小泉喜美子  作品別 内容・感想

弁護側の証人

1963年02月 文藝春秋
1978年04月 集英社 集英社文庫

<内容>
「主文・−−−−を死刑に処する」元ヌードダンサー漣子は裁判長の判決を聞きながら、杉彦と永遠の愛を誓った日を思い浮かべていた。罪もない人を死刑にすることは、誰にもできはしない・・・・・・彼女の素朴な愛と真実への希求が新しい証言を呼び・・・・・・

<感想>
 噂に聞いていた一冊であったのだが新刊では手に入れることができずに古本屋を巡りようやく入手することができた。

 なかなかの名作であるとの評判を聞き読んでみたのだが・・・・・・なるほど確かに作者の術中にはまってしまった。だまされたというよりは、“術中にはまる”という言い方のほうがふさわしいかもしれない。だまされたなどといってしまうと、作中の主人公から「あら、だますつもりなんてなくってよ」と軽くあしらわれそうである。

 またサプライズ性のみならず、表題となっている“弁護側の証人”という言葉にも重い意味が込められている。たんなるサスペンス小説に終わらず、この薄いページの中に法廷小説としての重みまでさりげなく付け加えている技量には脱帽である。

 これは現在埋もれている良書の一冊といえよう。これが新刊で読む機会が失われているというのは惜しいかぎりである。しかしながら私のようにうまく古本屋で見つけて100円で読めてしまうというチャンスでもある。未読の人はぜひとも探し出してもらいたい作品。2003年はこの著者の他の作品を探すことを目標の一つとしたい。


暗いクラブで逢おう   5.5点

1976年08月 新書館 単行本
1984年05月 徳間書店 徳間文庫

<内容>
 「日曜日は天国」
 「暗いクラブで逢おう」
 「死後数日を経て」
 「そして、今は・・・・・・」
 「故郷の緑の・・・・・・」
 「酒と薔薇と拳銃」

<感想>
 前半の作品はミステリというよりは、人間観察的な普通小説。どうも主人公にダメ男が多いように思えた。

「日曜日は天国」は、離婚した後、息子を想う元ボクサーの話。その想いが伝わっているのかどうか・・・・・・
「暗いクラブで逢おう」は、色々な職を経て、クラブのマスターへとたどり着いた男の話。男は、クラブに訪ねてくる様々な人の事を想いながら、クラブでの日々を過ごす。
「死後数日を経て」は、破天荒な女優の話かと思いきや、最後はうだつの上がらない記者の話へと帰結する。

 後半の三編はミステリといってもよさそうな内容。最初の三編を読んだ後では何気に読みがいのある作品と感じられた。

「そして、今は・・・・・・」は、これまたダメ男が主人公であるのだが、この作品では珍しく、男のほうが生き生きとし、女のほうがドツボにはまるという内容。
「故郷の緑の・・・・・・」は、何気に意表を突く作品。刑務所に入れられた男の回想が語られるだけと思いきや、そこに意外な事実が隠されている。「弁護側の証人」を彷彿させるような作品であり、本編中ではベストの内容。
「酒と薔薇と拳銃」は、元ヤクザの情人が刑事に恋するものの、その刑事を待つ女のもとに刑務所に入れられたはずのヤクザが! という話。まあ、普通のサスペンスという感じ。舞台劇にしたら面白そうな話かも。


殺人はお好き?   5.5点

1981年01月 徳間文庫
2017年02月 宝島社 宝島社文庫

<内容>
 アメリカ人の私立探偵ガイ・ロガートはかつての上司の頼みにより日本にやってきた。その上司が言うには妻が麻薬密売に関わっている疑いがあり、詳しく調べてほしいというのである。ロガートは事件を調べていくうちに、その麻薬密売組織が関わる事件の渦中に巻き込まれてゆくこととなり・・・・・・

<感想>
 内容はライト系でややコメディ調ともとれるハードボイルド作品。小泉氏の作品については、まだそれほど読んでいないのだが、このような作風のものも書くのかと驚かされる。ただ、あとがきを読むと、この作品は小泉氏の著書のなかでも異色な位置づけとなっており、“交通新聞”に津田玲子というペンネームで連載されたものとのこと。しかもこの連載、読者に受けが良かったらしく、回数を延長してくれと言われたことによりストーリーを引き延ばしたりなどもしたらしい。

 これが連載されたのは、小泉氏の処女作とされている「弁護側の証人」が発表される前のこと。よって、正式に作家になる前に書かれたものという事で、変わった作風であるのも致し方ないと言えよう。内容は、ご都合主義のハードボイルドと言ってしまうと、やや乱暴かもしれないが、そのような感じ。昔の作品ゆえに、今読むと違和感があるものの、その当時であれば十分にエンターテイメント作品として受け入れられたのではなかろうか。

 また、最後の最後で単なるハードボイルドのみで終わらせずに、探偵小説らしきことをやっていることも見どころのひとつ。ネタとしてはわかりやすいものではありつつ、これもエンターテイメントの要素満載と言ったところ。今、読む作品としてはそぐわないような気もするが、戦後のミステリ作品を楽しむという赴きであれば、十分に堪能できるのではなかろうか。


血の季節   5.5点

1982年02月 早川書房 単行本
1986年05月 文藝春秋 文春文庫
2016年08月 宝島社 宝島文庫

<内容>
 青山墓地で起きた幼女惨殺事件。犯人として捕らえられた男は、奇妙な独白を始める。それは戦前の公使館での外国人の兄妹との交流にさかのぼり、その後の戦時下でのとある出来事へと展開してゆく。事件の影に潜むものとは!?

<感想>
 もったい付けている割には、普通であったなと。特に捻りもなかったし。

 吸血鬼青年、もしくはそう思い込んでいる男の独白という感じの小説。その青年の独白とは別に、警察の幼女惨殺に対する捜査も入っているのだが、こちらはさらに微妙。何しろ、捜査というか、主となる警官と何となくという感覚で容疑者逮捕にまで至っているのはどうかと。

 本書はミステリとして見ると微妙に思えるのだが、ひとりの青年の人生を描いた小説としてみれば、また異なる感覚で読むことができるかもしれない。ただ、それであれば警察のパートはいらないような気も・・・・・・


女は帯も謎もとく   5.5点

1982年02月 徳間書店 トクマ・ノベルズ
2018年04月 光文社 光文社文庫

<内容>
 「さらば、愛しきゲイシャよ」
 「小さな白い三角の謎」
 「握りしめたオレンジの謎」
 「藤棚のある料理店の謎」
 「流刑人の島の謎」

<感想>
“芸者ミステリ”というような位置付けの作品であるようだが、実際にはミステリっぽい話という感じにとどまっている。

 最初の「さらば、愛しきゲイシャよ」から話が始まると思いきや、単なる人物紹介のような流れ。戦時中に起きた、日本で療養中の米兵との邂逅というような物語が語られるのみ。

 本作品中では次の「小さな白い三角の謎」が一番ミステリとして成立していた作品か。会社社長の運転手が自殺したという謎を主人公の芸者と若手刑事が真相を探るというもの。“白い小さな三角”というものが、時代性と作品設定の味わいを深めている。

 ただ、それ以降はミステリ的な話は少なかったかなと。次の「握りしめたオレンジの謎」は、展開としては「小さな白い三角の謎」と同じなのだが、結末が推理によって明かされるのではなく、単に話の展開によって真実が明かされるという流れ。残りの2作に関しては、事件らしきものを勝手に想像して、勝手に騒ぎ立てているだけの内容のような。

 雰囲気や文体・作調などについては、好きな人は楽しめるというようなもの。ただ、作中でミステリ好きというのを公言しているのであれば、もう少しそれなりのものを仕立ててもらいたかったという感じ。


「さらば、愛しきゲイシャよ」  戦時中、日本の病院に収容された米兵の話。
「小さな白い三角の謎」 会社社長の運転手が自殺し、現場には謎の白い三角の紙が。
「握りしめたオレンジの謎」 踊りの師匠がオレンジを握りしめたまま死んでいた話。
「藤棚のある料理店の謎」 レストランで店のマダムが出てこない理由を勝手に夢想する話。
「流刑人の島の謎」 島へ旅行へ行くと、亡くなった俳優が密かに生きているという話を聞き・・・・・・


ミステリー作家の休日   6点

1985年03月 青樹社 単行本
2019年09月 光文社 光文社文庫(「ダイヤモンドは永遠なり」「あじさいの咲く料理店」追加)

<内容>
 「ミステリー作家の休日」
 「昼下がりの童貞」
 「ダイアモンドは永遠なり」
 「青い錦絵」
 「紅い血の谷間」
 「本格的にミステリー」
 「あじさいの咲く料理店」
 「パリの扇」

<感想>
 最近、小泉氏の作品が色々と文庫化もしくは復刊されていて、立て続けに読んでいる。そうした作品集の中において本書は小泉氏の作品のなかではミステリ色が濃いものとなっている。とはいえ、がちがちのミステリというよりは、ミステリの雰囲気を匂わせるような作品集という言い方のほうが的を得ていると思われる。

 内容としては「あじさいの咲く料理店」が面白かった。ありがちなミステリ作品の裏をかく内容になっているところは必見。

 その他、ミステリとしてしっかりと完結しているものもあれば、結末を読者に想像させるもの、さらには幻想的な内容のものと色々とまぜられている。それゆえに、がちがちのの推理小説を読みたいという人よりは、気軽にミステリの雰囲気を味わいたいという人にお勧めの作品集。また、女流作家ならではのミステリの匂わせ方も特色といえよう。


「ミステリー作家の休日」 突然“殺す”と電話で言われた女流ミステリー作家は・・・・・・
「昼下がりの童貞」 高校生の原稿運びのアルバイトが体験した、白昼夢のような経験。
「ダイアモンドは永遠なり」 恋人の父親が大の野球嫌いという、野球選手の苦悩。
「青い錦絵」 観用魚を売って儲けようとした男と、家に引きこもる人物とのやりとり。
「紅い血の谷間」 歌舞伎界に生まれた次男坊は、出来の良い兄と比べられ、違う世界を夢見るが・・・・・・
「本格的にミステリー」 女流ミステリー作家の失踪とポプリの匂い。
「あじさいの咲く料理店」 ごくつぶしの弟が失踪したのち、料理店ではあじさいの花がきれいに咲き・・・・・・
「パリの扇」 フランスで起きた暴行事件の顛末とは・・・・・・


男は夢の中で死ね   5.5点

1985年05月 光文社 光文社文庫

<内容>
 「男は夢のなかで死ね」
 「早くお帰り」
 「パーティへは誰でも行く」
 「陽光の下のスポーツ」
 「勇者のみ」
 「情 婦」
 「コメディアン」
 「本塁好返球」
 「ザ・ラスト・ビジネス」
 「ヒーロー」
 「都会小説のこと」

<感想>
 小泉喜美子氏の短編集。ミステリというよりは、それぞれの作品に登場する主人公の人生を描いた作品集というような感触。

「男は夢のなかで死ね」は、特に人間の矜持というものが強く描かれた作品という感じがする。とある映画スターとそのファンの関係が意外な形で描かれえている。ハードボイルド作品というわけでもないはずなのに、どこかハードボイルドのような意志を感じられる作品。

 その他に、短編作品のいくつかで、“戦争”を意識するものが扱われているのに驚かされた。どの作品かと言ってしまうとネタバレになってしまうので、それは読んでのお楽しみということで。

 その他、作家とファンの関係、コメディアン、親としての野球選手、不良として学校を退学させられた“ヒーロー”と教師、といった人生模様が描かれている。それぞれの作品に登場する人物の人生のこだわり、すなわち“矜持”が表され、それがどこかハードボイルド作品を思わせるような出来栄えに仕立て上げられている作品集。


殺人は女の仕事   6点

1985年12月 青樹社 単行本
2019年01月 光文社 光文社文庫(短編「美わしの思い出」追加)

<内容>
 「万引き女のセレナーデ」
 「捜査線上のアリア」
 「殺意を抱いて暗がりに」
 「二度死んだ女」
 「毛(ヘアー)」
 「茶の間のオペラ」
 「美わしの思い出」
 「殺人は女の仕事」

<感想>
 色々なタイプの作品が集められたサスペンス・ミステリ作品集。サイコっぽいものからユーモアまで色々な味わいが楽しめる。基本的には女性が主体のミステリというような感じ。

「万引き女のセレナーデ」は、万引きを生業とする女とそれを取り締まるデパート保安係との物語。万引き女のあっけらかんとした性格が小気味いい。

「捜査線上のセレナーデ」は、奇妙な三角関係をめぐる物語に目を惹かれる。
「殺意を抱いて暗がりに」は、主人公にとって良いほうに働いてしまう物語の結末がなんとも。
「二度死んだ女」は、華やかな世界に生きてきた女の老後が現実的に描かれている。
「毛(ヘアー)」は、ちょっと変わった形で描かれる不倫の話。
「茶の間のオペラ」は、娘が嫁いだ家での姑との諍いを描きつつ、実は・・・・・・といったもの。
「美わしの思い出」は、祖母と女子高生の関係を描いているのだが、ちょっと消化不良気味。

最後の「殺人は女の仕事」では、作家に恋する出版社勤務の女を主体とし、タイトル通りのことが起こるのかと思いきや、最後には意外な展開が待ち受ける。

 色々な形で老若男女・・・・・・いや老若女女という感じの話がちりばめられていた。短編集全体で特に統一感はないものの、いつの時代も「女性はたくましい」ということを感じさせるような作品集。


「万引き女のセレナーデ」 万引き女と元刑事で今はデパートの保安係の男の恋。
「捜査線上のアリア」 不良を気取る少年と男を待つ老女、そして刑務所帰りの男らが出会い。
「殺意を抱いて暗がりに」 旦那の不倫で悩む女と通り魔とが出くわしたとき・・・・・・
「二度死んだ女」 ピアノ弾きを生業とする女の人生の顛末。
「毛(ヘアー)」 夫と子供を持つ女の、夜のひと時の楽しみ、そして・・・・・・
「茶の間のオペラ」 作家である未亡人の娘と姑のいさかい? そして自分のところでは!?
「美わしの思い出」 祖母を殴り殺してしまった女子高生。事件前の二人のそれぞれの思い。
「殺人は女の仕事」 出版社勤務の女は女房持ちの作家に恋し、その妻の存在を忌まわしく思い・・・・・・


死だけが私の贈り物   6点

1985年12月 徳間書店 トクマ・ノベルズ
2021年11月 徳間書店 徳間文庫

<内容>
 山田刑事が妻の見舞いのために訪れた病院で偶然聞いた会話と、そこで出会った謎めいた女。その女は、かつて名をはせた女優であり、自分の死を覚悟していた。そして、自分に死が迫る前に3人の人物に復讐を遂げようと計画しており・・・・・・

<感想>
 小泉氏が書いた数少ない長編作品のひとつ。サスペンス風の物語。

 基本的には、元女優による復讐劇が描かれたもの。それを表現・感情豊かに描いているところが本書の特徴。また、その女優の復讐の影に隠れたところにある他の者たちの秘めた想いが、ある種のどんでん返しのように描かれている。陰惨な内容でありつつも、そこにコミカルともいえる山田刑事を登場させることにより、軽めのタッチというような雰囲気を出して読みやすくしている。

 また、本書にはボーナストラックのような形で、この長編の前身となった短編作品が挿入されている。こちらは、本筋こそ同じであるが結末が少々異なるので、その比較を楽しむことができるようになっている。両方合わせて、完全版たる内容と言えよう。


痛みかたみ妬み   5.5点

2017年03月 中央公論新社 中公文庫

<内容>
 「痛 み La Peine」
 「かたみ La Memento」
 「妬 み La Jalousie」
 「セラフィーヌの場合は」
 「切り裂きジャックがやって来る」
 「影とのあいびき」
 「またたかない星」
 「兄は復讐する」
 「オレンジ色のアリバイ」
 「ヘア・スタイル殺人事件」

<感想>
 1980年に双葉社より刊行された「痛みかたみ妬み」に、集英社文庫コバルトシリーズ「またたかない星」に収められていた「またたかない星」と「兄は復讐する」の2編、そして未収録作品である「オレンジ色のアリバイ」と「ヘア・スタイル殺人事件」の2編を収録した作品集。

 ここに掲載されている作品はどれもとっつきやすく、さらっと読めるような内容のものばかり。小説の表紙を見て、一見、硬そうな内容のもののようにも見えてしまうが、そんなことはなく、読みやすいものばかりとなっている。

 ただその分、あっさりとした内容で終わってしまっているものが多いというのも正直なところ。最初の「痛み」は、更生施設のようなところでの女同士のトラブルを描いたもの。話は一見単純のようであり、最後にもうひとひねりあるのかな、と思っていたもののそのまま普通に終わってしまった。

「妬み」という作品もタイトルそのままという感じ。ただ、その次の「かたみ」のほうは、最後にちょっとしたオチを付け加えたものとなっている。これは人妻がホテルで謎の死を遂げており、その相手は誰かということに言及した作品。ちょっとした伏線がはってあるところが絶妙。

 その他、少年少女向けの雑誌に掲載されていたものなどもあるので、ちょっとした内容のものが多いが、それゆえに手軽に読むミステリとしては良いとも言えよう。先にも書いたが、なんとなく書籍自体が堅苦しく見えてしまって、一般の読者を敬遠させてしまいそうなところがもったいないと感じてしまった。


殺さずにはいられない   6点

2017年08月 中央公論新社 中公文庫

<内容>
 「尾行報告書」
 「冷たいのがお好き」
 「血 筋」
 「犯人のお気に入り」
 「子供の情景」
 「突然、氷のごとく」
 「殺人者と踊れば」
 「髪 −かみ−」
 「被告は無罪」
 「殺さずにはいられない」
 「特別エッセイ−My Favorite Mysteries ミステリーひねくれベスト10」
(ショートショート)
 「客にはやさしく」
 「投 書」
 「ボーナスを倍にする方法」
 「ご案内しましょう」
 「ありのまま」
 「プロの心得教えます」

<感想>
 小泉喜美子氏による短編集。1986年に青樹社ビッグブックスから出版された「殺さずにはいられない」に単行本未掲載のショートショートを付け加えたもの。

 30年以上前の作品の割には、今風の感覚で読めるような短編集である。また、女性が描くミステリ短編というのも当時はさほど書き手はいなかったようで、新鮮にとらえられたようである。

 最初の「尾行報告書」からして面白い。読んでいて、だいたいこういう結末だろうなと予想するのだが、それを上回る結末が用意されていて、思わずやられたと思わざるを得ない。他にもそんな作品が多数あり、なかなかあなどれない作品集となっている。

 最後の「殺さずにはいられない」も、まさかの展開により、最初と最後でまったく印象が変わる話となっているところが見事。全体的に読みやすく、楽しめる作品集であった。


月下の蘭/殺人はちょっと面倒   6点

1979年10月 双葉社 単行本(「月下の蘭」)
1985年07月 徳間書店 徳間文庫(「月下の蘭」)
1982年11月 中央公論社 C・NOVELS(「殺人はちょっと面倒」)
2018年02月 東京創元社 創元推理文庫(「月下の蘭/殺人はちょっと面倒」)

<内容>
「月下の蘭」
  月下の蘭 −春は花
  残酷なオルフェ −夏は星
  宵闇の彼方より −秋は蟲
  ロドルフ大公の恋人 −冬は鳥

「殺人はちょっと面倒」
  ラヴ・ホテル<瀧>にて
  殺人はちょっと面倒
  夜のジャスミン
  空白の研究 A Study in Blank

<感想>
 創元推理文庫によって「月下の蘭」と「殺人はちょっと面倒」という二つの短編集がまとめられた作品。

 どの作品も女流作家らしいサスペンスに満ち溢れたものとなっている。「月下の蘭」は、蘭をめでる孤独な女性の感情と秘密がうまく描かれている。「残酷なオルフェ」は、普通のサスペンスのように思わせながら、最後に意外な展開を見せるところがみどころ。「宵闇の彼方より」は、読み終えてみると、何気にホラー色が強い作品であることがわかる。「ロドルフ大公の恋人」は、内容のみならず、語り手といってもよい山男が妙な存在感を示すことに驚かされる。

「ラヴ・ホテル<瀧>にて」は、読み終えたのちに、全てが計画的犯行であると考えると恐ろしくなる。「殺人はちょっと面倒」は、タイトルの通りなるほどと思わざるを得ない。確かに小説ではなく、普通の感情であればそうだろうなぁと。その後2編の「夜のジャスミン」と「空白の研究」は、あまり印象に残らなかった。「空白の研究」あたりは、もっと劇的な終幕を迎えると思っていたのだが。

 ふたつの短編集が掲載されるという豪華さであるが、内容としては「月下の蘭」のほうの4作品のほうが面白く読むことができた。それぞれの作品に季節とテーマを設定したというところもまた、ひとつの味となっているのであろう。


「月下の蘭」 蘭を好む孤独な義姉が企てた計画? もしくは秘めたる想い。
「残酷なオルフェ」 新人の女優に恋した男は邪魔になったベテラン女優を消そうとするが・・・・・・
「宵闇の彼方より」 ベテラン作家が地方の病院で変死を遂げた真相とは!?
「ロドルフ大公の恋人」 山男が語る人里離れた山荘で起きた事件。

「ラヴ・ホテル<瀧>にて」 弱みを握られ脅迫された“ミス・ニッポン”。
「殺人はちょっと面倒」 子供をはらまされて捨てられた芸者がとった行動は?
「夜のジャスミン」 何者かに狙われているという隠遁した男が抱えている秘密とは?
「空白の研究 A Study in Blank」 20号室の患者は、夜な夜な出かけている??


ミステリー作家は二度死ぬ   5.5点

2020年05月 光文社 光文社文庫

<内容>
 「木美子の冒険」 (『幻想マーマレード』)
 「初心者の幸運」
 「ばらばら」 (『幻想マーマレード』)
 「ぼくと遊ぼう」
 「グレン・ミラー殺人事件」
 「生まれながらの悪女」
 「船路の果てに」
 「南の国の鸚鵡たち」 (『幻想マーマレード』)
 「暗いクラブで逢おう」 (『暗いクラブで逢おう』)
 「日曜日は天国」 (『暗いクラブで逢おう』)

<感想>
「幻想マーマレード」から3作品、「暗いクラブで逢おう」から2作品、その他単行本未収録作品が5編収録された作品集。作家・小泉喜美子を堪能できる作品集と言ってよいであろう。

 特に特筆すべきテーマなどがあるものではなく、なんとなく面白そうな作品が集められたという感じ。今となっては、女流ミステリ作家というのも珍しくはないものの、かつてそれが少なかった時代に書かれた稀有な存在というところがポイントであるのかもしれない。特に最初の「木美子の冒険」あたりには、それがいかんなく発揮されているように思えた。大きな事件が起きる話ではないのだが、女性ミステリー作家のとある1日を描き上げた物語にはポップで溌剌とした雰囲気を感じ取ることができる。

 他の作品も、強烈な味わいを残すというものはないものの、それぞれが軽い味わいで、雰囲気を楽しむことができるようになっている。といいつつも、ちょっとしたどんでん返しがある作品も含まれていたりと内容も楽しむことができるので全体的にライトな感覚でミステリ小説を堪能できる作品集となっている。




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