その他の作家 は行 作品別 内容・感想

殺人鬼   6点

1930年 春陽堂
1955年04月 早川書房 ハヤカワミステリ195

<内容>
 実業家の令嬢から事件の依頼を受ける探偵・藤枝真太郎とその友人である雑誌編集者の小川雅夫。二人は令嬢から秋山家を襲う不気味な謎の手紙の存在を聴くことに。その手紙により、主人である秋山駿三は隠遁し、家に閉じこもるようになったという。さっそくその謎を調べ始める藤枝と小川であったが、その後すぐに事件が起こることとなる。秋山駿三の妻・ひろ子が毒により死亡したというのだ。これは自殺なのか? 他殺なのか? 事件を調べていくうちに次々と起こる殺人事件。自体は連続殺人事件へと発展してゆく。令嬢から依頼を受け、事件を調べ始めた探偵・藤枝と屋敷の主人から依頼された探偵・林田英三、さらには警察捜査が続く中、殺人事件は止められず・・・・・・

<感想>
 長らくの積読であったハヤカワ・ミステリのなかで数少ない日本人作家が描く作品のひとつである「殺人鬼」。これだけでも昭和の代表的な作品と言えるのではないかと思うのだが、あまり推理小説史においてこの「殺人鬼」が取り上げられることはないような気がする。また、この作品の内容について別のミステリ作品で取り上げられているような事はなかったと思われる。三大奇書と言われる作品であれば、それぞれよく言及されているのを目にするのだが。

 本書を実際に読んでみて感じられたのは、やや地味な話かなと。連続殺人事件が行われるにも関わらず、それぞれの事件が地味に思え、この作品のみというオリジナリティが少ないように感じられた。また、実在の事件を元にした事件が取り入れられたり、度々「グリーン家殺人事件」を取り上げたりと、むしろオリジナル作品というよりも、パスティーシュめいた雰囲気さえ感じられてしまう。

 とはいうものの、全体的に出来が悪いかといえばそんなことはなく、この作品が書かれた1930年代にこれだけの分量のミステリ作品が日本で書かれたということ自体がすごいことだと考えられる。動機とか、過去の因縁とか、そういった地味な方面に力を入れ過ぎていると感じられるのだが、それゆえにきっちりと書かれた作品だともいえないことはない。

 もう少し、全体のなかでどこか突出するところがあれば、もっと有名な作品になったのではないかと惜しいところである。もっと猟奇的にとか、もっと奇怪な探偵を描き上げるとか。それゆえに、今の時代に読んでしまうと地味な探偵小説という印象しか残らないところがとにかく惜しい次第である。


鉄鎖殺人事件   6点

1975年08月 桃源社 単行本
2017年10月 河出書房新社 河出文庫

<内容>
 探偵事務所をかまえる元検事の藤枝真太郎とその友人の小川。小川のいとこの大木玲子が相談事があると探偵事務所にやってきて、殺人の現場を見たという。藤枝と小川が現場へと行ってみると、そこで質屋の主人らしき人物が鎖に縛られた状態で殺害されていたのを発見する。その事件を発端とし、事態は連続殺人事件へと発展していく。不可解な事件の動機とはいったい!?

<感想>
 浜尾四郎氏というとハヤカワミステリから出ている「殺人鬼」が有名。この作品は、その「殺人鬼」の次にあたる事件を描いており、引き続き元検事である探偵・藤枝と助手の小川の二人が活躍する作品となっている。

 この作品の方が「殺人鬼」よりもずっと、取っ付きやすいと感じられた。ゆえに「殺人鬼」を読んで微妙と思い敬遠している人には、ぜひともお薦めしたい。また、浜尾四郎氏の作品を読んだことがないという人には、是非ともこちらから読むことをお薦めしたい。

 内容は鎖に縛られた状態で殺害されるという連続殺人を描いたもの。この時代に書かれた作品らしく、本格推理小説というよりは冒険小説の趣が強いものとなっている。それでも、スピーディーな展開により物語が進められていくので、その内容に惹きつけられることとなる。

 犯人が犯行を行った動機については意外とうならされる。また、真犯人の正体に関しても、なかなか工夫がなされている。それなりに面白く出来たミステリ作品といえよう。ただ、被害者が多すぎて、探偵の役割が機能していないのではないかと(まるで金田一耕介みたい)感じられる部分もある。とはいえ、この時代に書かれたミステリのなかでは、かなりよく出来ている部類に入ると思われる。


魔 都   5.5点

1936年−1937年(「新青年」1936年11月号〜1937年10月号 連載)
2017年04月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 銀座のバーで飲んでいた新聞記者・古市加十は、そこで出会った男と意気投合し、その男の家へと行くことに。すると翌日、古市は男の愛妾が飛び降り自殺(?)をするのを目撃することに。徐々にわかってきたのは、彼と一緒に飲んでいたのは安南国の皇帝であり、何故か古市はその皇帝と間違われて、ホテルにかくまわれる羽目に。ただ、事件がもし殺人だとしたならば、犯人は皇帝という可能性も。要人がかかわる難事件を捜査するために警視庁の名刑事・眞名古明警視が陣頭指揮をすることに。そうしたなか、日比谷公園の鶴の噴水が歌を唄うという事件が巷では話題となり・・・・・・

<感想>
 久生十蘭氏による昭和史に残る長編都市探偵小説。日本に滞在する皇帝の愛妾の死と、消えた宝石、そして皇帝自身の失踪等を巡る内容。

 一応、探偵小説ということであり、全体的にそのような内容が取り扱われているものの、最後まで読んでみると、探偵小説というよりは都市小説という見方のほうが強まる。戦前の日本の様子や特徴を描き上げた都市小説として評価されるべき作品であろう。

 では、何故探偵小説という見方ができないのかというと、それは最後の結末の付け方にある。実は最後の章のひとつ前までは、それなりに探偵小説らしい展開をしていたのである。それまでに起きた事件に対し、名刑事とうたわれる眞名古警視が自身の推理を披露する。個人的には、この推理で終わる物語でよかったと思われるのだが、この作品では、その推理を良しとせずに、さも他の真相があるような感じで再終幕へとなだれ込むことになる。

 ただ、その再終幕では事件に対する言及はされず、登場人物のその後が語られるというような感じで、唐突に幕が引かれるという感じで終わる。しかも、その結末がなんとも後味の悪いもの。物語が語られるうえでは、狂乱というか騒乱というか、乱痴気騒ぎのような“躁”のような感じで展開していたように思えたが、最後はまるで葬列に並んだような気分にさせられる。個人的には、この終わり方はどうかと思ってしまったのだが、著者からすれば、これこそがまさに“魔都”であるということなのであろうか。何とも言えぬ、“怪作”というような雰囲気ただよう小説であった。


完全犯罪 加田伶太郎全集   6点

1970年 桃源社
2018年04月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 『「完全犯罪」序』

 「完全犯罪」
 「幽霊事件」
 「温室事件」
 「失踪事件」
 「電話事件」
 「眠りの誘惑」
 「湖畔事件」
 「赤い靴」

 「素人探偵誕生記」
 『「加田伶太郎全集」を語る』

<感想>
 主に文学作品を書き、それにより名をはせた福永武彦が“加田伶太郎”名義で探偵・伊丹英典の活躍を描いており、その作品を集めたもの。今回は創元推理文庫でまとめられているが、今までいくつかの出版社によって同様の作品集が出版されている。近いものでは、2001年2月に扶桑社文庫昭和ミステリ秘宝から「加田伶太郎全集」というタイトルで出版されている。

 それぞれ探偵小説らしく、うまくまとめらた作品がそろっている。統一して、古典文学者である伊丹英典という人物をシリーズ探偵として活躍させているところは、作品集としてまとめあげやすいところであろう。また、マンネリ化しないように、それぞれ作品ごとに展開を変えているところもよいと思える。いろいろな事件に奔走する探偵の活躍を堪能することができる。

 ただ、ちょっと気になったのは、それぞれの作品において、ややリアリティが欠けている部分があること。トリックなどを聞いても、実際にできるのかなと疑問を抱いたものが結構ある。何気にこれだけきっちりとした探偵小説が揃えられているにも関わらず、その名が世間にあまり知れ渡っていないところを考えると、やはり私と同等なことを考える人は多いのではないかと思ってしまう。

「幽霊事件」とか、そのトリックは可能であるのかなとか(結構ばれそうな感じ)、「温室事件」のトリックは面白いけど天窓って結構高いところにあるのでは? などとあれこれと考えてしまった。また、「失踪事件」については、見事なロジックと思えなくもないが、冷静に考えると候補の絞り方が適当なような気もしなくもない。

 ある種そんな感じで不完全なところもまた魅力的といえるのかもしれない。何はともあれ、探偵小説集として、一冊の本にまとめ上げられているゆえに読み応えは抜群。


「完全犯罪」 人が出入りできないと思われる部屋で絞殺死体が発見された事件。
「幽霊事件」 主人の不在中に訪ねてきた弁護士が二階で死亡するという事件。しかもその後、死亡したはずの弁護士が再び二階へ上がっていくのを目撃され・・・・・・
「温室事件」 密室と思われる温室で殺人事件が起こり・・・・・・
「失踪事件」 旅行中失踪した男の行方は?
「電話事件」 刑事が息子の通っているPTA会長から脅迫電話に悩まされているという相談を受ける。
「眠りの誘惑」 娘に催眠術をかける男親が殺害されるという事件。
「湖畔事件」 観光先で起きた死体消失事件。
「赤い靴」 女優が病院から飛び降り自殺をし、そして残された日記から・・・・・・




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