SF サ行−ス 作家 作品別 内容・感想

老人と宇宙  Old Man's War (John Scalzi)

2005年 出版
2007年02月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 宇宙へ進出した人類、彼らは地球の外に構築したコロニーを守るための防衛軍を組織していた。ただし、入隊できるのは地球上で75歳を迎えた者のみ。それに志願したものは、二度と地球に戻ることができないことを約束し、宇宙へと旅立って行くこととなる。
 その防衛軍に志願したジョン・ペリー。彼は最愛の妻に先立たれ、人生に思い残すことも無くなった。ジョンは宇宙に出たことにより、若い新たな体を手に入れ、そして人類が宇宙で異星人達と激しい戦争を繰り広げていた事実を知ることとなり・・・・・・

<感想>
 内容も面白いのだが、なんといっても設定が魅力的な作品。老人たちが新しい体を手に入れ、軍隊の統率のもとで異星人たちと抗争を繰り広げるという物語。

 防衛軍に志願した老人たちが、全く未知であった防衛軍の全容を徐々に理解しつつ、新兵となって戦争へと向かっていくという道筋が一番の見どころ。まさにハインラインの「宇宙の戦士」の現代版といったところだが、本書にはそれとは違った魅力がある。

「宇宙の戦士」は新兵の成長物語であるが、本書の主人公は老人ゆえに、新兵の成長物語といってよいかは微妙。未知との異星人らと戦うための技術を手に入れるという意味では、ある種の成長を遂げていることは事実。ただ、この作品の焦点は新たに何かを手に入れるというよりも、老人が喪失したものを再び手に入れるということが重要のようにも思える。まさしく“再生”を描いた作品と呼ぶにふさわしい。

 この作品で不思議に思ったのが、人類が地球外で驚くほどの発展を遂げているところ。この技術が地球上にもたらされていないというのには、ちょっと不思議な感じが・・・・・・


アンドロイドの夢の羊  The Android's Dream (John Scalzi)

2006年 出版
2012年10月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 地球は宇宙に進出し、さまざまな種族からなる大銀河連邦に加盟し、各種族の外交使節を受け入れるようになった。そうしたなか、地球とニドゥ族の貿易交渉の席上でトラブルが発生する。ニドゥ族に恨みを持っていた外交官のひとりが、とんでもない方法で命をかけて復讐を果たしたのである。戦争にまで発展しかねない問題となったが、ニドゥ族のほうから、とある条件を持ち出してきた。それはニドゥ族の儀式で必要な、特殊なDNAを持つ“羊”を要求してきたのである。期日までにその羊を用意しようと地球政府は、元兵士のハリー・クリークに羊探しを命ずることに。クリークにとっては簡単な依頼かと思われたのだが、思わぬ妨害が入り、さらには、その羊というのが・・・・・・

<感想>
 冒頭から、特定の匂いにより侮辱を感じるという地球外の他種族に対し、地球の外交官が仕掛けるとんでもない復讐劇により、一気に惹きこまれてしまう。その行為が外交上の大きな事件となり、そこから羊探しの物語が始まってゆく。

「アンドロイドの夢の羊」というタイトルを聞くと、ディックの有名小説を思い起こしてしまうが、内容はほとんど関係ない。著者ジョン・スコルジー発の独特の物語が展開されてゆく。

 とにかく先の読めない小説。何が起きるのかが全く分からない。特定のDNAを持つ羊探しにいたるディテールもなんともいえないし、そこから羊探しが始まるものの、主人公が見出した羊の正体、羊を巡る謎の宗教団体、ネットワーク上に甦る主人公の元相棒、羊探しを命じた地球外種族との外交模様の遍歴と、とにかくどんどんと様相が移り変わり、主人公のみならず、登場人物全員が右往左往しながら物語が進んでゆく。

 非常に面白い内容であったが、惜しいと感じられるのは主人公の人物造形。最初は非常に有能なエージェントというような印象をもったのだが、だんだんと単なる元兵士という感じのみに収束していく。数多くの登場人物が出てくるのだが、そのひとりひとりに対するエピソードがきっちりと書かれ過ぎていて、主となる人物がいるにもかかわらず、群像小説のようになってしまったところが微妙なところか。

 ただ、予想だにしないSF活劇が見られるのは事実。ひとつだけの主題にこだわるのではなく、いろいろな要素をからめてひとつの物語としたエンターテイメント小説という感じであった。


レッドスーツ  Redshirts (John Scalzi)

2012年 出版
2014年02月 早川書房 新・ハヤカワSFシリーズ5013

<内容>
 銀河連邦の新任少尉アンドルー・ダールは、旗艦イントレピッド号に4人の新たな仲間と共に配属された。希望を胸に、新たな任務につくはずであったのだが、何故かおかしい艦内の様子。乗組員たちがどうもよそよそしいような? ダールらがいくつかの任務をこなしていくなか、イントレピッド号のクルーの死亡率がやたらと高いことに気づき始める。さらには、何人かの者はそうした任務をこなしながらも、必ず生き延びている。こうした不可解な事象は何を意味しているのか? ダールらは、自らの生存をかけて、イントレピッド号の謎を解き明かそうとするのだが・・・・・・

<感想>
「老人と宇宙」や「アンドロイドの夢の羊」にてSF界に名をはせ始めているジョン・スコルジーの最新作(読むのが遅くなったので、最新というほどでもないかも)。これが非常に読みやすいユーモアSF小説として仕上げられている。

 やたらと死亡率が高い宇宙船に乗り込んだ新任の乗組員たちが、自らの命をかけて、その謎を解き明かすというもの。この謎こそがこの作品の“キモ”となるので、それについてはここでは語らないようにしておく。ただ、そのイントレピッド号の謎がわかったときには、なんたるSF小説だと驚愕すること間違いなし。さらには、その問題を途方もない手段を使って解決しようとするところもまた圧巻なのである。

 最後の長いエピローグであるが、それが“いる”か“いらない”かは微妙なところか。感動的な挿話であることは間違いないのだが、SF小説としてはどうかなと思ってしまう。ひょっとすると、本書はSF小説にとどまらず、壮大なエンターテイメント小説ということを表しているのかもしれない。何にせよ誰もが楽しめる(より年配の人の方が楽しめる要素が多いかもしれない)小説であることは間違いない。


ロックイン 統合捜査  Lock In (John Scalzi)

2014年 出版
2016年02月 早川書房 新・ハヤカワSFシリーズ5025

<内容>
 全世界に疫病が蔓延し、多くの人々が亡くなった。少数の生き残った者たちは意識はあるものの、身体機能を消失した状態となり、それは“ロックイン”と呼ばれるようになった。その後の研究の成果により、スリープと呼ばれるロボットを使い行動できるようになったり、“統合者”と呼ばれる特殊な能力を持った人の体を借りて行動できるようになっていった。そうした世界で、とある殺人事件が起き・・・・・・

<感想>
 意識を他の人の体に移したり、ロボットに移したりして行動するという設定もすごいが、それらが疫病によって起きた出来事という発想がすごい。主人公は疫病にかかったものの生き延びることができ、家が資産家というメリットにより、高額なロボットをあやつり行動する。そんな彼はFBI捜査官となり、新人として配置されたところ、その“ロックイン”に関わる事件を捜査していくこととなる。

 内容に関しては、面白いとか云々よりも、主人公の捜査を通して、この物語の背景全体を説明しているという感じがした。ゆえに、読んでいくにつれて、この創造された世界がどのようなものかを段々と理解していけるようになっている。

 なんとなくこの作品自体が壮大なプロローグで、ここから本題となる話が始まっていけば面白いのではと感じられた。当然のことながら、この作品単体できちんとひとつの作品として成立しているものの、これだけでは喰い足りないという印象が残ってしまう。


不思議のひと触れ   A Touch of Strange (Theodore Sturgeon)

2003年12月 河出書房新社 <奇想コレクション>

<内容>
 「高額保険」
 「もうひとりのシーリア」
 「影よ、影よ、影の国」
 「裏庭の神様」
 「不思議のひと触れ」
 「ぶわん・ばっ!」
 「タンディの物語」
 「閉所愛好家」
 「雷と薔薇」
 「孤独の円盤」

<感想>
<奇想コレクション>の2作目であるのだが、前作のシモンズの作品集に続いて、このスタージョンの作品集もまた不思議な作品が集められたものとなっている。スタージョンの作品自体はまだこれが2作目なので、これがスタージョンの作品群の中でどのような位置づけにある作品なのかはわからないのだが、ストレートなSF作品とは異なっているものが集められているように感じられた。これらを象徴すべき言葉はタイトルにもなっている、まさに“不思議のひと触れ”という作品がちりばめられている。

「高額保険」
 著者の初の作品にして、ミステリー・ショートショート。ラストの予想だにせぬオチは強烈。

「もうひとりのシーリア」
 奇妙なSF的作品。日常の中にふと紛れ込んだエイリアン物とでもいえばよいのだろうか。不可思議な生物を通して人間の邪悪さを垣間見ているように感じられる。ちょっとした悪戯にしか感じられないところが、さらに邪悪さを強調しているように思える。

「影よ、影よ、影の国」
 幻想小説的なモダンホラー。SF作家が子供の精神的逃避を描くとこのような作品になってしまうという例のよう。

「裏庭の神様」
 人間同士の生活においても、または不可解な現象に遭遇したとしても、そこで決められるルールは守る必要があるということ。例え、それが独自なルールであったとしてもだ。これはそんな話(たぶん)。

「不思議のひと触れ」
 SF的というより、幻想的な話であるのだが、あえてそこで現実に踏みとどまるという変った作品。まさに“不思議のひと触れ”というにふさわしい作品。

「ぶわん・ばっ!」
 これまた打って変わって、一人の優秀なドラマーを通しての天才ドラマーの話。それは、あまりにも、あまりにも人間的な話である。

「タンディの物語」
 本書を読んでいて、この話でつまづいてしまい、一時期読むのを中断していた。なにやら、普通の家庭の状況とエイリアンとの無意識的な接触が行われているようなのだが、いかんせん分かりづらかった。最終的にはホラー作品のような様相となる。

「閉所愛好家」
 これを読んだとき「スター・ファイター」という映画になった作品を思い出した。自分自身に魅力を見出せなく、さらに自分の近くに魅力的な人物がいるという劣等感を持っているものが描く夢のようである。

「雷と薔薇」
 世界の終末が人間的に描かれている作品。あえて大局を見据えるにしても、人によってその見え方というのは異なるもの。行動すべきときは誰にも告げずに単独でということか(違うかな?)。

「孤独の円盤」
 孤独からの救いが描かれた作品なのであるが、その“孤独”が独特なものとなっている。これこそがSF作家らしい“孤独”の描き方といったところか。そしてラストでの救済の仕方も気が利いている。


ヴィーナス・プラスX   Venus Plus X (Theodore Sturgeon)

1960年 出版
2005年04月 国書刊行会 SF<未来の文学>シリーズ


<内容>
 チャーリー・ジョンズが目を覚ましたのは、彼が今まで暮らしていたところとはまるで違う世界。そこに住まうものたちは、ここは“レダム”という世界だという。ここは未来なのか? それとも異世界なのか?? 男でも女でもない者達が闊歩する世界でチャーリー・ジョンズが見出したものとは・・・・・・

<感想>
 物語は2つのパートに別れて並列に進行していく。レダムという不思議な世界にて過ごすことになるチャーリーの冒険と、アメリカの中年夫婦の生活が描かれたもの。このレダムという異空間での冒険のほうはかえってSFとしてわかりやすく、逆に普通の夫婦の生活が描かれたパートのほうはどういう意味があって挿入されていたかがわかりづらかった。最終的にはそのパートがレダムの世界とリンクしているというわけではなく、普通の夫婦の生活を通して見ることによって性に対する現状というものを描きたかったということなのではと理解した。とはいえ、やはり時代設定といい、お国柄の違いといい、その様相についてはあまりなじめるようなものではなかった。

 それよりもむしろSF作品として“レダム”を描いたパートのほうは面白く読むことができた。性別というものがないレダム人に囲まれて、その彼らの様子に対してチャーリーが感じ取るものをとても興味深く見ることができた。また、ただ単に綺譚的な話で終わらせずに最後にそれなりの結末をつけているところも良かったと感じられた。

 別に“レダム”だけを描いた作品でよかったと思うのだが・・・・・・まぁ、そうでないから<未来の文学>シリーズに選ばれたのだろうが。


輝く断片   Bright Segment (Theodore Sturgeon)

2005年06月 河出書房新社 <奇想コレクション>

<内容>
 「取り替え子」
 「ミドリザルとの情事」
 「旅する巌」
 「君微笑めば」
 「ニュースの時間です」
 「マエストロを殺せ」
 「ルウェリンの犯罪」
 「輝く断片」

<感想>
 これまた“SFコレクション”ならぬ“奇想コレクション”というだけあって、SF色の薄い作品ばかりが集まっている。本書だけを読んだ限りではスタージョンのことを誰もSF作家であるとは思わないであろう。というような、どちらかと言えば日常にあふれている情景から非現実へと飛び出すような不思議な物語ばかりが選ばれている。

 また、読んでいて感じた事であるが、後半の作品はなんとなくテーマが一致しているなと感じられたのだが、これは選者が意図的に選んだものであるらしい。似たようなテーマの作品である後半の物語をまず集め、それに付随するように前半の物語を選出したとのこと。

「取り替え子」
 これまた不思議なストーリー。不思議な“取り替え子”の子どもとの邂逅を描いた綺譚。心温まらないようで、その実心温まるストーリーという微妙なさじ加減でうまく描けていると思う。結局のところは、なかなか良い話でした、という事で。

「ミドリザルとの情事」
“ミドリザル”という何やら象徴的なものを前面に出してはいるが、現代的な夫婦生活の一端を風刺したような作品のようにも感じられる。ホラーのようでSFのようであり、SFのようでありながら実は日常を描いていたなどと、色々な形で汲み取る事のできる作品。

「旅する巌」
 作家とそのエージェントとの関係を描いた小説・・・・・・でありながらも本書の中では一番SF的な作品。今回の一番のお気に入りはこれ。良い人ヴァージョンで描かれたシグ・ワイズの作品と言うものをぜひとも読んでみたいものである。

「君微笑めば」「ニュースの時間です」「マエストロを殺せ」「ルウェリンの犯罪」「輝く断片」 そして同一のテーマで描かれていると感じられたのがこの5作品。私がこれらに感じたのは「アイデンティティの喪失」というもの。

 特に「ニュースの時間です」「ルウェリンの犯罪」では今まで築き上げてきた平穏な世界がちょっとした事で崩れ去るという世界をそれぞれ別の形で描いている。特に「ニュースの時間です」は展開が意外で、ラストの一行からはなんともいえない皮肉のようなものすら感じる事ができる。

「君微笑めば」はアイデンティティとは少々違うように思えるが、自分が信じていた世界が崩壊したときの様子というものを残酷に描いた作品。タイトルから感じ取れるやさしげな作品と言う思いが見事に裏切られる。
「マエストロを殺せ」は自らの手でアイデンティティを切り離すものの、結局はその呪縛から逃れられない男の人生を描いたもの。いや、逆に切り離してこそ、本来の自分のアイデンティティというものを垣間見る事ができたというべき作品なのかもしれない。

「輝く断片」は偶然の出来事により、自らアイデンティティを創りあげてゆきながらも、それに裏切られてしまうという作品。そして男は再びアイデンティティを構築し直すという作業に没頭し始める。これはなかなか良い作品だと感じられた。ただ、これ単体で読んだらホラー作品というように解釈していたかもしれない。


時間のかかる彫刻   Sturgeon is Alive and Well... (Theodore Sturgeon)

1971年 出版
1983年01月 サンリオSF文庫(改題:「スタージョンは健在なり」)
2004年12月 東京創元社 創元SF文庫

<内容>
 「はじめに」
 「ここに、そしてイーゼルに」
 「時間のかかる彫刻」
 「きみなんだ!」
 「ジョーイの面倒をみて」
 「箱」
 「人の心が見抜けた女」
 「ジョリー、食い違う」
 「<ない>のだった−−−本当だ!」
 「茶色の靴」
 「フレミス伯父さん」
 「統率者ドーンの<型>」
 「自殺」

<感想>
 この本はスタージョンにとって、作家人生の後半の名作という位置付けの本。「はじめに」では自らが語っているように、この本を出すまで、この本に載せる作品を書くまでにそうとうの苦労がうかがえたことが見出せる。その様子がはっきりと表されているのが最初の中編ともいえる作品「ここに、そしてイーゼルに」。この作品が本書の中では一番長い作品になっている。内容は絵画を描くことのできない画家の苦悩が描かれているのだが、これはそのまま画家をスタージョン、絵画を小説とあてはめてよいのであろう。

 その後は、スタージョンの世界が広がる優れた短編が待ち受けている。
「時間のかかる彫刻」は何と言ってもそのタイトルが良い。このタイトルが何を意味しているのかは是非とも読んで確かめてもらいたい。
「きみなんだ!」は「時間のかかる・・・」と同じく、男女の恋愛を描きながらも全く異なる終わり方をしている作品。
「ジョーイの面倒をみて」は男同士の歪んだ関係を描いた作品。
 静寂なまでに残酷とも言えるラストが描かれる、「人の心が見抜けた女」と「ジョリー、食い違う」
 とある発明を奇抜なアイディアで描く「<ない>のだった」
 自己の満足と得られた虚無感が描かれる「茶色の靴」
 近代的に支配された街の様子が描かれる「統率者ドーンの<型>」
 精神世界が描かれる、その名の通りの「自殺」

 お気に入りとなったのは、テレビをたたいて直す「フレミス伯父さん」の話。このフレミス伯父さんが直すのはテレビだけとは限らない。話の結末は思わず笑ってしまうものとなっている。

 さらに、この作品集の中で一番良かったと思うのは「箱」。宇宙で遭難する事になった少年少女の物語が描かれた作品。結末で明かされる、ミス・モーリンの思い、“箱”の意味、そして少年少女の成長。短い話の中に多くのことが収められた感動の一編といえよう。


一角獣・多角獣   E Pluribus Unicorn (Theodore Sturgeon)

1953年 出版
1964年07月 早川書房 異色作家短編集
2005年11月 早川書房 異色作家短編集3(復刊)

<内容>
 「一角獣の泉」
 「熊人形」
 「ビアンカの手」
 「孤独の円盤」
 「めぐりあい」
 「ふわふわちゃん」
 「反対側のセックス」
 「死ね、名演奏家、死ね」
 「監房ともだち」
 「考え方」

<感想>
 長らく入手不可能と言われていた伝説の本がとうとう復刊された。最近のスタージョン・ブームからすれば、それも時間の問題であっただろうことは確かである。ただ、読んでみると、最近のスタージョン・ブームにより様々な作品が訳されているので、既読のものが多かった。本書は特にスタージョンの作品の中で“恋愛”というものを中心に配置した作品集と感じられた。

「一角獣の泉」
 SFというよりファンタジー。童話のように普通にハッピーエンドになるのだが、そこまでの話の持って行き方がすばらしい。

「熊人形」
 これは恋愛ものではない。熊のぬいぐるみが悪夢の象徴になるという自体は話として珍しくはないと思うのだが、それを二つの世界(というよりは時間軸の違い?)を用いて書いているところが面白い作品。少々グロテスクな話。

「ビアンカの手」
 フェチズムの極致。手をフェチズムの対象に用いるだけでなく、その存在を生き物のように描くところは見事としかいいようがない・・・・・・が、グロテクスでもある。

「孤独の円盤」
“円盤”というものの存在を用いながら、SF色を強くするのではなく、物語性を強める事に用いるところが興味深い。ある種、がちがちの恋愛ものといえるかもしれない作品。

「めぐりあい」
 シジジイ1。恋愛ものながら、こちらはある種絶望的な話。

「ふわふわちゃん」
 猫が出てくるとファンタジーの香りがするのだが、本編はダーク・ファンタジーの香りが漂う猫による物語。

「反対側のセックス」
 シジジイ2。不思議な恋愛もののようで、異星人とのコンタクトを描いているようで、つまるところは恋愛もの。

「死ね、名演奏家、死ね」
 ノワール作品のような妄執が描かれた作品。

「監房ともだち」
 タイトルと作品の中身の相違に皮肉が感じられるブラック・ユーモア。なかなかの逸品。

「考え方」  不思議な男と、不思議な人形の話。これもダーク・ファンタジーという味わいの作品。


[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ
       The [Widget], the [Wadget], and Boff (Theodore Sturgeon)

2007年11月 河出書房新社 <奇想コレクション>

<内容>
 「帰り道」
 「午 砲」
 「必 要」
 「解除反応」
 「火星人と脳なし」
 「[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ」

<感想>
 今作ではSF色が抑えられた作品が集められている。SF色が抑えられてしまうと、スタージョンらしからぬかと思えるかもしれないが、たぶんこれもまたスタージョンというべき作品・作風といってよいのであろう。本書が読み応えのある作品集であったことは確かである。

 この作品のなかで一番印象に残ったのは「必要」。ひょっとすると今まで読んだスタージョンの作品群のなかで一番心に残った作品といえるかもしれない。人によって感じ方は違うと思われるが、私個人にとっては身につまされるような内容であった。不思議な男達による癒しの作品。

 また、表題となっている「[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ」も印象の強い作品である。これはなんと、とある下宿に住む者たちの人間模様を描いた作品。“ビッテルマン荘”というようなタイトルを付けたくなるもので、ヒューマニズムにあふれた作品となっている。あえてSF的設定をからめることによって、作品の良さを強調している。

「帰り道」はノスタルジーともとえる、どんな少年もが一度は考えそうな思いが描かれている。
「午砲」はひとりの青年の彼女を通しての成長が描かれた作品。
「解除反応」はブルドーザーに乗った男の飛躍しすぎた夢または妄想。
「火星人と脳なし」は発明家の父に人生を翻弄される少年の様が描かれている。


夢みる宝石       The Dreaming Jewels (Theodore Sturgeon)

1950年 出版
1979年10月 早川書房 ハヤカワ文庫
2006年02月 早川書房 ハヤカワ文庫<新装版>

<内容>
 養父からないがしろにされたホーティ少年は家を飛び出し、見世物を生業とする集団の者たちに助けられる。それを縁に、ホーティはカーニヴァルの一員として、彼らと暮らし始める。ホーティの面倒を見るジーナは、彼の隠された秘密に気づき、カーニヴァルの団長である“人食い”から彼の存在を遠ざけようとする。ホーティの秘密ともいえる“宝石”の存在が徐々に明るみに出始めると、その気配を人食いは感じ取りはじめ・・・・・・

<感想>
 SFというよりはファンタジー小説という感じがした。ただファンタジーにしても大人向けなのか子供向けなのか曖昧な内容という印象。そこそこ読みやすい小説の割には、内容が部分的に小難しかったり、細かい関連や内容について、きちんと書き込まれていなかったりといった微妙さも感じ取れた。個人的にはカーニヴァルの様子や主人公であるホーティの成長について、もっと書き込んでもらいたかったところ。魅力は感じられる作品であるものの、どこか全体的に書き足りないという感じの小説。


きみの血を       Some of Your Blood (Theodore Sturgeon)

1961年 出版
1971年 早川書房 ハヤカワミステリ
2003年01月 早川書房 ハヤカワ文庫NV

<内容>
 米軍駐屯地にて精神医である少佐が、ジョージという兵士が書いた手紙を読んだことにより、その兵士に対し訊問を試みる。ジョージという兵士は大柄で鈍重で従順そうな男であったが、少佐のとある質問に対し、突然逆上し飛びかかっていったのであった。ジョージは何に対し、逆上したというのか? そして少佐がジョージに対して感じた異常性とはいったい!? 真相を知るためにジョージの過去を掘り下げてゆくと・・・・・・

<感想>
 スタージョンのホラー風の作品。最初は書簡のやりとりにより、奇妙なひとりの兵士がいるという話から始まり、やがて長い手記によりその兵士のたどってきた人生が語られてゆくというもの。

 実はこの話、事件性が非常に薄い。最初の書簡からもこの兵士に何があったのかわからず、兵士の子供時代からの人生が語られてゆくところもさほど事件性が感じられなかった。恵まれない家庭環境で育ちつつも、害のなさそうなちょっと変わった子供という印象。後半になってから、徐々に異様さの片鱗が表れるようになってくるのだが・・・・・・

 異様な感触をまとう物語とはなっているものの、劇的な場面がなく、全体的にローテンションに淡々と進行してゆく。故に波乱万丈の物語を求めて読むと期待外れになるかもしれない。ゆったりとしたモダンホラーを楽しむというか、スタージョンの幻の作品だったということのほうが大きな話題を締めているような。ただ、見方を変えると、さまざまな悲劇が起こる物語が多い中で、本書ではそういった悲劇を事前に阻止することができたというまれなパターンと言えるかもしれない。


人間以上       More Than Human (Theodore Sturgeon)

1953年 出版
1978年10月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 白痴の男は、いつしかローンという名前を与えられ、徐々に自我に目覚めてゆく。そうして彼はサイコキネシスを持つ少女、テレポーテーション能力を有する双子、そしてテレパシーを持つ赤ん坊と出会い、一緒に暮らし始める。やがて彼らは、個々の存在ではなく5人で一体であるということに気付き始め・・・・・・

<感想>
 一見、なにやら難しそうな話のようにも思えるが、実際にはファンタジー小説のような感覚で読むことができる。第一章「とほうもない白痴」では、5人の人間が一つ屋根の下で暮らし始める話が描かれる。第二章「赤ん坊は三つ」では、5人のうちのひとりの視点から、その後の話が語られてゆく。そして最終章「道徳」では5人の人間とは別の者による話が語られてゆくこととなる。

 あまりSFらしからぬ話ではあるのだが、さまざまな超能力や、反重力、集団有機体などといった単語がそここに現れる。大まかにいえば、一人の人間が集団有機体へと昇華する話を描いているようである。ただ、個々の物語を見ると各章の主人公が孤独に耐える、もしくはその孤独から脱却する姿を描いたものと捉えられる。

 スタージョンの長編というと、どうもこういう感じなのだが、ミステリ的にとか冒険譚へとか、そういったものへと派生しそうな展開には決して導かれない。ゆえに、この物語も力をもった者たちが集ることにより、途方もない力を得るという設定であるにもかかわらず、その力がどこかに振るわれるということはないまま終幕を迎える。一応は、“集団有機体”というまさしくタイトル通りの“人間以上”へと昇華するようではあるのだが、展開としては地味としか言いようがない。そうした力を得て、スーパーマン的な役割を果たすのではなく、人として悩み、そして道徳という枷に自ら墜ちていくというような内容。むしろ大きな力を持ったがゆえに、誰にも相手にされず、大した役に立たないというアンチヒーロー的な孤独をひたすら描くように形作られている。


ダイヤモンド・エイジ   The Diamond Age (Neal Stephenson)

1995年 出版
2001年12月 早川書房 単行本
2006年03月 早川書房 ハヤカワ文庫(上下)

<内容>
 ナノテクノロジーの発達により変貌した文明社会。上海の貴族フィンクル=マグロウは孫娘の教育用にナノテクノロジーの粋を極めた本の作成を技術者であるハックワークスに依頼する。ハックワークスは本の作成に成功したものの、金銭目当てのチンピラに路上で強奪されてしまう。その本は貧困のなかで生活を続けていた少女ネルの手に渡ることに。そしてネルはその不思議な本を育ての親として、成長を遂げてゆくこととなり・・・・・・

<感想>
 こんな作品もあるのだなと驚かされた。SFの可能性や、物語の可能性というものに限界はないと感じさせられた作品。これで、もっと読みやすければ万人に薦められるのになと、もったいないと思いつつも、そこはSF作品ゆえに、癖があるのも当然のこと。

 この物語の核となるのは、プリマ―という読むものの成長の手助けをする“魔法の本”の存在。魔法の本といってもファンタジー的なものではなく、科学の粋を極めて作られた、まさに“未来の本”。その本をたまたま手に入れることとなった貧民街で暮らす少女が本の力を借りて成長していく物語。

 最初はただ単に本の力を借りて、貧しい生活から脱していくだけなのかと思ったのだが、決してそれだけではない。本の内容をたどるうちに、現実世界がいかにして成り立っているかを把握することとなり、大人になりつつあるネルは、そこから自分の人生を選択することとなってゆく。

 本を読み、本によって知識を得るという流れのなかから、人口増加による諸問題や、社会の成り立ち、政治への批判とさまざまなものが読み取れるようになっている。かなり多くの事象を示唆しているようにも思えるが、それをあえて強制的に提示することなく、何を感じ取るのかは読み手にゆだねられているようでもある。そんなわけでか、ラストのほうは、やや漠然とした内容にも思え、読み手が期待する部分に話の流れがなかなか進まず、じれったく感じてしまうこともあった。しかし、とにかく印象に残る小説であったということは事実。ここにまた、オールタイムベスト級のSF小説が積み上げられたなという感触。


七人のイヴ T   Seveneves (Neal Stephenson)

2015年 出版
2018年06月 早川書房 新・ハヤカワ・SF・シリーズ5038

<内容>
 ある日突如、月が爆発して分裂した! その異様な光景に沸き上がる地球であったが、やがて専門家が下した結論に人々は脅かされることに。それは、月の欠片が衝突を繰り返し、2年後に無数の隕石となって地球に降り注ぎ、その“ハード・レイン”と名付けた現象により人類は滅亡するというものであった。人類は種を残すために、できる限りの人々を宇宙ステーションへ運びこみ、そこから宇宙への進出をかけることを試みる。人類存亡の危機まであとわずか・・・・・・

<感想>
 この作品は元々は長大な作品であるものを日本では3部作として刊行。本書はその1作目にあたる作品。月の爆発により、人類滅亡の危機に陥る様子とその対処に追われる人間模様をカウントダウン形式で描いている。

 ただこの作品、カウントダウン形式で描くわりには、もっさりとしているような。あと2年で人類滅亡という割には技術者たちが事細かい作業に奔走する様子が淡々と描かれている。技術者がパニックに陥ってもしょうがないので、こういった淡々と技術的な準備を進めていくところはむしろリアリティが感じられるところであるのだが、パニックSF作品としては、妥当な書き方ではないように思えてしまう。

 また、キャラクターに関する部分も、ある程度キャラクターを絞って、話が進められている割には、それぞれのキャラクターが栄えていなく、魅力に乏しいと思えてならなかった。

 なんかそんな感じで全体的に地味としか思えない作品であった。ただ、これがまだ冒頭ともいってもよいくらいの分量であるので、続きを読んでいけば、作品に対する印象が変わるかもしれない。良い印象に変わればと期待しながら最後まで読んでゆきたい。


七人のイヴ U   Seveneves (Neal Stephenson)

2015年 出版
2018年07月 早川書房 新・ハヤカワ・SF・シリーズ5039

<内容>
 地球の破滅が予測される中、限られた人類を宇宙へと送る計画が着々と実行される。そして、予想通りに地球を“ハード・レイン”が襲い、滅亡の危機に瀕する地球。そうしたなか、宇宙へと逃げ延びた限られた人類は、繁栄のための活動を実行してゆくはずであったが・・・・・・

<感想>
 前作のTからそうであったのだが、全体的な設定としては興味深いのだが、肝心の描写については興味を持てないようなものばかりが取り上げられている。

 地球を崩壊させる“ハード・レイン”の描写が気になったのだが、そこについてはいたって淡泊に素通りしていったという感じ。そういったところとか、もっと全体的視野で作品を表してもらいたいところなのだが、個人視点の妙に細かいところばかりが記されている。

 そうした感じで、全体像がよくわからないまま読み進めていくと、いつの間にか人類の宇宙進出計画が崩壊し、事態は唐突にとんでもない方向へと向かうことに。この巻の最後で、ようやくこの作品のタイトルの意味がわかることとなるのだが、そこへ至る展開については個人的には納得のいくものではない。とはいえ、こういう構想の物語であるのだなと納得せざるを得ない。最終巻となる第3巻では、この巻の終了時点から5000年後が描かれることとなっているようだ。


七人のイヴ V   Seveneves (Neal Stephenson)

2015年 出版
2018年08月 早川書房 新・ハヤカワ・SF・シリーズ5040

<内容>
 地球を隕石群が襲うハード・レインが起き、危機に瀕した人類であったが、宇宙へと逃げ延び発展を目指した。しかし、その後生き残ったのは七人の女性のみ。彼女らは再生を誓い、命の源となる。そして、5000年後、それぞれの母の源で育った人類は地球を目指し、そこで接触をすることに。さらには、生き延びた地球人たちとも・・・・・・

<感想>
 三冊目の完結編では、ハード・レイン後に生き残った7人の地球人たちが再生を目指した前巻から5000年後の世界が描かれたものとなっている。はっきり言って、もはや外伝という気がしてならないのだが、海外で出た元の本としては、日本で分冊されたT、U、V、合わせて1冊という本であるのだから著者の構想としてはあくまでも全てで一冊の「七人のイヴ」という作品なのであろう。

 ただ、今作も前作に引き続き相変わらず様相がよくわからない。5000年後の新たな世界を説明しつつ、場面を動かしながら展開させているのだが、ほとんど内容が頭に入ってこなかった。現代の機構とは全く異なる軌道上からぶら下がることによるテクノロジーを描いているようであったが、想像が追い付かなかった。

 読み終えて、5000年経ったうえで、人類の進化ってこんなものかと感じてしまったのだが、よくよく考えれば人口をいちから作り直すところから始めたがゆえに、5000年といえどもこんなものかと思えなくもない。ただ、この作品としては、人類の精神的な進化のようなものを描くというよりは、テクノロジーとか、5000年の時を超えた邂逅というようなものを描きたかったのであろう。個人的には、最初から最後まで、自身が読みたいところとか、興味のあるものからかけ離れた事柄ばかり描かれていたという形で、微妙な印象ばかりが残る作品。


最後にして最初の人類   Last and First Men (Olaf Stapledon)

1930年 出版
2004年02月 国書刊行会 単行本

<内容>
 何万年、何億年の歴史の中で、戦争、災厄、数々の困難を乗り越え、なおかつ生き続ける人類の姿がここに描かれる。火星からの侵略、宇宙への進出、そして人類はいったい何処へ行くといういうのか。
 20億年にも及ぶ人類の未来史が想像によって描かれた伝説の書。

<感想>
 感心しつつも、難解な作品であり読み通すのが大変であった。著者は哲学者でもあるというだけあって幻想史にもかかわらず、本当にあった歴史が後世の視点から評されているようなそんな書物になっている。

 まず興味深いのは近代の部分。本書は1930年に描かれているので2000年前後がどのように書かれているかはとても興味深いところ(といっても本書の中ではほんの一部でしかないのだが)。本書では2000年以降はアメリカと中国の2台大国の微妙な関係を描いており、現実からさほど遠からずという印象が得られるものとなっている。さすがに、現代のキーワードであるネットワーク社会についてまでは言及はされていなかった。しかし、そのネットワークという部分が後から書かれている火星人の特徴として描かれていたりしてこれも興味深く読むことができた。

 本書ではやがて地球人が宇宙へと進出していくことになるのだが、そこまでの過程にいたるまでが恐ろしく長く(物語中で経過する年代も)書かれている。簡単にまとめれば、人類はどんどん良い方向へと進化していくのではなく、度々困難に遭遇し、そこで退化と進化を繰り返しながら何万年もの時間を経てゆるゆるとその形態が変っていくというように描かれている。今、私が頭の中で想像すれば宇宙進出というものは100年、200年あれば可能なのではないかとも思ってしまうのだが、本書には本書なりの説得力があり、これもまた一つの真実を描いているのではと感じられるのである。

 そしてやがて金星や海王星へと人類は移住していくことになるのだが、いやはや何とも映画やアニメで見るような夢や希望というよりは、“移民”とでも呼ぶのが適しているような妙にリアリティのある困難さ貧困さがまとわりつくように描かれている。人間の宇宙への進出は希望に満ちているというよりは、なんとしても生きてやるという生の存続に懸ける執念が前面に出ているように感じ取れた。

 本書は1930年に書かれてから70年以上の月日が経っているのだが、もしこの著者なり他の人が今現在このような本を書いたならば全く異なる内容となるのではないかと思う。そういった本も読んでみたいなと思わずにはいられない。やはり、どのように描かれていようが人間というのは未来がどのようになるのかということに常に興味がつきないのだから。


シンギュラリティ・スカイ   Singularity Sky (Charles Stross)

2003年 出版
2006年06月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 新共和国の辺境惑星に突如舞い降りた“フェスティバル”。それらは惑星の住人達に楽しませてくれる話と引き換えに、何でも望みをかなえるというのだ。かなえられる願いによって大混乱を起こす惑星社会。この事態を異性人の侵略と認めた新共和国は攻撃艦隊を派遣させることにしたのであるが・・・・・・

<感想>
 うーん、まじめな話なのか、コメディなのか、社会風刺小説なのか、なんだかよくわからなかった。

 主人公らしき男女のスパイが出てきて、さまざまな活動を行うものの、後半ではほとんど“活躍”という働きはしなかったように思える。また、その他多数の人々が出てきているのだが、それらの必然性もよくわからず、ただ登場人物たちに雑多という印象しか残らぬまま話が進んで行き、やがてそのまま終わってしまう。

 また、物語の進行自体も遅すぎるし、メインとも思われた艦隊戦もあっけなく終わってしまうのもどうかと思われる。もしくは艦隊戦がメインでないというのであれば、このような構成の話にする必要もないと思えるのだが・・・・・・。

 と、そんなわけで、ところどころ笑えた部分もあったものの、全体的には壮大で無駄な小説を読んだというようにしか思えなかった。


アッチェレランド   Accelerando (Charles Stross)

2005年 出版
2009年02月 早川書房 単行本

<内容>
 21世紀初頭。マンフレッド・マックスは行く先々でオリジナルのアイディアを無償で提供し、富を授けていく恵与経済(アガルミクス)の実践者。やがて彼は予期せぬものからの接触を受ける。それはロブスター・・・・・・異世界からの接触を受け・・・・・・やがてマンフレッドは世代を通して、とてつもない世界へと跳躍していくこととなり・・・・・・

<感想>
 タイトルに含まれる“ランド”という言葉からSF的に構築された世界を舞台につむがれる都市の物語と思い込んでいたのだが、内容は想像とだいぶ異なるものであった。あとがきによるとタイトルの“アッチェレランド”とは、「だんだん加速していく」という意味であるらしい。確かにそれを地で行くようなSF小説。

 中身は、軽口で語られる割には、一読して理解できるような簡単なものではない。“ハード”SFというよりは、ソフトウェアという意味の“ソフト”SFという感じであり、難しいながらも、対話で語られる部分が多く、内容の理解はなんとなくであっても読み進めることはなんとかできる。序盤くらいは、なんとなくついて行くことができたのだが、宇宙へ進出してからは理解できない部分のほうが多くなったという感じ。

 ただし、宇宙へと出て行って、とんでもない方面まで話が進んでいったように思えながらも、何故かスタート地点をうろうろとしているという印象が抜けなかった。タイトルどおり“だんだん加速していく”というイメージに間違いはないものの、お釈迦様の手の上から動いていないようにも感じられてしまう。

 加速して物凄く遠い所へ行ってしまったはずなのに、結局は家族3代の規模に収まってしまうというところが微妙なところ。最後の最後で、ふりだしに戻るというような印象が強かった。個人的には、過去を置き去りにして、どんどんと遠くへ加速していってしまったほうが新世代SFという感じがするのだが。


蒸気駆動の少年   The Steam-Driven Boy (John Sladek)

2008年02月 河出書房新社 <奇想コレクション>

<内容>
 「古カスタードの秘密」
 「超越のサンドイッチ」
 「ベストセラー」
 「アイオワ州ミルグローブの詩人たち」
 「最後のクジラバーガー」
 「ピストン式」
 「高速道路」
 「悪への鉄槌、またはパスカル・ビジネススクール求職情報」
 「月の消失に関する説明」
 「神々の宇宙靴−考古学はくつがえされた」
 「見えざる手によって」
 「密 室」
 「息を切らして」
 「ゾイドたちの愛」
 「おつぎのこびと」
 「血とショウガパン」
 「不在の友に」
 「小熊座」
 「ホワイトハット」
 「蒸気駆動の少年」
 「教育用書籍の渡りに関する報告書」
 「おとんまたち全員集合!」
 「不安検出書(B式)

<感想>
 日本でジョン・スラデックという名を聞けば、ミステリ作家という印象を受ける人のほうが多いのではないだろうか。日本で訳されているスラデックの作品といえば「見えないグリーン」「黒い霊気」といったミステリ作品。しかし、本書を読めばスラデックがさまざまなジャンルの作品に手を出している幅広い作家であることがわかるようになっている。さらにもうひとつ付け加えれば、かなり前衛的な作家であるということも。

 本書を読み始めると、もう最初のほうの作品からほとんど理解できないようなものが並んでいる。SF的に社会風刺をしているような作品もあれば、トレンディドラマのような内容のものを前衛的に展開させていたりとか、機械同士の性欲を表す作品や、普通のミステリ作品が展開されたと思えばアンチミステリのような作品があったりと、とにかく多岐にわたあるスラッデック・ワールドが展開されているのである。

 正直なところ、あまりにも多岐に広がり、あまりにもわかりにくい作品が多いため、スラデックがどのような作家とは決して表現できないのだが、こんな奇才がいたというインパクトだけは伝わる作品集である。とにかく変わった作品が読みたいという人は、まずこれを手にとってみてはいかがか?


チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク
   Tik-Tok (John Sladek)

1983年 出版
2023年09月 竹書房 竹書房文庫

<内容>
 ロボットが一般家庭やその他周辺で普通に使われるようになった時代。家庭用のロボット、チク・タクが描いた壁画が美術評論家の目にとまり、評価を受けることに。その成功により芸術家ロボットとして独り立ちすることとなったチク・タクであったが、そのチク・タクには人間に害をなさないという安全回路が作動しておらず、ひたすら殺人などの犯罪を繰り返していくこととなり・・・・・・

<感想>
 ちょっと・・・・・・いや、かなり読みづらかった。時系列がバラバラなうえに、内容も一貫していないように思えて、何がなんだかわからないといった感触。

 一見、虐げられたロボットに対しての、人類への反乱といったものがテーマとして掲げられているように思えた。しかし、その反乱を行っているように思えた主人公であるロボットのチク・タクが単なるサイコパスのように思えてしまって、反乱というテーマにはそぐわないと感じられてしまった。

 時系列とか、チク・タクの目的だとか、背景だとか、何か一貫したものがあればもう少し内容にのめり込めたと思えるのだが、とにかく全体的に雑多というような感じのまま読み終えることになってしまった作品。




著者一覧に戻る

Top へ戻る