レンズマン・シリーズ 感想

「銀河パトロール隊」 Galactic Patrol(1950)
2002年01月 東京創元社 創元SF文庫(改訂版)
「グレー・レンズマン」 Gray Lensman(1951)
2002年05月 東京創元社 創元SF文庫(改訂版)
「第二段階レンズマン」 Second Stage Lensman(1953)
2002年11月 東京創元社 創元SF文庫(改訂版)
「レンズの子供たち」 Children of the Lens(1954)
2003年03月 東京創元社 創元SF文庫(改訂版)
「ファースト・レンズマン」 First Lensman(1950)
2003年07月 東京創元社 創元SF文庫(改訂版)
「三惑星連合」 Triplanetary(1948)
2004年02月 東京創元社 創元SF文庫(改訂版)
「渦動破壊者」 The Vortex Blaster(Masters of the Vortex)(1960)
2004年05月 東京創元社 創元SF文庫(改訂版)

<感想>
 2002年1月から“レンズマン・シリーズ”の改訂版が発売されたのを機に購入して7冊目の「渦動破壊者」までようやく読了。以下にまとめて“レンズマン・シリーズ”としての感想を述べてゆきたい。

「銀河パトロール隊」
 まずは第1作であるが、この本を読んだときには、そのあまりの展開の速さに驚いてしまった。何しろこの1冊の中にどれほどのSFの要素が入っているのだろうと考えてしまいたくなるほどの高密度さであった。通常の作家であればこの本くらいのネタがあるなら10冊くらいの大長編にするのではないだろうか。これは確かに伝説なるべき本であると素直に納得。

 ただ、ひとつ不満をあげるとするならばシリーズ全編に出てくる“スクリーン”という存在。この“スクリーン”の強化というか多重さ加減というかが、シリーズの主たるものなのだがちょっとわかりにくく感じるところもあり、またあまりにも“スクリーン”という存在まかせでありすぎるのではないかとも感じられた。


「グレー・レンズマン」
「第二段階レンズマン」
 次は2作品まとめてであるが、この2作はだいたい同じような構成で物語が練られていると感じられた。主人公のキニスンが変装して敵地に潜入し、敵の秘密を暴き、新兵器で攻撃するというもの。そしてキニスン自身が物語の中で徐々にレベルアップしていく。

 という物語構成はいいと思うのだが、キニスン一人であまりにも何でもやりすぎだという点に不満が残る。なんといっても第1作で魅力的な登場人物が多数出てきているのだから共闘するなりなんなりして、その出番を増やしてもらいたかった。キニスン一人ゆえに、2巻と3巻がワンパターン化してしまったのではないかとも考えられる。

 また、キニスンが単独行動しているときと戦艦が隊列をなして攻撃する場面との技術的なギャップも気になった。


「レンズの子供たち」
 そしてこの巻にてシリーズの完結を迎えることになる。内容としてはキニスンの子供たちが登場し、彼等が主人公となり活躍する話なのだが、こういう話をもっとじっくりと味わいたかったと声を大にして言いたい。この内容を1巻にまとめてしまうのはなんとも残念なことではないだろうか。せっかく第1作で登場したもの達の見せ場も出てきたというのに。まぁ、この著者の物語を描くスピードにおいてはこれくらいは普通であるのかもしれないが。

 ただこの第4巻はもう敵との戦いというよりは“神様育成計画”とでもいうような内容となっている。勧善懲悪の物語であるから主人公が勝つのは当然なのだが、この本の中ではもうすでにその上を行ってしまっている。


「ファースト・レンズマン」
 ここから外伝にあたるのだが、厳密な“レンズマン・シリーズ”の外伝というとこれ1冊といってよいかもしれない。本書は正伝の主人公キニスンの祖先を描いた物語。

 で、内容はというと外伝にしては2作目3作目とあまり代わり映えしない内容であったと思われる。とかいいつつも、レンズマン同志のネットワークが一番良くできていたのではないかと思われる作品でもあった。たぶん著者はこういう物語をもっと書きたかったのだろうという意気込みが伝わってくる内容であった。

 実は外伝にして一番“シリーズ”らしい作品であるかもしれない。

(ちなみに出版されたのは1950年と早い年なのだが、書かれた順ではちゃんと「レンズの子供たち」の後となっている)


「三惑星連合」
 これは外伝というよりはサイドストーリーと言ったほうがよい作品。何しろシリーズ作品よりも先に違う形で発表されていたものを一つの本にまとめたものである。アリシア人の原型らしきものは出てくるが“レンズ”自体はでてこない。そしてなんと紀元前の地球の様子から描かれている。

 よってこれ単体にて評価するのは微妙な作品。シリーズ作品の中の資料の一つという位置付けにしたくなる作品。


「渦動破壊者」
 これはある意味外伝らしい外伝だと思える反面、わざわざ“レンズマン・シリーズ”に組み込む必要はなかったのではと思える作品。一応レンズマンは出てくるものの、主人公達はそのレンズとは関係ないところで活躍する。そしてシリーズに出てこなかった個性的な異種生物らが出てきて、それらが一つのチームを作り活躍する。って、それならば違うシリーズにすればいいじゃん! と言いたくなる本である。でも作品の面白さとしては、まぁまぁというくらい。



 ということで、2年以上の歳月をかけて読んできたのだがそれなりに面白く、読む価値は十分にあるSF本であると思う。なんといっても1作の「銀河パトロール隊」はお薦めの書である。コンプリートすることを考えないのであれば外伝まではお薦めしないが、5冊目の外伝「ファースト・レンズマン」までは読んでもいいのではないかと思う。

 ただ、上記でも述べているようにこのシリーズでおしまれるのは魅力的な登場人物や設定があまり生かされてないように思えること。ゆえに、作品が完結した後に他の作家によって外伝が書かれたということにもうなずけてしまう。

 何はともあれ、これこそがスペース・オペラの王道という作品であると言い切ってよい本であろう。SFをこれから読もうという人には最適のシリーズではないだろうか。全集を簡単に集めることができる今の時期にぜひともそろえておいてもらいたい本である。




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