その他の作家 か行 作品別 内容・感想

龍神池の小さな死体   7点

1979年06月 講談社 単行本
1985年12月 勁文社 ケイブンシャ文庫
2022年04月 徳間書店 徳間文庫(「梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1」)

<内容>
 大学教授の仲城智一は、死の間際の母から「お前の弟は殺された」と告げられる。弟は幼少期に地方へ疎開しており、その疎開先の池で溺れ死んでいるのを発見されたという。その死には、何か秘密が隠されていたというのか? 仲城はダムに使用されているコンクリートの亀裂に関する大事な実験の最中であったが、合間を見つけ、弟のかつての疎開先である千葉の寒村・山蔵を訪ねることに。その村でかつての昔の事件を調べようとするものの、大昔の話であり、なかなか調査を進めることはできなかった。残してきた実験を続けるために大学へ帰ろうとする仲城であったが、何者かに襲われ・・・・・・

<感想>
 過去に多くの作品を書いた作家・梶龍雄氏ということであるのだが、現在そのほとんどが入手不可となっているようで、発掘コレクションという位置づけて復刊された作品。復刊されてから半年くらいたってからの購入となったのだが、これが読んでみてなかなか面白かった。

 実は、読み始めた最初の方は、あまり面白い作品とは思えなかった。社会的背景として戦後色が強く、疎開とか学生運動とか、そういったワードが出てきて、あまり好みのタイプの作品ではないなと思ってしまった。また、物語前半は、過去に起きた弟の不審な死に関して調べてゆくというものの、その調査が全然進まず、大した出来事も起きないゆえに、退屈な作品としてしか捉えることができなかった。

 それが中盤くらいから話が大きく動いてきて、それにより本書に対する印象は大きく変わることとなる。中盤過ぎてから、ようやくミステリらしい展開となるのだが、その展開が思いもよらぬものが主題となり意外な方向へと進んでゆくことにより驚かされる。今までの龍神池の調査はなんだったのかと思えるようなミステリが展開してゆく。

 そうこうしていくうちに、話が収束されてきて、結局龍神池の事件は・・・・・・と思っていたら、そちらのほうも最後の最後でしっかりと回収されていくこととなる。大学教授の仲城に関する事件と、過去に起きた龍神池の事件が、とあるひとつの事項により結びつかれることにより、ひとつの大きな構図が見えてくるというように描かれているのである。

 いや、これは復刊されるのも納得と言わざるを得ない作品であった。これは未読のミステリファンに対しては、是非ともお薦めしておきたい作品。入手しやすいうちに、是非とも一読いただきたい。


リア王密室に死す   6点

1982年10月 講談社 講談社ノベルス
1990年04月 徳間書店 徳間文庫
2022年09月 徳間書店 徳間文庫(「梶龍雄 青春迷路ミステリコレクション1」)

<内容>
 昭和23年、京都の第三高等学校、1年生の“ボン”こと木津武志は観光案内のバイトから下宿先へ帰ると、部屋の前に同級生の“バールト”が待っていた。彼はボンと同部屋に住む“リア王”こと伊場富三が中で倒れていると慌てた様子。ボンは急いで鍵を出して部屋に入ると、そこでリア王の遺体を発見することに。これは密室での殺人事件なのか!? 容疑は鍵を持っていた“ボン”にかかり、しかも事件が起きたと思われる時間、“ボン”は観光案内を頼まれた相手と奇妙なやり取りをするという不自然なアリバイしかなく・・・・・・

<感想>
「龍神池の小さな死体」に続く、梶龍雄ミステリコレクション作品。別にシリーズ作品ではないので、どちらを手に取っても特に問題はない。表紙とかの印象で興味を持った方から読んでみてはいかがかと。

 学生青春ミステリという感じで楽しめる内容。登場人物らが本名ではなく“カミソリ”とか“バールト”とか“ライヒ”などと呼ばれているのは、新本格ミステリ以前に書かれた小説としては珍しいような。ちなみにタイトルにある“リア王”というのも一人の学生のあだ名である。

 感覚的には新しい作品という感じはするのだが、それでも時代背景が古いためか、全体的に重苦しいという印象は強い。また、基本となる事件が最初に起きる密室殺人事件のみなので、読んでいてやや中ダレしてしまった。

 読み終えてしまえば、うまくできた作品だなと感嘆させられるものとなっている。ただ、学生の名をあだ名を用いて描いたりしているところは、やや時代を先取りしすぎていたのではないかと感じてしまう。その当時、どのような評価を受けた作品なのか気になるところ。個人的にはバブル期後くらいの時代背景で描かれた作品であれば、もう少し取っつきやすかったのではないのかなと。どうしても“戦後”という雰囲気が重くのしかかってしまっているような。


清里高原殺人別荘   7点

1988年11月 立風書房 Rippu novels
2023年02月 徳間書店 徳間文庫(「梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション2」)

<内容>
 冬、とある資産家の別荘に忍び込む5人の男女。彼らはとある目的により、誰もいない別荘に一時的に身を潜めようとしていた。しかし、その別荘内にひとりの女が滞在しており、計画は狂い始める。外部の協力者と連絡をとりつつ、計画が進めば別荘を離れるつもりの男女5人であったが、その別荘で殺人事件が起きることに。雪山の山荘のなかで、外部からの侵入は考えられない中、いったい誰が事件を起こしたのか? どうやら別の人物が別荘内に潜んでいるのではという疑いがもたれたとき、さらなる殺人事件が起き・・・・・・

<感想>
 徳間文庫からの梶龍雄氏の復刊作品3作目。梶氏の作品は、初めて読むものばかりなので、新刊感覚で楽しめる。

 今作は、“雪に閉ざされた山荘ミステリ”のような様相を示している。下界から閉ざされた別荘にて、連続殺人事件が起きるというもの。ただし、この作品にはひとつの変わった特徴がある。それは山荘にやってきた者たちが、なんらかの事件を抱えており、あえて自分たちの手で外界からの通信手段を閉ざし(一部だけ残したまま)、自ら山荘に引きこもるというもの。連続殺人の謎のみならず、彼らの抱えているもの自体も謎となっている。

 一見、探偵もいなさそうな状況で、そんな事件が起きて事態がきちんと収拾されるのかさえ疑いたくなるものの、それがまたきちんとした解決が図られた作品となっている。論理性と意外性の両方を持ち合わせた作品として、実にうまくできたミステリ小説であった。むしろ、今まで復刊されていなかったのが不思議なくらい。


若きウェルテルの怪死   6.5点

1983年07月 講談社 講談社ノベルス
1991年01月 徳間書店 徳間文庫
2023年04月 徳間書店 徳間文庫(「梶龍雄 青春迷路ミステリコレクション2」)

<内容>
 ゲーテの著書「若きウェルテルの悩み」の影響で青年の自殺がブームとなった昭和9年。旧制二高生の金谷の友人の掘分が死亡するという事件が起きた。堀分は大平博士の屋敷に下宿していたのだが、特に何の兆候もなかったものの、睡眠薬を飲んで死亡してしまったのだ。警察は自殺という判断を下したものの、金谷はその死に不審なものを感じ、事件について調べ始める。すると、博士の家から貴重な化石が盗まれていることがわかり、また東北反戦同盟の暗躍や特高警察の姿までもが見え隠れし・・・・・・

<感想>
 梶龍雄氏の復刊コレクション4冊目。今回は「リア王密室に死す」に続く“青春迷路ミステリコレクション”の2冊目となっている。ただ、読んだ感想としてはこの“青春迷路ミステリコレクション”のほうは、個人的に作風として好みのものではない感じ。

 本書はミステリとしてはそれなりに面白く見所のある作品となっているものの、反戦運動とか、特高警察とかに関わるような時代背景が、ただただ好みではない。元々戦争に関わる時代背景の濃いものが好きではないので、本書の“青春”という部分ではなく、そこに関わる時代背景に食傷気味になってしまう。

 また、この作品、出だしは学生の自殺を巡る話となっているので、ミステリとしてはやや漠然としたものになっているので、序盤はあまり楽しめなかった。しかし、中盤以降、その自殺事件から派生するような事件がいくつか置き、さらには新たな事象が明らかになりと、ミステリ小説として段々と面白くなっていくこととなる。

 最終的に明らかになる真相はなかなかのものであったなと。意外性があり、事件に対する思いもよらない動機が浮かび上がり、事件全体を見事にまとめるものとなっている。また、どんでん返しというほどではないにしろ、真相の裏に、さらに隠された真相などという風にうまく創りこまれており、読み終えたころには、これはうまくできたミステリ小説だと感嘆させられることとなる。読み終えてみれば、日記という形式による、主人公目線で語られる物語というものがうまく心理的な効果をあげることとなったように思われる。


葉山宝石館の惨劇   6点

1989年03月 大陸書房 Tairiku novels
2023年08月 徳間書店 徳間文庫(「梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション3」)

<内容>
 帆村財閥の帆村建夫が葉山に設立した施設宝石館。その館に帆村家の長女・三枝を巡って、男たちが集まり、日々パーティーが繰り広げられる。そうしたなか、館で密室殺人事件が起きることに。その後、連続して殺人事件が起き、それぞれの事件で同一犯であることを示すかのように、死体に同じような痕跡が残される。しかも、高価な宝石があるにもかかわらず、それらには全く手が付けられていないまま。いったい犯人は何を目的に殺人を繰り返すのか!?

<感想>
“少年が見ていた”というのがテーマとなっているのか、少年の手記と警察の捜査の様子が交互に展開されるという構成の作品。ただ、この少年の手記のパートがどこまで必要であったのかは疑問を感じるところである。

 宝石館を中心にその館の持ち主のパーティーに参加している者達が次々と殺害されるという事件が起きる。ただ、この事件の様子なのであるが、事件後に警察の捜査により語られるという形式であるため、集められた人々の人間関係やその周辺背景というのが非常にわかりにくいものとなっている。一応、警察の尋問によって明らかになってはゆくものの、そのへんの人間関係の部分をもっと丁寧に描いてもらいたかったところ。この辺が、少年の手記を主体としたゆえの弊害のように感じられてしまった。

 最後の最後で明かされる真相についてはなるほどと感心させられるものではあるのだが、前述したように主要家族とその周辺の背景や全景などがきちんと描かれていないがゆえに、関心が薄れてしまう。書き方によっては、もう少し面白そうな内容になったと思われるので、惜しい気がする作品。


海鰻荘奇談   6点

2017年11月 河出書房新社 河出文庫

<内容>
 「オラン・ペンデクの復讐」
 「オラン・ペンデク後日譚」
 「オラン・ペンデク射殺事件」
 「海鰻荘奇談」
 「海鰻荘後日譚」
 「処女水」
 「蜥蜴の島」
 「月ぞ悪魔」
 「蝋燭売り」
 「妖蝶記」

<感想>
 香山滋氏といえば、“ゴジラ”の原作者として知られる人物であるが、本書はその著者の原点を知ることができる作品集となっている。

 ここに取り上げられている作品は、1947年から1958年にかけて様々な雑誌(「宝石」など)に掲載されたものである。どれもが冒険小説となっており、さらにはそのどれもが“秘境”を思わせるようなものとなっており、そこに著者独自の作風というものを感じ取ることができる。

 最初の3作品は“オラン・ペンデク”という新種の人種をとりあげたものとなっており、単なる冒険譚というだけでなく、ミステリ的なものも感じさせるような内容に仕上げられている。ただ、肝心の“オラン・ペンデク”というものの設定が微妙であるような感じは否めないが、あえてそういった特殊なものを持ち出してきたところは賞賛すべきところなのであろう。ただ、それならばいっそうのこと、オラン・ペンデクのみで一冊の作品を仕上げたら良かったのではないかと思えてならない。

「海鰻荘奇談」とその後日譚は、2作でひとつのセットというようなもの。一見、普通のミステリ小説のような形態をとっているのだが、子供たちの出自をあえて異様なものにしてしまうところが変わり種と言えよう。それにより、普通の別荘でのミステリが一気に、魔境的な味わいに変わってゆくことに。

 美少女と怪奇な容貌の教師との恋(?)の行く末を描いた「処女水」
 謎の生物の正体が明かされる「蜥蜴の島」
 雑誌記者が老紳士から聞いた、海外で遭遇した見世物女との恋を語る「月ぞ悪魔」
 謎の蝋燭売りの蝋燭を通して描く男の女の秘め事を幻想的に描いた「蝋燭売り」
 幻惑的な“蝶”にたぶらかされる男の行く末を描く「妖蝶記」

“オラン・ペンデク”や“海鰻荘”意外の作品のどれもが怪しげな“魔境”的なものを思い起こさせるようなものとなっており、妖しい幻惑と冒険心に彩られた作品集となっている。ミステリ的な内容ではないものの、昭和に描かれた冒険的幻想譚として楽しむことができる。


三面鏡の恐怖   5.5点

1948年07月 高志書房
2018年03月 河出書房新社 河出文庫

<内容>
 会社社長・真山十吉の前に現れた女は、昔別れた恋人そっくりであった。ただ、その恋人はすでに亡くなったはず。話を聞いてみると、彼女は真山がかつて交際していた尾崎嘉代子の妹で伊都子だという。二人は会うたびに惹かれ合い、やがて結婚することに。その後、真山の会社の経営に関連した事件が起こることとなり・・・・・・

<感想>
 話の最初に、この作品はエログロの探偵小説ではなく・・・・・・といったような内容がわざわざ書かれている。これは、当時の探偵小説に対する偏見が強かったのであろうかと想像する。本書を読むと、普通の社会派っぽいミステリ作品という感じであったが、この当時はこのような作風のミステリはまだ書かれていなかったという事なのであろうか。

 ページが薄めで、あっさり目のミステリという感触の内容。かつての交際相手の妹と再婚することとなった会社社長にまつわる事件を描いている。社内での内紛、過去の恋愛模様から派生した復讐劇、会社社長の地位に対する嫉妬、そういったものが絡み合って起こる事件。果たして、事の真相は・・・・・・

 タイトルにある“三面鏡”に込められた心理的な意味合いが面白い。全体的には薄味で、ちょっとそれぞれの要素について描き足りないような気がした。まぁ、それでも書かれた時代から考えると、社会派ミステリの先駆け的な作品と言えるのかもしれない。


怪人二十面相・伝 <完全版>   5点

1989年02月 新潮社 単行本(前編)
1991年01月 新潮社 単行本(後編)
2002年12月 出版芸術社 ふしぎ文学館(完全版)

<内容>
 昭和の時代に世間をにぎわせた怪人二十面相。その正体はサーカスの団員であった武井丈吉という男であった。丈吉はサーカスで学んだ技、そして自分で考案したさまざまな手妻を使うことによって、世間のその名を知らしめ、やがて怪盗と呼ばれるようになってゆく。そして、名探偵明智小五郎と小林少年との因縁。さらには、丈吉の跡を継ぎ二十面相を名乗る事となる、かつてのサーカス団の弟子・平吉。怪人二十面相に隠された真実が今明かされる。

<感想>
 この作品は昔ハヤカワ文庫で読んだ事があるのだが、ほとんどその内容を覚えていなかった。今現在、ちょうど江戸川乱歩全集を読んでいるところなので、タイトルを見て、かつ完全版ということなので購入して読んでみたしだいである。

 ただ読んでみた感想としては結構不満が多い。といってもその不満とは作品自体というよりは、そのスタンスにある。本書では“怪人二十面相”をにくめない人望のある人物として描き、探偵の明智や小林少年については非常に嫌な人物として描いているのである。その事については著者が江戸川乱歩シリーズを読んだことによって感じたものを一つの作品にしたわけであるから良いも悪いもないのだが、いくらなんでも特に探偵の性格の差異については極端すぎるのではと感じられた。

 また、怪人二十面相を元サーカス団の団員として設定するまではいいとしても、その後の怪盗としての活動が不十分にしか描かれていない。できればもっとアイディアを取り入れて書いてもらいたかったところだが、この辺はあくまでも乱歩作品を下地にして、それ以上のアイディアというものは見られなかったように思える。

 そして、特に平吉が名乗る二十面相に関しては自分のアイディアがなく先代のノートを見て泥棒修行をしたりとか、また明智と二十面相の闘いがほとんど両者の談合によって行われているといったところもどうかと思われる。

 ある程度のリアリティを用いて二十面相を描いたようではあるが、変にリアリティ過ぎて、二十面相が単なる庶民としか感じられないように思えてしまうのは、何か残念な気がする。これはあくまでも私見であるが、私にとっては二十面相というのはもっと超人的な人間のように感じられたからこそ、この作品が残念に思えてしまうのだろう。

 まぁ、あくまでも著者の思いをぶつけた本という位置付けで良いのであろう。ある種の二十面相研究書と言ってもよいかもしれない。


いつ殺される   6点

1957年11月 春陽堂書店 「長編探偵小説全集 第十二巻」
2017年12月 河出書房新社 河出文庫

<内容>
 作家の野津田は糖尿病になりかけ急遽病院に入院することとなった。そのときひと悶着遭って、どの病室に入るかなかなか決まらなかったのだが、最終的に東病棟第四号室に決まった。実は、そこはいわくつきの部屋であり、幽霊が出るという噂が!? なぜそのような噂があるのかというと、役人の横領・心中事件の後、当の男女がここに入院したという。ただし、男は死亡し、女は病院から逃亡した後入水自殺をしたという。さらには、役人が横領した八千万円の行方がわからないままだとか。野津田は妻と友人の石毛警部の力を借り、事件を追うことにしたのだが・・・・・・

<感想>
 楠田匡介という名前は聞いていたものの、どうやら長編小説を読むのは初めてのよう。何気に有名な小説家のような気もするが(似たような名前の別の人と間違えているのかも)、今の時代に入手しやすい長編小説は少ないようである。ひょっとすると、今後この河出文庫で紹介されることになるかもしれない。

 この作品、導入はなかなか面白い。いわくつきの病室に入院した作家が暇をもてあまり、病室に出るといわれる幽霊の正体を追っていくというもの。その病室では8千万円を横領した役人が心中事件を起こしたのちに死亡した場所といわれ、しかも8千万円の行方が未だにわかっていないというのである。当の作家とその妻、さらには友人の警察官の協力を得て、事件に対する詳細な捜査が始まってゆく。

 というところまでは面白かったのだが、後の展開がいまいち。普通に物語が流れてゆけばすむところを、無駄に複雑にしてしまっているという感じがした。特に、犯人ら首謀者たちのひとりが作家の妻に似ているとかは無駄なギミックであったとしかとらえられなかった。

 ユーモア小説的な作風も相まみえて、なかなか読ませる小説に仕上げられているだけに、後半になるにつれ、話がグダグダになってくるところが惜しかったかなと。もう少し、ページ数を削って、締まった作品とすれば、それなりの有名作となったのではなかろうか。


蟇屋敷の殺人   5.5点

1950年11月 湊書房
2017年05月 河出書房新社 河出文庫

<内容>
 東京・丸の内の路上に止められた自動車内から首切り死体が発見された。自動車の持ち主を調べると、資産家の熊丸猛のものとわかり、当の熊丸が殺害されたのかと思いきや、当人はちゃんと生きているのが発見された。では、自動車のなかで発見された熊丸に似た死体はいったい誰なのか? この不思議な事件に関わることとなった探偵小説家の村橋信太郎は、熊丸の家を訪れる。するとそこは多くのカエルが集められた“蟇屋敷”として近所では有名な曰く付きの屋敷だった。村橋はその後さまざまな怪事に遭遇することとなり・・・・・・

<感想>
 出だしは本格ミステリっぽい始まり方であるのだが、話が進んでゆくとジュブナイル風のサスペンス冒険小説となってゆく。また、サスペンスはサスペンスでもどこか白々しいような感触の内容。なにしろ徹頭徹尾、
 「危ないから近づくな、かかわるな!」
 「何が危ないんだ?」
 「それは言えない」
という繰り返し。もう少し工夫できなかったものかと。

 物語上の謎となっている、よく似た男の秘密とか、蟇屋敷の秘密とかに関しては非常にわかりやすいもの。まぁ、元々そんなガチガチのミステリ小説として書かれた作品ではなく、娯楽大衆小説として書かれたのかなというような印象を受ける。


疑問の黒枠   5.5点

1927年 雑誌により連載
1956年09月 河出書房 「探偵小説名作全集・2 小酒井不木・甲賀三郎集」収録
2017年09月 河出書房新社 河出文庫

<内容>
 商事会社社長・村井喜七郎。生きているにも関わらず、何故か彼の死亡広告が新聞に掲載されてしまう。冗談好きの村井は、これを利用して模擬生前葬と還暦祝いを企画することに。すると、親族らの嫌な予感があたり、生きていたはずの村井喜七郎が棺桶のなかで死体として発見される。しかも、その後死体が消失するという事態までが起きてしまう。門前署刑事・鹿島、喜七郎の娘の婚約者・中沢保は、法医学者・小窪介三の力を借りて真相を探ろうと・・・・・・

<感想>
 最近、河出文庫から“KAWAEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ”として、ミステリ小説の古典作品が復刊されている。それによりさまざまな作品に触れることができるようになった。しかし、そこで感じたのは昔のミステリ小説の作風というか構造が今とはずいぶんと異なっているなと。本格ミステリっぽい展開を期待して読むものの、そのどれもが冒険小説っぽい展開となっているのである。実際のところ、今でいう本格ミステリと過去の本格ミステリとでは、だいぶ構造の違うものであるのではないかと、最近にしてようやく感じるようになってきた。

 そこで本書「疑問の黒枠」についても、同様のことが言える。序盤は、謎の毒殺、死体の消失、そして怪しげな登場人物たちと、本格ミステリっぽい展開で始まるものの、途中からは他の古典的ミステリ作品と同様に、いささか冒険小説っぽいような展開となる。それでもこの作品はまだ、冒険小説っぽさが幾分抑えられていたかなと思いつつも、もうちょっと本格色が濃ければなと、感じずにはいられなかった。

 内容は面白いものの、いささか荒々しさが目立つ作品。重要容疑者であった人物について、あっさり目に物語上スルーしていったり、伏線の回収が雑であったりと、どこか大雑把なミステリ。探偵役として活躍を期待させられた法医学者の扱いについてもいささか荒々しい。全体的に微妙だと思いつつも、昔のミステリ作品ってだいたいこんな感じだったのだろうと、納得せざるを得ないのであろう。




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