<内容>
新聞記者のナイジェルは従弟のチャールズに誘われ、パーティーに参加することに。そのパーティーではゲームとして“殺人ゲーム”が行われる事となった。そのゲームではひとりの人物が“犯人役”となり、周囲の人々に気づかれないように、“被害者役”を指名し、それ以外の人物は誰が“犯人役”かを当てるというもの。しかし、そのゲームが始まったとき、ひとりの人物が本当に殺害されてしまった!! いったい誰が何の目的で殺人を犯したのか? 事件の謎をアレン警部が解く。
ナイオ・マーシュの処女作品。
<感想>
このナイオ・マーシュはクリスティ、セイヤーズ、アリンガムと並ぶ“ミステリ小説の4女王”と呼ばれているらしい。とはいえ、うろ覚えでは、この“4女王”というのは読む小説によってころころと変わっているような気がする。クリスティ、セイヤーズの二人は不動のような気がするが、後の二人については色々な説がありそうだ。
本書の著者であるナイオ・マーシュであるが、日本でミステリ界の女王と認められるほどはまだ本が訳されていないし、訳された作品も遠い昔のものが多い。できれば早めに、そのミステリの女王と呼ばれるに相応しい作品が訳されてくれたらと思わずにはいられない。
出だしは良かったと思う。一癖ある人々が集まった中で催される“殺人ゲーム”。そしてゲームの中で起こる本当の殺人事件と、ここまでは良かったと思うのだが、その跡は話を収束し切れなかったと感じられた。各登場人物相互の思惑、遺産相続、ロシアの秘密結社などなどと、色々な要素を物語の中に持ってきたわりには、それぞれが絡み合っていなく別々のものになってしまっている。これらの要素をうまくひとつに絡み合わせる事ができれば、かなり面白くなったのではないかと考えると残念に思われる。とはいえ、この作品は著者の処女作であるがゆえに、このくらいの完成度でもいたしかたないのかと。
<内容>
ロンドン警視庁主任警部のロデリック・アレンは休暇でニュージランドへ来ていた。旅の途中、列車の中でアルフレッド・マイヤーを座長とする劇団の一座と同乗することに。その列車の中で、ひとつの殺人未遂事件と盗難事件が起こる。誰がやったのかわからないまま列車は目的地へとたどり着く。劇団のものたちと面識ができ、彼らの公演を見に行くことになったアレン警部。そして公演が終わった後、主演女優でマイヤーの妻のキャロリンの誕生パーティのさい、見世物として仕掛けられたビンがマイヤーの頭に直撃し、彼は死亡する。ビンに仕掛けをしたのはいったい誰なのか・・・・・・
<感想>
久々に海外ミステリで本格らしい作品を読んだという気がした。劇団の一座とその一座の中で起こる殺人事件、そして互いに絡み合う人間関係。さすがに劇中での犯罪とまではいかなかったが、パーティ上で仕掛けられたビンによる殺人というちょっと変わった犯罪が描かれている。
と、事件の導入まではよかったのだが、そこからは少々退屈気味になってしまっている。ひとつ事件が起きたら、あとは延々と関係者に対する尋問が続くという展開。このへんは良くも悪くも昔のミステリ作品らしいと言えるであろう。
また、複雑な人間関係と互いに関わる小さな事件についてはよく書き込まれていると思えるが、肝心の中心となる事件の解決については少々決め手に欠けたかなと思わざるをえない。
とはいえ、昔懐かし本格ミステリの醍醐味を存分に味わえたという気にはさせられる作品であった。
<内容>
ヴィントン・セント・ジャイルズ教会にて基金募集のための素人芝居が行われることとなった。ピアノによる前奏が行われる際、そのピアノ奏者が突如、銃に撃たれて死亡するという事件が起きる。どうやら銃はピアノに仕掛けられていた様子である。そのピアノ奏者であるが、本来ピアノを弾くはずのものが弾けなくなり、急遽代役が弾くこととなったということで・・・・・・
<感想>
基金募集のために行われる素人芝居の題目を決めるところから始める物語。それを決めようと集まった人は8名。
地主ジョスリンとその息子ヘンリ。ヘンリは牧師コープランドの娘、ダイアナと結婚しようとしているが共に住んでいるジョスリンの従妹でオールドミスのエリイナに反対されている。そのエリイナのオールドミス仲間で、切っても切れない仲のアイドリスであるが、二人は共に牧師との結婚を望んでいる。そして医者であるテンプレット博士と、その愛人で芝居の題目決めをかき回すこととなるシイリア。この8人が主要人物として物語は展開され、事件の謎を解く探偵役はロンドン警視庁のロデリック・アレン警部。
こんな感じで始まるがゆえに、芝居中に殺人事件が起きるのかとてっきり思っていた。すると、芝居の前のピアノを弾く場面で銃撃事件が起きる。その後、とりたてて事件は起こらず、あとは警察による捜査のみ。そこからは何ともつまらない展開。終始、アリバイ調査のような捜査が行われつつも、結局最後に気になるところは動機となるのだから、ち密な聞き込みというのがむしろ微妙。そんな感じで、劇的なような感じの始まりでありつつも、物語全体としてはなんとも劇的にはほど遠い内容。個人的にはクリスティー作品とイネス作品の中間における立ち位置というような感触。
<内容>
心はいつも朗らかながら経済観念まるでなしのランプリイ家は、何度目かの深刻な財政危機に瀕していた。頼みは裕福な親戚の侯爵ゲイブリエル伯父だけ。ところがこの侯爵、一家とは正反対の吝嗇で狷介な人物、その奥方は黒魔術に夢中のこれまた一癖ある女性。援助を求めた一家の楽観的希望もむなしく、交渉は決裂、侯爵はフラットをあとにした。ところが数分後、エレベーターの中で侯爵は眼を金串でえぐられた無惨な死体となって発見された。わずかな空白の時間に犯行が可能だったのは誰か? はたしてこの愛すべき一家の中に冷酷非情な殺人者がいるのだろうか?
<感想>
外国のホームコメディでも見ているような、殺伐とした事件とは無縁にしか思えないような人達、それがランプリイ家の人々。まさしく“蟻とキリギリス”のキリギリスの一家のような人たちであり、こんな様子で事件なんかが本当に起きるのだろうかとさえ疑ってしまう。と思いきや、そこに財産を巡っての陰惨なる事件が突然と起こるのである。
どちらかといえば、殺人事件が起きてしまうよりは、そのままランプリイ家の人たちの生活だけを見ていたくなる作品。そちらのほうが楽しめそうである。とはいいつつもミステリーとして成り立っていないのかというと、そんなことはなくラストにいたる事件の解決は完成度が高く納得できるものとなっている。それでも事件が起きてから中盤でのひとりひとりの聞き込みにページを割いているところは少々冗長に感じられる。もうすこしページを絞ってもよかったのかなと思える。
時代の違いとお国柄の違いなどが当然、今現代の日本で過去の外国作品を読めばあるのだろうが、その当時にイギリスで楽しまれていた作品としてじっくり読んでみるというのもよいことなのかもしれない。
<内容>
バンド演奏中の演出として、空砲を撃って撃たれるふりをするということが行われるはずが、演者の一人が死亡するという事件が起きてしまう。被害者は周囲の者達から憎まれており、動機を持つ者は多数。たまたま演奏を見に来ていたロンドン警視庁のアレン主任警部により捜査が行われることとなるのだが・・・・・・
<感想>
意外と面白かった。ナイオ・マーシュの作品のなかでは一番面白いのでは!?
事件としては演奏中に起きる衆人監視のなかでの殺人と言うことで、意外とありがちなのかもしれない。空砲のはずの拳銃から、意外なものが飛び出てくるという犯行。その拳銃に仕掛けをできたものは誰なのかということが焦点となる。
また本書はそれだけではなく、人間関係や背景に関しても凝ったものとなっている。そもそもの事件の発端は、資産家の令嬢がバンドマンとの婚約を望むものの、その男が何やら怪しげな人物。そのバンドマンの男は、バンド内の他のメンバー達ともトラブルを抱えているという状況。さらには新聞のゴシップ欄や、恋愛模様までもが絡んでくる。
実は読んでいる途中では、さほどたいしたことのないミステリ作品という感じに思えた。結局グタグタに終わるのだろうなと。と思いきや、最終的な真相は、なかなか凝ったものとなっており、意外な展開までもを備えており、感心させられるものであった。トリック自体はそんなに大したものではないものの、全体的な背景を遺憾なく発揮し尽くした真相模様が見事だと感じられた。
ナイオ・マーシュの作品というと、地味なものばかりの感じであって、そんなに印象に残る作品はなかったのだが、この作品は良くできていると印象に残るものとなった。改めてナイオ・マーシュを見直した作品。
<内容>
とあるイギリスの村にあるナンズパードン館の主人、ラックランダーが死亡する。彼は死亡する前にカータレット大佐に手記を残しており、その手記の内容が村に波紋を呼ぶことになる。そしてある日、カータレット大佐が川で死亡しているのが見つかる。死因は撲殺のようであり、死体の横には川の主と呼ばれる巨大なマス“オールド・アン”が横たわっていた。この事件を担当することとなったロンドン警視庁主任警部のロデリック・アレン。彼は村の住人たちの様々な不和や、過去に起きた事件について調べあげてゆき・・・・・・
<感想>
久々に紹介されたナイオ・マーシュの作品。そういえば、マーシュ作品には、シリーズキャラクターがいて、それがアレン警部であったことも読みながら思い出していた。
普通のオーソドックスなミステリという感じの作品。最近読んだ古典ミステリの作品がキワモノのようなものが多かったせいか、本書については安心して読める安定した作品という風にとらえられた。
村のなかで近隣に住む人たちの不和と、過去に起きた事件を暴き出すというもの。物語上のポイントは、病死した男が残した手記に何が書かれていたのかということ。それを事件関係者たちは知っているが、事件を捜査する警察官たちは内容がわからないので、人々の話を聞きながら、内容を予測していくというような形で進行されてゆく。
事件となるものがひとつの殺人事件しかないため、やや退屈に思われるところもある。それでも、謎の手記の内容や、川の主(大型のマス)が事件上で果たした役割、そして村の人々の相関関係といったことで、読者の興味を引きながら、物語が展開されている。
最終的な事件解決についても、なかなか良かったと思われた。心理的な面や、状況証拠などもしっかりと網羅し、これこそが真犯人であるという人物をしっかりと指摘している。なかなかうまくできたミステリであると思わせる内容。古き良き古典本格ミステリとして仕立て上げられている作品。
<内容>
田舎の小さな村の中のみに伝えられる民族舞踊“五人の息子衆のモリスダンス”。この祭りが今年も行われる時期となった。舞踊を行うのは村の鍛冶屋を営んでいるウィリアム・アンダースン老と五人の息子とその他の面々。しかし観衆の前でダンスが披露されている最中、道化役の者が首を切断されているのが発見される! ダンスが行われている最中に誰がどのようにして!?
<感想>
国書刊行会、世界探偵小説全集第W期、最後の作品となる本書。その最後を飾るにふさわしい、これぞ昔の本格探偵小説という内容。
村に伝わる民族舞踊の最中に行われる不可解な殺人。いかにも怪しげな妙な振る舞いをする人物。そして村の若い男女が織り成す恋愛模様などなど。いかにも牧歌的でのどかならがも古くから伝わる因習がはびこっているのだが、それでも近代化の波に飲み込まれつつある村の様子が鮮明に描かれている。こうした舞台仕立ては本格ミステリとしての雰囲気を盛り上げるものとなっている。
そのいかにもというような舞台仕立てのなかで奇怪な殺人事件が起こるのだが・・・・・・うーん、よい雰囲気は出ているのだが、トリックがわかりやすすぎるのではないかなと。よくできている作品だとは思われつつも、あまりにもひねりがなく、ストレートすぎる結末になってしまっている。もう少し、ミスリーディングを誘う要素があってもよかったと思われる(何しろ動機を持つ人物があまりにも少なすぎる)。
と、ネタがわかりやすいという部分を除けば、古典的探偵小説として面白い作品に仕上がっているといえよう。また、著者のナイオ・マーシュが演劇の分野に関しても力を入れていたという事を知ると、さらに興味が深まることであろう。古き良き探偵小説の一編というべき作品。
<内容>
演出家のペレグリンの手によるマクベスの公演が行われることとなった。ちょっとしたいざこざはあったものの、リハーサルは順調に進み、舞台は幕を開ける。初日は盛況となり、ロングランが約束されるという状況。すると、ある日の公演の最中、上演中に俳優の一人が殺害されているのが発見されることに。いったい誰が、どのようにして犯行を成し遂げたのか? ロンドン警視庁のロデリック・アレン主席警視が事件を捜査する。
<感想>
著者のナイオ・マーシュは作家であると同時にシェイクスピア劇を中心とする演出家・劇作家であるので、今作のようなお題目は得意ジャンルといったところ。実際、物語の第一部では劇のリハーサルシーンが繰り広げられ、マクベス公演が上演されるまでを濃厚に描いている。
そして第二部になって公演が上演され、殺人事件が起きることとなるのだが、その肝心な事件については微妙な感じ。というのは、舞台公演中に事件が起きるものの、結局その必然性が感じられないのである。さらにいえば、派手な脚色もただ単に物語上の“脚色”という感じであり、これもまた必然だとは思えないもの。そして犯人の動機についても不満がつのるばかり。
という感じで、舞台上でのミステリをなんとなく繰り広げたかっただけの作品という感じであった。舞台劇を描く物語としては見所があったと思えるが、それでももう少し魅力的なキャラクターを設定してもらいたかったところ。そうすれば、もっと取っつきやすかったように思えたのだが、そのへんは今と昔のエンターテイメントに関わる考え方の違いか。