神津恭介 長編  作品別 内容・感想

呪縛の家   6点

1954年12月 和同出版社 単行本
1973年04月 光文社 単行本
1995年07月 光文社 光文社文庫

<内容>
 松下研三は、旧友・卜部鴻一から手紙をもらい、人里離れた八坂村へと向かう。そこには、戦前に栄えていた紅霊教という宗教団体の本部があった。しかし、現在はさびれ、教祖である鴻一の伯父と三人の孫娘たちが住むばかりとなっていた。そんなさびれた教団を何者かが狙っているようで、彼らの死が予言されていたのだ。そして、松下が現地についてから、その予言通りに殺人事件が起こり始める。風呂場での密室殺人、短刀にこだわる犯人、消えた七匹の黒猫、さらなる殺人事件が次々と・・・・・・。遅れて現地に到着した神津恭介が解き明かす真相とは!?

<感想>
 レトロと近代の狭間にあるミステリという感触。まるで金田一耕助シリーズのような予言された見立て連続殺人事件。ただ、そうした古めかしい雰囲気の中にも、捜査の様子とか、言葉の端々に近代化の波を感じ取れるようになっている。ちょうど、戦前から戦後に栄えた本格ミステリから、昭和後期にブームとなった新本格ミステリの間をつなぐものとして、高木氏の作品がそこにあったということが著実に感じとることができる。

 いかにも本格ミステリらしい雰囲気と仕掛け。さらには、神津恭介という名探偵の存在。なんとなく、金田一方式というか、理論的な事件の解き明かしというよりも、最後に犯人を罠にかけて、真相を導き出すというところは、本格ミステリというには微妙とも思えなくもない。それでも、作中に多々用いられるミステリ的な要素はてんこ盛り。ちなみに本書には“読者への挑戦”もついているのだが、何故か“読者への挑発”気味になっている。

 なんだかんだ言って、特筆すべきなのは密室殺人のような気もするのだが、個人的には犯人の動機のほうが注目すべきポイントのようにも思える。現代では考えられないような動機が横たわっているのだが(隠されてはおらず、作中であからさまとなってはいるのだが)、その異様さこそがその時代に書かれたミステリとして確立されていると感じられるのである。


人形はなぜ殺される   6点

1955年11月 大日本雄弁会講談社 書下ろし長編探偵小説全集7
2006年04月 光文社 光文社文庫(新装版)

<内容>
 アマチュアの奇術師たちが集まるイベントの際に、楽屋で起きた“人形の首”の消失事件。それを皮切りに、今度は列車によって人形が轢かれた後に、人間が列車により轢き殺されるという連続(?)轢死事件。さらに連続して起こる殺人事件。犯人は莫大な遺産目当てに殺人を起こしているのか? それとも会社の利権を狙っての殺人なのか? 動機がはっきりしないまま探偵・神津恭介は犯人により振り回され・・・・・・

 「罪なき罪人」
 「蛇の環」

<感想>
 過去に読んだことはあるはずだが、ずいぶんと前の事なので新装版を購入して再読。その新装版も買ったのはずいぶんと前であったが。この新装版には、神津恭介が活躍する短編「罪なき罪人」と「蛇の環」の2編が併録されている。

 魔術師協会がらみの人形を巡る事件と、そこから派生する殺人事件。特に着目すべき事件は2つ目の事件である人形が列車に轢かれ、その後すぐに今度は人が列車に轢かれるというもの。ここで、人形が列車に轢かれたのは何故か? 何故このような面倒なことをわざわざ犯人は成したのか? というところが焦点となる。

 トリックに関しては面白いとも捉えられるのだが、なんとも全体的に煩雑な感じがする。結構、高木氏の作風自体がそのような感じがするのだが、序盤に登場人物が一堂に介してという感じではなく、話が進むにつれて徐々に登場人物が増えていくという感じになっている。その都度、設定なども追加され、話が進行しつつ、全貌が徐々に見えてくるという感じに描かれているゆえに、全体的な煩雑さというか、わかりにくさに繋がってしまうように思われる。登場人物や背景がもっとスッキリしていれば、作品全体がもっと明快になるように思えるのだが、こういった書き方が作風であるとすれば致し方のない事。

 他にも事件は起こるのだが、最終的に解が明らかにされれば、第二の列車による轢死事件が一番のメインという気がした。その後の事件はやや行き当たりばったり的な感じがしたので、全体的にもう少し計画性が見られれば、もっと事件全体も栄えたように思われる。面白い作品であると思われるが、読み終えてどこかモヤモヤ感が残ってしまう。


成吉思汗の秘密   7点

1958年10月 光文社 単行本
2005年04月 光文社 光文社文庫

<内容>
 急性盲腸炎にて、しばらく入院することになった探偵・神津恭介。病床で暇を持て余していた神津は見舞いに来てくれた友人の松下研三に退屈を紛らわせる方法はないかと問いかける。そこでジョセフィン・テイの「時の娘」に倣って、歴史上の謎を解き明かしてみてはどうかということになる。題材は、源義経は成吉思汗と同一人物であったのか、というもの。神津恭介が歴史上の一人二役の大トリックに挑む!!

<感想>
 昔に読んだ記憶があるものの、よく覚えていなかったので、今更ながら再読。何気に高木氏の作品の中で、他の本格ミステリ作品よりも、この作品が一番有名という可能性もありそうな気がする。

 本書は、ジョセフィン・テイの「時の娘」に触発され、また著者が義経ゆかりの地といわれた青森で生まれたことも関係し、書き上げることとなった作品とのこと。こういった歴史ミステリとしては、日本の作品のなかでは一番有名な気がする(他にはあまりなかったような)。

 中身としては普通に面白いなと。義経や成吉思汗の歴史を紐解いていく様子を見ているだけで楽しめる。歴史学の関係者から見れば、どうかと思えるところもあるかもしれないが、むしろ歴史学に直接関係のない人がこのような調査・研究をするというのは結構意義のあることだと思われる。それまでには成されなかったアプローチが成されたということもあったのではなかろうか。

 この作品を読んでいて、何故、義経=成吉思汗という発想が生れたのかということを考えたのだが、それはひとえに“成吉思汗”という人物が不明な点が多いからであろう。本国ではもっと詳細に語り継がれているのかもしれないが、日本ではいまいち不明な歴史上の人物であると思われる。その具体性のなさゆえに、このような発想が生れたのであろう。ひょっとすると、他の国でもその時代に生きていた英雄が成吉思汗と同一人物と考えられているような例があるかもしれない。

 ということで、歴史ものの作品として面白く読むことができた。なんとなくトンデモ系のような説でありながらも、それを真面目にしっかりと検証し、なんとなく史実のように思わせてしまうような書き方に魅入られてしまった。妙な説得力を持っているところが本書の魅力とも言えよう。


死神の座   7点

1960年01月 講談社 単行本
1996年12月 光文社 光文社文庫

<内容>
 資産家の友人と軽井沢へ出かけるはずの神津恭介であったが、時間になっても友人はやってこず単身列車に乗り込むことに。友人が乗り込むはずの隣の席に、奇妙な女が座り、占星学の話をし始める。そのなかで“死神の座”という言葉が出てきて、軽井沢で死が訪れることを女は予言する。そんな不思議な出会いを遂げ、軽井沢でホテルの泊まる神津であったが、そのホテル内で殺人事件に遭遇する。顔をつぶされて身元がわからなくなった死体の男は西野という名前で宿泊していたのだが、その西野と名乗る男がホテルに宿泊にやってくることに! 神津恭介は連続殺人事件に巻き込まれてゆくこととなり・・・・・・

<感想>
 これは面白かった。連続殺人事件を描いた作品であるものの、その流れが意表を突く連続となっており、先を見通すことができないような展開。中盤くらいに来て、事件の目的が明らかになるにつれて全体的に落ち着いてくるような感じにはなるものの、それでも真犯人の存在自体が五里霧中というような状態。全体的に謎が深いという印象のミステリが展開されている。

 初っ端から神津恭介が出てきていて、最初から最後まで出ずっぱりとなる。電車車中にて、占星学を語る女と出会い、突如死を予言してくる。そこから、顔をつぶされた死体の発見。その身元にまつわる謎。そして、事件の大きな根底となっていそうな資産家の後継ぎの娘を巡る5人の男たちによる競争。さらには、占星学に関わりそうな謎の手記と宝(?)探し。当然のごとく起きる連続殺人事件と、ミステリ要素がまさにてんこ盛り。

 こういった内容であれば、最初に資産家の後継ぎを巡る5人の男が出てきて、そこから犯罪が起きるという展開になりそうなもの。それがこの作品では、事件後にその様相が徐々に明らかになるという流れで表されており、この辺はすごく工夫がなされていると感じられた。序盤はとにかく、未知なることが色々と起こって行って、内容についていけなくなりそうなほどであった。それが、色々と事件が起きて、さらないる調査が行われるにつれ、段々と全体のピースがはまっていて、全ての犯罪模様が明らかになっていくという描き方は素晴らしかったと思われる。

 特に派手なトリックとか、印象に残るような強烈な犯罪とかがあるわけではないのだが、物語の展開に惹かれた作品。これはうまく描いたミステリ作品であるなと、ただただ感嘆。


邪馬台国の秘密   5.5点

1973年12月 光文社 カッパ・ノベルス
2006年10月 光文社 光文社文庫(新装版)

<内容>
 急性肝炎にかかり、入院することとなった神津恭介。暇を持てあましていた神津は見舞いに来た松下研三に何か面白そうな歴史の謎解きテーマはないかと尋ねる。以前にも入院したおりに、「成吉思汗の秘密」に着手したことを思い出し、今回もこの時間を利用して歴史ミステリに挑戦しようというのである。そこで松下の小説のネタとして考えていた“邪馬台国”の秘密に取り組むこととなる。“邪馬台国”はどこにあるのか!? 神津恭介が導き出した真相はいかに!!

<感想>
「成吉思汗の秘密」に続いて、著者の高木彬光氏が神津恭介の名のもとに歴史ミステリに挑戦した作品。今回はタイトルの通り、“邪馬台国”の謎に挑戦したものとなっている。

 今作に関する感想は、正直なところ、ただただ退屈であったと。というのは、この“邪馬台国”という謎に関しては、登場人物がほとんどいないゆえに物語として語られるところがないからである。それゆえに、“邪馬台国の謎”に関して言えば、その場所のみにほぼスポットが当てられることとなる。よって、作中のほとんどが場所の検証を過去の文献から距離で割り出すという行為ばかりになっているのである。

 ということで、実際にマニアックに“邪馬台国”について知りたい、もしくは調べたいというような人でなければ、なかなか楽しめない作品であると思われる。さらにいえば、日本史のなかでも、あまりに昔の事であるので、信頼できる文献というものがほとんどなく、存在する文献に関してもどこまでが正しく記載されているものかわからないというところが、この謎をさらに不可解なものとしているのであろう。それ故に、今後も謎であり続けそうな題材であると思われる。


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