江戸川乱歩<短編>作品別 内容・感想

押絵と旅する男   

1929年(昭和04年)6月 「新青年」

<感想>2007/08/13
 電車内で出会った奇妙な荷物を持つ男が語る奇怪な話が描かれた作品。
 その内容はさておき、今この話を読んで思い起こすのは京極夏彦氏の「魍魎の匣」の一場面。京極氏がこの作品に影響されたのかどうかはわからないが、どうもこの「押絵と旅する男」とダブってしまう。さらに気になるところは「魍魎の匣」では、匣の中を見せられた男がその後、匣にとりつかれ数奇な運命をたどることになるのだが、この作品では短編ゆえに、その後のことは書かれていない。果たして、この物語の語り手はその後、どのような運命をたどることになったのか?


蟲   

1929年(昭和04年)9月、10月 「改造」

<感想>2007/08/14
 人間嫌いの青年が歪みきった恋に落ち、その結果犯罪にはしることとなり、さらにその後の顛末が描かれた作品。
 今読むと、幼稚な内容とも思えるのだが、出版された時代を考えると後のさまざまな作品のはしりになったのではないかと考えられる。人間嫌いというところは、今までの乱歩作品に共通するところであるが、そこからの度を越したストーカー行為や死体が朽ち行く様を描いたところなどは、その時代のパイオニア的な内容であったのではないだろうか。この短編がその後書かれた「ドグラマグラ」に影響を与えたと思うのは考えすぎであろうか?


江川蘭子   

1930年(昭和05年)9月 「新青年」

<感想>2022/08/16
 江戸川乱歩、横溝正史、甲賀三郎、大下宇陀児、夢野久作、森下雨村と続く連作の第一回として発表された作品。ゆえに、物語の発端という感じの内容。それでも、これはこれで一抹の物語として読めない作品ではない。
 江川蘭子がどのようにして生まれ、その生活を発端として奇異な生活を送り、変わった人生を歩むことになるという道のりが描かれている。その後の波乱万丈であろう人生を予感させる内容。
 なんとなく、この連作を読んだことがあるような気もするのだが、すっかりと忘れてしまっている。


目羅博士の不思議な犯罪   

1931年(昭和06年)4月 「探偵倶楽部 増刊 探偵小説と滑稽小説号」

<感想>2022/09/03
 ビルディングの5階の1室で3回連続して首つり自殺が起きた。しかも月夜の晩に限り。事件の裏に謎の目羅博士なる人物がいることを突き止め・・・・・・
 乱歩が動物園にて、見知らぬ青年から話を聞くという設定。不思議な幻想的な事件が語られる。猿が人の動作をまねるというところから話が始まり、やがては月夜の夜の奇妙な事件へと移り変わってゆく。なかなか面白い話であるが、短い作品ゆえに、目羅博士の真意が語られなかったところが惜しかったような。それとも、あえて動機を語らないことこそが、幻想譚らしくてよいとも言えるかもしれない。


「断 崖」

<感想>2004/07/19
 本編は昭和25年に書かれ、雑誌に発表されたもののようであるのだが、なんと15年(16年?)ぶりに発表した短編なのだそうである。

 本編の構成は男女の会話によって進められる形式のものとなっている。断崖の上で話が交わされていることから、なにやら心中を予感させられる。そして最初は淡々と説明的な物語が語られながらも、やがては男女のすさまじい駆け引きへと展開してゆく。
 そして物語の幕が引いたとき、複雑な人間模様の中に織り込まれた物語を感じ入ることができる。そんな内容となっている。乱歩のとある長編を思い起こさせるような気もするのだが、それがなんだったのかまでは思い出せない。とにもかくにも、本編はなかなか満足させられる逸品であった。




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