SF タ行−タ 作家 作品別 内容・感想

声の物語   Vox (Christina Dalcher)

2018年 出版
2019年04月 早川書房 新・ハヤカワ・SF・シリーズ5044

<内容>
 アメリカで新しい大統領が就任し、彼の手によって国中の女性たちの言葉を制限するという政策が強制的に行われた。女性たちが話してよいのは1日に100語のみ。それを超えると、腕に付けたバンドにより苦痛がもたらされることに。認知言語学者であり、4人の子供を育てているジーンは、この制度により職を失い、家で失意の日々を送るのみとなった。そんな彼女の元に、大統領の側近が現れ、言語障害を起こした大統領の兄を治療してもらいたいという依頼がなされるのであったが・・・・・・

<感想>
 内容を見ずに読み始めたので、読んでみてびっくりしてしまった。これは“新・ハヤカワ・SF・シリーズ”のレーベルのものなので、SF作品と言うことを頭において読み始めたものの、中身は全く異なるものであった。内容は、ジョージ・オーウェルの「一九八四年」のような社会体制を描いた作品となっている。あとがきによると内容としては私は未読であるのだが「侍女の物語」の21世紀版と書かれていた。

 もっと簡単に中身を説明すると、虐げられた女性の様子を描いたものとなっている。アメリカでの新たな政策により、男性の社会的地位を上げるために、女性は一日に百語以上しゃべってはいけないと、法律で定められてしまうというもの。その苦悩の様子が家庭を持つ元言語学者の女性の視点によって描かれている。

 フィクションとはいえ、色々と考えさせられる作品。そこまで極端な政策はありえないだろうと思いつつも、よくよく考えればこれと似たように、女性の権利が低い国というのはあるような気がする。そう考えると、ここに書かれているものは決して、荒唐無稽な話ではないということなのかもしれない。ただ、ここで描かれている世界は、元々は自由であったものが奪われるという世界を描いているので、それゆえに余計に残酷に感じられるという見方もできる。

 と、興味は尽きない内容の作品であるのだが、最後はややエンターテインメント過ぎるような終わり方となっている。最後のほうだけ、ご都合主義過ぎるというか、あまりにもうまく行き過ぎという感じのものであった。とはいえ、最初から最後までそのままの形であれば、あまりにも救いようがない話になってしまうので致し方ないか。




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