<内容>
「危険区域」
「顔」
「魔 火」
「通 訳」
<感想>
2020年の復刊フェアで購入した作品。プロバビリティの犯罪というものを扱った内容の作品とのこと。そのプロバビリティの犯罪とは、“階段にビー玉を放置して相手が転落死するのを待つ”といったような確実性に乏しくも疑われる危険も少ない犯罪のことを示している。
本書は連作短編となっていて、女学生である4人の少女、冬都、春都、夏都、秋都がそれぞれ事件に関わる様子を描くものとなっている。ちなみに4人は知り合いで(姉妹ではない)、すべての作品に4人が登場している。
最初の冬都が主観となる事件は、冬都が良く思っていない気が強い人物に対し、スケートをしている際に、あえて危険を強調し氷が薄くなっている地点へ誘導するという事件を描いている。その後、冬都は自身の行動を悔いることとなる。本書では4人の少女が、それぞれ事件に関わりつつ、それらを悔いるような内容のものばかり。この“悔いる”という部分についてはちょっと違和感を感じてしまった。
というのも、最近のミステリでは悪女が出てくるものが多かったり、イヤミスと呼ばれるものが多く書かれているせいか、このようにくよくよ悩む女性というのは、どうも感覚的にそぐわなかった。しかも、自身があくまでも事の発端であるのならば、もっと開き直っても良いのではないかと思われる。また、プロバビリティの犯罪というのであれば、容疑者から外れたところにいるゆえに、余計にもっと堂々としていてよいのではないかと感じられた。
また、プロバビリティの犯罪といいつつも、それに該当するのは最初の氷上の事件のみで、あとの3つは主人公たちが直接的な原因にはなっていないので、ちょっと趣旨と違うのではないかと感じてしまった。それゆえに、余計に事件に対してくよくよしている当事者たちの感情が理解できなかった。ひょっとしたら、これら主人公たちはプロバビリティの犯罪云々というものではなく、事件に関わることにより悲劇のヒロイン的な扱いを経て、男性の気を引くという行為を行っていたのではなかろうかと考えるのは・・・・・・うがちすぎであろうか。
<内容>
「投手殺人事件」
「屋根裏の犯人」
「南京虫殺人事件」
「選挙殺人事件」
「山の神殺人」
「正午の殺人」
「影のない犯人」
「心霊殺人事件」
「能面の秘密」
「アンゴウ」
<感想>
坂口安吾氏の短編作品を集めたものであり、各作品は1948年から1955年の間に書かれたもの。著者は1906年生まれで、1955年に亡くなったということから、執筆活動の期間はあまり長くなかったことが伺える。なおかつ、坂口氏はもともと探偵小説を書く文壇の人ではなかったようで、それゆえに探偵作家としての活動はなおさら短かったということのようである。
その探偵作家として活躍したときの短編小説がここに集められたわけであるが・・・・・・個人的には決して出来の良い作品ではないなと。最初の「投手殺人事件」からして、犯人当てのミステリのような体裁はとっているものの、なんとも穴だらけの作品としか思えなかった。球界の新人エースと女優、そして野球のスカウトマンらが繰り広げるミステリの要素は面白い部分もあるのだが、なんとも荒々しい話という印象しか残らなかった。
全体的に見て、時代性もあるのだろうが、どれもが軽いノリの作品が多いように思えつつも、やけに読みづらさばかりが感じられた。さらには、ミステリとしてもなんとも荒々しい内容のものばかり。ただ、それぞれの作品で当時の風俗的なものをうかがうことができ、そういった面では貴重な作品と言えるかもしれない。
「心霊殺人事件」に登場している心霊術のインチキを暴く伊勢崎丸田夫という探偵役のものがキャラクターとして面白そうであったが、肝心な心霊術のインチキを暴くという点であまり活躍が見られなかったのは微妙なところ。本来であれば、この探偵をもっと登場させて、さらなる色々な推理小説を描こうとしていたのではないかと思われるが、そこで著者が急逝してしまったところが残念なところである。
<内容>
「復員殺人事件」 坂口安吾
続編「樹のごときもの歩く」 高木彬光
戦後、小田原の倉田家に片手片足で両目がつぶれ口もきけない傷痍軍人が現れた。その男は戦時中に死亡したと思われた倉田家の次男の安彦と思われ、倉田家にかくまわれることに。そして、その安彦が来てから、倉田家が惨劇に見舞われることとなり・・・・・・
<感想>
坂口安吾氏が雑誌で連載していたものの、亡くなってしまったがゆえに未完となった作品。それを高木彬光氏が書き継ぎ、完結させたもの。近年、入手しづらくなっていた作品であったようだが、今回河出文庫から復刊された。
復員してきた次男坊。ただし、それが本当に本人かどうかわからないという状況。その次男の存在は、戦前に起きた長男とその息子の轢死事件のカギを握るものなのか。さらには、次男が帰ってきた途端に起こる倉田家での連続殺人事件。事件のカギはいったい・・・・・・というような作品。
この作品で一番気になるところは坂口安吾は、どのように結末をつけようとしたのかということ。事件の途中までで、結構な主要人物が亡くなってしまっており、なかなか収拾が付けづらそうな様相を見せている。そして高木彬光氏により書き継がれることとなった後半。なんとなく、その様相を見ると、前半部分に手掛かりが乏しく、高木氏自ら犯人特定の伏線となるようなものを自分で撒きなおしているという感じがしてならなかった。
ちょっと苦しいというか、書き継ぐのに難しそうな作品であったかなと。タイトルにもある“復員”という言葉が一番気になるところであったが、戦地から帰ってきた男に対して、あまりミステリ上有効に使われていなかったのが、微妙なところではと感じてしまった。
書かれ方として、戦後のミステリとして貴重な作品であるとは思われるが、単体の作品としてはやや魅力に乏しかったような。
<内容>
「幽霊紳士」
「女社長が心中した」
「老優が自殺した」
「女子学生が賭けをした」
「不貞の妻が去った」
「毒薬は二個残った」
「カナリヤが犯人を捕らえた」
「黒い白鳥が殺された」
「愛人は生きていた」
「人妻は薔薇を怖れた」
「乞食の義足が狙われた」
「詩人は恋をすてた」
「猫の爪はとがっていた」
「異常物語」
「生きていた独裁者」
「妃殿下の冒険」
「5712」
「名探偵誕生」
「午前零時の殺人」
「妖婦の手鏡」
「密室の狂女」
「異常物語」
<感想>
柴田錬三郎氏といえば、眠狂四郎シリーズなどで有名な剣豪小説家。長年の作家生活の中で実はこのようなミステリ小説も書いていたようである。それが2014年に創元推理文庫から「幽霊紳士」と「異常物語」の2冊合本として復刊された。
「幽霊紳士」はサスペンスミステリ系推理小説。連作短編というか、主人公が次の作品の主人公へとバトンタッチしていくというようなリレー形式のような構成。さまざまな謎を、幽霊と思わしき“紳士”と自称する謎の男が解決してゆく。
基本的にどの作品も痴情のもつれから発生する事件を描いている。前半から後半へと行くにしたがって、ややマンネリ化しそうと感じられたものの、奇想天外なアイディアによって、最後の最後まで飽きさせない内容となっている。ミステリとして決して完成度が高いとは思えないのだが、“フェアなミステリ”というようなことを念頭に置いていないからか、それにより予想外の結末を楽しむことができる。惜しいと思われるのは、探偵役である幽霊紳士の必然性があまりにも薄いところ。
作品を読んでいて感じたのが、これらは戦後に書かれた小説なのだが、女性がたくましく描かれているなと感じられた。それに引き換え、男性諸氏のみが戦後の重みを引きずりつつ、しょぼくれていると感じられてしまった・・・・・・
「異常物語」は、ミステリというよりは綺譚を描いた作品。歴史上の人物を交えながら、さまざま物語が語られる。内容としてはそれほどのものではないのだが、しっかりとした文章でしっかりと背景を調べて書いているので、きっちりとした作品と感じさせられる。作品のなかにホームズ譚も混じっているものの、ちょっといまいちという印象であった。