<内容>
[小 説]
「影」 「少女」 「象牙の牌」 「嘘」 「赤い煙突」 「父を失う話」 「恋」 「可哀相な姉」 「イワンとイワンの兄」
「シルクハット」 「風船美人」 「勝敗」 「ああ華族様だよと私は嘘を吐くのであった」 「遺書に就て」 「アンドロギュノスの裔」
「花嫁の訂正 夫婦哲学」 「或る母の話」 「男爵令嬢ストリートガール」 「浪漫趣味者として」 「巷説『街の天使』」
「悲しきピストル」 「指環」 「モダン夫婦抄」 「モダン夫婦抄 赤いレイン・コートの巻」 「四月馬鹿」 「夏の夜語」
[掌 篇]
「春ノ夜ノ海辺」 「夕の馬車」 「小さな聖人達に与う」 「淋しく生きて」 「若き兵士」 「森のニムラ」
「足 素人製作者のための短篇喜劇」(「鏡」 「不幸」 「風景」 「足」
「兵隊の死」
「子供を泣かしたお巡りさん」(「子供を泣かしたお巡りさん」 「石あたま」 「一年生のお爺さん」)
[脚 本]
「氷れる花嫁 他三篇」(「進軍」 「老いたる父と母」 「子供と淫売婦」 「氷れる花嫁」)
「どぶ鼠」
「山」(「山 影絵映画のシナリオ」「降誕祭」)
「縛られた夫」
[翻訳・翻案]
「新薬加速素」 「絵姿」 「外科医の傑作」 「王様の耳は馬の耳」 「島の娘」 「矮人の指環」
[映画関係の随筆ほか]
「想出すイルジオン」 「或る風景映画の話」 「オング君の説」 「なんせんす・ぶっく」 「『疑問の黒枠』撮影を見る」
「古都にて」 「関西撮影所訪問記」 「アルペン嬢の話」 「続アルペエヌ嬢の話」 「兵士と女優」 「十年後の映画界」
「十年後の十字街」 「各種アンケート」
<感想>
渡辺温作品集、ということなのだが、タイトルと創元推理文庫から出ているということで、てっきりミステリ色が強いものなのかと思いきや、そうでもなかった。どちらかといえば文学よりのような気がしなくもないのだが、はっきりとどのカテゴリとも言えず、創元社やミステリ界隈あたりでまとめなければ、どこも手を出さないようなマイナーな作家ということなのかもしれない。
小説のタイプとしては、初期の乱歩風、文学青年風というか、体を壊して療養している者が描く作品というか、何かそんな感じ。別の言い方をすれば社会的弱者からの視点とでも言えばよいのだろうか。昭和前半のミステリ界隈の作家というと、労働者階級の視点から描かれたものというのが少ないような気がする。海外でも、その視点から描かれたクロフツの作品がもてはやされたのも珍しかったからなのかもしれない。社会派ミステリというものが台頭してきてから、ようやくさまざまな視点から小説が描かれるようになってきたかのように思われる。
この作品集であるが、短い作品がほとんど。更に言うと、初期の短編作品は書き込みが多く、濃密で暗い印象を受けた。それが徐々に、子供向けの作品やモダンな雰囲気のものへとシフトしていったように思え、このへんは年代の推移というものも感じ取れる。
渡辺氏による翻訳作品も掲載されているのだが、それらが有名作品ゆえに著者の作品よりもこちらのほうが面白かったりするのは皮肉なところか。H・G・ウェルズの「新薬加速素」や、ドリアン・グレイの肖像を描いた「絵姿」などは秀逸。
ミステリ色云々というよりも、マニアックで入手しづらい作家の作品を1冊の本にまとめたという位置づけのもの。どうにも薦めるにしても決して万人向けとはいい難く、昭和初期の風刺に興味ある人向けの作品としかいいようがない。