索を進めていく物語。彼らは夢のなかで女神と出会い、夢と現実の狭間で徐々に魅了されていく。ひねりがあるというようなものではなく、非常にシンプルな作品であるのだが、この作品でハミルトンの怪奇的な世界へと徐々に足を踏み入れていくような雰囲気にさせてくれる。

「眠れる人の島」は、船が座礁した後に、とある島にたどり着いた男が遭遇する奇譚を描いたもの。現実と非現実の狭間と狂気が見事に描かれ、最後のオチがうまく決まっている作品。ハミルトンの幻想的な雰囲気にどっぷりとつかることができる。

「神々の黄昏」は、記憶喪失の男が次第に自分の真実を知ることとなる話なのだが、なんと男は神話の神のひとりであったというものとんでもない物語。始まりは普通の悩める人であったはずなのだが、とてつもない方向へと物語は走り始める。そうして、神のひとりとなり、陰謀の真っただ中へと踏み込んでいくのであるが・・・・・・かりに本当に経験した話だとしても、誰も信じてくれそうにもない話。

「邪眼の家」は吸血鬼退治風、もしくはエクソシスト風の話になっており楽しめる。邪眼を持つという人物とジョン・デール博士との闘いが描かれている。レトロな雰囲気がでていて非常に良い。日本の作品では決して描かれないような味わいがある。

「生命の湖」はハミルトンらしい冒険譚。無法者荒くれ者ら冒険者たちが、不死の水を探索するという内容。現実世界から、ファンタジーの世界へと流れ込み、冒険者たちが西部劇の活劇のような戦いを繰り広げる。主人公一団の友情も描かれているのだが、もうちょっとそれぞれの個性を出してもらいたかったところ。しかし、これぞB級アクション活劇だという雰囲気は存分に発揮されている。


時間都市   Billenium and Other Stories (J. G. Ballard)

1962年 出版
1969年05月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 「至福一兆」
 「狂気の人たち」
 「アトリエ五号、星地区」
 「静かな暗殺者」
 「大建設」
 「最後の秒読み」
 「モビル」
 「時間都市」
 「プリマ・ベラドンナ」
 「時間の庭」

<感想>
 バラードの短編集。“バラードの”と言いつつも、この有名作家の作品は、ほぼ読んでいないに等しい。この作品を読んでみると、社会派SF的な匂いを感じられた。

「至福一兆」「大建設」は、人口増加と土地の狭小化について言及したような作品。特に「至福一兆」は、日本の住宅事情にも当てはめることができ、身につまされるような内容。

「狂気の人たち」は、もしも精神分析医が医療活動をできなくなったら、という社会を描いた作品。あまり共感できる内容ではないが、その当時の海外の様子を風刺しているように感じられる。

「時間都市」は、ファンタジー小説「モモ」の逆バージョンのような内容。時間にとらわれまいという社会に対して、時間にとらわれ続ける男の様子を描いている。

「最後の秒読み」は、読んでびっくり! 漫画「デスノート」と同じようなアイディアで描かれた内容。小説らしい結末の描き方は、なぜかホラー調。

「モビル」はモダンホラーのような作調。成長し続けるオブジェの様子を描いた作品。

「静かな暗殺者」は、とある暗殺者の行動を描いた作品。最後の最後でSF作品へと見事に昇華する。

「アトリエ五号、星地区」「プリマ・ベラドンナ」は、それぞれ作風は異なるものの、どちらも奇妙な女との出会いを描いた作品となっている。

「時間の庭」は、時に取り残されたような城の一場面が描かれている。

 社会問題を扱ったような内容の作品が多くみられ、一風変わった作品(社会派SF?)ともとることができ、面白かった。50年以上も前に書かれた作品であるのに、今読んでもあまり違和感がないところはすごい。他にもどのような作品を描いているのか、これは是非とも色々と読んでみたいと思っている(実際に、家に積読がまだ何冊かある)。


永遠へのパスポート   Passport to Eternity (J. G. Ballard)

1963年 出版
1970年07月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 「九十九階の男」
 「アルファ・ケンタウリへの十三人」
 「12インチLP」
 「監視塔」
 「地球帰還の問題」
 「逃がしどめ」
 「ステラヴィスタの千の夢」
 「砂の檻」
 「永遠へのパスポート」

<感想>
 バラードの短編集。SF作品集となっているのだが、そのどれもが未知の世界や近未来のテクノロジーを描きつつも、どこか身近なものと感じてしまう。ゆえに、荒唐無稽な世界ではなく、ひょっとして現実にありえるのではないか、という感触を得られるところが特徴と言えよう。

「九十九階の男」は、心理サスペンスにような内容。九十九階へ上がれない男の真相と隠された陰謀を描く。
「アルファ・ケンタウリへの十三人」は、コロニーのような世界で生きる者たちとその真実を描いている。
「12インチLP」 レコードに記録されたものとは!? これもサスペンスミステリみたいな内容。
「監視塔」は、監視世界を描いた内容のようで、ひとりの男の病理世界を描いたような。
「地球帰還の問題」 タイトルから想像するようなものではなく、地球上で宇宙から帰還した者を探すという内容。
「逃がしどめ」 数分の世界を何度も繰り返す男の恐慌を描く。
「ステラヴィスタの千の夢」 記憶を持つ家に住むという奇妙な世界を描いた内容。
「砂の檻」 見捨てられた地域に住む者たちの物語。
「永遠へのパスポート」 休暇旅行はどこに行こうか?

 「アルファ・ケンタウリ〜」と「地球帰還の問題」が印象的。どちらも宇宙的な話であるのだが、話の展開が全く異なる。コロニーに住みながら未知の世界に向かうものと、宇宙からの帰還者を原住民が住む地域で探すものと、それぞれに特徴がある。

 また、「砂の檻」もちょとした話のようで、実は壮大な物語が陰に潜んでいる。火星開発計画の残照と残骸が描かれている。

 表題の「永遠へのパスポート」は、この作品集のなかでは例外的な物語。どこか冗談のような話であり、笑えてしまう作品。


狂風世界   The Wind from Nowhere (J. G. Ballard)

1962年 出版
1970年09月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 地球が未曽有の危機に襲われることに。風が徐々に強くなり始め、その勢いは衰えることなく吹き続ける。最初は交通に支障を来すくらいであったが、徐々に建物が強風により崩壊し始め、人類はなすすべもなく・・・・・・

<感想>
 2010年の創元文庫、復刊フェアにて購入。人類が強風に翻弄されるパニック小説。発想はすごいのだが、物語としては破綻しすぎのような。

 一応、きちんとした登場人物を設定し、物語を構築しようとしているものの、ただただ圧倒的な強風に翻弄されるばかりで、意味のある行動が全くとられていない。確かに、このような状況では、もはやどうにもならないということはわかるのだが、もう少し何らかの目的を持って行動してもらいたかったところ。結局、人間などは自然の力に対してはただただ翻弄されるのみ、ということを描きたかったということなのであろうか。

 昔だったら空想と言うことで済んでいた内容であるかもしれないが、今の異常気象に翻弄される世界の様子を見ると決して笑い事では済まされない作品のように思えてしまう。


太陽の帝国   Empire of the Sun (J. G. Ballard)

1984年 出版
1987年09月 国書刊行会 単行本
2019年07月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 1941年、第二次世界大戦の波が押し寄せつつある上海。イギリス人の少年ジムは、両親と共に裕福な生活を送っていた。しかし、戦争が始まり、日本軍が上海に攻め込んできたことにより状況は一変する。両親と離れ離れになってしまったジムは、荒廃した上海でひとり生き延び続ける。やがてジムは日本軍の収容所へと送られ、そこで過酷な生活を過ごすこととなり・・・・・・

<感想>
 昔、ハードカバーで購入した作品であり、懐かしくなって文庫版で購入した。たぶん、映画化されたときに、本屋の店頭に並び、それで購入したのだと記憶している。当時の、少年が飛行機のプロペラに手を伸ばしている表紙が印象的であったことを覚えている。ただ、その時に読んだ記憶はあまりなく、当時は難しくて流し読みしてしまっていたかもしれない。

 改めて読んでみると凄い作品であることがわかる。これは、実際にその目で見た人でなければ書き表すことができない作品であろう。バラードはSF作家であるが、この作品はSF的な要素はなく、ノン・フィクションに近いような小説。実際にバラードの自伝的小説と言われており、ある程度の脚色はあると思われるが、基本的にはその目で見て、体験した世界を描いたのだろうと感じられる。

 上海に日本軍が攻め込んだときとか、その後の退廃した様子がまざまざと描かれているのだが、その描写がとにかく凄い。また、その後の人がいなくなった町の様子や退廃的な収容所の様子とかが見事といってよいほどなリアリティを持って描かれている。

 さらには、主人公の少年の描写もよい。決して冷静でもなく、パニックに陥るでもなく、やや躁気味にちょっとおかしな行動をとりながら強く生きのびようとする姿に目を惹きつけられてしまう。

 SF系のレーベルから世に出ているせいで、戦争小説という認識がない人のほうが多そうであるが、戦争小説に興味がある人は決して読み逃すべきでない作品である。戦争に巻き込まれた人々の過酷な生活を見事なくらいリアリティに、残酷に描き上げた作品。


メトロポリス   Metropolis (Thea von Harbou)

1926年 出版
1988年12月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 巨大都市メトロポリス。その都市に君臨するヨー・フレーデルセンとその息子フレーダー。ある日、フレーダーは都市のあり方に疑問を抱く。そして、支配者である父親に反抗し、家を飛び出すことに。このフレーダーの行動がきっかけで、メトロポリスに大きな災いが起きることとなり・・・・・・

<感想>
 2005年の復刊フェアにて刊行され購入。かつての名作という事なのであるが、実は小説が名作というわけではなく、映画化された作品がSF史に残る名画というもの。

 内容は神話の一端を見ているような感じ。巨大な権力を持つ父親と、父のもとから離れようとする息子。さらには巨大都市メトロポリスの裕福な層と貧民層それぞれで悩める者達。それらが行動しつつ、やがて巨大都市が崩壊を遂げていくというもの。ただ、事細かな部分ははぶかれ、唐突にどんどんと物語が進行していくというものであり、内容自体に惹かれる部分は少ない。

 本書は映画化されたということもあり、この復刊本ではその映画シーンの数場面が挿入されている。それもあってか、本書に対しては物語というよりも“絵”というイメージが強く、それぞれの場面を“絵”として想像すると壮大な未来都市と混沌というものを思い描くことができる。そして、それら想像を実際に映像化したのが“メトロポリス”という映画ということなのだろう。

 あとがきによると“メトロポリス”という映画については、酷評されたという一面もあるらしい。では、何がすごかったかというと、当時の最新技術と大量の資金を投入して、見事に映像でメトロポリスという世界を描き切ったことにあるという。ゆえに、映像でなければ伝わりにくい作品なのかもしれない。もしくは、その映像を頭の中で思い浮かべて楽しむべきSF作品と言えるのであろう。


時の地図   El mapa del tiempo (Felix J. Palma)

2008年 出版
2010年10月 早川書房 ハヤカワ文庫NV(上下)

<内容>
 アンドリュー・ハリントンは自らの命を断とうとしていた。彼は裕福な家庭の息子であったが、娼婦メアリーに恋をし、その女と結婚しようとしていたのだ。しかし、メアリーは当時ロンドンを騒がせていた切り裂きジャックの手により殺害されてしまう。失意にくれるアンドリューは、8年間鬱々と過ごしてきたが、とうとう生きる気力を無くしてしまったのだ。そんな彼を見かねた親友のチャールズは、アンドリューにとんでもない話を持ちかける。なんと、タイムマシンで過去に戻りメアリーの命を助けるのだと・・・・・・

<感想>
 2010年に発売され、そこそこ話題になった作品。スペインの作家によるSFアドベンチャー小説。

 上巻を読んでいるときには、やけに前置きの長い作品だと感じてしまった。しかし、読み続けているうちに前置きとか、本題とかそういった流れの小説ではなく、いくつかのエピソードでつながれていく構成の小説だと気づかされる。

 切り裂きジャックやエレファントマンの生きている時代や、「タイム・マシン」などの有名作を描いた作家ウエルズが活躍していた時代、未来旅行ツアーを行う中での男女の恋愛模様と、予想だにしない展開が待ち受けることとなる。

 本書はSFとも冒険ものとも言える内容であるのだが、一番のポイントは奇想天外に展開されるストーリーを楽しむというもの。ゆえに、これを読む人は前もって内容を調べるようなことはせずに、先入観なしで読んでもらいたい。決して小難しいSF小説というようなものではないので、気軽に楽しんでもらいたい。若い世代から年配の人まで幅広くお薦めすることができる作品。こんなことを考える作家もいるんだなと、現実と奇抜が交差する世界をぜひとも堪能していただきたい。


宙の地図   El Mapa Del Cielo (Felix J. Palma)

2012年 出版
2012年11月 早川書房 ハヤカワ文庫NV(上下)

<内容>
「宇宙戦争」を出版したH・G・ウェルズであったが、そんな彼に新人作家のサーヴィスが一緒に続編を出版することを持ち掛けてくる。サーヴィスの話にうんざりするウェルズであったが、サーヴィスは秘密裏に捕らえられた火星人が保管されている場所があり、一緒に見に行くことを持ち掛けてくる。ウェルズはサーヴィスに連れられてゆき、そこで思いもよらないものを目の当たりにすることとなり・・・・・・
 1829年、地底への入り口を発見すべく南極へと船旅に出た探検隊は、南氷洋で氷の閉じ込められ進路を妨げられる。そんな折、奇妙な飛行物体が墜落するのを発見し、探検隊員たちは飛行物体の調査に向かう。その結果、彼らは恐ろしい怪物と遭遇することとなり・・・・・・

<感想>
「時の地図」の後に書かれた続編。「時の地図」を読んでいなくても、十分に本書を楽しむことができるものの、個人的には読んでおいたほうがより面白くなったのではないかとも思われた。私自身、「時の地図」を読んではいたものの、ほとんど内容を覚えていなかったので、読み直したいと思ってしまったくらい。

 本書のあらすじをざっとたどると、SF作家ウェルズが火星人が来たという痕跡が保管されている場所へ行くところから物語は始まってゆく。そして、その火星人らしきものの痕跡がどこで入手されたのか、それがかつての南極探検隊の冒険譚により語られてゆく。第2部では、ウェルズが小説「宇宙戦争」で描いたロンドンに飛行物体が着陸し、なかから火星人が出てくる様子を再現しようとする試みがなされることに。そして第3部では現実のものとなった火星人(?)による侵略に対し、人びとが抗う様子が描かれている。

 と、それだけ聞いても何が何だかわからなくなるような荒唐無稽な話。その荒唐無稽な展開がこれでもかと言わんばかりに続きつつ、鬼気迫る様子をサスペンス調で盛り上げながら話が進められてゆく。正直なところ、やや冗長と思えなくもないのだが、それでもここまで描き切ってしまえばむしろそれはそれで、というような気分にさせられてしまう。全体的にやや荒々しいSFという気がしてならないものの、それゆえか、小難しい現象などはなしに内容を明確に伝えており、わかりやすいSF作品として存分に楽しめるように仕立て上げられている。

 この作品、一部内容についてはっきりと読者には明かしていないこともあるようだが(特にクレイトン特別警察官の過去)、それらは3作目となる作品で描かれるらしい。その3作目は、この「宙の地図」が出版されてから8年経った今も出版されていないようだが、いつかお目見えされる日はくるのかな? 3作目が出たら読むかどうか、どうしようかと迷ってしまう。できることなら「時の地図」から一気にと行きたいところだが、それぞれが長い作品なので、それもちょっと難しそうな。


火星のプリンセス   A Princess of Mars (Edgar Rice Burroughs)

1917年 出版
2012年03月 東京創元社 創元SF文庫(新版)

<内容>
 叔父であるジョン・カーター大尉が亡くなり、遺品を整理していたところ、彼が生前に書いた草稿が残されていた。そこには、カーター大尉が体験したという信じられない物語がつづられていた。それは、彼が火星へと瞬時に移動し、火星人たちを相手にとてつもない冒険を繰り広げていたと・・・・・・

<感想>
 はじめて読むバローズ氏の作品。2012年の映画化を機に新版として復刊された「火星のプリンセス」。ジョン・カーター大尉が活躍するシリーズものの最初の作品という事。このバローズ氏の作品を読むのは実は初めてであるのだが、映画でも有名な「ターザン」の小説を書いた人だといえば、知らない人でも親近感を抱くことであろう。

 SFというよりは冒険もの。ターザンの原作者だけあって、コナンザグレートを思い起こす。いや、それよりもSF的な設定もあるゆえにスターウォーズのはしりといったほうが的確ではないだろうか。

 なんでジョン・カーターが火星へ行けたのかは、たいした問題ではなく、そこで起こした冒険劇に堪能してもらいたい内容。異形の火星人にとらえられたと思いきや、重力の低さからスーパーマン的活躍を見せ、その火星人達から一目置かれることに。そこに別の種族(人間に近い)の王女が捕らえられてきて、その王女のためにジョン・カーターが八面六臂の活躍を見せる。

 火星世界の細かい設定から、政治模様、異形の生物、さらには彼らとの友情まで、しっかりと描かれた冒険譚。ただ、これだけの内容にもかかわらず、作品自体のページ数は読むのにちょうどよい分量(300ページ弱)。ゆえに設定上、読み足りないと感じられるところもあるのだが、そこはシリーズのなかで補間してくれるのだろう。SF史上屈指といわれるスペースオペラ作品、その物語は100年近くたった今でも色あせていない。




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