<内容>
【未来への危険な旅】
「宇宙大密室」
「凶行前六十年」
「イメージ冷凍業」
「忘れられた夜」
「わからないaとわからないb」
【心のなかへの奇怪な旅】
「変 身」
「頭の戦争」
【機内サービス映画】
「カジノ・コワイアル」
【民話へのおかしな旅】
「鼻たれ天狗」
「かけざら河童」
「妖怪ひとあな」
「うま女房」
「恋入道」
「一寸法師はどこへ行った」
「絵本カチカチ山後篇」
「猿かに合戦」
「浦 島」
【追加オプション 見知らぬ過去への旅】
「地獄の鐘が鳴っている」
【都筑道夫インタビュー】
「日本SF出版黎明期」
<感想>
都筑道夫氏というと、基本的にはミステリ作家というふうにとらえていたのだが、実はSF界に貢献した人物であると、この本のあとがきを読んで初めて知る。SF関連の書籍の翻訳から、編集編纂紹介と幅広く手掛けてきたようである。一応、SF関連の作品も書いてはいたようだが、数が少ないせいか、著作としてはさほど有名にならなかったようだ。
この作品集はその貴重な都筑氏によるSF作品が収められた作品なのであるが、全部が全部SF作品というわけではないのが残念なところ。タイトルこそ「宇宙大密室」であるが、目論見としては今まで他の作品集には掲載されなかった作品を集めたという趣も強いようである。よって、以前徳間文庫版で出版された時には別のタイトルとなっていた。
それでも「宇宙大密室」という作品はなかなかの内容。アシモフのSFミステリ作品を頭に思い描いてしまった。短めの作品であるというところが残念なのだが、真犯人の動機が実にうまく練られている。
「凶行前六十年」や最後に掲載されている「地獄の鐘が鳴っている」はタイムマシンを扱った作品。近年の時間旅行ものというと妙に理屈っぽいが、細かい事を抜きにした昔に書かれた日本SFの時間旅行もののほうが、自由な発想で楽しめるものが多いように思える。
他にも色々な内容のものが収められているのだが、個人的にはSF作品のみで固められたものを読みたかったところである。何しろわざわざ創元SF文庫で復刊されているわけなのだから。それでも巻末のインタビューや解説などはSF黎明期を存分に味わえるものとなっているので、それだけでも十分に価値のある一冊と言えるかもしれない。
<内容>
「緑亭の首吊男」
「怪奇を抱く壁」
「霊魂の足」
「Yの悲劇」
「髭を描く鬼」
「黄髪の女」
「五人の子供」
<感想>
なかなか良くできたミステリ作品となっている。純粋に面白い作品ばかりが集まっており、かなり読みごたえがある。
この作品集は“加賀美捜査一課長全短篇”と副題が付けられており、その加賀美課長が活躍する様相が描かれている。この加賀美であるが、ちょっと癖があって、刑事らしいのかどうか微妙な雰囲気をまとっている。あとがきを読んでようやく気付いたのは、どうやらこの人物、メグレ警部をモチーフとして描かれたとのこと。それを聞くと、まさにしっくりいくものとなっている。確かに思い返すと、和製メグレが活躍する作品集というような雰囲気で描かれていた。
どの作品も味があって良かった。代表作といえるのは最初の「緑亭の首吊男」であろうか。これは、他のアンソロジー集でも読んだ覚えがあった。何気に本格ミステリらしいトリックが用いられていて驚かされる。
他の作品もそれぞれ、人間関係がうまく描かれているなと感心させられる。「怪奇を抱く壁」の男の憎しみの様子とか、「Yの悲劇」の真相に隠された思いや、「五人の子供」で登場する父親の感情、など。
また、短い作品ながら「髭を描く鬼」などは、ちょっとしたどんでん返しもあり、これもまたミステリとして良くできていると感じられた。
そんな感じで、戦後探偵小説を存分に堪能できた作品集であった。むしろもっと注目されても良さそうな探偵小説と思われたのだが、著者自体が時代伝奇小説の分野でのほうが有名であるようで、そのせいであまり世に出回らない作品となってしまっていたのかもしれない。これを機に、広く読んでもらいたい作品である。
「緑亭の首吊男」 殺人事件が起きた酒場。被害者の主人は生前、何者かに追われているような奇妙な行動をとっており・・・・・・
「怪奇を抱く壁」 警察に送られてきた現金の入った書留、ハンドバッグの行方にかけられた懸賞金、これらの背後に隠された思惑は!?
「霊魂の足」 喫茶店で起きた殺人事件。その事件は戦争に行っていた次男が二人の仲間を連れて復員してきたことから始まり・・・・・・
「Yの悲劇」 ホテルに定住する四人の男女の間で起きた殺人事件。スペードのエースが意味するものとは!?
「髭を描く鬼」 殺人現場に残された死体には髭の落書きが! さらには、その他の者にも執拗に髭の落書きがされ・・・・・・
「黄髪の女」 黄色い頭髪の夫人を求む、という広告と、それにまつわるつ思われる殺人事件。秘められた事件の背景は?
「五人の子供」 五人の子供を抱えた父親は、生活のために一山当てようとし、殺害されてしまい・・・・・・
<内容>
精神科医の私のもとへ、警察から丹野という男の精神鑑定の依頼が来た。丹野は自殺を図ったものの未遂に終わり、警察に保護されたのだが、人と殺してしまったと語っているのだという。しかし警察が調べたところ、当の殺されたはずの人物は生きているのだという。私は事件の深層を調べるべく、殺されたといわれるマンションに住む人妻のもとへと向かうのであったが・・・・・・
<感想>
これはなかなか面白い本であった。ジャンルとしては心理サスペンスとでもいえばいいのであろうか。最近読んだ本の中ではジョン・F・バーディンあたりを思い起こさせるような内容である。
話は不可思議な場面から始まってゆく。精神科医と殺されたと言われている人妻との会談が交わされる。ここを最初読んだときは、ただ単に丹野という患者の妄想というだけに留まり、話がどのように広がってゆくかがまったくわからない。そして精神科医は、その人妻と丹野に関わっているものたちと次々と会っていき、話を聞き続ける。すると、それが最終的には一つの線で結びつかれ、とある事件への道筋がつながってしまうのである。この構成はお見事としかいいようがない。
本格推理という内容ではないのだが、サスペンス小説としてはなかなかの傑作ではないだろうか。内容だけでなく、全編を多い尽くす、どことなくけだるく怪しい雰囲気が個の作品としての特徴となっている。読んだことのない人は、この復刊の機会を逃すなかれ。
<内容>
下町の小さな相撲部屋に突如、大砲から砲弾が打ち込まれるという事件が起きた。さらには、牛乳に石見銀山が混入され、飲んだものが病院に運ばれ、神社から盗まれた将軍家拝領の弓矢によってけが人がでるなど、奇怪な事件が相次いで起こる。高校生の3人組が野次馬根性を発揮して事件を調べてみると、なんと町内に住む作家が連載している小説と同じことがこの町に起きていることに気がつく。これは小説に見立てた事件なのか・・・・・・?
そう思いついた矢先、こんどは相撲部屋から親方の小学生の一人娘がさらわれ、犯人は世にも奇妙な要求をしてくる。これも先の事件となんら係わり合いが??
<感想>
コミカルな下町コメディとでもいう作品であろうか。ズッコケ3人組ともいえる主人公達が出てきて、彼らが住む街で奇怪な事件が次々と起こる。そこへ、主人公達があちらこちらと顔を出しながら、事件を解決というよりはさらなる混乱を巻き起こし、物語が進んでゆくというもの。
本書の特徴はこの江戸っ子気質とでもいうような下町の様子がうまく表わされていることだろう。粋な職人が出てきたり、細かいことを考えないような登場人物らや力士やすし屋と、楽しい登場人物のオンパレードである。
また、物語の展開も速いスピードで事件が起き、さらには奇妙な誘拐事件までが起こり、あっという間に読み終えることができてしまう。肝心の事件自体は、最後で煙に巻かれたか? というような気もするのだが、話としてよくできていたと思うのでそれなりに楽しむことができた。
ただ、一番不満に思えたのが“探偵役”についてである。読み始めたときは当然、主人公3人組が事件を解くと思っていたのだがそういうわけではない。というよりもこの3人組自体がさほど活躍していないというのはどういうことだろうと疑問に思われた。これならば、語り手が1人で出てくれば済むことではないかと感じられる。探偵の役割をするものを、もうすこし前面に押し出したほうが、もっとわかりやすいユーモア・ミステリーとなったのではないだろうか。
<内容>
高校野球のコーチが度々命を狙われる羽目に。原因はいったい!? ちょうどその時期、超高校級のエースが転向してきたことに何か関係があるのか。そして事件は誘拐事件にまでへと発展して行き・・・・・・
<感想>
前作に続き、ドタバタミステリーとして楽しむべき内容である。軽快なテンポで話が語られてゆき、あれよあれよという間に物語りは大団円へとなだれ込むという作品である。
ただし、ミステリーとしての評価はまぁまぁといったところであろう。今回は前作に比べれば、探偵らしき人物が固定されている分、全体的な構図としてわかりやすいと思える。ただ肝心の謎自体に一貫性が無く、全てがバラバラであるものを無理やりひとまとめにしたという感じがしてしまう。複数の要素のものを一つなぎにしてしまう力技には感心するのだが、説得力がやや弱かったように思えた。
何はともあれ、それなりに楽しませてくれるミステリーであることは確か。年齢に関係なく、誰でも気楽に手に取れる本である。
<内容>
おなじみ三人組はデパートのお化け屋敷にて首吊り死体を発見する。しかし通報を受けた警察が着たときには死体の影も形もなかった。その事件を発端にして起こる盗難事件の数々。謎の怪盗の正体を三人組は暴くことができるのか。今回は天才棋士の力を借りて謎を解く。
文庫化されなかった幻のシリーズ3作目が17年ぶりについに文庫化!
<感想>
おなじみ(といても3作のみだが)3人組が謎の怪盗を追いかけて、事件の裏の謎にせまるドタバタコメディ・ミステリー。今作は前2作に比べると少し薄く全体的に、より薄味な印象。まぁ、気楽に手に取れ、手軽に読めるということでよいのではないだろうか。
しかしその内容はよくよく考えれば首をひねりたくなってしまう。結末まで読んで全てが明らかになった時点で全体を考えてみると、これほど大騒ぎにする必要はなかったのではと考えられる。むしろ、大騒ぎになればなるほどまずい結果になるのではないだろうか。本書のような内容であれば、第三者ではなく当事者自身が身近な出来事を不思議に思い、そこからミステリーに発展していくというのが自然ではないかと感じられるのだが。
というわけで、いちおうシリーズ全巻も復刊した“名探偵シリーズ”なのであるが続けて読んでみて不思議に感じられるところがある。それは主要の3人の主人公以外の登場人物が巻が変るごとに全く変ってしまって、前作に出ていた人物のほとんどが出てこないということ。これはせっかくのシリーズであるのに何でこのようにしたのだろうかと考えてしまう。そうするのなら、わざわざシリーズにしなくてもよいのではないかと思うのだが・・・・・・。どうもあとがきではこのシリーズの四作目を執筆中とのことであるが、そんなにこのシリーズにこだわる必要があるのかどうか??
と、大人の立場で文句を言ってみたが、基本的のこのシリーズは少年向けの本ということなのかな。