SF ハ行−ホ 作家 作品別 内容・感想

星を継ぐもの   Inherit the Stars (James Patrick Hogan)

1977年 出版
1980年05月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 人類が宇宙へと進出し始め、各惑星の探査が行われるようになったころ、月面にて驚くべきものが発見される。それは宇宙服をまとった死体であったのだが、5万年以上も前のものだということが判明する。しかも、その死体は驚くほど人類に似通っていたのである。彼はいったいどこからやってきたというのか!?
 やがて、死体の解析や持ち物の文章の内容が解読されるにつれて次々と新事実が明らかになるのだが、それによってさまざまな矛盾が浮き彫りになる。さらに、木星の衛星ガニメデで地球人よりもはるかに大きな体を持つ者の宇宙船の残骸が発見され・・・・・・

<感想(再読)2011/01>
 ホーガンの「星を継ぐもの」から始まる一連のシリーズを読みとおしたいと思い、既読であったこの作品を改めて読みなおしてみた。大雑把な内容を覚えているどころか、かなり重要な事項も忘れていたので読みなおしてよかった。また、今更ながらだがSF作品として古典というほど古いものでないということを発見し、驚かされたりもした。

 大まかな内容は、月で見つかった5万年前の人類に酷似した死体の発見、ガニメデにて発見されたさらに昔の巨大宇宙船、そして月から見つかった数々の謎と矛盾を結び付けるものは何かということを考察してゆくこととなる。

 この作品の特徴はは登場人物が少なく、行動的な場面よりも考察などに費やすページの方が多いということ。にも関わらず、退屈せずに読みとおすことができるというのはすごいことであろう。ガチガチのハードSFという印象のわりには、意外と他では見られないスタイルのようにも思われる。なんといっても最初から最後まで興味をずっと惹きつけられてゆくいうところこそが本書の一番大きな特徴と言えよう。

 ただし、本書では謎の全てが解かれたというわけではない。ガニメデで発見された宇宙船に関することなど、まだまだ触れられていない事実もかなりある。それが次作以降から明らかになっていったり、新たな問題提起が生まれてくることとなるのだろう。この調子で、今年いっぱいかけて一気に4部作を読みとおしていきたいと思っている。

<感想(初読)>
 SFの世界を利用して、人類が何処からきたのかを仮定するという試みに挑戦した作品。もちろんフィクションであり、それは現実とは比べ様のないものなのだが、何か妙な説得力があるのも事実。しかし、このような内容のものはSFならではであり、それを見事に使いこなしている。

 ミステリーであれば、途中から前の出来事をあまりにも覆すようなことがらを起こすことはルール違反に感じる場合もあるし、またそれが次々と繰り返されるということはありえない。その点、この作品ではSFという舞台のルールを見事に利用しながら奇想天外な物語を描くことに成功している。SFというものに無限の可能性を見出すことができる一冊ではないだろうか。


ガニメデの優しい巨人   The Gentle Giants of Ganymede (James Patrick Hogan)

1978年 出版
1981年07月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 かつて存在したと考えられる惑星とそこから来たルナリアンの正体について解決がなされたなかで、今だに謎なのが木星の衛星ガニメデで発見された巨人たちが乗る巨大な宇宙船。ヴィクター・ハントらは、この宇宙船の謎について調べ始めていたのだが、するとそこへ生きた巨人たちが乗る宇宙船が突如現れる。彼らは、二千五百万年前に緊急事態によりワープをし、その余波により現代に現れることになったのだという。しかし、彼らの中では数十年しか時を経ていないのである。そんな過去からの巨人たちの出現により、宇宙の謎の一部が明かされることとなり・・・・・・

<感想>
 なんと2作目は“未知との遭遇”が描かれた内容になっている。しかも意外な形で巨人たちが遠い過去から現れることとなる。

 この“遭遇”のインパクトが大きいせいか、また異星人と遭遇すればそれにより発生する地球の状況を描くのは必須となるためか、謎ときの部分は前作に比べればやや薄まったようにも感じられる。と言いつつも、今まで提示された謎については、ほぼこの巻で決着がつけられることとなる。

 前作に続き、人間の起源、地球の秘密、地球人とルナリアンと巨人との関係における謎が提示され、それらのひとつひとつに解決がなされてゆく。そうして最終的に明かされる真相は驚愕のものとなる(とはいえ、ここまでくればだいたい結末を予想する人もいることだろう)。

 前作「星を継ぐもの」とこの作品の2冊に言えることは、とにかく“無駄がない”ということ。無駄がないゆえに、都合がよいとも思われるのだが、この場合はうまい具合にまとめているというのが一番適しているであろう。

 物語全体の終着点を著者が考え、そこへ至るまでにどういった謎を提示し、それらが解かれるためにどういった展開をしていけばという設計図を無駄なく作り上げた末にできた作品がこの2冊と言えよう。

 ここまで読むと、すでに物語に決着がついてしまったように思われるのだが、まだ続きは2冊ある。次の作品では巨人のほうにスポットが当てられているようなのだが、果たして今回の続きからどのように話が結び付いて行くのか、これもまた楽しみでならない。そうして、さらにはどのような謎が提示されることとなるのか、期待しながら読み進めていきたいと思っている。


巨人たちの星   Giants' Star (James Patrick Hogan)

1981年 出版
1983年05月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 ガニメデの巨人たちが乗る宇宙船を見送った後の地球。彼らが旅立った後、巨人らが住むと思われる遠い惑星から地球に通信が届く。巨人たちは2千5百万年前の災厄から生き延び、別の惑星へと移住していたのだ! しかし、その通信内容には、いくつかの矛盾点が見受けられた。半信半疑なものを感じつつ、ヴィクター・ハントら地球人は巨人たちとの接触を試みるのであるが・・・・・・

<感想>
 前作で、ひと通りの完結が見られたようにも感じられたのだが、著者の構想ではこのシリーズはまだまだ終わらないようである。今回はさらに複雑な異種族間のやりとりがなされることとなる。

 今作では、今までの作品とは違い、謀略物のような様相となっている。今までは学術小説という印象が強かったのだが、今作では冷戦を感じさせるような米国とソ連との対立や、巨人達の種族と、さらには別の者達との対立までが描かれるものとなっている。

 今回、この作品を読んでいて、リアリティには欠けるが、物語を通すうえではうまく描いている点がある。それは地球の対応について。本来、異星からの使者である巨人たちとやり取りを行う場合は、政府が対応し、こと細かい作業をすることとなるであろう。しかし、現実にそのようなことが行われれば、物語上間延びしてしまうこととなる。そこで、本書では地球政府とのやり取りではなく、ヴィクター・ハントを含めた数人とのやり取りを行うことによって、迅速な対応が見られることとなる。

 本来であれば、地球と宇宙の命運をかけるようなやり取りを個人で行ってよいのかどうかは微妙なところであろう。しかし、無為にページ数を長くするよりは、このようにリアリティだけを重視するのではなく、物語上の流れを重視するという試みも必要であると強く感じるところである。

 内容については、未読の人もいると思うので深くは触れることはできないが、ジュヴェレン人という新規の人種が登場することとなる。彼らと巨人+地球人とのやり取りがなされることとなるのだが、そのジュヴェレン人に関しては、なんとなくオマヌケな印象を抱いてしまう。しかし、ふと考えれば、目に見えるものではなく、不確定な情報のみに頼り、窮地に追い込まれる様を見ていると、現代社会において決して人ごとだとは思えないのである。


内なる宇宙   Entoverse (James Patrick Hogan)

1991年 出版
1997年08月 東京創元社 創元SF文庫(上下)

<内容>
 危うく大きな争乱になりかけたものの、地球人の活躍により巨人達の星々は平和を取り戻すことができた。その騒乱の元となった惑星ジェヴレン。巨人達が惑星を管理しようとするものの、惑星内での宗教活動による騒乱が一行に収まる気配がない。事態を収拾することができなくなりつつあり、巨人達は再び既知の地球人の手を借りて打開策を図ろうとするのであったが・・・・・・

<感想>
 これがシリーズ4部作となるのだが、残念ながら基本的にはこのシリーズは3部で終わっていたようである。要するに本書は後から考えた付け足しというような位置づけのようだ。現代SFというものは結局のところ最後はネットワークへと行きつくことになるのであろうか。本書はネットワークによる紛争が描かれた内容となっている。

 この作品が書かれた年代からすれば、ひょっとするとまだ珍しい作風であったのかもしれないが、書かれてから20年以上経った今の時代に読むとありきたりの作品としか感じられなかった。アイディアという観点からすると、最初の「星を継ぐもの」のほうが新しく感じられたような気がする。

 と、そんなわけでシリーズキャラクターが出続けてくれていたので、続編として楽しんで読むことはできたものの、巨人たちの活躍が見れなかったのは少々残念。また、内容がネットワーク万能という趣きがあり、一番良いネットワークシステムが最強というようにも感じられてしまうのもやや味気なかった。

 と、そんなわけで基本的にはこのシリーズは3部作で、この「内なる宇宙」は外伝という位置づけでどうでしょうか?


プロテウス・オペレーション   The Proteus Operation (James P. Hogan)

1985年 出版
1987年10月 早川書房 ハヤカワ文庫SF(上下)
2010年07月 早川書房 ハヤカワ文庫SF

<内容>
 第二次世界大戦によりドイツが勝利し、その後ナチスはヨーロッパのみならず、世界を支配することに。2025年、タイムマシンが発明され、それを利用して歴史を改変しようとする計画がひそかに進められることとなった。“プロテウス作戦”と称された作戦は、戦前に精鋭部隊を送り込み、連合軍を勝利に導こうとするものであり・・・・・・

<感想>
 歴史確変SFということなのであるが、色々な意味でわかりにくかったという感触。もう少し明快な形で展開されるのかと思いきや、設定についても複雑で、その後の道のりもまた、わかりづらいものとなっている。

 普通に未来から過去にやってきたというだけではなく、2025年から1970年代に至り、それから戦前に到達したという展開がややこしい。複数に未来と過去を結ぶ到達点があると、タイムパラドックスに関する問題がややこしくなり、結局それも最終的にはちゃんとした解決はなされていなかったような。

 また、最初は未来から来た人々が1940年代の歴史上の人物に働きかけ、徐々に連合国が有利な状況へと持っていこうとする。つまり史実をたどるような展開がなされるよう工作をしていくという流れで物語が進むと思いきや、途中からは何やらわからないアクション風の展開がなされてゆくこととなる。この辺の流れがどっちつかずという印象であり、ここは物語の流れを統一したほうがよかったようか気がした。

 そんなわけで歴史改変ものとしては、あまり納得しづらい作品であったかなと。全体的に見て、どこの部分に力を入れている作品なのかということがよくわからないまま終わってしまった。


揺籃の星   Cradle of Saturn (James P. Hogan)

1999年 出版
2004年07月 東京創元社 創元SF文庫(上下)

<内容>
 地球において宇宙開発が進む一方で、優秀な技術者たちは地球に見切りをつけ、遙か土星へと移住していった。その移住していった人々“クロニア人”が地球を訪れ、地球に対し警鐘を鳴らす。しかし、地球の代表者たちは、彼らの理論を受け入れず、保守的な考えを変えようとはしなかった。そうしたなか、先進的な考えを持つエンジニアであり、会社を代表するランデン・キーンは自ら原子力による新たな技術を提唱し、現在の停滞した地球の流れを変えようとするのであったが・・・・・・

<感想>
 発売当初に購入した本なので、20年近くの積読となっていた作品。ようやく着手し、読み切ることができた。

 地球における技術の停滞と、かつて地球から離れた人々とのコンタクトが描かれている。この作品、地球の技術が停滞した理由については、政治の停滞が主な原因として描かれていて、特に上巻はそこを主体として描いている。それゆえ、クロニア人とのコンタクトとかそういった重要そうな描写よりも、そのクロニア人との交渉が政治的な理由でなかなか進められないというもどかしい描写ばかりが描かれている。

 そんなわけで、あまり読んでいて楽しいと思うことのできない内容であったのだが、上巻の後半くらいから話が切り替わり、面白くなっていった。ただ、この核心の部分だが、思いっきり帯にそのネタが書かれていたり、内容説明の欄にまで書かれていたりして、もの凄いネタバレになっているように思えたのだが、どうなのだろう?

 そして下巻に入ると、上巻とは一変して、パニック小説のような状況をていしてゆくこととなる。主人公らの逃避行が続き、その後、物語は大きな変革を迎えるという風に・・・・・・

 実はこの作品、三部作の最初の第一部となる。ゆえに、今後さらなる変革について色々と描かれてゆくこととなる。ただ、2作目は書かれていて邦訳もされているものの、著者のホーガン氏が物語を完結させる前に亡くなってしまったので、未完のシリーズとなってしまっている。そんな形であるので、第2部を読むかどうか(未購入)は迷うところ。


断絶への航海   Voyage from Yesteryear (James P. Hogan)

1982年 出版
1984年11月 早川書房 ハヤカワ文庫SF
2005年02月 早川書房 ハヤカワ文庫SF(新装版)

<内容>
 地球から無人探査船を宇宙に向けて発進することが決められた。その宇宙船にはロボットと人類の遺伝情報を載せ、人が住める惑星を見つけたらロボットが人工的に人類を誕生させ、そこの住人として定住させるというプロジェクト。そして無人探査船は地球型惑星ケイロンを見つけ、そこでプロジェクトを展開していく。やがてそこに住む人々はケイロン人と名付けられる。無人探査船が惑星に到着してから40年後、地球から植民船メイフラワー二世がケイロンに到着する。そこで地球人らがみたものは・・・・・・

<感想>
 ずいぶんと長い間積読にしていたSF作品。ジェイムズ・P・ホーガンによるものであるが、変化球気味の異星人とのファーストコンタクトのようなものを描いた作品である。ただし、コンタクトをとるのは、異星人ではなく、ロボットによって遺伝子情報から育てられた人類となっているのである。

 本書のテーマというか、とにかく全体にわたって問われているのは、もし自分が異なる文化、異なる考え方に遭遇したときにどのような対応をとることができるかというもの。そしてこの問いが自分自身にもずっと問われ続けていたように思えて、非常に興味深く読めた作品であった。

 正直なところ、異世界とも言って良いケイロン人の文化というものが理解できなかったし、こんな世界が存在するわけはないと考えてしまった。しかし、その考えは自分自身の限界であり、その固まり切った思いこそが、著者から試されている問いかけのようであると考えこまされてしまった。

 大まかに言えば、地球人とは違った素晴らしいケイロン人の文化に触れることにより、大部分の地球人が考え方を変えていくというような展開。それに反抗して、地球的な慣習や考え方にすがりつきながら、力で抵抗しようとする地球人がまるで悪のように描かれている。ただ、その悪たる変わることを否定するような地球人を見ていると、自分もひょっとしたら、そちら側に留まりつけるのではないかとつい考えてしまうのである。

 そんな感じで作品の内容に触れつつも、このような世界を目の当たりにしたら自分がどのようにふるまうのかということばかりを考えさせられた作品であった。作中で色々なテクノロジーや、反乱の様子なども色々と描かれているものの、どこかずっと、その思考的な部分に捕らえられ続けながらの読書となっていった。


量子宇宙干渉機   Paths to Other Where (James P. Hogan)

1996年 出版
1998年10月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 世界が再び全面戦争の危機に直面した21世紀。物理学者ヒュー・ブレナーらのグループにより、量子コンピュータによって、他の並行世界に干渉することが実現可能となった。その研究に目を付けた国防総省により、ヒューら科学者は国の監視のもとで実験を行わざるを得ないこととなる。やがて科学者たちは、並行世界のなかで自分たちが夢みていたような世界を見出すことができ・・・・・・

<感想>
 2012年復刊フェアで購入した作品。分厚い本ゆえに敬遠気味にしていて、読みだすまでにだいぶ時間がかかってしまった。

 内容はパラレルワールドに干渉することができる機械を発明したというもの。ここでは“並行世界”と表されているので、本書が訳された当時はまだパラレルワールドという言葉自体が日本では使われていなかったのかもしれない。ハードSFゆえに難し目の内容であるのだが、話が進んでゆくと明確な目的が示されるようになり、そこからは読み進めやすくなっていった。

 本書には、ややこしいと思われる部分があり、それは並行世界に干渉できたからといって、何の役に立つのかということが分かりづらいところ。ある種、それぞれの世界における壮大なシミュレーションが行われていると考えれば、おのずとそのパターン情報を取り入れることができるとか、そんな利点を考えられるといったところなのだろうか。

 物語が進行していく中で、科学者たちが自分たちにとってのユートピアのような世界を並行世界に見出すこととなる。この作品の前に同じくホーガンの「断絶への航海」という作品を読んだのだが、そこに出てきた新世界と今作の並行世界の理想郷が似ているように思われた。ホーガンもしくは科学者たちの理想郷というものは、政府などの干渉なしに、自由に科学者たちが技術を研鑽し、その能力を発揮できるような場ということになるのだろうかと考えさせられた。

 物語は終盤、目的を遂げようとする科学者とそれを阻止しようとする政府側との対立として展開されてゆく。最終的にどのような地点に着地して終わるのだろうかとハラハラさせられながら、最後の最後まで内容に引き付けられながら読んでいくこととなる。ただ、読み終えて改めて考えてみると、政府側のほうとしては、結局何がやりたかったのかがよくわからないままであったように思えてしまう。挑戦的な試みがなされた作品という感じではあったが、結局並行世界そのものの扱い方が難しそうであったなと、やや煮え切らなさも残ってしまった。




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